シロナのシンオウ二人旅   作:にわとりくん

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クロガネジム

砂煙が立ち込めるバトルフィールドの中で2つの影が微かに見える。

視界不良なのでどうするかを考えていると、自分の立つ位置の反対側から声が響いてきた。

 

「スボミー!はっぱカッター!」

 

「避けられるぞ!詰めて体当たり!」

 

無数の鋭利な葉がイーブイを取り囲むように飛んで来る。

だが、それは隙間が目に見えて多くイーブイはリズムよく避けれている。

距離を詰め、あと少しで届くといったところでイーブイが突然衝撃を受けたかのように小さく浮いて、崩れ落ちた。

 

「は?おいイーブイ!?」

 

慌てて声をかけるが、イーブイは地面にうずくまったままだ。

反対側にいるシロナを見ると、悪戯が成功した子供のようなしてやったり顔をしていた。

よく見ると、微かだが薄緑色の光がイーブイを覆うようにまとわりついていた。

図鑑でイーブイをスキャンすると、戦闘不可能の字が赤く点滅していた。

 

「はぁ…まんまとやられたなイーブイ」

 

イーブイを抱き上げそう呟く。イーブイを覆っていた薄緑の光は見覚えがあった。

スボミーの覚えている技の一つの「すいとる」がそのように可視できたのだ。

すいとるは、命中するまでは目で見えることはない技だが、直線上にいる敵にしか当たらない技だ。スボミーの頭の蕾が開いたら正面から外れれば当たることの無い技だったためシロナも使う頻度は少なく油断していた。

 

「まさかすいとるを使うとはな。上手いやり方だったよ」

 

「ふっふ~んまんまと引っ掛かったわね~…どうやったか知りたい?」

 

「葉っぱカッターで誘導したんだろ?妙に隙間が多いと思ったよ」

 

目に見えるがある程度自由に操作できる葉っぱカッターと見えないが直線上にしか当たらないすいとる。

葉っぱカッターで避ける方向をある程度指定して後はすいとるで狙い打ち。

しんぷるだが、上手いやり方だ。葉っぱカッターに気をとられればすいとるに、すいとるを警戒してれば葉っぱカッターの物量に押される。

これを防ぐには想定を上回る動きをしなければならないため、今のイーブイやブイゼルには荷が重いかもしれない。………ハクリューなら葉っぱカッターを叩き落として真っ直ぐ突っ込めるかもしれないが、いずれにしてもすいとるがあるためリスクが高い。

 

「え~見破るの早くない?私一晩かけて考えたのに…」

 

「ま、単純なものだったしね」

 

ぶーたれるシロナを放っておき、その腕の中にいるスボミーに体力回復用の木の実を与える。

いい感じにほぐれてきた頃合いだろう。

時間を確認すると、現在午後の3時半だった。午後からのジム戦は4時から。既に受付を終えて番号も貰っているから面倒くさい手順は踏まなくていいからゆっくりしても十二分に間に合う。

 

「よし、時間だしそろそろ行くか」

 

「__!いよいよね!」

 

 

 

 

「ふぅ、後は…10分くらいか…」

 

一息ついて自分の手に握られている番号札を見る。そこに書かれている番号は4番。正面の電光掲示板を見るとバッジ0の挑戦者は今のところ私だけのようだ。

だいたいは午前に挑戦したのだろう。そもそももう既にクリアしている人も多い。

 

バッジ数の少ない順に始めるため私が一番最初だ。

どうしても緊張はしてしまい、体が強張る。今いる待機室に待機している他のトレーナーが皆20代もしくは30代の大人達だからというのもあるだろう。それぞれ明らかに強いとわかる相棒らしきポケモンの手入れをしているのを見て、フカマルとスボミーをボールから出す。

イーブイはタイプ相性上辛いためホルトに預かって貰っている。

 

「フカマル、スボミー、頑張ろうね」

 

言葉こそ少ないが、二匹はしっかりと頷いてくれた。

しばらくすると呼ばれたため、二匹を連れて待機室からフィールドへと歩いていった。その際回りのトレーナーから激励の言葉と荒々しく背中を叩かれた。緊張するな、おまえなら行けるさ、と。不器用だがトレーナー同士の優しさというものを知った気がした。

 

最初の挑戦者としてフィールドに足を踏み入れる。

反対側にエゴノキさんが堂々とした様子で立っている。

 

「やっと、来たね。キミの…いや、キミたちの挑戦的を凄く楽しみにしていたよ」

 

その顔には、ゴツゴツとした体とは裏腹におもちゃをおあずけにされていた子供のようなウズウズとした笑顔が貼り付けられていた。

 

「ふぅ……はい、今回は勝ちに来ました」

 

「それは楽しみだ。私としても我慢できなくてね、早くやろうじゃないか。__審判」

 

エゴノキさんがそう一言呟くと、審判が公式戦の口上を言い始める。

 

「互いの使用ポケモンは二匹。道具の使用または所持させることは禁止。ポケモンの交代は三回までとする!では、互いにポケモンを出して!」

 

フィールドにスボミーとイシツブテの二匹が踏み込む。フカマルを一端ボールに戻そうとしたら、フカマル自身に拒否された。

 

「じゃあ、交代まで私から離れないで見ててね」

 

そう言うとフカマルは小さく鳴いて頷いた。

 

「よろしいですね?__では…………始めっ!!」

 

審判の合図と同時にイシツブテが動きだす。ゴロゴロと勢いよく転がりながら突っ込んでくる。

エゴノキさんが指示をしていないところを見ると、あらかじめ指示をしていたのだろう。

 

「スボミー!痺れ粉!」

 

あらかじめ考えていた作戦通りに、まず痺れ粉をフィールド全体に広がるようにまく。

 

「__?そのまま突っ込め」

 

イシツブテは何とも無いかのように勢いを緩めずに突っ込んでくる。痺れ粉は定点でなければ効果は薄く、フィールド全体に広げるようにまいても、痺れることはなく視界を塞ぐ程度にしか効果はない。

だが、視界が悪くエゴノキさんは上手く見えず、イシツブテは転がっているためにスボミーの行動には気が付かなかったようだ。

 

「そこ!葉っぱカッター!」

 

スボミーが葉っぱカッターをイシツブテにぶつける。

いくら相性があるとはいえども普通ならば葉っぱカッターで20㎏の質量の転がるを受け止められるはずがない。

エゴノキさんもそう判断したのか特に指示することはない。

 

だが、予想に反してイシツブテがスボミーの目の前で急に静止する。

 

「っ!?まさかっ!離れろ!イシツブテっ!」

 

エゴノキさんが気がついたようだが既に遅い。

スボミーの頭の蕾がガパリと開き、イシツブテを包みこむ。……サイズの関係で大部分は外に出たままだが。

 

「よし!そのまますいとる!」

 

すいとるに限らず特殊技は離れるほどに威力は落ちるし、操作も覚束なくなる。

だからこそゼロ距離どころかもはや体内にまで踏み込ませた状態でのすいとるは、下手な距離から放つギガドレインよりも凶悪だ。

小さな爆発が起きて煙が晴れると、イシツブテが地に伏せていた。

それを見たエゴノキさんはパチパチと拍手をしていた。

 

「痺れ粉をまさかあんなふうにつかうとはね。それによく対策が練られている。お見事だよ」

 

「まぁホルから…あっと、ホルトから教えてもらったことですけど」

 

「それでもだ。十分に誉められることだよ」

 

あのとき、葉っぱカッターだけでは受け止め切れなかったが、葉っぱカッターを一点に集めさらに回転させながら貫通力を上げていたのだ。

それでもまだ足りないが、あらかじめ撒いていた痺れ粉の影響も多少はあり動きも鈍く、回転させたことで回りの粉を巻き込んで粉と共に葉っぱカッターをぶつけたことでなんとか受け止め切れたのだ。

 

ホルが最初のイシツブテは毎回指示される前に転がるをしてきていたからそれの対策として教えてくれた。

ちなみにホルの話していたジャイロ回転?てのはよく分からなかった。

 

「さて、おしゃべりはこれくらいにしようか。次、行くよ」

 

エゴノキさんはそう言ってもう一体のポケモン…イワークをフィールドに出した。

 

これも一応予想通り…引き続きスボミーで戦う。今回のジム戦は、全部予想通りならばスボミーだけで戦い、フカマルが戦うことはほとんど無い。

 

「一気に決めるわよ!葉っぱカッター!」

 

今日、ホルのイーブイを倒した葉っぱカッターとすいとるのコンボを狙う。事実ホルからも、有効な手と言われていたからこそ選択した手だ。

 

「ふぅ…こっちも一気にやらせてもらうよ。

___ロックカット」

 

エゴノキさんの言葉と同時にイワークの姿が消えた。いや、消えたのではなく跳んだのだ。元々イワークがいた場所には数個の岩が転がっていて、葉っぱカッターが岩に直撃する。

よく見ると空を舞うイワークの姿がさっきよりもすっきりと細くなっていた。それでもまだ8mを越す巨体がまるで重力なんか存在しないかのように空を舞う姿に唖然とする。

 

巨大な影がスボミーを包み込んだ。スボミーは蛇に睨まれたカエルのようにぴくりとも動けずにいる。

 

「叩きつける」

 

エゴノキさんが短くそう言うと、細くなったイワークの尾が空気を裂くように振り下ろされる。

 

「…………はっ!?スボミー!よけっ……くっ!」

 

呆気にとられ、指示するよりも早く尾が直撃するのが早かった。

地面が揺れ、足が覚束なくなる。

着地したイワークがその場から離れると、倒れているスボミーがイワークの下から現れた。

 

「うそっ……スボミー………お疲れ様。ゆっくり休んで」

 

ボールに戻し、労いの言葉をかける。気を失っているが、命に関わる怪我は無い。だが、元々スボミーだけで終わらせる予定だったため、精神的にやられたいた。

ちらりと足元のフカマルを見る。

 

あのイワークは最初予想していたものと違う。想定外である限りフカマルでも行けるかどうかが定かではない。ギュッと唇を噛み締める。

そのとき、対面から声をかけられた。

 

「どうした?そのフカマルはキミのエースなのだろう?私のイワークも同じだ。エース対決といこうじゃないか」

 

エゴノキさんはフカマルを見ながらそう言った。フカマルはその言葉を聞き、フィールドに出ていった。

だが、今はフカマルしか頼れるものはいないためフカマルに託すしかない。

フカマルがフィールドに立ち、顔だけ振り返り一声鳴いた。

 

「ふぅ……フカマル!頼んだわよ!」

 

そう叫ぶと、フカマルは自分を鼓舞させるように雄叫びを上げ、イワークを睨み付ける。どこか執念すらも感じる姿に思わず息を飲む。

 

「___?」

 

その姿を見たエゴノキは眉をひそめるが、それに気づくもの誰もいなかった。

 

「メタルクロー!」

 

フカマルの両手から、鈍色の長い爪が生え、イワークに躍りかかる。

 

「さばいてアイアンテール」

 

しかしイワークはそれを尾で受け流し、威力を完全に無くしてしまう。

フカマルは本来あったはずの手応えが唐突に目の前から消えたことでバランスを崩してしまう。

その横腹をフカマルのメタルクローと同じ……いや、より鈍色の輝きが力強い光を纏った尾で吹き飛ばす。

フカマルは真横に吹き飛ぶが、上手く受け身をとり、しっかりとフィールドに立ててはいた。

だが、今の一撃で少なくないダメージを受け、今にも崩れ落ちそうだった。

だが、フカマルの目はイワークを……いや、その後ろにいる何かを見ていた。

……むしろ、睨み付けていたと言ったほうが正しいほどにその視線は鋭かった。

 

「ふむ……そういうことか」

 

エゴノキが口の中でそう呟く言葉を聞き取れたものはこの場にはおらず、腕組みをしたまま興味深そうにフカマルを眺め、そしてフッと笑みを浮かべたのだった。

 

「さて、これで終わりにしようか……イワーク、叩きつける」

 

その言葉が終わると同時にイワークがまた空を舞った。そして空中で半回転しながら尾をフカマル目掛けて振り下ろした。

 

「フカマル!避けて!」

 

その言葉は届かず、フカマルはイワークの巨体に掻き消された。

フィールドは砕け、砂煙が舞い上がり視界が一気に悪くなる。

 

「これで最後だ。アイアンテール」

 

「っ!?この視界の中で!?」

 

砂煙の向こう側から声が聞こえた。その数秒後に空気を切り裂く音と何かがぶつかった音が聞こえてきた。そしめ砂煙の中からフカマルが真横に吹き飛んできて、そのまま壁に叩きつけられた。

 

はっと思い電光掲示板を見ると、そこには戦闘不能の字が激しく主張していた。

 

「……フカマル!戦闘ふの「まぁ審判、待ってくれ」……はい?」

 

試合終了の合図をしようとする審判の言葉をエゴノキさんは遮った。

そして、倒れているフカマルを見ながらあからさまなため息をつき、言いはなった。

 

「はぁ……キミたちの挑戦を心待ちにしていたんだがなぁ…この程度だったとはね」

 

大袈裟に手や体を動かしながらそう言う様はまるで芝居のようだった。

 

倒れているフカマルの肩がピクリと動いた。

 

それを見たエゴノキさんは顔に笑みを浮かべ、更に続けた。

 

「噂通りの実力を見越していたんだが、期待外れだったよ」

 

フカマルの肩がもう一回ピクリとはねた。

 

そしてエゴノキさんは後ろを振り返り……ホルの座る席を見ながら……いや、ホルの隣にいるハクリューを見ながら笑みを浮かべて言いはなった。

 

「これだったら、キミたちのほうが楽しめたかもしれないな」

 

そのとき、空気が震えるような爆音が響いた。

それはフカマルが叫んだ声だった。

ギロリとイワークを睨み付けるフカマルは、戦闘不能だったはずなのに、立ち上がり更に吠えた。

 

そして、その雄叫びに呼応されるかのようにフカマルの体を青い光が包み込んだ。

 

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