シロナのシンオウ二人旅   作:にわとりくん

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追いついた背中

 彼は焦っていた。

 

 同じ歩調にいた友が先にいってしまったから。

 自分の主人を守るために、その友は殻を破った。

 それは自分にも出来るはずだった。

 だけど出来なかった。

 

 進化した当初、彼は体の変化に戸惑ってはいたが、徐々に慣れはじめていき、気が付けば手の届かない場所にいた。

 目の前に透ける壁があり、その向こうに主人達と友が笑いあう。そんな景色をずっと眺めていた。

 

 だと言うのにそれを理解せずに、意地を張っている自分が大嫌いだった。

 あいつと同じ場所にいるんだ。

 あいつと同じ立ち位置にいるんだ。

 そんなわけない。自分でもわかっている。くだらない意地だって。

 

 だから、このバトルで自分も殻を破るんだ。

 そう思っていた。

 そう願っていた。

 そう信じていた。

 友と同じように。

 同じ舞台に上がるために。

 

 ____だが今は? 

 

 目の前の強敵にたったの二擊で地に伏せられた。

 悔しさで涙も出てこない。

 悲しさで言葉も出てこない。

 不甲斐ない自分への怒りだけがこみ上げてくる。

 

「はぁ……キミたちの挑戦を心待ちにしていたんだがなぁ……この程度だったとはね」

 

 その言葉を聞いて、体が反応する。

 

「噂通りの実力を見越していたんだが、期待はずれだったよ」

「これだったら、キミたちのほうが楽しめたかもしれないな」

 

 今の自分にとって最も言われたくない言葉。

 主人達は決して言わなかった言葉。だから目を背けていた。

 __背けることが出来ていた。

 

 しかし彼が発した友との差を仄めかす……いや、明らかにする言葉を突き刺してきた。

 

 ア゛ア゛ア゛ア゛ァァァァァァァア!!!!! 

 

 自分のどこから出ているのかもわからない音が叫びとなって空気を震わす。

 視界が青に包まれ、自分の体が自分じゃないような錯覚に陥る。

 

 内側から溢れんばかりの力が沸き上がる。

 

 理性の緒が切れる音がした。

 

 竜の本能が囁く。

 

 ___暴れろと。

 

「なっ!?」

 

 青い光を振り払い目の前の強敵の懐に潜り込む。

 鈍色に輝く爪をその体に突き立てる。

 

 悲鳴のような声が聞こえてきた。

 更に追撃を加えようと脚に力を込め、地面を踏みしめる。

 距離を詰めようとする仕草を見たイワークは咄嗟に距離を離した。

 

 だが、遅い。

 

 今自分が持てる全力で地面を蹴り抜く。後ろに跳ぼうとするイワークがスローモーションで見えた。

 ……いや、それだけ自分自身の速度が速かったのだろう。空気が圧縮され、顔に圧をかけるがミサイルのようにシャープな形状を持つ体により空気は左右にかき分けられる。いくら圧がかかろうともそれは攻撃の足を止められるほど強くも無かった。

 

 一瞬で距離を詰め、引こうとするその頭部に上から振り下ろすように爪を叩き込む。

 その衝撃で地面に激突し、フィールドにヒビが入った。一瞬で土煙が立ち込め、視界が遮られる。

 だが、そんな状況は彼にとって障害でもなんでもない。立ち込める砂煙の向こう側に、横たわる巨大な影を見つける。

 

 ___まだだ。

 

 本能が囁く。それははるか昔から仕組まれた誓約。全ての生物達の頂点に立つ者(ドラゴンタイプ)としての本能。それはいたってシンプルなものだ。

 

 ___敵を倒せ。

 

 そう判断した瞬間、腕の先端に1本のみ生える爪が巨大化する。それは太く、長く、力強く鈍色の光を纏っていた。そして倒れる巨影へ追撃を加えようと地を勢いよく蹴る。

 高く高く飛翔し、その巨大化した爪の一撃を加えようとする。

 

「まずいっ! ハクリュー!」

 

 だが、それは阻まれた。

 何かが体に巻き付いてきた。

 そしてそのまま地面に向かって勢いよく叩きつけられたのだ。

 起き上がり、自分を叩きつけた何かを凝視する。

 

 それはハクリュー()だった。

 

 理性を失ったなかでも自然と笑みがこぼれる。

 

 _____やっと、追い付いたぞ。

 

 それを感じとったのか、ハクリューは気を引き締める。

 やっと本気の彼と勝負が出来る。

 

 巨大化した爪の色が、一瞬で変化した。進化したことにより新たに手に入れた力。

 それは彼が最も得意とする尾の一撃と全く同じ群青の輝きを纏い、凄まじい力強さを見るものに感じさせた。

 

 それを見た彼もまた自分の尾に力を集める。

 

 向かい合う2匹。

 

 見るもの全員が、意図せずに音を消した。

 静寂の中、誰か1人が息を呑む音が微かに響く。

 

 刹那、両者の姿が消えた。

 

 "ドラゴンテール"

 "ドラゴンクロー"

 

 竜のエネルギーを纏った尾と爪が交わる。

 その体に爪を叩きつける。

 ……だがそれは自分も同じだったようだ。

 頭部にその尾を叩きつけらた。

 

 目の前にいる友がゆっくりと崩れ落ちる。

 

 そして自分もまた、同じように崩れ落ちた。

 

 

 ▽

 

 

「シロナ」

 

 気を失ったフカマル……いや、ガバイトのそばに座り込むシロナに声をかける。

 心配そうにガバイトを見つめ、ゆっくりとこちらに振り返った。

 

「ホル……ガバイト、大丈夫かな……?」

 

「多分、気を失っているだけだ。今はゆっくりとさせよう」

 

 そう話していると、後ろからエゴノキさんが話しかけてきた。

 

「……キミたちのポケモンに無理をさせたようだ。すまない」

 

 そう言って頭を下げてきた。

 俺は慌てて頭を上げてくださいと言ってなんとか頭を上げさせてもらった。

 そして、二匹の様子を見て特に問題は無いと話してくれた。

 

「それとガバイトだが、私の予想が合っていればあの技は"げきりん"という技だ。心身共に負荷が大きい技だから恐らく疲労で気を失っているのだろう」

 

 やっぱりか。

 なんとなくそう感じていた。

 げきりんは一定時間理性無く暴れ回り、しばらくしたら疲労により混乱状態に陥るデメリットの大きな技だ。

 ガバイトとハクリューをボールに戻す。

 今日のご飯は少々奮発しないとな。

 

「それと、今のキミのガバイトにはその技は危険だ。下手をすれば自身を滅ぼす諸刃の技だ。使いこなせないうちは無理をさせないほうがいい。……今回は、すまなかったね」

 

 そう忠告したのち、エゴノキさんはまた頭を下げてきたのだった。

 

 

 

 

「ねえホル……大丈夫かな?」

 

「んー……大丈夫だとは思うな。多分だけど」

 

 夜ご飯を食べながらガバイトの様子を見る。

 気絶から覚めたガバイトは、先程までの雰囲気とは打って変わって憑き物が落ちたように元に戻っていた。それを見たブイゼルとハクリューがガバイトにかまってかまってと言わんばかりにすりすりと体を押し付けている。

 

 こうして見ながらエゴノキさんに話してもらったことを思い出す。

 

『お礼程度に私の知識を一つ教えておこう。今回のことにも関連する話しなんだが、ポケモンの進化や育成は肉体面よりも精神面に依存するんだ』

 

『精神面……ですか?』

 

『あぁ……そのガバイトの進化も同じようなものだ。それぞれのポケモン毎に性格や気持ちがあり、それにあった育成、そして進化法がある。よく性格やポケモン毎の考え方を見てみるといいよ』

 

 例えば、そのガバイトは意地っ張りで負けず嫌いとかね……、という言葉を聞いてジムを出てきた。

 こうして彼らを見てみると、結構違いが分かる。

 

 ハクリューは甘えん坊でよく俺やシロナの他にいろんなポケモンに引っ付いたり巻き付いたりしている。

 それを断られると寂しそうにシュンと俯いてしまうために思わず抱きついてしまう。そして嬉しそうに顔をすり付けてくるのだ。

 

 可愛いからね。仕方ないね。

 

 今、ハクリューと似たような仕草をしているがブイゼルは寂しいというよりも体が疼いて仕方がないなら遊んで欲しいということだろう。

 遊ぶのが大好きな無邪気な性格。

 

 性格というとなんとなく前世のポケモンのことを思い出す。

 

(いじっぱりげきりん持ちのA特化ガブリアスにさみしがりしんそく持ち両刀カイリュー……ついでに一部では厨ポケと名高い無邪気両刀フローゼル……ガチパかよ)

 

 イーブイ達やスボミーの性格は完全に把握はしていない。だが、何となくこの流れでいくととんでもないガチパが出来そうだ。

 取らぬ狸の皮算用かもしれないが、思わず苦笑いが込み上げる。

 

 しばらくすると、時間は夜遅くになりシロナを含めてみんな眠たそうにしていた。

 

「そろそろ寝るか?」

 

「ん……」

 

 半分寝惚けているシロナが一言だけ返事をすると、モゾモゾと布団に入る。

 さて俺も寝るかなと思い、布団に潜ると布団の内側からハクリュー達がピョコリと顔を出した。

 ブイゼルが腕の隙間に入ると、のそのそとイーブイが背中に張り付いてきた。

 見下げるとハクリューが体に絡みつき胸の辺りに頭部を擦り付けてきた。そしてすぐに3匹とも寝息をたててしまった。

 割と濃い1日だったが、どこまでもマイペースな3匹を見ているとなんとなくどうでも良くなってきた。

 

「ハハ……おやすみ」

 

 静かに笑いを零し呟くと、3匹の体温を感じながらゆっくりと目を閉じた。

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