シロナのシンオウ二人旅   作:にわとりくん

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最初の一匹

 なんとなくだが嫌な予感がする。

 フカマルに荒らされまくった部屋を片付けることなくシロナと二人で家を飛び出した。

 どこにいったかはわからないためただがむしゃらに走り続ける。

 

「ちょっと! そんな適当に走ったって疲れるだけだよ!!」

 

 後ろからシロナの声が聞こえてくる。

 少しスピードを落としてやると、追いついてきた。流石に疲れたようで、肩で息をしている。

 

「ほれ」

 

 一旦休憩をはさむために、その場に腰を下ろす。そしてリュックの中の水筒と、タオルを渡す。

 

「はぁ……はぁ……ありがと。ふぅ、どうするの? ここから」

 

 次のことを言われて少し悩む。確かに適当に走っているだけなのでそこまで効果があるとは思えない状況だ。ただ、今も胸騒ぎは続いていて、今すぐにでも走り出したい気持ちだった。

 

「落ち着いて。まずは手がかりを探しましょう。足跡とかあるかもしれないから」

 

 確かにそうだ。この森にいるポケモンたちのほとんどは木の上にいる。

 そのため足跡は結構目立つため重要な手がかりである。

 

「はぁ……。疲れたけど、結構涼しくて助かったわ」

 

 そんなことを言って近くの岩に腰掛ける。

 確かにかなり涼しい。それこそ夏とは思えないぐらいである。

 日陰だからもあるだろうがそれにしては涼しすぎる気がする。

 それと同時にこの冷えた空気に違和感を感じる。上半身と比べて下半身がかなり涼しいからだ。

 いや、正確には足首が重点的に冷えている。

 上と比べて下が冷たい。これ自体は普通のことだが、今は座っている。

 人間の高さなんてたかが知れてるため普通ならば体感温度は変わらないはず。つまり今この森には()()()()()()()()()ということだ。

 

 そこで気づく。ポケモンの力でしかありえない温度差であることに。

 しかしここには氷タイプのポケモンなどいるはずがない。ましてや夏だ。涼しい洞窟にでもこもっているはずである。であれば答えは一つ。トレーナーのポケモンだ。もしかつてフカマル達を傷つけた犯人のポケモンであれば、かなり危険な状況だと推測が出来る。

 幸いにも体で感じれる程度の風が吹いている。風上に狙い澄まして走る。

 

「あっ!? ちょっと待ってよ!」

 

 後ろから静止の声が聞こえてくるが構いやしない。森の中を木を避けるために右に左に動きながら向かう。

 この時ほど小さな体がありがたいと思ったことはないだろう。

 ある程度の距離を走ったら目的の二匹の姿が遠目に確認できた。

 

「フカマル! ミニリュウ!」

 

 しかし、その近くには白衣をまとい、ボサボサの髪の男が歪んだ顔で二匹を見下ろしている。

 その横にはユキメノコがおり、おそらくこの冷気の犯人であろう。

 そして男はユキメノコに指示をするように右手を挙げた。そして辛うじて男の発した言葉が聞こえてきた。

 

「ユキメノコ、ふぶき」

 

 その言葉に背筋が凍りつく感覚を味わう。吹雪。ゲームでも屈指の威力を持つ氷タイプの技である。

 さらにドラゴンタイプの弱点であるため、直撃した時のダメージは計り知れない。

 

 走る速度をさらに速めてぎりぎり二匹の下にたどり着く。それと同時に、二匹を腹に抱えてユキメノコに背を向ける。人間の出来る最も強固な防御方法である。

 しかし、それは人間という種族内での話である。ポケモンの攻撃をまともに受ければ大けがに違いない。だが、それはこの二匹にも共通することであるため、腹に抱えて背中でユキメノコの吹雪を受け止めた。

 

「っ!? ……」

 

 途端に背中に冷たい刺さるような冷気が襲ってくる。時折混じっている、氷の結晶が背中や足に当たり血が出てくる。そこで抱えた二匹が心配そうな目で見ていることに気が付いた。

 安心させるように俺は出来る限りの笑顔で頭をなでてやる。

 

「おい!! 貴様、なにをしてるんだ!!!」

 

 後ろから先ほどの男の声が聞こえてくる。声には明らかなほどの憤怒の色が混じっている。

 俺はどうにか立ち上がって二匹を背中に覆い隠す。

 そのタイミングでちょうどよくシロナがやってきた。

 

「ちょっと! なにがあったの!?」

 

「待て、後で説明するからとりあえずこいつらを家に連れて行ってくれ」

 

 その言葉に反論しようとするが、男の様子を確認して無言で二匹を連れて行った。

 

「っ!? ユキメノコ! れいt……痛っ!」

 

 慌てて男が指示しようとしていたため石を投げて阻止する。

 

「おい貴様何するんだ!? この高貴な頭に!!」

 

「どうもこうも、石を投げただけだ。お前か? 二匹を傷つけた犯人は」

 

「はぁ? 傷つける? 人聞きの悪い。これは実験だ。あいつらの耐久性を調べていただけだ」

 

 その言葉に堪忍袋の緒が切れる音を感じた。近くにあった手ごろな棒を拾い、男の頭をぶんなぐる。

 それも一発ではなく何発もはたきつけ叫ぶ。

 

「あいつらの耐久性をしらべるだあ!? てめえ自分が研究者だとか思ってんのかよ!! ただ無意味に心身ともに傷つける行為はただの犯罪だ!!」

 

 そういってその場から離れる。しかし、体が動かなかった。

 

「犯罪者だあ? 俺が犯罪者なら、この俺の人類の財産である俺の頭を何発もはたきやがったてめえは、即死刑囚だなあ。いますぐ俺が処刑してやるよ」

 

 男は血走った眼で睨んでくる。

 

「よくやったユキメノコ、そのままサイコキネシスで固定してな」

 

 サイコキネシス。そのせいで体が動かなかったのか。なにも抵抗できないままゆっくりと空中に持って行かれる。そのまま空中で大の字に開かれる。

 

「はは。良い気味じゃねえか。無様な姿を眺めてもよかったが、恐怖を与えないまま殺してやろう」

 

 男は狂ったような笑みに血走った眼をしてにらんでくる。

 

「ユキメノコ、氷柱針」

 

 目の前の空間に少しずつ氷の針が形成されていく。その大きさはすさまじく、長さは50㎝はあろうものである。さらに先端は磨かれた槍のように尖り、貫くことに特化した形状になっている。

 

「やれ」

 

 男の目が一気に見開き、口は不気味にひきつった歪んだ顔で笑っている。

 死ぬ間際に見る光景は汚いものであることに悲観し、目を閉じる。

 しかし、目の前でガシャンと何かが壊れる音がする。片目だけあけるとそこにはいるはずの無い者がいた。

 

「フ……フカマルっ!?」

 

 それと同時に脇からもう一匹のポケモンが出てくる。そのポケモンは尻尾を紫色に輝かせてユキメノコに叩きつける。

 

「ミニリュウ……」

 

 そしてそれと同時に自分を拘束していた力が無くなり地面に落ちてしまう。

 男は驚愕したような顔を浮かべるが、すぐにまた歪んだ笑いを見せてくる。

 

「おお……。探す手間が省けたな。ユキメノコ、戻れ」

 

 そういって男はボールにユキメノコを戻す。そしてもう一つのモンスターボールを取り出す。

 

「さあ、ショウタイムだ。ついでに処刑も再開しなくちゃな。出て来い! マンムー!」

 

 そういってボールから出てきたものは圧倒的な巨体をもつイノシシのようなポケモンであった。

 

「さあマンムー、まずは地震で足を止めろ」

 

 グラグラと揺れる地面に足を取られて転んでしまう。

 その様子を見ている男は愉快そうに笑っている。

 そのまま追撃を入れるように指示をする。

 マンムーの巨体が二匹の目の前に立ちふさがる。

 

「やっ.やめろ.!」

 

 必死に止めようとするが、揺れる大地に足をとられてしまう。

 マンムーの目の前に氷柱針が形成される。

 ユキメノコの時とは比べ物にならないほど大きく、鋭い。凄惨な光景を思い浮かべてしまい、目をつむる。

 

「ゴウカザル、インファイト!」

 

 急にどこからともなく声が聞こえてくる。

 それと同時にズガガガガガァァンという音と同時にマンムーの体が吹き飛ぶ。

 

「なっ!? マンムー!?」

 

 俺も目の前の光景にあっけにとられていると、

 

「ホル! 大丈夫? けがはない!?」

 

 シロナが駆け寄ってきた。

 

「あ……あぁ。大丈夫だ。それより今のは……?」

 

 さっきまでマンムーがいた場所に一匹のポケモンが佇んでいた。

 茶色い体毛に白い毛が体の要所に生えており、頭からはごうごうと燃え盛る炎を冠のように携えている。

 肩や膝には黄色い装飾が付けられているそのポケモンは威厳溢れるように堂々と立っていた。

 

「ナナカマド博士を途中で見つけたから呼んできたの! 二匹は先に行っちゃって急いで追いかけてきたら、すごいことになっているんだもの!!」

 

 よく見たらシロナの目にはうっすらと涙が浮かんでいた。

 

「すまん。本当に助かった。だから手を放してくれ。苦しい」

 

 胸に顔を押しつけてくるため大変に呼吸がし辛い状況であった。

 言われて落ち着いたらしく力が緩められる。

 

「貴様は……。ナナカマド!!」

 

「ほう。名前を知ってもらっているとは、光栄だな。私も貴方のことはよく知っている。かつてはドラゴンタイプの生態研究の第一人者であったな、コガラシ博士。貴方がまさかあのような研究をしているときは驚いたものだ」

 

 やり取りの方を見ると、コガラシと呼ばれた男とナナカマド博士が話をしている。

 かつて奴はドラゴンタイプ研究の第一人者であったらしいが今は犯罪者として身を追われているらしい。

 

「まあいい。君はもう逃げられる状況でないからね」

 

「なっ!?」

 

 その言葉と同時に三人の警官がコガラシの体を取り押さえる。

 

「畜生!! 離せ!! 俺は研究者だぞ!! 栄光のコガラシを捕まえる気か!!」

 

 そう叫ぶがコガラシは逮捕され、警官に連れて行かれていった。

 そしてナナカマド博士がこっちに歩いてくる。

 

「君がホルト君か。すまなかった、危ないことに巻き込んでしまったようで」

 

 博士は頭を下げてきたので慌てて顔をあげるように言う。

 そして警官の一人がこちらにやってきた。

 

「君たちには随分と迷惑をかけてしまった。あいつは本当は私たちが捕まえなければならないが、君のおかげで捕まえることが出来た。感謝する」

 

 そういって頭を下げてくる。

 

「いや、俺は何もしていませんし、ただこいつらを守るのに必死だったので……」

 

 そういって二匹を見る。フカマルはシロナが抱えてミニリュウは俺にすり寄ってくる。

 

「ふむ……。その二匹は随分となついているな……」

 

 博士は顎に手を当てて二匹を見ている。

 

「そうだな……。警官さん。ちょっといいですか?」

 

 そういって警官と博士は何か話している。しばらく話して意見がまとまったのか、こちらを向いた。

 

「そうだな。君たちには未成年ポケモン所持許可証をやろうと思うんだが、どうかな?」

 

 そういってきた。未成年ポケモン所持許可証。通常12歳以上でないとポケモンを所持することは許されないのだが、この許可証は決められた権限のある人間が許可をすれば授けることのできる12歳以下でもポケモンを所持しても許されるものである。

 その権限の中には一定以上の功績をあげた研究者も入っている。

 もちろん博士にもその権限があるのだろう。だから言ってきたのだ。

 そしてその話をするということは博士は俺たちを認めてくれたのである。

 

「シロナ? どうする?」

 

 なんとなくシロナのことだから答えは見えている。

 だが……。

 

「……ううん。いらない」

 

「はあ!?」

 

 喜んで受け取ると思ったのだがその逆の答えであった。

 

「ふむ……。どうしてだ?」

 

 博士が尋ねてくる。俺も聞きたい。

 

「だってホル? フカマルは最初目を覚ました時に暴れたんだよ? 今はこうだけど、人を信じることはこの子たちには難しいと思うのよ」

 

 たしかにそうだ。フカマルはだいぶ暴れまくった。心に刻まれた傷は簡単に治すことはできない。だからこそシロナはこいつらと一緒にいたい気持ちよりも、拒絶される恐怖があったのだろう。

 

「そうだな……。だったらこいつらに聞けばいいだろう?」

 

 博士はそういって二つのモンスターボールを取り出した。

 

「それを手に持って聞けばいい。一緒にきたいかどうかを」

 

 そういって渡してきた。手に持ったモンスターボールを見つめて考える。確かに俺もシロナと同じ気持ちかもしれない。ミニリュウだって今はすり寄っているがこれからもそうとは限らない。本当に心を開いてなければこのモンスターボールを拒否するだろう。それがたまらなく怖かった。

 

 手が震えてくる。もし拒絶されたら、もし一緒に行くことが選ばれなかったら。そっとシロナの方を見る。シロナも手に持ったボールを見つめている。同じ自問自答を繰り返しているのであろう。

 

「ふむ。ならボールを転がしてみろ」

 

 博士はそういった。俺とシロナは互いに少し悩んだが、すぐに同時に手元に転がした。

 ミニリュウとフカマルは不思議そうな目で見上げていた。

 しかし、しばらくしたら二匹は自分からボールに近づいて、入っていった。

 それを嬉しそうに見ていたナナカマド博士は微笑みながら口を開いた。

 

「ほら、これが二匹の本心だ。君たちが悩む必要は一切ないんだよ」

 

 そういって拾ったボールを開いて二匹を出す。

 二匹はすぐに俺たちの下によって来る。

 シロナは涙目でフカマルを抱きしめている。

 俺もミニリュウを抱えて胸に包み込む。

 そしたら心地よさそうなミニリュウの声が聞こえてきた。

 

「ありがとな。選んでくれて」

 

 そうして初めてのパートナーが決まった。




今回出てきたコガラシはもちろんあのからっからの風が由来です。
理由はポケモンにドライ(乾燥)だからです。
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