パシャパシャと顔に冷えた水を打ち付けて眠気を少しずつ解いていく。しかしやりすぎては冷えすぎてしまうので程々にやめといて手元のタオルを探る。そしたらミニリュウがタオルを手に握らせてくれた。
「お、サンキューな」
そういって顔を拭きながら空いた片手でミニリュウの頭をなでてやる。そしたら心地よさそうな声をあげるのでしばらく撫で続けてやると寝袋からごそごそとイーブイも出てきた。寝ぼけなまこで回りの様子をうかがってからようやく目がさえ始めたのか胸に飛び込んできた。二匹共もちろんなでてやるが、さすがにこのままでは食事の支度ができなくなってしまう。惜しむ気持ちを押し殺して二匹の首根っこをつかんで引きはがす。
「お前たちはシロナを起こしてやってくれ」
そういったらシロナが眠っているだろう寝袋に駆け寄っていく。その様子を横目で見ながら食事の支度を始める。朝だし軽めの卵料理にパンでいいかな。軽く献立を考えてからランプに入っている火を薪に入れて火を強くする。フライパンをかざしてそこに卵を四つほど入れる。真ん中に仕切りを作って片方を塩で味付けをしてからもう片方はポケモン用に木の実を擂ったもので味を調える。やはり人間の味付けよりも木の実系の味が好みらしい。出来上がったら後ろではすでにシロナが皿を片手に待機していた。
「はいはい。それともう一つ皿出してくれ」
「はーい」
そういって差し出された二つの皿に俺等用と、ポケモン用の二つを盛る。昨日と同じパンを取り出して朝食を開始する。眩しい朝日でもあれば最高だが、あいにくここは洞窟。多少は明るくなっているがやはり暗い。
「今日はさっさとクロガネに行くか?」
「うーん、そうね。lv上げは十分なの?」
そう問われてうろ覚えながらそれぞれのレベルを思い出す。イーブイが15と17。フカマルが21でミニリュウが22。十分に上がっているので大丈夫だろう。
「大丈夫だな。それにこんな薄暗いところに長くいたらカビが生えそうだしな」
「そうね。わたしも朝日を拝みたいわ」
食事がすみ次第支度を手短に終わらす。地図とコンパスとにらめっこを繰り返しながら東に向かって歩いていく。その途中に横から声が聞こえてきた。
「よお! あんたら新人トレーナーか?」
声の方向を見ると紫色の髪と逞しいひげを持った男性がいた。
「あーはい。そうです。貴方は?」
「俺か? 俺はトウガンてのだ。一応ジムリーダーだが、堅苦しくて逃げ出してきたんだ」
そういって大声で笑い始めるトウガンさん。てかトウガン? うわぁたしか原作にも出てきた思い出あるけどこんなだったっけ? ダメ親父だ。あとうるさい。
「そうなんですか。では俺たちはこれにて失礼します」
この人と一緒にいると頭と胃が痛くなりそうな気がする。さっさとお暇させていただこう。
「待て待て。せっかくだしな。クロガネまで一緒に行こうじゃないか」
そういってまた大声で笑い始める。ああ、胃薬はどこかに落ちてませんか。
~クロガネシティ~
「うあぁぁぁぁ。やっと着いた」
「どうした? 気分でも悪いか?」
あんたのせいだ馬鹿野郎。こちとらさっさと出ていきたいのに気が付いたらいなくなってるわなんかスコップ片手に壁に突撃したりやりたい放題だよ。こぶしがプルプル震えてくる。
「まあまあ、道案内してくれたしさ」
怒りに震えているところをなだめてくる。そこには感謝だがそれ以外がひどすぎた。結論くそ親父。ヒョウタさんも苦労人だったんだな。
「そうだな、クロガネジムはあそこだ。ジムリーダーは俺の友人がやっているんだ」
そういって指さしたほうを見る。共通の茶色味がかった大きな建物がそびえている。
「そうですか。一先ず体を休めたいのでポケモンセンターに行ってきます」
「そうか。ジムにはいつ頃挑戦するんだ?」
そう聞かれたのでシロナのほうに顔を向ける。顎に手を当てて悩むしぐさをして、人差し指を立てた。
「明日だそうです」
「わかった。じゃあそう伝えておくな。グハハハハハ楽しみにしておくぞ」
そういってジムのほうへ歩いていく。やっと重荷が下りた気がする。
「明日のために何か準備するものはあるか?」
「傷薬ぐらいかな? 午前に適度にlv上げして遅くなる前にゆっくりと休めておくわ」
「あいよ。じゃあ回復させたらクロガネゲートに行くぞ」
~ポケモンセンター~
sideシロナ
「うわぁ~いい部屋ね」
ドアを開けて入ったその部屋はthe☆和室といった畳張りの部屋にテレビと座布団と長机のシンプルな内装の部屋だった。それでもコンロやお茶の一式などはそろっているため中々に心地のいい空間だ。
「これで一番レベルの低い部屋か……。チャンピオンとかどんな暮らししているんだ?」
ここはポケモンセンターの宿泊施設。買い物などの税金から払われているので宿泊料は無料だがトレーナーによって部屋の内装が違う。私たちはまだ日が浅いので階層的には低い部屋と言われたが、十分すぎるほどに住み心地のよさそうな空間だ。ホルが言っていたようにチャンピオンのような方々はどんな部屋になっているのか想像がつかない。きっとすごい部屋なんだろうな。
「とりあえず茶でも飲むか。適当に食材も買ったしゆっくりしよう」
そういいながら慣れた手つきで茶をいれている。私も料理とか覚えたほうがいいのか?
「ねえ」
「ん? どうした?」
「私も料理とかできたほうがいいかな?」
そういうとかなり苦い表情になる。……レディーにそれは失礼だと思うがとりあえず置いておく。
「そりゃまあ出来たら助かるけど…………出来なかったらむしろ足手まといだからな」
「うっ……でも出来たほうがいいんだよね?」
「そっちのほうがいいとは思うがな。どうしたんだ? 急に」
「私だって旅をしているのよ? さすがに料理くらいできるようになりたいわよ」
実際私の友達たちは簡単な料理ならパパッとやってしまう。今はホルがいるからいいけど一人旅なんてやれば冗談抜きで死にかねない。
「……わかった。ある程度なら教える。でも言ったとおりにやってくれ。俺の胃が持たない」
「わかったわ。ちゃんとするからこれからお願いね」
料理修行の約束もしたので夕飯に移る。時計を見れば7時半。丁度いい時間だ。さっそく教えてもらおうと思ったけど、今はジムに集中するために無しと断られてしまった。仕方なく座布団に座って待機する。
「そういや明日はジム行くがその後どうする?」
「ん? 適当にぶらつくかほかのところに行くわ」
「考え無しですか」
いつもながら的確についてくる。心を読んでいるんじゃないのかな?
「ま、後のことは面倒くさいしいいか。……飯出来たぞ」
「はーい」
イーブイとフカマルをボールから出してそれぞれの夕飯を運ばせる。テレビを見ながらのんびりと野菜炒めを口に運ぶ。今日は昨日みたいな状況ではないためゆっくりと疲れをいやすことができる。明日は初のジム戦だから体をゆっくり休めておこう。
夕飯が終わり寝る支度を始める。さりげなく気に入っている薄い黄色の寝間着を着て布団に潜り込む。昨日の固い寝袋との違いがすごい。柔らかいなあ。そんな思考もすぐに終わりを迎えて心地のいい温もりに包まれた意識は薄れていった。