第二問
学園祭の出し物を決めるためのアンケートにご協力ください。
『喫茶店を経営する場合、制服はどんなものが良いですか?』
魂魄妖灯の答え
『あまり派手ではない袢纏』
教師のコメント
『何時の時代の料理人の服ですか?』
西行寺幽々子のコメント
『それを着て、何か作ってほしいわねぇ』
清涼祭当日、家庭科室の一角で私はもくもくと団子を作り続けていた。あの日、私たちのクラスが何をするかを決めていた時、坂本が乗り気になってからとんとん拍子で話し合いは進み、各々の役割分担もなされた。私は料理人の一人となり、こうして団子を量産することになった。周りを見れば他の料理担当の者たちも
そのためにも今は、目の前にあるこの山のような材料をどう調理するかが重要だ。須川曰く、今この場にいる人間で一番上手く団子を作れるのは私だから、基本的に全部を作ってくれとのことだが、正直断れば良かった。あの時はそれくらい簡単だと思ったが、いざ目の前にするとやはりバカみたいな量だ。まあ、幽々子様の朝と昼の食事分くらいだ。何とかなるだろう。いつものより少し急いで作れば、十分時間には間に合うはず。目標としては入場時間までに団子を百個だ。
一時間近く団子を作って湯に通すことを繰り返し、作業に没頭していたら、周りがにわかにうるさくなり始めた。といっても、誰かが騒いでいるというよりも、幾人もが小声で喋っているせいで結果的にうるさくなるような感じだ。少し気になってしまい、ちょうど最後の団子を後はゆでるだけということもあって、視線を挙げたら、すぐ近くの調理台で姫路が団子を作っていた。そう、
何故彼女が!? 驚きで一瞬手が止まってしまった。ボトボト団子が鍋に落ちていく。
姫路は調理担当ではないはずなのに。いや、今はそんな事を考えている場合ではない。彼女によって作られた団子は二個だけ。形は良いが、前回食べた時のことを考えると不安になってしまい、材料の方を恐る恐る覗き見た。
そこには、茶色のガラスでできた瓶に、何やらアルファベットで名称を書かれたものがいくつも転がっていた。分かる。私はあまり今の料理は知らないが、間違っても科学準備室にあった薬品を使うものではないことくらいは分かる。何せ、団子の材料を混ぜていたボウルが溶解して、台にくっついているのだから。人が食べたら内側から溶け出さないのか、あれ。
止めようとは思ったのだが、姫路の顔が鬼気迫ったものがあったので、声をかけられなかった。そんな事をしているうちに、団子は湯から出され水で冷やされた。形は良い。しかし食べて大丈夫かと聞かれたら、駄目だろうとしか答えられそうにない。完成した団子を満足げに見ていた彼女だが、すぐに伝達係から上で服装のチェックをお願いされ、その危険物をそのままにしていった。
今なら、今ならまだ誰も食べずに処分できる。あれだけの気迫で作られたものではあるが、それを食べてしまう哀れな
「おっと、何やってんだ妖灯! もう団子が煮えくり返っているじゃないか!」
須川が私と団子の間に体を挟んだ。須川が邪魔で団子に手が届かず、その間に土屋が姫路の団子を私が作ったものと混ぜて持って行ってしまった。
「あっ!」
「そうだ。団子の煮る時間はもっと短く。これでは固さが出てしまう。もちもちした触感が殺されて……」
咄嗟に追いかけようとしたが、手を須川に掴まれてそれも叶わない。
「やり直しだ。あとの団子は十分使えるが、これは失敗だ」
「い、いや少しま「うん? 今は団子を作る方が最重要だ!」」
最後の失敗した団子を作り直した頃にはすでに十分も経ってしまった。幾ら説得しても聞く耳を須川は持たなかった。仕方がなくまた作り直したのだが、やはりかなり時間を食ってしまった。しかし、今ならばまだあの団子を誰かが食べてしまうのを防げるかもしれない。家庭科室を飛び出て、教室へ向かう。
「キャ!」
「うわ!」
廊下をすれ違う生徒を吹き飛ばさない程度には気を付けて、走り続ける。ああ! それにしても何でこう、この学校という建物はうねうねと曲がりくねっているんだ! 走りづらい!
一気に階段を駆け上り、クラスの扉目掛けて走り続ける。途中、Fクラスの生徒を吹き飛ばしてしまったが、あのFクラスの人間だ。気にする必要はないだろう。それよりも今は姫路の劇物をどうにかしないといけない。下手をすれば死者が出てしまう。
「こっちに団子は――」
ああ、遅かったか。
膝が崩れ落ちる。目の前では虚ろな目で倒れて魂が離れかけている坂本の姿があった。気まずそうに土屋は坂本から目をそらしていた。
犠牲者には黙とうをささげ、私はまた家庭科室に戻ってきた。
一般客が入場し始めても、しばらくは作り置きしていたかいもあって暇で閑古鳥が鳴いていた家庭科室だったが、一時間もすると慌ただしくなった。意外と団子の味が好評で売れ行きが良く、今から作り出さないと売り切れが起きてしまうかもしれないほど売れているそうだ。
別に料理人というわけではないが、作った料理がおいしいといわれるのはやはりうれしく、自然と機嫌がよくなる。朝より幾らか少ない数で良いとはいえ、それでも結構な量の団子をこねて作り出す。煮る方は須川が担当しており、団子は完璧な形で作られ続けている。鼻歌を歌いながら、どんどん団子をこねる。このままいけば、初日で団子だけでも三百食行くのではないだろうか。もしそうなったらそれはとても誇らしいことだ。
「おい、須川! 大変だ!」
そう思っていた時に、伝達係のクラスメイトが家庭科室に飛び込んできた。かなり慌てているらしく、扉は開けっ放しだ。
「ん、どうした?」
「何か教室の方でいちゃもんをつける客が出たらしくて、客足が途絶えかけているんだ!」
いちゃもんをつける客か。まあ、どこにだっているだろう。商売敵を減らしたい人間はたくさんいるだろうし、正直お世辞にも備品とかで文句を言われたら、いちゃもんとすら言えないほどうちのクラスは酷い有様だからな。まあ、それ以外には問題ない。特に料理に関しては、須川がきちんと検査をしており、これ以上の味を求めるなら専門家の所に行くしかないと自信を持って言えるほどだ。私も全力を出した。文句を付けられるはずがない。しかし、問題はいちゃもんをつけられると団子の売れ行きが……。
「特に団子の味が最悪だとか」
「「……何だと? おい、それ言った奴誰だ」」
「へっ? 須川はともかく、魂魄はいきなりどうした? 二人ともそんな阿修羅みたいな顔をして?」
「「良いから答えろ、すっとこどっこい」」
「は、はい!!」
伝達係から団子を侮辱したというそいつの容姿を聞き出した。どうやら二人組の男だな。そこまでわかれば十分だ。そいつらには少し早いが三千世界というものを体感させてやろう。泣いて喜べ。こんな慈悲深い裁定を下されたことに。
開けっ放しの扉から飛び出て、廊下を疾走する。客がいようが生徒がいようが教師がいようが関係ない。すべて吹き飛ばしてでも最短距離を駆け抜ける。さっきの時よりも早くクラスのたどり着いた。
クラスの扉を勢いよく開けると、どこからか持ってきたのか立派な机を持つクラスメイト数人に、坂本と吉井達がいた。周囲を見回してみたが、お客がいるだけでそれらしき人物はいない。しかたがない。
「「ここに死にたい奴らがいると聞いてきたのだが?」」
私と同じように教室に飛び込んだ須川と一緒に、坂本に尋ねた。
「いや、お前たち落ち着け。目が血走っていて正直怖い。それに多分そいつらなら俺と明久でぶちのめしたから」
「「分かっていないな。料理を侮辱したやつらを生かす必要があるとでも?」」
「本当にどうしたお前たち!? 須川はともかく魂魄までそんなこと言い出すなんて!」
っち。どうやら無駄足だったか。
舌打ちをついた私に、須川が話しかけてきた。
「魂魄」
「ん、何か用か?」
「いや、少しな。俺はお前の事を誤解していたようだ。俺の事は亮と呼んでくれ」
「……私は妖灯で良い」
「ああ、これからも頼むぜ妖灯」
「……ああ」
握手をする。無駄足ではあったが、良い
「本当に何があったんだよ、お前たち!?」
妖灯の友人(料理人)は須川君でした。いや、まだ雄二と明久では接点が少ないですし、共感できることもありませんからね。だんだんと仲が良くなっていきます。