第三問 学園祭の出し物を決めるためのアンケートにご協力ください
『喫茶店を経営する場合、ウェイトレスのリーダーはどのように選ぶべきですか?
【①可愛らしさ ②統率力 ③行動力 ④その他( )】
また、その時のリーダーの候補も上げてください』
魂魄妖灯の答え
『【④その他(常識を持った人)】 候補……この学校にいるとでも?」
教師のコメント
……。
西行寺幽々子のコメント
あらあら。楽しそうねぇ。
中華喫茶は中々な盛況のようだ。一時は暇で仕方がなかったが、今は家庭科室を白煙が
私と亮は特に問題ないが、だんだん限界を迎え始めている奴も出てきており、さっきから虚ろな目で食材や料理を眺めている。
「なあ、ひとつ聞いてくれ」
「何だよ、俺は今食材を切っているんだよ。お前もこねる作業をだまってしろよ」
「ふっ。そんなものよりはるかに重要なことだ。俺は気づいてしまったんだ。良いか、良く聞けよ。巷では料理ができる男がモテるらしい。そして俺たちこんなに料理を作ったんだぜ。きっとなんかオーラが出てモテるようになっているはずだと思うんだ」
「お前……、天才か」
そうでもないみたいだ。まだあいつ等は大丈夫。酷使しても問題ない。そう判断して、近くの食材を掴みまな板に置く。
「お前たち、さらに追加な」
「ちょっと待ってもう無理無理。勘弁してください魂魄さん」
「亮にでも媚びるんだな」
「須川」
「働け、クズ野郎」
増えていく仕事。亮以外の奴も意外とすじが良いのが幸いか。四苦八苦で捌いているうちに、休憩時間を終えた交代要員のクラスメイト達が戻ってきた。
「おーい、交代だ」
「おっし、じゃあ今度どこへ行こうか」
「お前はさっき行ったばかりだろう。今度は俺だ」
「黙れ、最初に休んでいた奴が」
少し頭が痛くなってきた。丁度休憩時間だ。有りがたく休ませてもらおう。
そう思ったが、学校中人・人・人。休める場所がない。追い立てられるように、屋上のドアを開けた。良かった。ここには誰もいない。気を抜くには丁度良い。
屋上の縁に付けられた転落防止用の柵に体を預ける。ああ、青い空と白い雲が眩しい。冥界にはない、強い輝きだ。ここ数十年、人間とまともに触れ合ってこなかった。冥界に引きこもり続けていたから知らなかった、いや忘れていたのだろう。現世の空はこんなにも高いということを。青さはすべてを飲み込むほど透き通っている事を。白さは何をも抱き留める抱擁がある事を。
風が吹き、視界ギリギリをまた別の白が埋める。ああ、懐かしい。ここにきてから忘れかけていたものだ。空の白と違う、すべてを許さない冥界の白。こんなにも冷たい白は他にはない。
「……そろそろ帰るか」
少しだけ気持ちが切り換えられた。冷たい風を切り裂いて、階下へ降りていく。人気のない踊り場に、人影があった。
「魂魄か」
「こんな所で何をしている坂本」
いや、坂本だけじゃない。土屋に吉井がなぜ人気のないこんな場所にいる。
「気にしないでくれ。いや、やっぱり話を聞いてくれ」
「別にかまわんが」
「助かる」
話を聞いたが、なるほど確かに困ったことになっているようだ。給仕をしていた島田とその妹、姫路に木下が誘拐され、それを助けに行こうとしているそうだ。この場所にいたのは土屋が仕掛けた盗聴器という奴から話を聞くためで、場所も分かったから今から向かう。そこに私が来たという事らしい。話は理解した。
それにしても誘拐、か。
「それで、お前は私にどうして欲しいんだ坂本」
「決まっているだろう。奴らをボコすの手伝え」
まあ、それも良いかもしれん。ため息をひとつ吐き、体を伸ばす。固まった筋肉が一斉に音を鳴らしほぐれていく。手伝うとしよう。そういった卑怯な手段は好かん。
「さて、じゃあカラオケボックスに行くとしよう。なめ腐った奴らに教えてやらんとな。お前たちなど王子の為に倒される雑魚キャラにすぎんとな」
「雑魚には雑魚の力がある。そいつらと一緒にするのは雑魚に失礼だろう」
「それもそうか」
カラオケボックスについて早々、愚図達の会話に吉井が我慢の限界を迎え飛び出した。虚をついて一人潰した。普段の間抜けな気の抜けた顔と違い、眼が吊り上り顔全体が紅潮している。吉井が坂本と殴り合いをするときの表情とは全く違う。それほどそいつらが許せないということか。
「てめえヤオスに何しやがる」
やれやれ。まあ、吉井の気持ちも分からなくはない。だから少しだけ手伝ってやるとしよう。
「悪いな」
ヤオスとかいう男の股間を蹴り上げた直後で、動けない吉井を殴ろうとした拳を素手で受け止める。なんて軽い。なんて柔らかい。これならば妖夢が殴り掛かってきた方が重く堅い。
そのまま握りしめてやる。いくら今半人半霊の力を失っていても、私の握力は人並み外れている。リンゴを握り、果汁を絞りつくすくらい容易いことだ。それだけの力を加えた拳は骨が軋み、冷や汗が出る様な音を鳴らす。慈悲をくれてやる。砕かないでやろう。ただ皹は覚悟しておけ。
「いでぇええええええええ」
「お前たち程度に殴られてやる道理もない」
床に落ちていたマイクを蹴り上げ、もう片方の手で掴むと同時に腹を柄で殴る。暗器にも満たないが、それでもこいつらには上等すぎる代物だ。白目をむいて泡を吹いた男を蹴って壁にぶつける。
「テメエら!! よくも美波に手を上げたな! 全員ぶち殺してやる!」
大勢相手になかなかの啖呵だ。もちろん相手は数の勢いで強気に出ているが、これ以上私の助けは無粋というものだろう。なにせ、
「はいはい。ちょっとストップね。お兄さんたち、うちのクラスメイトに何してくれてんの」
吉井には仲間がいるのだから。そいつらのようにただつるんでいるのではない友人が。
吉井を殴ろうとした振りかぶった拳を、後ろから坂本が掴んでいる。
「雄二!」
「貸しイチだ。今度返せよ」
後頭部をそのまま殴られ吹き飛ぶ男。周りの人間がそれに反応するよりも前に、手近な奴に蹴りを入れて数を着々と減らしている。吉井も負けじと突っ込み、相手の顎に頭突きを喰らわせ倒す。これだけ戦力が有ればもう私は必要ないだろう。
狭い個室に大勢がいたら邪魔になるだけだ。個室から出て、すべてが終わるのを待つとしようか。いや、最後に一仕事する必要がありそうだ。投げたマイクが幼子を抱え込もうとした男の頭を撃ちぬく。くるくる回ったマイクが倒れた男の頭をもう一度打つ。土屋が親指を上げていた。
これであとは二人の独壇場だ。帰るとしよう。