第十三問 合宿へ
第一問
強化合宿一日目の日誌を書きなさい
魂魄妖灯の日誌
『故郷に近い静かな空気を久方ぶりに味わった。街の空気は臭いし、人が多すぎて気が休まらない。静かなここらで少し気を落ち着かせたいものだ』
教師のコメント
『Fクラスで騒動に巻き込まれ、大変なのはわかります。しかし人との出会いは素晴らしいものです。あまりそういった書き方は良くありません。しばらくの間休みながら、少し人付き合いに考えてみてはどうでしょうか?』
西行寺幽々子のコメント
『あらあら。これからに期待っていうところかしら?』
電車というのは初めて乗ったが、ずいぶんと速いものだ。地上をこれほど早く走るものがあるとは思いもしなかった。ガタゴトという音はうるさくて気がめいるが、なにをせずとも目的の駅まで運んでくれるのは便利だ。電車が来るまでは待つ必要があるというのは少々残念な点だが。
しかし柔らかい毛布がつけられた椅子といい、風が入らない密閉の部屋に空調が効いていたり、おかげで快適な移動ができる。昔一度乗った旅籠と比べても、かなり乗り心地はいいな。あれは振動で腰をぶつけてしまう。それと比べると、揺さぶられるとはいえ、慣れるとそう気にならない。むしろ揺籃に思えてくる。寝ないように気を付けなければならないかもしれないな。
眠気に負けないためにも、外をみようと、顔を上げる。正面いっぱいに広がる車窓から見える風景が、コンクリートのビル群からだんだんと樹木へ移り変わっていく。さらには、時折田んぼのうねうねとした畝が見える。久方ぶりに視界いっぱいの緑が広がるのを眺められた。幻想郷から外の世界に来て、初めてではないだろうか。ここまでの緑を見るというのは。
紫様が用意された借家は、住宅街から離れているが、それでも街の一部。どうしても、緑というものから離れてしまう。文月学園には見事な桜があったが、そこ以外は味気ない光景ばかりだった。アスファルトの焦げ臭い臭いとただ無差別にたてられただけのビル。正直見ているだけで、気がめいる。
久方ぶりに見る風景に、自然と力が抜けていく。
それに、ふだんいるうるさい輩が来ないような時間に出発したのも良かっただろう。静かに、たった一人で行動できるというのは良いものだ。
落ち着いた気分になると、一層見える世界が色鮮やかに見えてくる。うむ。朝日が出れば、もっときれいな風景が拝めることだろうに。少しそれだけは残念かな。
生徒と教師のだれよりも早く、宿舎に到着した私だが、しばらく待っているうちにだんだんと日が昇るさまが見えた。真上を越えていく太陽。そしてさらに太陽が西へ傾き始めるまで待つと文月学園の制服を着た者たちが集まってきた。教師の姿もちらほらと見え始める。どうやら集合時間になったようだ。
宿舎にずっと寄りかかっていたせいで、体が固く感じられる。きちんと立つかと思うと同時に、意図せず欠伸が漏れた。暇で仕方がなかったせいだろう。ずっと一人で立ち尽くしていたから。まあ、それでもあまり人とかかわらないで済むから始発の電車に乗ってきたのだが。
そうこうしているうちに教師の指示が出た。部屋に荷物を置くようにとのことだ。人の多い待機場所よりも、部屋の方が静かだろうと思い、さっさと荷物を手に行くことにした。
だが、私は忘れていた。同室のメンバーが、騒動を犯さないはずがないようなものたちだということを。
結構広めの部屋にて荷物を整理していていたら、ドアをぶち開け、坂本と土屋に木下に抱えられるようにした吉井が駆け込んできた。というより、吉井は白目で泡を吹いているのだが。しかも、呼吸をしていないように見えるが。いや、見えるじゃなくしていないな。なにせ坂本が心臓を強く押し始めているし。
「いったいなにが起きれば、吉井が瀕死で運び込まれるんだ!」
「うるせぇ! 俺だって、まさかこんなことになるとは思っていなかったさ!」
交代しながら心臓を強くたたき続け、無理やり動かせながら私は坂本と叫びあう。いくら考えても理解できない現状に、私は頭を抱えたくなった。
二人で吉井の蘇生をしている間に、木下がへんてこりんな道具を持ってきて、急いで吉井の胸元へ張っていく。
「みな離れるんじゃ!」
よく分からないが、全員離れたのを見て、私も離れる。同時に、木下が機械のボタンを押す。吉井の体が一度大きく跳ね、背中を地面にぶつけると、せき込み始めた。
「ゴホッ!」
「な、なんとか蘇生できたか」
「平穏な生活が送れるのではないかと僅かにでも期待した私が馬鹿だった」
部屋に吉井が搬送されて三十分。介抱の結果、なんとか蘇った。というよりも、なぜ高高移動するだけで死にかけるんだ、こいつは。訳が分からん。
「あれ、雄二。ここは?」
「合宿所だ」
後ろから聞こえてくる会話を無視して、布団に入る。違う意味で疲れた。もう休みたい。
「私は寝る。起こさないでくれ」
「あっ? ああ、分かった。すまんな、馬鹿のせいで」
「ちょっと、なんで起きてすぐ罵倒されるのさ!」
ガヤガヤとうるさい。坂本に休むと伝えたのだが、なぜここまでうるさい? いくら馬鹿げた行いばかりすると言え、いくらなんでも休んでいる物の近くで騒がしくするほどの馬鹿ではなかったはず。多少の常識は持ち合わせている奴だ、坂本は。
しばらくは我慢していたがあまりにもうるさく、とうとう私は布団からはい出た。一言でもいいから文句を言いたい。その一心で。
「うるさいわ! 寝ている者のそばで騒ぐな!」
なぜか部屋にいる女子たちも、騒いでいたので、その場にいる全員に叫んで伝える。
すると、女子の一人が前に出てきて喚いた。
「いきなりなによ! それに、こっちは怒っているのよ、あんたらに!」
その言葉にカチンときた。怒っているのはこちらだ。
「黙れ! 精神的に疲れて眠っていたら、うるさくされて叩き起こされたこっちの身になってみろ!」
「はぁ!? ふざけないで! あんたたちが盗撮したのは分かっているんだから!」
盗撮? 天狗たちがいつもしていることか?
思わず吉井たちの方を見ると、膝に重石を載せられるなど各々拷問を受けていた。いや、なぜそうなるか本当にわからないが。
「そもそもなぜ盗撮をしたのが、私たちだというのだ?」
「そんなの決まっているじゃない! あんたたちFクラス以外にこんなことする奴がいないからよ!」
つまり証拠はないのか。完全に感情で犯人と決め付けているようだ。これだから人間は、
「くだらない」
「なんですって!!?」
「事実だろう。証拠もなく、疑わしいからと拷問染みたことまでして。一人で壁に向かってしていろ。他の奴らは知らんが、少なくとも私はお前たちに興味などない。無論、貴様らの肌にもな」
まだ食いかかろうとする女子を押しのけ、私は部屋を出る。背後の扉が勢いよく閉まった。苛つきばかりが募る。本当に人間というのは自分勝手だ。勝手に期待して、勝手に行動して、そして勝手に……。
だから人間は嫌いだ。