第四問
以下の英文を訳しなさい
『Although John tried to take the airplane for Japan with his wife's handmade lunch he noticed that he forgot the passport on the way.』
魂魄妖灯の答え
『鄭は妻が作ってくれた弁当を泣く泣く持ち日本行きの飛行機へ乗ろうとしたが、その途中でご印章を忘れていることに気が付いた』
教師のコメント
『ジョンとパスポートはカタナカナで表記しましょう。 それと、この英文では泣く泣くなどはありません』
八雲藍のコメント
『そういえば、お前はそうだったな。……哀れな(涙でぬれた跡が用紙に残っている)』
「ふ、ふふ。ふふふふふ……! いい加減にしろよ、貴様らぁ!」
込み上げてくる怒りにとうとう私は叫んだ。
合宿での授業も終わった自由時間の最中、もよおしたトイレの帰り、女子生徒の集団にいきなり襲われた。彼女たちは「Fクラスの男は倒せ」と口々にしていた。
確かに、吉井たちが問題を起こしたりなどしているため、女子生徒も怒っていることだろう。その憤りは分からなくはない。だが、だからといってなんの確認もせず、私をいっしょくたにされては困る。
それにこれで二回目だ。不名誉な、覗き扱いを一回目ならばまだしも二回もされて怒らないはずがない。
廊下を歩いていく。曲がり角を曲がるたびに、新たな女子生徒が襲ってくるが、すべてを召喚獣で返り討ちにする。
比較的温厚な私でも、我慢の限界はある。もはや我慢ならん。なにをしなくとも襲ってくるというのならば、こちらから攻勢に討ってやる。吹っ切れた。
「Cクラス――「邪魔だ! 召喚!」って、名乗りもまだなのに!?」
こちらに召喚獣を向けてきたので、召喚獣を呼び出し一撃で倒す。心臓の部分をえぐり取られた、弓道着姿の敵は光の粒になって消えていった。
召喚獣が槍を振るう。もう一人、鉤爪をつけた召喚獣が突っ込んできたので、遠心力を加えた横なぎで斬りつける。その召喚獣は空っぽの内側を一瞬晒し、虚空へ消えた。
「う、うそでしょう! 強すぎ――「戦死者は補修だ!」って、西村先生私まだ言いたいことがいえて――」
最後はドップラー効果で聞こえなかった。相変わらず彼の御仁は人離れをしていないか?
さて、どうするべきか。歩きながら考える。
攻撃をするにしても、一人では効率が悪すぎる。あまりとりたくない手段だが、仕方がないか。吉井たちと合流しよう。
なにをしようとも覗き犯にされてしまう。ならば、もう吉井たちと行動を共にしても構わない。どうせ、向こうの印象に変わりはないらしいから。
召喚獣が石突きで地面を叩く。どうやら私の心情を察したようだ。
「さあ、戦をしよう。女子生徒ども。お前らが望むように」
まずい。まさか一本道の廊下で挟撃されるなんて!
作戦を決行しようとした僕を含めたFクラス男子は、女子たちによる奇襲を受けてしまい戦力の大部分を失ってしまった。第一撃を受けて生き残ったのは、僕・雄二・秀吉・ムッツリーニにあと数名だけだ。奇襲はあまりにも完璧で、他クラスとの連携は分断されてしまっている。Fクラス数名の戦力しかなくなってしまった。
なんとか窮地を脱そうと、雄二の指示に従って教室から逃げ出したのはいいのだけれども、それすら霧島さんに完全に読まれてしまい、裏をかかれ万事休すだ。
「どうするの雄二!」
「くそっ! 翔子の奴め!」
駄目だ! 頭に血が上って雄二は冷静さを失っている。このままだと……。
背後を窺う。一本道の通路には、僕らを相手にしようとしなかったため無傷の生徒達。さらに前には霧島さんをはじめとして、高橋先生、美波に姫路さんが塞いでいる。
前を塞ぐ戦力は圧倒的だ。
「雄二、撤退すべきじゃないかな」
前にいる高橋先生たちに聞こえないよう気を付け、雄二へ語りかける。雄二も冷静さを失ってはいるけれども、状況の悪さは分かっているはず。
「ごめんね、そうはいかないんだよ」
もう一度後ろを振り返ると、女子たちの中から工藤さんが前へ出てきた。
まだ後ろへ逃げられるかと思ったけど、工藤さんまでいると逃げられそうにない。ムッツリーニが相手すればどうにかなるだろうけど、そう簡単に得意科目で勝負をさせてくれはしないだろう。そして他の科目でFクラスの生徒がAクラス所属の工藤さんを倒せる通りはない。それこそムッツリーニクラスで得意科目があれば話は別だけど。
「前方の狼、後方の虎だ……!」
「明久、正しくは前門の虎後門の狼だ。それに意味も微妙に違う」
畜生。なんで雄二は僕を相手にするときだけは冷静になるんだ……!
そうこうしている内に、包囲網が縮んでいく。
「アキ。いい度胸ね。あれほど痛めつけたのに、まだ女湯を覗こうとするなんて」
「明久君。どうして、どうしてこんなことするんですか」
高橋先生がいるということは召喚フィールドは総合科目だろう。だとすると、美波の数学以外の点数が低いという弱点を突くことが出来ない。この戦い、僕たちの負けだ。もうどうしようもない。
それになにより、美波と姫路さんを悲しませている。僕の良心が痛む。
だけど。だけどそれがどうした!! あんな写真(女装した僕の姿が映った)が出回ったら、学園生活、いや人生は灰色になってしまう!
「皆! 最後まで戦うんだ! 諦めなければ突破口ができるはず! 召喚!」
木刀を構え、僕は高畑先生へ向かっていく。一番強い相手を下せば、向こうにも動揺は広がるだろう。
「先生! アキの召喚獣は――」
「大丈夫ですよ島田さん。心配には及びません」
余裕綽々といった様子で、高橋先生は美波と会話している。
奥歯を強く噛む。これでも僕は召喚獣の操作には自信がある。それこそ学年主任が相手でも、うまくやれば倒せるだけの操作性はあるはず。点数では勝てなくとも、他の部分で勝てばいいんだから。僕を侮っているならば、その評価覆してみせる。
僕の召喚獣が弾丸のように駆け出す。木刀のリーチはそれほど長くはない。近づかなければ話にはならない。
「吉井君。あなたには失望しました。少しは見所がある子だと思っていたのですがね」
高橋先生は冷たい目で僕を見下ろした後、召喚獣を動かした。
相手の獲物である鞭の長さはまだ分からない。どれだけの間合いかも。だから、まず一撃目をいなして射程距離を見極める。
駆け出していた召喚獣を止めさせ、剣道の正眼で構える。なにが起きても、対処できるよう――。
「えっ?」
召喚獣がいきなり消えた。
「いったぁあああああ!? なにこれ!!? 鉄人の拳レベルで痛いってどういうこと!?」
一泊遅れてきた痛みにもだえ苦しみ、床を転げまわる。
「たとえどのような理由があろうとも、覗きは犯罪。反省しなさい」
まずい!
痛みに苦しみながらも、高橋先生の召喚獣が、鞭を振るい鋭い音を出した。皆が高橋先生を恐れを含んだ目で見ている。というより、僕の様子を見て慄いているようだ。
あれだけの実力を見せつけられては、士気なんてないも同然。このままだと一気に潰されてしまう。
「ならばどのような理由があろうとも、無実の者に罪をかぶせようとしたんだ。報復されることは覚悟しているということだな?」
この声は、まさか。
後ろを振り向くと、丁度目の前に足が飛んできた。鼻の先が熱い。上履きに踏まれるところだった。
「死ぬっ!?」
「すまん」
倒れている僕の前のタイルを踏み、魂魄君がそこに立っていた。後ろの女子生徒は信じられないものを見る様子で魂魄君を凝視している。包囲網が崩れた様子はない。まさか包囲網の上空を越えてきたなんて馬鹿げたことはしてないだろう。
「なぜあなたが!?」
高橋先生も予想外の事態なのか、驚きの声を上げている。
「なぜ? 面白いことを尋ねるな。私にもな、限度というものがある。なにもしていないのに、Fクラスの男という理由だけで襲われ、罵られる。怒りを覚えるなというのが理不尽だろう?」
「確かにそうかもしれませんが、だからといって」
「だからといって、覗きなどするな? 結構だ。わたしの目的は覗きではない、単純明快なものだ。女子生徒全員に対する報復だ。その為に、吉井たちと協力することを決めた。いうなればこれは宣戦布告」
言葉を言い切ると同時に魂魄君ごと召喚獣が駈ける。高橋先生が鞭を召喚獣に振るわせるが、槍をくるくると回した魂魄君の召喚獣が迫り来る鞭をすべて打ち落としている。
すごい。召喚獣の操作ではなく、戦闘能力が段違いに違う。まるで雄二が喧嘩をしているみたいだ。魂魄君は槍の間合いへ入り込んだ。高畑先生の召喚獣は鞭を戻しきれていない!
「くっ!」
「せいっ!」
召喚獣の槍が突きだされた。
「……なぜ、とどめを刺さないのですか?」
高橋先生が疑問の声を上げる。槍は高橋先生の喉元で止まっていた。
「言ったはず。宣戦布告だと」
そう魂魄君が告げると、召喚獣が槍を下ろす。どうやらもう戦うつもりはないようだ。召喚獣が消えていく。
「明日から、私は吉井たちとともに貴方達を倒す。私が欲するのはひとつ。その首級だけだ」
背中を向けて、一本道の廊下を歩いていく。魂魄君が近寄ると、女子生徒の多くは道を開けている。まるでモーゼだ。
「困りました。まさか彼が参戦するとは。仕方がありません。少なくとも今日は止められるだけ止めるとしましょうか」
「あっ」
そうだった! いろいろあったけど、状況は変わっていなかった!
逃げないといけない。でも、
「アキ、聞きたいことがあるんだけど?」
「私もです明久君!」
背中から聞こえた声に脂汗が伝った。僕の前では雄二が霧島さんにつかまっていた。
ちゃっかり一人だけ逃げ切っている妖灯君でした。
東方簡易百科事典
八雲藍 九尾の狐。八雲紫の式神。その頭脳はスパコンを軽く凌駕しており、実力も最強といわれてもおかしくはないほど。油揚げ大好き。