第十八問 合宿を終えて
第一問 次の言葉を正しい英語に直しなさい
『ハートフル ラブストーリー』
魂魄妖灯の答え
『heartful rough story]
教師のコメント
惜しいですね。これでは愛の荒っぽい物語です。ハリウッド映画になってしますよ。
上白沢慧音
ああ、たしかにそうだな。懐かしい。
強化合宿を終えいつものように人目がつかない時間に学園へ通学し、暇だったため鍛錬に励んでいた時のことだ。別に他意はなかった。
広々とした屋上は長物を振るうのにちょうどよく、そこでよく修行に励む。だがその見通しの良さのせいか、信じられないものを見てしまった。おもわず手が緩み、槍を手放してしまったくらいだ。普段ならばそんなことは決してしない。武器を手放すなど愚か者そのものだから。しかしその光景はそれだけの衝撃を私に与えた。
何度目を疑ったことだろう。何度正気を疑ったことだろう。夢を見ているのではなかろうか。信じられなかったが、それでもあの光景は本当のことなのか。私には分からない。擦り過ぎたせいで目が痛い。鏡を見れば赤々としていることだろう。
島田が吉井へ接吻をしていた。普段吉井へ関節を極めてばかりの島田がだ。恥ずかしがって誤魔化そうとして暴力に移る島田がだ。異常事態そのもの。合宿の後私を除いた男子は停学処分を受けていたが、その間になにかしたのか?
接吻された吉井は島田が去った後すぐに亮に思いっきり殴られていたが。それも数メートルは吹き飛ぶ力で。あれだけの勢いで殴るとなると、それこそ全力を出さなければならないだろう。そして続々とわきだしたFクラスの男ども。各々が取り出す武器の数々。そしてかなりの距離はあるはずなのに、ここまで殺気が届いてくる。
「吉井は死んだかもしれんな」
思わずつぶやいた言葉だが、本当にそうなりそうな気がする。
早く西村教諭が来れば命ばかりは助かるかもしれんな。吉井が気を失った後、坂本も同じ目にあっていた。
教室へ戻ると異界が広がっていた。
暗幕まで引かれた薄暗い教室。床には生贄らしき吉井が猿轡で転がされ、その周りには黒い外套を被ったFクラスの者たちが並ぶ。それぞれが奇妙な呻きを漏らし、ゆっくりと旋回して吉井の動きを待っているようだ。吉井と同じく坂本も地面を転がされている。こちらに助けを求めてきたが、無視することにしよう。
席へ着こうとすると吉井が起きたようだ。素っ頓狂な声を上げ、事態を把握しようとあちらこちらを見ている。そしてなぜか吉井が坂本を異端者扱いし、坂本が吉井を売ろうとする。あの二人は友人ではないのだろうか。いや、幻想郷にも殺し合いをする知人がいるという噂だ。そうおかしくないのか? しかしどうやら他の奴らにとっては二人共が異端者であるようで。
『両者を異端者として私刑に化す』
『是、是、是!』
ここはどこの本陣だろうか。まるで合戦前だ。というより拳を振り上げている参列者は、その手に武器を持っているのは気が早すぎないか。どれだけ異端者とやらを憎んでいるのか。というよりもなぜそうまでして二人を親の敵にしたがるのか。理解できない。恋愛などに特別なものはないというのに。
「待て待て待て! こいつならいくらでもしていいから俺はよせ!」
「いっそ清々しいまでに僕を売るな、雄二! 雄二はあの霧島さんからキスされたんだぞ!」
「あっ、てめえ! 明久!」
「なんだよ、雄二!」
『黙れ! 貴様ら二人とも異端者だ!』
とうとう抑えが利かなくなったらしい黒外套どもは、血走った目で二人へ近づいていく。
「やめろっ! まだ死にたくない!」
「クソッ! 縄がほどければ……!」
あと数歩で武器の間合いに黒外套が入ろうとした時、教室の扉があく。そこには島田がおり、頬を赤らめて辺りを窺っている。教室の全員が気を取られ、一切しゃべらない。ただ静けさだけが広がる。そのなかを自身の席まで俯いて行く島田。ちらちらと吉井を窺い見ている。周りも先ほどまでの勢いはない。ガスの充満した部屋とでも言えばいいのか、これは。ちょっとした刺激で爆発しそうだ。
いったいなんだというのだこの状況は。ため息が出る。どうせ吉井が爆破させるのだからさっさとさせてしまえばいいものを。席に私も座り、そう心の中で呟く。