第三問 以下の英文を訳しなさない。
「this is the bookushelf that my grandmother had used regularly」
魂魄妖灯の答え
「ら、蘭学は知りません!!」
先生のコメント
「英語です」
八雲紫
「懐かしいわね。少し前は英語も洋学と言ったのよね」
(少なくとも百年以上前の話)
「何か言ったかしら?」
余りにもそれは現実的じゃない発言。しかし、それは周りの生徒もそう思ったのだろう。あちらこちらから弱気な声が挙がっている。中には、『姫路さんさえいれば!』という趣旨の発言も飛び交っている。いや、途中可笑しな発言はあったが。
確かに彼らの言うとおり、如何やっても戦力差はつき過ぎている。そもそも、F組にいるという事は、学業成績が悪いという事だ。転校する際、学業が不得意な人間が集まるのだと説明された。それに反して、A組は学業成績が優秀な生徒が集められる。一種の身分制のようなものらしい。
その事から考えると、やはり試験召喚戦争、通称試召戦争は行っても勝ち目は少ないだろう。幾ら試召戦争が、学力以外にも影響を受けるからと言ってもだ。学力が戦闘能力となる召喚獣という種類の式を呼び出して、組同士が戦いあう。それが試召戦争だ。しかし、私と私意外の学力は基本的に低い。それに私に限っては、召喚獣の操作が不慣れな事から考えるに、戦力にはなれないだろうし。
だが、目の前の男は吠えた。負ける可能性が高い事を知っていて、それでも勝てると力強く。
「そんな事はない。必ず勝てるさ。いや、俺が勝たせて見せる!」
雄々しい発言だ。しかしそれでも、周りの生徒は不安なのだろう。しきりに怯み腰で、弱弱しい反論を口から出すばかりだ。
しかし、その反論は絶対的な自信を持った坂本によって否定される。その程度の事で心配しているのかと。
「根拠がない? いや、あるさ! このクラスだからこそ、試召戦争に勝てるんだ!」
その言葉を受けて、多くの生徒はどよめきを表に出す。戦力差を覆すというのは簡単にできるものではない。だからこそ、出来ると断言した目の前の男に、少しだけ興味が出た。
そんな坂本は、明久を一瞬見てニヤリと笑った。
「今から説明してやる。おい、康太。畳に顔を突けて姫路のスカートを覗いていないで、前に来い」
「…………!!(ぶんぶん)」
いや、それは余りに苦しいだろう。頬に畳の痕が残っている。というより、何故あれで隠せると思ったのだろうか。
「土屋康太。此奴が有名な
“むっつりーに”? 一体、どういう意味なのか? 不思議に思ったが、すぐ聞こえてきた言葉に納得すると同時にこけてしまった。
『ムッツリの名に恥じない姿だ……』
そこか!! そこなのか!? というより、どれだけ周りに性欲があると思われているのだ。あの少年は。だが、すぐに少年は流されて次の要因の説明が行われていく。
「姫路の事は説明する必要はないだろう。皆だってその力はよく知っているはずだ」
「えっ? 私ですかっ?」
「ああ。ウチの主戦力になる。期待しているぞ」
ふむ。如何やら彼女は勉強が得意なようだ。……あの妖怪の賢者は何も言わずにここに入れさせたから、学業についていけない。……勉強しなければ駄目だな。自分よりも若い人間に負けるのは何となく嫌だ。
『そうだ、俺たちには姫路さんがいるんだった』
『彼女ならAクラスにも引けを取らない』
『ああ。彼女さえいれば何もいらないな』
窓から二列目、四番目の奴はさっきからどれだけ姫路アピールしているんだ? 暇さえあればアピールし続けているじゃないか。
「木下秀吉だっている」
秀吉というのは、先ほどの女形になれそうな少年か。
『おお……!』
『ああ、そう言えば彼奴、確か木下優子の……」
「当然俺も全力を尽くす」
ざわざわと、今までと違った意思がこの組を覆い始めた。諦めかけていた組に闘志の火をつけるには十分だったのだろう。今にも戦おうとする血気盛んな空気が出来上がった。
しかしこれは拙い。確かに士気というものは何をおいても重要だ。孫子ですら、士気の高い軍隊に手を出すなと警告しているくらいなのだから。だが、高ければすべてが良いというわけではない。士気が高く勢いがあるという事は、反対に考えれば歯止めが効かないという事だ。止まらなくなり、引き際を間違えて、後戻りできない損失を受ける可能性も高い。さて、この士気を保ちながら、如何やってこの組にいる全員に冷静さを戻す?
「それに、吉井明久だっている」
……シーーーン――
な、何だ? 痛いほどの沈黙が訪れたぞ?
「一寸雄二! 何で僕の名前を底で呼ぶのかな!? 僕の名前を挙げる必要性はないよね?」
『誰だ、吉井明久って?』
『知らねぇ。お前は知っているか?」
「ほら見た事か! せっかくの盛り上がりがかげって来たし! って、何で僕の事を睨むの!? 士気が下がったのは僕の所為じゃないよね?」
場が冷静になったのは良いが、何と言うか、居た堪れない空気が。
「そうか。知らないやつがいるようだから教えてやる。こいつの肩書は《観察処分者》だ」
観察処分者? 確か、この学校に入学した時に、私もその肩書にさせられたな。
『それって、莫迦の代名詞じゃなかったか?』
「ち、違うよ! 一寸茶目っ気のあ――」
「莫迦の代名詞で合っている」
ちょ、一寸待て! それじゃあ私はたった一回試験を受けただけで、莫迦と言われたのか!? 納得いかん!
「あの、それってどういうものなんですか?」
姫路という女子生徒の質問に、坂本が詳しい返答した。
その言葉を聞きながらも、私は何故観察処分者にさせられたのか考え続けていた。
『おおーーっ!!』
っ!!? 少し考えこんでいたせいで、周りの事を忘れていた。
「俺たちに必要なのは卓袱台ではない! Aクラスのシステムデスクだ!」
『うおおーーっ!!』
鬨の声を上げながら、組のほとんどすべては盛り上がっている。そんな中、坂本と吉井が言い争っている。いや、その争いは終わったようだが、宣戦布告の使者とは。……帰ってこれるのだろうか?
「騙された!」
帰ってきて第一声がそれとは。吉井が必死な表情で叫んでいるが、逆に坂本は平然とした顔で、
「やはりそうなったか」
言い切った。いや、ほかにいう事が有るだろうに。その後も二人は言い争いを続けて、数名の生徒が集まっていった。如何やら、吉井を心配した生徒たちのようだが、姫路は吉井を心配して、島田も心配(?)して話しかけていた。まあ、すぐに坂本が“みーてぃんぐ”と評して、廊下に出て行ってしまったが。
あ、待てよ。確か試召戦争ってあの二つ以外の科目も出るという事だよな。……拙いかも。
次回、何故妖灯が拙いといったのかその理由が明かされます。というより、すでに分かっておられるでしょうが。
今回の東方説明会はなしです。八雲紫については以前説明しているので、説明はなしです。