第六問
問 以下の問いに答えなさい。
『goodおよびbadの比較級と最上級をそれぞれ書きなさい』
魂魄妖灯の回答
『……』
教師の回答
『間違っても良いのでせめて何か書きましょう。うん、何でしょうか。四隅についているこれは汚れですか?』
妖灯の回答余白
『文字が読めませんでした』(読めるか読めないかの大きさで)
教師の回答
『……』
試召戦争は二日目に突入した。しかし今の現状は些か拙い。
昨日の努力によって、B組を相手の教室にまで押し込めたのは良い。だが、その後が一考に進まない。B組は防衛線を引き、持久戦に持ち込んできたからだ。元々戦力に圧倒的な差があり、点数で負けている私たちの力ではその防衛戦を突破できる力はない。籠城した相手には三倍で当たる。これは古来から言われてきた事だ。それだけ守りを固めた相手を打ち破るのは難しい。そして、その戦力は私たちにない。
これを突破できそうなのは姫路だけだ。しかし先ほどから何故だか彼女は動かない。というよりも様子を見る限り動きたいのに動けないように見える。戦いの最中に、一度視界の隅に彼女を掠めた時、悔しそうに唇を震わせ、涙目になっていた。それでも彼女は涙目になるだけで、それ以上何か行動をするわけではなかった。何かをこらえているようにしか見えなかったのだ。
何故だ? 彼女が戦えないという事はないだろう。彼女は身体は弱いらしいが、昨日も今日も特に調子が悪そうには見えない。じゃあ、何故彼女はああしてただ突っ立ている? 先ほどから彼女の浮かべている表情が頭の隅で引っかかってしまう。
胸の奥に出来たしこりが気になり、彼女の様子をうかがっていると、彼女はある地点を見て、いや睨みつけていた。その睨んでいる先が気になり、私もそちらを横目に見た。その先は如何やらあいての生徒だ。だけど、何故彼を睨みつける必要があるのだ?
最初は分からなかった。だが、姫路が睨んでいた相手の動きで、詳しくは分からないが大体の事情は分かった。彼が懐から手紙の類いをのぞかせると、彼女は動きを止めてしまったのだから。
あの手紙はきっと、彼女にとって何か関係のあるものなのだろう。それを利用して、彼女を止めているのだ。
喉の奥から重い物がこみ上げてくる。何とか我慢して飲み込んだ。だが、ごろりと腑の底にとどまったそれは、私に強烈な不快感を与えた。
姫路一人動かないだけで、かなりこちらにとってきつい状況になっちまった。このままの状態が続くなら、こちらは次第に戦力差に押され始めるだろう。既に、前線の一部は限界が近い。如何にかしなければならない。
そんな事を考えていた時、明久が俺の元に来て、一つ訪ねてきた。姫路を外させるという話だった。俺はそれを了承する代わりに、明久の奴に一つだけ条件を出した。たった一つ、姫路の分も働けと。
彼奴の事だ。この場にいる全員の度肝を抜く事を仕出かすはず。それだけで十分だ。あとはその時に、こちらの策が上手くいけば勝利は確定だ。だが、その為にはあと一押し何か欲しい。
頭の中で何か利用できないかと考えた時、前線で皆のフォローをしていた魂魄が明久と同じように、俺の所へ来た。
「坂本、話がある」
「何だ。魂魄?」
何時もよりはるかに硬い声。口から出そうになる何かをこらえたような声だ。吐き出そうとしたそれが何かは分からないが、それでもそれが魂魄にとってかなりの不快なものなのだろう。彼奴の顔は苦虫をかみつぶしたような表情でいた。
「私に自由行動を許してくれ」
そして彼奴がいった事は明久と殆ど変らなかった。理由が何かわからない。だけど、二人を動かす理由が何かあるのだろう。しかし、それでも一つだけ分かる。それは、彼奴らは、手を出してはいけないものに手を出したという事だ。彼奴らは二人の怒りを買ってしまうのだ。
魂魄の鈍く光る冷たい瞳を見て、俺は一瞬喉元に刃物を突き付けられたように感じた。喧嘩で何回か相手がナイフを取り出したことはあるが、それとは全く違う。あんなものがおもちゃに感じるほど、今感じている物は格が違う。
「分かった。お前のしたいように動いてもらっても構わない。ただし、自由とは言っても戦死は許さないが
」
「十分だ」
背中を流れる汗を極力無視して、俺は普段と変わらない声色になるよう願いながら魂魄の願いを了承した。
俺の許可を得ると、彼奴は踵を返して戦場へ向かった。彼奴の目的を達成するために。
やることは一つ。あそこまで啖呵を切ったんだ。もう後ろには下がれない。負けられない。まあ、元々そんな気はないが。邪魔をする奴らは、排除すれば良い。
教室の方へ向かっていたら、先ほど慌ててどこかへ消えてしまった教師がいつの間にか戻っていた。丁度良い。さっさと片を付けたかったところだ。彼の召喚範囲である前方の扉に足を進め、私は召喚の為に必要な呪文を口にする。
「魂魄妖灯、古典で召喚する」
「Bクラス 野長長男応戦します! 召喚」
私が発した呪文に答え召喚されたのは、昨日と殆ど変らない召喚獣。しかし、違う部分もある。それは、
『古典 Bクラス 野長長男 243点 VS Fクラス 魂魄妖灯 492点』
「え?」
その腕には赤い腕輪がついており、点数も以前とはけた違いに高いという点だ。
応戦の為に召喚された相手の召喚獣は、大剣を携えており力強さを感じさせる。とはいえ、今の私の召喚獣と比べたら、力の差は歴然だが。
召喚獣の点数差に驚いたのだろう。敵は一瞬目を開いて、驚いた。そしてそれは私にとって十分すぎる隙だ。
一歩足をすり足で前に出す。腰はその動きに合わせて回転する。その回転を殺さず、私は腰を使って、体全体をさらに回す。体中から集められた螺旋を描く回転は、その威力を余さず伝えてくれる。溜まり切った力を解放して、私の召喚獣は槍を突きだした。
突き出された槍を防ぐため、相手は大剣に身を隠したがそんなものは無駄だ。硬い剣も柔らかい肉も全く同じ感触で貫いた。
『古典 Bクラス 野長長男 0点 VS Fクラス 魂魄妖灯 462点』
自身の召喚獣の腹に開いた風穴を呆けた表情で相手が見ている中、召喚獣は消えていった。
「嘘だろう! 何でFクラスの奴がそんな高得点を!? Aクラスでも滅多にそんな点数を取れるやつはいないぞ!?」
奥から騒がしい喚き声が聞こえた。その声の主は教室の奥で配下に守られていた。しかし、その安全が脅かされたことを感じたのだろう。まるで巣から引きはがされた雛鳥のように騒いでいる。
その煩いざわめき声に、私は一つ告げてやる。
「ああ、確かに私は貴様が言う“Fクラス”なのは事実だ。初めて見た文字。聞いたこともない数式。頭の痛くなる科学。訳の分からない文体。ありとあらゆるものを私は知らん。そして理解することはいまだできていない。だがな、勉学ができるから頭が良いのではない。誰かの為に動ける者が、真の意味で頭が良いのだ。お前こそが、唯の莫迦だ。大人しくそこで首を洗って待っていろ根本恭二。魂魄妖灯、B組 根本恭二に――」
「B、Bクラス山本が受ける」
「邪魔だぁああああ!!!!」
召喚された相手の召喚獣を、また一刺しで貫く。
体の内からうねる感情を、声に乗せて吐き出しながら叫んだ。
「根本恭二。貴様のくだらない策も、その曲がり切った性根も貫いてやる。我が槍に貫けないものなどない!」
召喚獣が私に呼応して槍を翻し、石突で地面を叩く。辺り一帯に響いたその音に、根本の周りにいた奴らは一歩押されたかのように後ろへ下がった。彼らが下がった分だけ道はできた。その道を私と召喚獣は根本へ向けて走る。
それに気が付いて、慌てて周りの者たちが抑え込もうと私を取り囲んできた。倒せない敵ではないが、一々相手にしていたら時間が掛かりすぎる。その間に彼奴に体勢を立て直されたら厄介だ。
「根本ォ!!」
「なぁ!!?」
だがそれは杞憂に終わった。
根本のすぐ近くの壁が崩れ落ち、そこから怒りの形相をさらした吉井が飛び出してきたからだ。もはや根本に逃げ場はない。私と吉井。それに穴から一緒に出てきた島田。三人からの同時攻撃に、とうとう彼奴の周りの壁はなくなった。
B組の人間はそれを知り慌てて引き返そうとするが、こちらの組の人間が許さない。F組の人間が点数を失いながらも下がるのを妨害する。
周りの親衛隊が打ち取られていく様子を見て、根本は一歩後ろに下がり窓に背をつけた。だが追い詰めはしたが、周りの奴らが邪魔で誰も奴の所にまでたどり着けない!
「は、ははは! 残念だったな! 確かに予想外の敵もいたが、結局はFクラスだ。莫迦と女、二人を片付けた後全員でかかればお前たちの切り札も倒せないわけじゃない! 坂本! お前の策は俺に通用しなかったな!」
「ふん。この程度で喜んでいるからお前は二流なんだよ。いや、三流だな」
窓まで後ずさっていた根本に影が覆いかぶさる。床に広がる自分以外の陰に気が付いた根本は後ろを振り向いて、信じたくない現実をかき消そうと金切声を挙げた。
「お、お前は」
「……Fクラス土屋康太。Bクラス根本恭二に保健体育勝負を申し込む」
「ムッツリィニィーーッ!」
「召喚」
現れた土屋の召喚獣が小太刀で一閃して、根本の召喚獣は一撃で倒された。
他の科目と違い、妖灯は古典はできます。他にあと一つできますが。
幻想郷は明治時代に隔離された世界です。その為に基本的に文章などは漢文を使っていたりしています。その為に、古典などは分かるんです。まあ、西村先生の勉強が無ければここまでの点数は取れませんでしたが。