バカとテストと幻想獣   作:koth3

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第七問 Aクラス戦に向けて

 第七問

 

 問『女性は( )を迎える事で第二次性徴期になり、特有の体つきになり始める』

 

 魂魄妖灯の答え

 『強かさ』

 

 教師のコメント

 『何故でしょうか。この回答からすごく哀愁が漂っているように感じます』

 

 魂魄妖夢のコメント

 『兄さん……』

 

 

 

 

 B組との戦いを終え二日後、点数補充用の試験を受け、私たちは相変わらず汚くボロボロな教室で坂本からの話しを聞いていた。どうやら坂本は、最後の闘いの前に作戦会議と激励をするらしい。集まった多くの者は興奮しているのか、かなり鼻息が荒い。試験召喚戦争にここまで勝てたという実績が、彼らの気持ちを高ぶらせているのだろう。

 私にだって年甲斐はないかもしれないが、そう言った気持ちはある。こういった戦いは初めての事だから負けたくない。それに、ここまで勝利をもぎ取ってきたんだ。最後に勝って、有終の美を飾る程度に協力するのはやぶさかではない。だからといってここまで鼻息が荒いのはどうかと思うが。

 僅かに膨らんだ胸の内を隠しながら、私は坂本の演説に耳を傾けた。

 

「まずみんなに礼を言わせてくれ。ここまで俺についてきてくれてありがとう。周りの連中には絶対に不可能と言われ続けていた下剋上だったが、ふたを開けてみれば俺たちはここまでのし上がってきた! 違うか?」

 

 教壇で頭を下げた坂本に、多くの生徒が驚いた。私もその行動には驚かずにはいられない。僅かな時間ではあるが私が知っている坂本という人間は、他人を平気な顔をして落としいれることはあっても、感謝することなどないと思っていた。だが、坂本は頭を下げてまで感謝を伝えてきた。それは驚愕するには十分すぎるほど、意外だった。特に坂本と一番親しそうな吉井は、一番驚いているようだ。

 困惑していた周りの生徒たちだが、続く勇ましい坂本の口車に乗せられ、拳を振り上げて熱狂に包まれる。

 

『そうだ! 俺たちだってやればできるんだ!』

『いいぞ、坂本!』

『さすが俺らのリーダーだぜ!』

「いいか、ここまで来たんだ。絶対にAクラスに勝って、生き残るためには勉強だけすればいいってもんじゃないって、教師どもに叩き付けるぞ!」

『『『おおーっ!』』』

 

 最後の闘いへの興奮、そして勝とうという勝利への渇望によって、この場にはある種の一体感が生まれている。それは私も例外ではない。教室の中にいる全員から勝とうという強い気持ちが溢れだしている。

 

「みんなありがとう。そして、残るAクラス戦だが、これは一騎打ちで決着をつけたいと思う」

 

 唐突に坂本から提案された内容に、組の中を当惑がさざ波のように広がった。とはいえ、私はある程度納得できるものがあり、それほど驚きはしなかったが。

 こちらと相手の実力差ははっきりしている。どうあがいても勝ち目はない。それは間違いない。では、どうすれば勝てるか。簡単だ。勝てる人間だけを戦争に出せばいい。しかし、それはふつう不可能だ。これは戦争。組と組との戦い。試合のような個人戦ではない。どうにかして個人戦に持ち込まなければ負ける。

 それでもまさか実際にこんな策を提案するとは思わなかった。この案は決定的な欠点がある。一騎打ちをするとはいっても、向こう側がそれを了承してくれるかは分からない。こちらには有利でも、相手からすれば不利になるのだ。断られるのはおかしくない。しかし、坂本の顔を見る限り勝算はあるようだ。でなければ、あれほど自信を持った面構えはできないだろう。

 ざわめき続けているクラスの疑問を晴らすために、坂本は詳しい説明をし始めた。

 

「一騎打ちだが、当然俺と翔子でやる」

「莫迦の雄二が勝てる訳なぁあああ!!?」

 

 吉井が不用意な発言をして、坂本を怒らせた。いや、怒ったからと言って友人相手に刃物を投げつけるのはどうなのか。親しい人、或いは友人を死に招く人を知っているから否定しづらいが。

 

「次は耳だ」

 

 どうやら、そもそも友人として扱っていないのかもしれない。流石に吉井があわれに思えてきた。

 

「ただ、確かに明久の言うとおり俺と翔子では学力の差は大きい。まともにやりあえば勝ち目はほとんどないだろう。しかし、思い出してくれ。今までの戦いも同じだったはずだ。こんどもそうだ。俺は翔子と戦い、下して見せる。そうすれば、この劣悪な教室からもおさらばだ。俺を信じて待っていてくれ。必ず俺がAクラスを勝ち取る!」

『おおっーーー!』

 

 吉井の事は置いておくとして、やはり坂本には何らかの策があるようだ。それがなんであるかは分からないが、坂本の中には絶対的な根拠としてあるのだろう。となると、私に出来ることはないな。

 坂本の説明は具体的な話へ入っていった。

 

 「さて、具体的なやり方だが……一騎打ちではフィールドを限定するつもりだ」

 

 うん? 翔子という子の苦手分野を知っているのか。しかし、たとえ苦手分野がわかったとしても、点数が他の教科より少し下がる程度ではないか? 坂本の点数自体が上がるわけではないはずだ。どういう意図がそこにある?

 気にはなったが、結局私は坂本ではないのだ。坂本の内心など分からない。最後まで話を聞くしかないだろう。

 

「フィールド? 何の教科をするつもりなのじゃ?」

「日本史だ。ただし、内容は限定するがな。小学生程度の問題だが、方式は百点満点の上限あり、純粋な点数での勝負だ」

 

 小学生というのは分からないが、やはり話を聞く限り坂本の方が不利な気がする。相手は勉強ができるからこそ、最優秀の組に入ったのだ。最底辺の組、このF組に入った坂本では成績が釣り合わないのではないか? 勝率はかなり低いと思うのだが。

 それは他の者も思っていたらしく、吉井と木下は坂本に疑問を投げかけた。それに対し、坂本は自信満々に答えた。

 

「俺をなめすぎだ。幾らなんでもそこまで運に頼ったやり方を作戦なんて言うか」

「それなら、霧島さんの集中を乱す方法を知っているの?」

「いや。アイツなら集中してなくとも小学生レベルの問題を間違えない」

 

 坂本は霧島祥子という子をよく知っているのか? いや、口ぶりからすると間違いなく親しい知人のようだが。

 

「だが、ある問題に関しては違う。その問題さえ出れば、アイツは必ず間違える」

 

 ある問題? それに決まっている? 断定口調なのが少し気になるな。

 

「その問題は『大化の改新』だ。それも年号を問う問題だ。この問題程度なら明久だって間違えないだろう」

 

 ……坂本、どうやらその認識は間違いなようだ。吉井が赤い顔で坂本から目をそむけたのだが。しかし、それに気が付かずに坂本は話を続ける。

 

「だが、翔子は間違えるはずだ。これは絶対と言っていい。そうなれば、この最悪な環境の教室とおさらばっていう訳さ」

「あの坂本君」

「ん? 一体何だ姫路」

「霧島さんと坂本君って仲が良いんですか?」

「ああ、アイツとは幼馴染だ」

 

 幼馴染と坂本が言った瞬間、ガタッと音を立てて組の男子全員が立ち上がり、吉井の号令と共に上履きを構えた。あまりにも急な動きに、私と坂本、木下に女子たちがついていけずにいた。というより何故あそこまで彼らは殺気立っているのだ!?

 

「総員、殺れ!!」

「な、いきなり何をやっている!!?」 

「黙れ、男の敵!」

 

 殆どの男子は吉井の声に大きくうなずきながら、凄まじい剣幕でジワジワと坂本を追い詰めにかかっている。しかも、彼らは異様な雰囲気を醸し出しているだけではなく、言葉を交わさずに連携を取るほど協調性を取って追い詰めている。幾らなんでも動きが良すぎないか。かなり手慣れた動きだぞ。

 

「待て、須川君。それはまだ早い。靴下は押さえつけた後に口の中に入れるべきだ!」

「ハッ! 了解です!」

 

 しかし坂本の話を聞いた吉井の反応が気に入らなかったのか、姫路が吉井に霧島を好きなのかと聞いた後、彼女たちは吉井を攻撃の対象とする事にしたようだ。姫路は殴り掛かりそうになり、島田は教卓を持ち上げて投げようとしている。いや、頭の上まで持ち上げられるものなのか? 女子が持つには重すぎるだろう、それは。

 一体私はこの混沌とした場でどうすれば良いのだろうか?

 頭を抱えたくなったとき、冷静な声で場を鎮めようとした声がかけられた。  

 

「一旦落ち着け皆の衆。少し考えて見れば分かるじゃろう。相手はあの霧島祥子じゃぞ。男に興味があるとは思えん。それよりも……」

 

 何だ? 木下の言葉で殆どのクラス“めいと”が姫路を見ている?

 それが少し気になったが、とにかく場は収まったようだ。一息をついた。

 男子から逃げ切り、助かったという顔付きで坂本は話をそらしていった。

 

「まあ俺と翔子は幼馴染で、昔俺が間違えたことをアイツに教えちまった事が有るんだ。そして、アイツは一度覚えたことは間違えない」

 

 そう締めくくりながら、坂本は最後に告げた。

 

「それを利用して俺は勝つ。そしたら俺たちの机は――」

『システムディスクだ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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