第八問
問 以下の問いに答えなさい
『人が生きていくうえで必要な五大栄養素を全て書きなさない』
魂魄妖灯の答え
『①努力 ②根性 ③勝利 ④好敵手 ⑤友情』
教師のコメント
『それはスポコンの五大テーマです』
蓬莱山輝夜のコメント
『巨○の星とかが有名ね』
八意永琳
『姫、少しお話が』
Aクラスの机と椅子のある場所から少し離れた、教師が立って授業する場所を中心に、AクラスとFクラスの人間が、輪になって囲っている。大勢の人間が黙っているのは緊張からだろう。喉が渇く独特な熱気が辺りを漂う中、スーツに身を包んだ、知的な眼鏡が特徴的な女教師が中央に出て、お互いの代表をちらりと確認するように一瞥した。
「準備はよろしいですか?」
「ああ」
「……問題ない」
血気盛んなFクラスを抑えるかのような代表の声に、こちら側の生徒たちはもどかしそうな視線を坂本へ向けている。向こうのAクラスは、冷静な声の主を信頼しているのだろう。浮足立ったこちらと違い、一種の貫録さえ窺える冷静さを見せている。もしお互いの総力戦になったら、やはりこちらが負けた事だろう。
「それでは第一戦を始めます。一人目の方は前へ」
Fクラスからは木下が出たのだが、向こうの群衆から一歩足を出したのは、木下とよく似た顔立ちの人物だった。
「双子?」
「……違う。二卵性双生児。彼女は、秀吉の姉」
「土屋康太だったか。そうか、わかった。ありがとう」
「……別に構わない。それと康太でいい」
何時の間にかいた土屋に少し驚いたものの、もたらされた情報は目の前の光景を納得させるには十分だった。瓜二つの顔立ちに、背丈。違う点は、目つきの鋭さと雰囲気か。
何故かわからないが土屋はしばらくこちらを見た後、ふいと人影にまぎれてどこかへ行った。
土屋が消えたのを見ていたら、いつの間にか二人がいなくなっていた。そう思ったが、何故だかこの場にいる全員が廊下の方を見ているので、そちらをつられてみたら、聞きたくない絶叫が廊下から響いてきた。
「ギィヤアアアアアアアアアア!!?」
ミシミシ……ミギィ。ポキ。
湿った音が少しして、その後軽い音が。あれ、脱臼した時の音だ。そう考えていたら、悲鳴が途絶えて、頬に返り血で化粧を施した木下の姉が扉を開けて教室に入ってきた。いかん。目が殺気立ていて、般若のようだ。そう思った瞬間、ぎろりとこちらをその三白眼で睨みつけてきて、思わず腰が抜けた。女性は怒らせると怖いのはよく知っているが、それでも彼女は怖すぎる。
周りの人間も、私と同じように腰を抜かして地面にへたり込んでいる。酷いものでは泡を吹いて気絶しているし、何故だか息を荒げて身をくねらせている。……これは違う意味で拙いのでは?
腰が抜けるほど怖いのは私だけではないようだ。坂本もかなり腰が引けている。というか、この教室内にいる全ての人間が彼女を恐れている。
「え、ええっと。坂本君、他のメンバーを出しますか?」
「いや、うちの負けでいい」
何が起きようと、彼女とだけは戦いたくない。故に、私は坂本の勇気ある英断を褒め称えよう。敗北の代わりに尊い犠牲を出さずに済んだのだから。
教室中青い顔をしたまま、それでも時間は進む。先ほど西村教諭が木下を回収したので、彼は大丈夫だろう。……そう信じたい。
「では、次の人たち」
Aクラスからは、また女子が出てきた。それとこの戦いにおいて最も重要なルールである科目の決定権は向こう側に渡った。この戦いでは五回直接対決をするが、そのうち三回はこちらが科目を決定できる権利がある。向こうは二回。おそらく彼女の得意科目は、今彼女が選択した物理なのだろう。
このクラスで物理の科目を戦えるものはいるのか? 私がまともな点数を取れるのは、国語関連と歴史位だぞ。それも、古代史や中世。ギリギリ明治の初期程度。他のものはそもそもが高得点を望めまい。一部の生徒は違うのだろうが。しかし、あの坂本がこの程度の事を、……さすがに想定はしていないな。まさか血まみれになって負けるとは思っていないだろう。負ける事自体の救済案は用意しているだろうが。
「こちらからは、明久を出す」
ああ、なるほど。この戦いは諦めて、次からに賭けるのか。
案の定、吉井は敗北した。これで二敗してしまった事になる。このままでは拙いかと思ったが、その後の土屋と姫路が勝った事で、大将戦まで持ち込む事が出来た。ここまで来たのだ。今にもきれそうな蜘蛛の糸を、それでも手繰り寄せて手に入れた機会。逃すわけにはいかない。それがわかっているのは、誰よりも坂本だ。背負うものは小さくても、重いはずだ。嵐の前のように静寂が場を支配する。
「それでは最終戦を始めます」
「ああ」
「……はい」
当然この二人が最終戦の選手だ。お互いのクラスの代表が舞台の中央に出る。大勢の視線が二人を貫くが、二人ともまるで気にしていない。良い気迫と言っていいだろう。
さっきの戦いでは向こうが科目を決定した。今回の科目の決定権はこちらにある。当然、
「科目はこちらが指定するぞ。教科は日本史。内容は小学生。方式は百点満点式だ!」
坂本の言葉に、向こう側の沈黙が崩れた。多くの生徒たちが隣の生徒同士で、話し合い始めている。
「わかりました。しかしそうすると、テストを作らなくてはいけません。少し待っていてください」
そう断りを入れて、女教師は教室を出て行った。
その間の時間で、坂本はこの戦いで活躍していた生徒たちと話をしていた。勝っても負けても、これで終わり。哀愁くらいはわくものか。そう納得していたら、何故か坂本は私の方にも来た。
「魂魄、お前にも随分と助けてもらったな」
「別に助けたつもりはないが」
「いや、Bクラス戦では随分と助けてもらった。人間嫌いのお前に助けてもらえただけで、十分こちらとしては有り難かったよ」
何故人間嫌いという事がわかったのだろうか。疑問は口に出てしまい、坂本はすこし呆けた表情を見せた後に、笑いながら言った。
「そりゃ、簡単だ。明久にひかれていないからだよ。彼奴みたいな底抜けの馬鹿は、あれで人をひきつけてやまない。彼奴に引き寄せられないのは、何か理由があるやつだ。お前は別に病気かなんかで卑屈になっている訳じゃない。ぴんぴんしているからな。なら、後は予想がつく。大方、その髪の毛で昔いじめられもしたんだろう」
……は?
「……悪いが、一度もこの髪で馬鹿にされたことはないぞ。それに、いじめられたことも」
「……悪ぃ。聞かなかったことにしてくれ」
頬を赤くした坂本は、そのままそそくさと帰っていった。
帰ってきた教師に連れられて、坂本たちは視聴覚室へ向かった。不正行為が起きないようにするためだろう。教室から出ていくとき見えた坂本の横顔は、確かに笑っていた。
入れ違いに来た教師が教室にある何かの機械を操作すると、壁に設置されているガラスに、視聴覚室の様子が映し出された、これはテレビという奴だな。ようやくこういったこの世界にあるものに慣れてきた。
テレビに映し出されている先で、二人はいっせいに問題用紙を表に返した。Fクラスは手を重ねて、祈っている。あの問題が出ていることを願い。テレビの映像が問題を次々と映していく中、その問題は映し出された。
( )年 大化の改新
『これで俺たちの机はシステムデスクだ!』
歓喜の雄たけびを上げたFクラスに、Aクラスの生徒は訝しげな表情で見てくるが、こちらはそんな事を気にしている者はいないようだ。隣の者と肩を組み合ったり、抱き合ったりして飛び跳ねている。
長い、長い戦いは勝利で終わったのだ。うれしいと思うのは当然だ。
「え?」
私もそう思っていた。試験が終わり、二人の表示された点数を見るまでは。
《Fクラス 坂本雄二 53点》
この時点で、Fクラスの敗北は決定した。
Fクラスの沈黙が痛い。誰も一言もしゃべれず、Aクラスの視線も痛い。憐れみすら含んだその視線は、心をえぐり、傷付けるには十分すぎる。故にうなだれながら帰ってきた坂本を待っていたのは、Fクラスの全員からの罵倒だった。特に吉井は一番激しく怒っていて殴り掛からん程に突っかかっている。
「まったく。この人間たちは予想外すぎる」
ため息をついたのを自覚し、気分を変えようと教室の窓から外を見ようとした。硬質なガラスには、外の風景と一緒に、私の顔を映していた。苦々しくも、
少しだけ主人公の心がほぐれてきました。とはいえ、まだまだ心は開いていません。
東方簡易百科事典(もうネタが切れました)
蓬莱山輝夜 月の姫。かぐや姫その人。不老不死になれる妙薬を飲み、罪人となり地上へ来た。多くの二次創作では、ニート姫にされる。この作品でもそう。
八意永琳 月の頭脳と呼ばれるものすごく頭の良い人。輝夜が飲んだ不老不死の薬、蓬莱の薬は、彼女が作った。本来は薬師であるのだが、何でもできる。何でもできるのだ。主のぐうたらをカバーしてしまえるほどに。