第九問 清涼祭へ向けて
第一問 学園祭の出し物を決めるためのアンケートにご協力下さい。
『あなたが今欲しいものは何ですか?』
魂魄妖灯の答え
『幽々子様の食費』
教師のコメント
『幽々子様とはいったい誰でしょうか? そしていったいどれだけの量を食べるのでしょうか?』
西行寺幽々子のコメント
『あら、失礼ね。そんなに私は食べないわ』
魂魄妖夢のコメント
『五十人前をぺろりと平らげておっしゃられる言葉ではありませんよ』
私は学校生活というものは正直あまり分からない。かすかな記憶にあるのは、人の世代が変わるほど昔の、幼いころにお爺様に連れられて行った白沢が教師を務めていた寺子屋だけだ。そこでは読み書き算盤を学んだだけ。皆で何かをするといったことは一度もなかった。何かをするのならば、寺子屋の後に集まれば良かったのだから。
ゆえに、私には判断が出来ない。清涼祭の準備を放って、遊びほうけている男子たちを引き留めなくても良いのかと。準備は終わっていないと思うのだがあれだけ自信満々に遊んでいるという事は、もしかしたらもうすでに準備を終えているのかもしれない。坂本ならば、それくらいのことはできるだろう。その場合、私は余計なことをしてしまう。呼び戻すかそれともそのままにするべきか。
「むっ! 妖灯。あいつらはどこに行った」
そんな事を考えながら教室に残った僅かな人間と教師が来るのを待っていたら、先の試験召喚戦争の際に担任となった西村教諭が扉を開けて教室を一度見まわした後眉をひそめた。どうやら、彼らの行為はいけないことだったようだ。西村教諭の額に青筋が出て、今にも噴火しそうな雰囲気だ。というよりも、返答を聞かずに西村教諭の姿が掻き消えた。……まさか、縮地?
内心の驚愕が現れたのか、こめかみを伝って汗が落ちる。私にすらできない事を、人間がしただと!? 信じられないが、現実に西村教諭は私の目ですら捉えられなかった。これでも結界の所為で様々な力が下がっているとはいえ、一般人を軽く凌駕しているのには変わりないというのに。担任の教師が人間でありながら、下手をすると博麗の巫女よりも人間離れしているかもしれないことに恐怖を抱きながらも、恐らく連れられてくるであろうクラスメイト達を待つことにした。
制圧時間は一分もしなかったらしい。時計の針が一周するよりも前に、校庭から悲鳴が聞こえてくる。耳をふさいで、聞かなかったふりをしよう。
集まったクラスメイト達は、坂本から丸投げされた清涼祭の準備にあーだこーだと騒いでいるばかりで、実りのある話し合いというものを全くしない。まあ、確かに一年に一回のお祭りだ。自分の好きな事をやりたいと思うのは人情か。だがこのままだと何にも決まらないのではと思ったとき、坂本が島田を学園祭実行委員長に指名した。確かに試召戦争を見る限り、判断力はあるようだ。適性は大丈夫だろう。
そのあと自分一人だと自信がないという島田の為に、他の人物を補佐としてあてることになった。それは良いのだが、候補者を吉井と明久にするというのはどうなのだろうか。しかも周りの言葉も酷かった。『どちらもクズだし』というのにはさすがに唖然とした。このクラスには協調性というものないのか。いやあるのだろう。しかしそれはある一定の時、つまりは人を貶め至りする時や、窮地の時だけしかない。
私が呆れ果てている間にも、話はずんずんと進み、クラスで行う出し物を決めることになった。だがしかし幾らなんでもこれは酷い。寺子屋だったのなら今頃全員頭突きを喰らいのびている事だろう。
クラスメイト達の意見を聞き入れるまでは良い。しかしそれを黒板に板書した吉井の主観が混じったせいか、何故か写真館が『秘密の除き部屋』となっている。ウェディング喫茶というのは良く知らんが、『人生の墓場』とはどういう意味だ? 中華喫茶『ヨーロピアン』に至っては訳が分からん。中華喫茶になぜ西欧が出てくる? ハチャメチャすぎて、逆に清々しさすら感じるぞ。
頬が引くついているのを感じていると教室の扉が開き、そこから顔をひょっこり覗かせた西村教諭も、一瞬唖然とした顔をして
「補習を毎日して、三倍くらいにすれば良かったか?」
と呟いた。その言葉に私自身納得できてしまったのが、何と言うべきか。悲しむこともできない。私も当事者なのだから。
しかし教室中から言い訳の声が挙がる。まあ、彼らにしてみれば勉強というものは好きじゃないんだろう。そんなのは御免だということだ。しかし西村教諭が
「莫迦者! 言い訳などするんじゃない」
と教育者として素晴らしい一括をし、思わず私はうなずいた。確かに言い訳をするというのは、男らしくない。例えどんな理由が有ろうとも、相手を呆れさせてしまった事には変わりがない。ならば、私たちは西村教諭の信頼を取り戻すように――
「先生は吉井を委員に選んだことを莫迦と言っているのだ!」
その言葉にダンボールの箱ごとひっくりかえってしまった。
先ほどの感動を返してもらいたい。ボロボロの畳に仰向けになりながらそう思った。しかしその後の西村教諭の発破で、クラス中が一気に活気づいた事で一気に状況が変わった。。空しく意味のなかったものではなく、現実的な視点から繰り広げられる議論。勉強はできず、基本的に莫迦な彼らだが、なぜこういった余計なところには頭が回るのだろうか。不思議でならない。
私の出る幕もなく最終的に島田によって多数決で採決され、このクラスは中華喫茶をすることに決まった。中華料理というのはあまり詳しくないが、料理ならある程度できる。須藤とやらが詳しいようだから、彼の下で働けば良いだろう。それに、厨房なら人とあまり触れ合わずに済む。
ここまでは良かったのだ。私の思惑は知られず、厨房の係りとなったそこまでは。問題は、厨房に彼女が入りたいといった事にある。
「あ、じゃあ私は厨房に」
うれしそうな顔で、姫路が死神の言葉を吐いた。その言葉が耳に聞こえた瞬間、クラスの一部が震えだした。その中に私ももちろん含まれている。いけない、止めなければ。そう思い体を動かそうとしたのだが、脚が根を張ったかのように固まり、体が動かせない。辺り一帯に死の気配が漂い、身がすくむ。冷や汗が全身を包み込み、ガタガタと歯の根が鳴る。彼女の後ろにはなぜか大柄な体をしたガキ大将らしい少年が浮かんでいる。そしてその目の前には凄まじい色合いをした数々の料理の幻影
「ダメだよ! 姫路さんはうちのかわいさ担当! ホールで活躍してもらわないと!」
吉井が絞り出した意見に、姫路はホールに回ることになった。素晴らしい動きだ、吉井。私はお前を見直した。それにしても助かった。私単体ならば、まだあの料理に耐えられるだろう。しかしそれはこの身に耐性があるからに過ぎない。何故か私の周りの女性は全員食事を作ろうとすると謎の爆発やら、建物が斬り落とされかけたり、異常な食材の量を購入するなど、まともに食事を作れる人がいないのだ。そんな彼女たちが作った食事を味見の名のもとに毒見させられ続けて生き残ってきた私でも辛いと感じるあの食事を、一般人が食べて耐えられるはずがない。食して全員倒れるのが関の山だ。
学園祭が始まる前に喫茶店経営が破たんせずに済み、胸をなでおろした。
東方簡易百科事典
西行寺幽々子 良く見かけるネタとして、とてもよく食べるということがあげられる。(ピンクの悪魔クラスで)