わたしと貴女。ワタシとアナタ。

二人の「吹雪」。冬の季節に、寄り添って。

変わりゆく世界にも、きっと幸せはあるのだから。



劇場版艦これを見て思いついた話です。

一部ネタバレ要素を含みます。

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劇場版の感想を兼ねまして、書かせていただきました

どうぞ、よろしくお願いいたします


背中合わせ

わたしは貴女で、貴女はわたし。

 

 

 

―――ワタシはアナタで、アナタはワタシ。

 

 

 

わたしと貴女は、二人で一人。

 

 

 

別れて、それでも再び出会って。

 

 

 

繰り返すこの世界。輪廻の中で、わたしたちは生きている。

 

 

 

それでも。わたしはこの世界で・・・この世界に幸せを見つけたい。

 

 

 

―――ソレは許されるコト?

 

 

 

―――ワタシは、この巡りゆく世界の中で、幸せを見つけてもイイノ?

 

 

 

いいんだよ。大丈夫だよ。

 

幸せを探すことは、意味のないことなんかじゃない。

 

わたしは確かにここにいて。

 

貴女は確かにここにいる。

 

今を生きて、たくさんのことを感じて。

 

楽しくても、辛くても、それでも生きていたいと願う。

 

 

 

ねえ、貴女もそうでしょう?

 

 

 

―――・・・ワタシは・・・生きている・・・?

 

 

 

そう。そうだよ。

 

だって、同じわたしだもん。

 

 

 

わたしと同じ、「吹雪」だもん。

 

 

鉄底海峡―――アイアンボトムサウンドでの激戦から、すでに四か月が経とうとしています。巡った季節は、もう冬の支度。鎮守府には、観測史上初という、気の早い雪が降りました。

 

「お疲れ様です、川内さん!」

 

演習を終えたわたし、駆逐艦娘「吹雪」は、艤装を工廠に預けて大きな伸びをしている先輩艦娘に声をかけます。寒い季節にはもってこいのマフラーを巻いた川内さんは、いつもの笑顔で振り返りました。

 

「お疲れ、吹雪。あんたまた腕を上げてるね」

 

「本当ですか?ありがとうございます!もっと頑張ります!」

 

「うんうん、その意気だよ!でも、まずは体をしっかり休めること、いいね?」

 

そう言った川内さんは、少し冷たい手でわたしの頭をポンと叩きます。優しい手。それから、待っていた神通さんと那珂さんと一緒に、寮へと戻っていきました。

 

さてと。わたしはどうしようかな?お風呂には少し早いですし、間宮さんのところにでも、行こうかな。

 

「吹雪ちゃ~ん!お疲れ様っぽい~!」

 

元気な声でわたしを呼ぶのは、夕立ちゃんです。手を振りながら全速力で駆けてきた彼女は、勢いそのままに、わたしに抱きつきます。

 

柔らかい何かが、わたしの真っ平らな胸に当たっています。とほほ・・・。

 

「演習、どうだった?」

 

「バッチリだよ。川内さんに褒められちゃった」

 

「吹雪ちゃん、最近すっごく張り切ってるっぽい。夕立も、負けてられないっぽい」

 

寒い中でも、いつもと変わらずに元気に飛び跳ねる、夕立ちゃん。彼女といると、こちらもやる気が湧いてきます。明るい表情に、頬が緩んでしまいました。

 

「あ、そうだ夕立ちゃん。一緒に間宮さんのところに行かない?」

 

「行く、行くっぽい!・・・って、言いたいんだけど」

 

夕立ちゃんには珍しい曖昧な語尾に、わたしは首を傾げます。次の瞬間、明らかに辺りの空気が、ズーンと重くなりました。

 

「ううっ、夕立、これからお風呂掃除っぽい・・・」

 

「ああー・・・」

 

夕立ちゃんのテンションが急降下したのは、そういうことらしかったです。

 

「が、頑張ってね」

 

「夕立も間宮行きたいっぽい~っ!冬の新作、お汁粉風間宮パフェ食べたいっぽい~っ!」

 

そう言って駄々をこねていた夕立ちゃんは、お風呂掃除担当の加賀さんに引っ張られて行ってしまいました。

 

取り残されたわたし。悩んだ結果、やっぱり間宮さんのところに行くことにしました。

 

鎮守府の一角にある甘味処「間宮」は、半年ほど前の鎮守府空襲時に被害を受けていました。この際だからと、再建されたお店は以前よりも間取りが広くなり、より多くの艦娘が憩いの場として利用するようになりました。

 

そんな、「間宮」のお店の前で、わたしは足を止めます。お店の中に、見知った顔を見つけたからです。

 

ガラス戸が締め切られた、「間宮」の店内。入り口から見える位置の、二人掛けの机。

 

睦月ちゃんと如月ちゃん。二つ並んだ特大のパフェを前にして、幸せそうにおしゃべりをしています。

 

・・・うん。ちょっと、お邪魔かな。

 

二人の間にあったことは、わたしも知ってます。

 

別れて。

 

出会って。

 

多くの葛藤と、再びの別れ。

 

それでも。睦月ちゃんは、ようやく見つけたんだ。

 

如月ちゃんは、ようやく帰ってこれたんだ。

 

部屋に戻りながら、わたしはふと、胸に手を当てます。そこにいる“彼女”のことを想います。

 

“彼女”も・・・ずっとずっと、会いたかったのかな?

 

帰り着いた部屋、畳の上に、わたしは寝転びました。暖房のかけられた部屋でも、そこだけは少しひんやりとしています。少しもぞもぞとやって、仰向けになり、天井の木目を見上げました。

 

・・・アイアンボトムサウンドから、いろんなことが変わりました。

 

深海棲艦を倒すこと、その意味は艦娘を救うこと。永遠の繰り返しを断ち切るために、わたしたちは誰一人沈むことなく、深海棲艦を沈めていかなければなりません。

 

困難な道であることは、誰もが理解しています。それでも、その困難を成し遂げるために、わたしたちはより一層の技量向上に努めました。

 

たくさんの艦娘たちが帰ってきました。鎮守府も随分と賑やかになって。その分、演習も大変ですけど。

 

わたしたちは、着実に階段を上っています。

 

「・・・よっこいしょ」

 

体を起こして、クッションを引っ張り、座ります。ちゃぶ台に頬杖をついて、窓からぼんやりと外を眺めました。

 

空の色は、鮮やかなオレンジ。漂う雲が、その色を薄めてグラデーションを作っています。

 

―――綺麗な夕焼け。

 

声が、しました。鏡に映る、わたしと、もう一人。白いスカートを翻す“彼女”。

 

わたしの隣に、“彼女”が座ります。夕陽を浴びて透き通るような白い顔を、わたしは振り向きます。“彼女”の深紅の瞳も、こちらを見返してきました。

 

「フブキ」

 

わたしはそう呼んでいます。もう一人のわたし。アイアンボトムサウンドで、わたしを待っていた人。

 

再び、同じ「吹雪」となったわたしたち。普段、わたしの中にいる彼女は、時折こうして、姿を現します。

 

―――海が・・・とっても綺麗。

 

窓の外に見える海を見つめて、フブキが呟きました。

 

夕焼けの橙色に染まる海は、波の動きでグラデーションを作り、所々がまるで宝石のようにキラキラと輝いています。海の上では、周辺警戒の障害になったりもするんですけど。こうしてみると、やっぱり綺麗で。初めて、この鎮守府で見た海を、思い出します。

 

「どう?海の上は、もう慣れた?」

 

ルビーのようなフブキの瞳を覗き込んで、尋ねます。晴天の夕方限定の景色に表情を輝かせる彼女は、満面の笑みで頷きました。

 

―――うん。

 

「そっか。ならよかった」

 

その笑顔が嬉しくて。わたしはまた、海の方を眺めました。

 

―――ワタシね。最初は・・・海の上が怖かった。ずっと水底にいたワタシが、まったく知らない世界だった。だから、怖かったの。

 

頬杖をついて、ポツリポツリと語るフブキは、それでも柔らかな表情のままです。

 

―――でも、アナタと一緒に、海に出るようになって。どこまでも蒼い海も。潮の香りも。風の音も。飛び交う鳥たちも。足元を泳ぐ魚たちも。見るもの皆初めてで、新鮮で・・・。うまく言えないけど・・・とっても、海が好きになった。

 

やっぱり・・・わたしたちは、同じだね。

 

なんだか、着任したばかりのわたしみたいです。

 

「・・・わたしもね、最初は怖かったんだ。海に出たことなんてなかったし、何もできなかった。でもね、いろんな人がいて・・・一緒に、海に出てくれた。怖いことも、楽しいことも、皆みんな・・・睦月ちゃんや夕立ちゃん、川内さん、神通さんに那珂さん、赤城さん、金剛さん、大和さん、皆がわたしに教えてくれた。わたしの世界を、変えてくれた」

 

ふと気づくと、フブキが静かに、わたしを見ていました。純粋で、真っ直ぐな、まるで深い海のように、澄んだ瞳。その双眸に、わたしは微笑みます。

 

「ね?世界が変わるって、楽しいでしょ?」

 

コクリ。フブキが頷きました。

 

「怖い時だってある。辛い時だってある。でも、わたしは一人じゃないんだな、って。世界が変わった先に、楽しいこともあるんだ、って。今は、そう思える」

 

―――・・・そうだね。

 

胸に手を当てたフブキが、何かを噛み締めるように、目を閉じます。海に反射する夕陽はもうずいぶんと薄くなって、部屋の中は段々と暗くなっていきます。その中で、フブキの表情が、妙にくっきりと見えていました。

 

―――わたしは、閉じた世界しか知らなかった。でも・・・吹雪や、皆が、新しい世界に連れて行ってくれた。だからね。今は・・・変わる世界が、少し、楽しみになった。

 

細い左手が、わたしの頬に触れます。以前その手を覆っていた禍々しい艤装は、もう影も形もありません。血が通う暖かい手は、それでも寒い季節のせいで、ヒンヤリとしています。

 

―――それはきっと、アナタのおかげだね。

 

花のように笑うその表情が、わたしにとって何よりの宝物。大切なもう一人のわたし。世界を変えた先に、見ることができたもの。

 

廊下を駆けてくる足音がします。多分、夕立ちゃんかな?時計を見ると、そろそろお風呂が沸く頃です。

 

―――お話しできて、よかった。

 

「うん。また、いつでも会いにきて」

 

―――何言ってるの。わたしたちは、いつも一緒、でしょ?

 

「あはは、そういえばそうだね」

 

空のオレンジが、消えていきます。訪れたのは夜。暗くなった部屋に、もうフブキの姿はありませんでした。

 

駆けてきた足音が、勢いよく部屋のドアを開けます。顔を覗かせたのは、やっぱり夕立ちゃんでした。

 

「吹雪ちゃん、お風呂行くっぽい!沸きたてっぽい!」

 

そう言いながら、電灯のスイッチを押しました。太陽に代わって、白い人工の光が、部屋の中を照らします。

 

「うん、行こう」

 

お風呂の支度をしているうちに、睦月ちゃんも戻ってきます。いつも通りの三人。部屋を出たところで如月ちゃんも合流して、皆で一緒に、お風呂へ向かいます。

 

ふと、窓から見える星空を見上げます。月と共に、海を、鎮守府を、そしてわたしたちを照らす、無数の光。

 

変わらないもの。変わっていく世界。どちらも大切にしたいもの。

 

季節は移ろい。星が巡り。海に平和が訪れて。

 

世界が変わるんじゃない。きっと、わたしたちで変えていくもの。

 

変わった先に何があるかなんて、誰にもわからないけど。それでも、わたしは。

 

 

 

変わる世界を愛したい。




深海吹雪ちゃんに、幸せになってもらいたい一心で書き始めたのですが・・・

普段の甘々な話よりは、こういう感じの方がいいかなと

劇場版は、睦月ちゃんと如月ちゃんの話も書いてみたいのですが・・・そちらは、どうなることやら

ここまでのお付き合い、ありがとうございました

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