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「レティシア、試合会場の天気はどうだ?」
「はい。ええと……、今日一日快晴なのです! ここ一週間お天道様のご機嫌も良いみたいなのです」
あの後は特に何か起きることもなく、俺を乗せた地下鉄道は"幽霊街"の直下の駅に到着した。試合会場に付属する形で造られた地下商店街は、大勢の観光客によって雑多な賑わいを見せている。
「ベストコンディションか。なら予定通り今日は試作品の試射になるな。2FOOTと武装の適合調整は任せる」
「はいなのです! 今日もバンバン相手を撃破するのですー!」
「……ちなみにどうやって?」
「もちろんナックルで殴り倒すのです!」
「今日はスナイパーライフルの試射なんだが……」
携帯端末に映るフィギュアヘッズことレティシアと会話しつつ、BOTgame関係者用の専用通路を進む。試合まで時間に余裕はあるのから歓楽街に出ても良いが、宿泊先のホテルに荷物だけでも置いておきたかった。
これが企業と契約しているランクスなら付添人が身の回りの世話をしてくれたりもするのだが、フリーランスに近い立場の俺にそんな便利な存在はいない。あのリツカでさえ、サリオという大企業と契約しているため専属の付添人はいるのだが。
荷物を自分で運ぶ手間のことは兎も角、閑散とした専用通路をのんびりと歩くこの時間は、嫌いじゃない。誰もいない通路を通り抜けることで日常から離れ、銃弾の飛び交う殺気立った空気へと身体を馴染ませるための僅かな時間。
「──ふぅ」
一つ深呼吸をし、乱れていた思考を切り替える。ただただ何もない白い通路を通り抜け、その最奥にある薄暗い空間──終点へと足を踏み出した。
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狭い通路から解き放たれた俺の視界に映るのは、巨大な機械──2FOOTが幾つも鎮座する、工場のようなガレージ。そこにはケーブルに繋げられ、人間と同サイズの無人ロボットに整備を受ける鋼鉄の巨人が溶接の火花で鈍く照らされていた。
「2FOOTの調子はどうですか、ケーニッヒ整備主任」
「うん? おお、アーデル選手か!」
ガラス越しに見える光景を遠目に、ディスプレイと睨み合っていた中年男性へと声を掛ける。俺の姿に気が付いたその男性は無精髭の生えた小麦色の顔に笑みを浮かべ、手を上げて応えた。
「いやぁ、
「構いませんよ。久々の新規企業の参入で
室内でのデスクワークが主の研究者には似つかわしくない、ゴツくマメだらけの手と握手を交わす。ゼーラス=ケーニッヒ整備主任。旧ヨーロッパ圏を牛耳る大企業、
「成程な。それで、あいつが持ってるブツが『新企業』の試作品てわけか!」
ケーニッヒの視線の先を追えば、俺の操る軽量機の2FOOT、そしてその手に握られた一丁のスナイパーライフル。
銃身は金属の色をそのまま残したような鈍色。細身のシンプルなデザインは鋭利な長剣を想起させ、軽量機タイプの2FOOTに上手い具合に合致している。
〈B01ジャッジメント〉。軽量かつ小回りの効くスナイパーライフルとして開発された
既に試射も終え、後は新規参入の組織名の公表とともにお披露目される予定だった……のだが、あちら側のお偉いさんの意向により、発表前のデモンストレーションとしてこのライフルだけ早めのお披露目となったのだ。
「しっかしサリオも災難だな。噂の『新企業』さんとやらに無理矢理技術提供させられたんだろ? しかもW2BF直属のランクスに本番での使用も要求してるわけだしな。あんたのところの上司は文句を言わなかったのか?」
「まあ、それなりには。詳しくは言えませんが、最初はそこまで否定的な意見ではなかったんですけどね」
言葉を濁しつつケーニッヒが示したモニターに視線を向ける。試射にこそ参加したが、それも一ヶ月以上前の話だ。画面に映し出された〈B01ジャッジメント〉のスペックも、以前より大掛かりな調整が施されている。
「……あ"?」
ふとスクロールしていたモニターに映る、〈B01〉の基本データの記載の一つに視線が吸い寄せられ──思わず正気を疑ってしまった。
『装弾数、2発』
「ワンマガジン、2発……?」
「おうさ。何でも新型自動装填機構なんて代物と軽量を両立しようとしたら、結局そこくらいしか削れなかったみたいだぜ。試し撃ちした時は無かったのか?」
「いや、あるには有ったが……」
そこまで装填の速度は上がっていただろうか? まだ試作段階だったあの技術は、2FOOTが手動で再装填するよりも遅かった筈。本当に大丈夫なのか?
「そもそも、あちらの技師はまだ来ていないのか? ケーニッヒ主任は装甲担当だろう? 武装の調整は担当官と整備士が直接視察に来るという話だったが」
「まだ来てないな。後よ、それを言うならアーデル選手はあそこの担当官と個人的な面識があるんじゃなかったか?」
確かにある。が、連絡を密に取り合うような仲ではない。仕事の都合で何度も顔を合わせているが、いまいち奴の性格が掴みきれないから苦手だ。
「アーデ隊長、その担当官さんからメールが届いているのです」
「──なんて書いてある?」
噂をすれば何とやら。これでライフルが故障したら組織から大目玉喰らうだろうに、何をしてるんだか。
「えっと……『腹を壊したから休む。先方には宜しく言っておいてくれ。ケーニッヒ整備主任の腕はPOでも評価されているから、任せてしまっても大丈夫だろう』なのです」
「…………」
「おいおい、こりゃあどうするんだ……? てか、企業の新製品を投げ出してバックれるとか、普通あり得んだろ」
俺も全面的に同意だ。今回ばかりは、奴の正気を疑ってしまう。
整備主任といっても、ケーニッヒが専門としているのは機体の根幹たるフレームと、NNRの装甲だ。主任である以上武器や駆動に関しても多少は齧っているのだろうが、細部の調整は門外漢もいいところだろう。
「何考えてるんだ、あいつ……」
「あ、〈B01ジャッジメント〉の試射データが送られて来たのです。最新の情報みたいですけど、データはフィードバックさせるのですか?」
どうやら最低限の義理だけは果たしたようだ。まあ奴の上司にクレームを送る意思はその程度で変わるわけもないが。
「……はぁ、頼む。主任はそのまま装甲とフレームの調整を続けてくれ。武装は俺とレティシアでやれば、試合前には終わるだろ」
「了解だ。新企業の技師とコネを作れると思ってたんだがなぁ、残念だよ」
俺と主任は別の理由で同時にため息を吐きつつ作業に取り掛かる。が、びっしりと詰まったデータの海を2FOOTに落とし込んでいく最中、レティシアが首を横に傾げているのが視界に入る。
「どうした?」
「ええと……何でもないのです。ちょっと考え事をしていただけなのです」
えへへと誤魔化すように笑い、データを洗い出す作業に戻るレティシア。好奇心旺盛な彼女が俺に尋ねないのだから、大した話じゃないのだろう。そう考えて、この時の俺は気にも留めず作業へと戻っていた。
思えば、この時点で既に歯車は廻り始めていたのだ。
魔の手は、すぐ側まで迫っていた。
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(担当官さんは兎も角、整備士さんはどうしたんでしょうか? 欠席の連絡は担当官さんだけで、もう一人からは来てないのです……)
二話もロボ要素が(ry