「『必要悪の教会』だろ?」
彼の確信を持った問いかけ、否確認に彼女は唇を噛んで答えない。
「沈黙は是とみなす……だが一つわからないんだが」
上条は彼女に、疑問をぶつける。
「同僚ならなぜインデックスを襲った?いやそもそもなぜインデックスはお前たちから逃げる」
その言葉に神裂の感情は爆発した。
「しょうがなかったんですよ!あの子は、そうしないと死んでしまうんですから」
上条は何も言わない。神裂は語る。彼女に無理やり背負わせた荷物の重さを、彼女の体質で一年おきに記憶を消さなければ死ぬことを。自分達のそのときの思いなどを。それを聞いて上条は、
「ククク、クハハハハハハハハ」
爆笑していた。
「何を笑っているのですか!あの子はもすぐ死んでしまうのですよ!?」
彼女の声に我に帰る。上条は目じりを指でぬぐい、その言葉を発す。
「完全記憶能力者が一年で脳の十五パーセントを使うだと?それは嘘だ」
神裂は絶句する。今まで信じてきたものが完全に否定されたのだから。
「人間の記憶は三つに分けられる。魔道書の原典は『意味記憶』運動の慣れなどは『手続記憶』思い出などは『エピソード記憶』といったように分かれていて、それらは互いに干渉しないんだよ。記憶喪失でも体が覚えてるとか言うだろう?」
だが神裂はそれを認めない。真っ向から叫んで反論する。
「ですが、彼女は膨大な知識を有していま」
ここまで言って上条に遮られる。
「それでも変わらない。そもそも人間の頭は百四十年分の記憶を保有できるんだよ」
その言葉に神裂は力を失う。
「でも、ならなぜ彼女は一年周期で苦しむのですか!」
彼女は、最後の手札を出す。組織が言っていたことなのだから間違いが無いと信じていたのだろう。だが、
「簡単な話だろう。インデックスの頭の中には正しく使えば世界を捻じ曲げるモノが入っているんだろう?それが理由だ」
あっけなく返された。その言葉の意味を神裂は考える。
「何の関係が……!まさか」
神裂は気付いたのか顔を青くする。そう、
「そんな危ないモノ、首輪もなしに所有するわけが無いだろう」
そこまで言うと彼は踵を返す。倒れ付す神裂を置いて。
「信じる信じないはお前の自由だ、だが信じるのなら明日ここに来い」
紙を神裂の前に投げる。そこには小萌のアパートの住所が書いてあった。
「まともじゃないよなお互いさ。じゃあな魔術師」
七ツ夜をしまい眼鏡をかけて去っていく。彼等の頭上を月が淡く照らしていた。
――――
翌日の昼
「上条ちゃ~んお客さんですよ?」
小萌の言葉にインデックスと上条は玄関を見る。そこから二人の人物が入ってくる。その二人を認識したインデックスが逃げようとする。
「大丈夫だインデックス。小萌先生、少し席を外してくれないですか?」
その言葉に小萌は少し考えた後、
「いいですよ~買い物に行く途中でしたしね、今晩は鍋なので、そこのお客さんと一緒に食べましょう」
そういって去っていった。
「で、答えは出たのか?マグヌスと神裂だったっけ?」
だが、ステイルと神裂は答えずにインデックスへ向かって土下座した。
「へ?」
そうして二人の魔術師は語り始める。自身が行ってきた罪を。そしてそれをインデックスは許した。
「ステイルもかおりも辛かったんだね?ありがとう」
そういって二人を抱きしめた。二人は呆然としながら問う。
「僕たちは君にこんなことをしてきたのに」
「許してくれるんですか?」
インデックスはうなずいた。俯いていて二人の魔術師の顔はよく見えないが、二人の頬には輝くものがあった。
――――
「で、結局二人はどうするんだ?俺はコイツにかかってる魔術を解きたいんだが」
二人は上条を見る。驚愕を顔に浮かべて。
「ん?あぁこの右手は『幻想殺し』つって異能の力なら何でも殺せるんだ」
二人はなんて非常識ななどといった類の視線を上条に向ける。
「で、どうするんだ?」
「私は協力します。この子の記憶はもう消したくない」
「僕も、協力するよ」
非常に不本意だけどね、などと言っているあたり嫌われたみたいだ、などと考えてインデックスを見る。
「で、インデックス俺に任してくれるか?」
「うん!」
上条の問いにインデックスは笑顔で答えた。
――――
そんなこんなで、時間は過ぎ、夕食の鍋も終え、深夜。この場に小萌は居ない。温泉に行ったらしい。
「じゃあ始めるから二人は入り口を見張っといてくれ。誰か来たら大変だからな」
人払いは張っているが、それも完璧ではない。それに上条がいまから行うことは秘密にしたいことであり、彼の奥の手(その割にはよく使っているが)なのだから、当然といえ当然だろう。
そして他に誰もいない部屋で、上条とインデックスは対峙する。
「じゃあ行くぞインデックス」
眼鏡を外し、七ツ夜を持つ。
「うん、よろしくなんだよとうま!」
そして、彼は彼女に浮かんでいた点を突く。そして、彼は壁に叩きつけられた。彼が殺したのはインデックスの『首輪』では無くそれを守る結界だった。そこまで認識した上条の耳に機械的なインデックスの声が聞こえた。
「――警告、第三章第二節―禁書目録の『首輪』第一から第三まで全結界の貫通を確認。再生準備……失敗。『首輪』再生は不可能、現状、十万三千冊の『書庫』の保護のため、侵入者の迎撃を最優先にします」
禁書目録を助ける最後の壁『自動書記』が立ちふさがった。