涌井に言われてから苗木たちは学園中の調査を進めていたが結果は芳しくなかった。1階のみしか解放されていない現状ではわからないことが多すぎるのだ。最低でも3階くらいまで解放されないとどうしようもないだろう。
「どうしようか。僕たちが調べられるところは全部調べたよね?」
「そうね。あのシャッターをどうにかできないかしら?」
「さくらちゃんでもどうしようもなかったんだよね」
「すまない。我の力不足で」
「いやいやそんなことないよ」
「そうよ。私たちでもどうしようもないもの」
現状の手詰まり感で食堂に集まっている人たちの顔が暗い。朝日奈が何とか明るくしようといろいろとやっているがどうしようもない状況だった。
「渡くん、そっちはどうなの?」
『何とかマシンガンへの対抗手段は開発できましたが扉の破壊または壁からの侵入手段を模索中といったところですね』
『渡、侵入手段の確立に成功したぞ?』
『えっ? 本当ですか?』
モニターに移されている渡に告げられた涌井の言葉に苗木たちの顔が明るくなる。もし涌井の話が本当ならこの学園から脱出できるかもしれないのだ。
「それって本当?」
『ああ。ついさっき超中学生級のカメラマンが侵入経路の選定してな。そこに超中学生級の偵察兵を向かわせた。もうすぐつくんじゃないか?』
涌井の言葉の直後、廊下から何かを破壊する音が響いた。その音は徐々に食堂に近づいている。戦闘可能な人は戦闘態勢を取って非戦闘員は食堂の奥に移動した。
「監視カメラの破壊を確認。カメラ越しに確認した顔を多数確認。最終確認、貴方たちが希望ヶ峰学園78期生で間違いないでしょうか?」
食堂に入ってきて人物はすぐにカメラを破壊した。その後苗木たちに問いを投げかける。その入ってきた人物は女性だった。背格好はそんなに高くないが目が違った。どこまでも見通すんじゃないかと錯覚させられそうになる程鋭い。そして首に双眼鏡をかけていて両手にサバイバルナイフを持っている。服装は軍の迷彩服に近いものを着用している。おそらく彼女が涌井の言っていた人だろう。
「ええそうだけれどあなたは?」
「菜緒は藤代菜緒。超中学生級の偵察兵の肩書きを涌井様から賜りました」
『もうついたか』
「はい、涌井様。菜緒は涌井様の期待に応えて見せましたよ」
菜緒はモニターに満面の笑みを向ける。それは相手を盲目に信じているような笑みで苗木たちはそれをみて若干顔色が悪くなった。
『よくやった。とりあえず扉の所までそいつらを誘導してくれ。扉はこっちでどうにかするからよ』
「わかりました、涌井様。・・・・・・いきましょう」
「・・・・・・いきましょう」
「そうだね。今は涌井さんたちを信じないと」
「もし罠だったらどうするべ?」
「ここまでやってきてそれはないんじゃないかな?」
「万が一のために警戒はしておいた方がいいだろうな」
菜緒は涌井からの指示に従い苗木たちを連れだそうとする。苗木たちは顔を見合わせて少し話しあった後、菜緒を警戒しながらも脱出できる可能性にかけて菜緒に従うことにした。
道中黒幕からの妨害もなく到着した。それを不思議に思いながら苗木たちは扉を見上げる。この扉をどうにかすると言っていたが涌井はどうするのだろうか。不安と期待が入り混じった目で見つめていると静かにだが確実に扉が開いていく。
『扉の開閉及び黒幕の確保に成功』
「えっ?」
モニターから聞こえた声に霧切は驚きの声を上げる。それは今まで聞いたことのない声だった。少なくとも涌井たちではないと断定できる。霧切は菜緒についていくときに持ってきたモニターをみるとそこには男性が映っていた。背は中学生の平均程で目を閉じているように見えるほど細い目をした茶髪のどこかの学校の制服を着たその男性は手にパソコンを持っていた。
「あなたは?」
『私は神崎瑠衣。超中学生級のプログラマーを名乗らせてもらっています』
「! あなたが」
同学年にいる肩書きを持つ人に霧切は驚く。モニターのプログラムを作った人物であり自分たちの恩人の1人である。
「僕と同じ才能?」
『そのようですね』
不二咲と瑠衣は互いに数秒見つめあった後プログラム談議に入った。それをあえて霧切は止めなかった。開いていく扉の前の光景に声を失っていたからだ。そこにはおびただしい数のマシンガンで撃たれた跡を体中に残した状態の死体が横たわっていたのだ。その少し遠くにパラボラアンテナが設置されていてそこから何かの音波が出ている。
「これは・・・・・・」
「貴方方を助けようとして亡くなった方たちですよ」
みんなが絶句している中状況の説明をしたのはモニターで何度もみた男性、渡だった。苗木は顔色を悪くしながら渡に近づいていった。
「! 渡くん! どうして止めなかったの!」
「私たちはその時結成されていませんでしたから」
「ならどうしてこのままにしているの!」
「先ほど瑠衣さんがシステムを掌握するまで近づけばマシンガンを撃たれていたんですよ? 死体の回収は不可能でした」
渡の答えを理解しながらもどこか納得できない苗木たちに渡は慰めの言葉をかけたりせず黙って見守っていた。この問題は苗木たち自身が見て許容しないと意味がないことだと涌井が言っていたからだ。
「渡くん、涌井様は?」
「近くまで来ていますよ。黒幕の護送とかいろいろとやっているようですが」
「そうだ! 黒幕。僕たちを殺し合わせようとした黒幕って誰だったの?」
「知ったところで意味がないと思うのですが・・・・・・まあ苗木さんたちは知っておくべきですね」
渡は苗木たちに黒幕である江ノ島について説明した。殺しあわせようとした思惑などすべてを。苗木たちは証拠と共に説明された計画に顔色を悪くしていった。2年間ともに絆を育んだ相手を殺してしまうかもしれなかったのだ。当然といえよう。
そして、一緒にいる江ノ島の変装をしていた戦刃はこの状況からの挽回は無理であると悟り菜緒による拘束を素直に受けた。この絶望的状態で笑える彼女に苗木たちは理解できないという視線を向ける人や話を聞いていてある程度性質を理解した人は憐みのような感情をのせた目線を向けた。
「・・・・・・こんなところですね」
「渡、説明は終わったか?」
「はい」
「涌井様!」
説明が終わったころ、涌井が苗木たちの所にやってきた。長身でどこか威圧感のようなものを発する涌井に思わず苗木たちは後ずさった。その様子を面白そうに見ながら口を開く。
「お前らはこれからどうする?」
「どうするって?」
「俺らとくるか独自に動くか未来機関とかいうOBどもが作った組織に行くかってことだ」
「えーと・・・・・・どうしよう?」
苗木たちは悩む。今の情勢などの情報が全くない苗木たちにこの問いは答えづらいものだった。そのことに気づいているのか涌井は参考資料として全員に今の情勢についてまとめたものと各組織についてまとめたものを手渡した。
苗木たちは話しあった結果、消去法であるが全員涌井とともに行くことに決めた。未来機関につく選択肢は資料を見て不自然な部分を霧切が指摘し涌井が正直に答えたことによって消え、自力ではどうしようもないことが情勢の資料を見て大和田にもわかったためそちらも消える。残った涌井たちの組織につくという選択肢は隠していることもあるだろうが他の選択肢よりはましだったのだ。
「それじゃあ行くか」
涌井たちは苗木たちの決断を聞くとすぐに出発するべく移動を開始した。そして苗木たちはそんな涌井たちについていく。これからどうなるかわからないが明るい未来になるように努力しよう。石丸は使命感に燃え、十神は不敵に笑う。不安がないわけではないがそれでも前に進んでいかなければならないとその場にいた全員が自然と理解していた。