富山鎮守府のいつもの朝の光景をご覧いただけたと思うがここからが本題である。鎮守府を運営していくにあたって欠かしてはならないのが執務作業。要は仕事である。この鎮守府でも周りと同じような執務をこなしているのだが、それにプラスして少し変わったこともやっていた。
「さて、それじゃあ行ってきますよっと」
ベットからでた提督が寝巻から着替えたのは白い軍服ではなく薄汚れた作業服だった。この服で執務をこなすわけじゃあるまいし一体どこへ行こうというのか。
「じゃあまた後でー」
「…待ちなさい」
提督がいつも通り執務室を出ていこうとした矢先、加賀に呼び止められる。
「なに?加賀さん」
「たまにはちゃんと仕事してるかどうかの確認のために……」
「‼」
その言葉を聞いた途端に苦虫を嚙み潰したような顔になる提督。ほぼその後に続く言葉は予測がついていたが、少しばかりの希望を持ちつつ慎重に聞き耳をたてる。
「………今日の仕事には監視をつけます」
「まって、加賀さん。俺は毎日しっかりやってるよ?」
「では見てるこっちも安心ね」
「でしょう?だからつける必要はな…「だめです」
「いやでも…「つけます」
そういうと思ってましたと言わんばかりの提督。負けじと応戦するも難攻不落の城の前にあっけなく撤退。しぶしぶ承諾したのだった。だいたい加賀がこのフレーズから入ると決まって監視につく時なのだ。今までの経験からして彼女がいると当然、提督の動きも制限されるわけで彼にとって苦痛の一日に変わるのである。
「あ、それと」
朝っぱらからまるで絶望の底に叩きつけられた気分の提督をよそに加賀が追加事項を加える。
「今回の監視役は榛名さんが担当します」
「え?私ですか?」「!?」
加賀のまさかの発言に驚きを見せる榛名。しかし一番の反応を示したのがやはり提督である。沈んでいた気分から一変。神に救われ思わず舞い上がりたくなりそうな気持ちを必死に抑えるのだった。おそらくここで感づかれたらその場で即チェンジだろう。
「本当は私が行きたいのですが艦載機の整備があるので。残念ですが」
特に出撃もないのに整備が必要なのは俺を追い回すために無駄なコストを払っているからだろうと思わず言いたくなる提督。まあ全て提督が発端なのだがそこをなんとしてでも見つけ出そうとするその姿勢がなんとも加賀らしい。でもここで彼女の機嫌を損ねるわけにはいかないのでぐっと堪える。
「あのー、監視って一体何をすれば良いのでしょうか」
榛名が加賀に尋ねる。実はこの榛名、今まで加賀が全てやってきたので監視役は初めてだった。もちろんそのことは提督も知っていた。こうなれば形勢逆転、提督のターンである。ただでさえ彼に対して甘い榛名に‘‘初めて’‘の要素が加わろうものなら取り込むことなど容易であった。
「特に何をするわけではないけれど、提督がちゃんと仕事をやっているか見張るだけよ。サボっていたら注意すればいいわ」
「なるほど、わかりました」
「あ、あと榛名さん」
「はい?」
「提督には厳しくするように」
「はいっもちろんです!」
榛名はしっかりと返事をしたのだが、悪いが正直なところこの手の約束が彼女の一番信用できないところである。よくてこの任務の半分を遂行すればいいところ、というよりまさに優しさのかたまりでできている彼女にとってこの手の任務が不向きであるのは確かであった。加賀と榛名でようやく釣り合うとでもいったところか。
「あのー、もう行っていいか?遅刻しそうなんで」
二人が話しているところにとっくに支度の整った提督が頭を掻きながら言う。
「そうね、では二人ともお気をつけて。あと提督は真面目にやるように」
「あたりまえだろ」
「どうだか」
「榛名、行って参りますっ」
加賀から提督への信用も薄い中、太陽も完全に姿を見せて段々と気温も上がってきたころに榛名と提督の二人は鎮守府を後にしたのだった。