「うんしょ、うんしょ」
「だいじょうぶかー」
「榛名は大丈夫です!」
榛名は今鎮守府の裏に面している山に登っています。そこに提督の作業場があるというのですがなかなかこの山、斜面が急で登りにくいです。それに比べて提督といったらこんなの苦ともせずスラスラと登ってしまうのでやっぱりすごいですね。
「ふうふう……お待たせしました…」
提督が途中で立ち止まっていてくれたおかげで追いつくことができました。
「お疲れ榛名。着いたぞ、ここだ」
「はあはあ……わあ…」
疲れて下げていた顔を上げて提督の指さす方を見ると山の中腹にも関わらずやけに広い平地が広がっており、そこにはたくさんの人が働いていました。
「すごい人ですね」
100人から200人はいるでしょうか。皆さん一生懸命働いているのがわかります。
「だろ。あ、おやっさんだ。おーいおやっさーん!」
「提督じゃねーか。今日も精がでるねえ」
「ちーす、今日もよろしく!」
提督が近くにいた作業服を着た男性に声をかけました。ここでの知り合いでしょうか。
「おっ今日の付き添いは加賀さんじゃないのかい」
「榛名といいます。よろしくお願いします」
「榛名ちゃんか。わしはここの作業場の仕切り役をやっているんだ。おやっさんとでも呼んでくれ」
おやっさん、ですか。なんだか初対面でそう呼ぶのは失礼な気もするので‘おやっさんさん’とでも言ったほうが良いのでしょうか……というより正直名前を名乗ってくれると一番ありがたかったのですが…
「いやあ、にしても本当に加賀さんじゃなくて助かったぜ」
「どうしてだ?」
「あの人だったらおちおち休んでもいられないぜ。あの鬼娘ときたら」
……榛名聞かなかったことにします。
「こいつひどいだろ?いつも加賀の愚痴ばっか言ってるんだよ。チクっちゃっていいからな」
「いや、それは勘弁して榛名!頼む!な!」
「ははは…」
榛名、苦笑いをしてごまかすしかありません。提督は加賀さんが嫌いなのでしょうか……いえ!そんなことありませんね。きっと冗談ですよね…?元はといえばほとんど、というより全て提督が発端な気がするのですが。
「それにしてもよぉ提督」
「ん?」
「お前のとこかわいい子ばっかじゃねーかよ!」
「へへ、まーな」
「ずりーよ!俺らのところにも少し分けてくれよ」
「だめだねー」
「だってよー俺ら男しかいないんだぜ」
「いやいやここはそういうとこだろ」
確かに炭鉱に女性はあまり見かけませんもんね。
「ちくしょー!」
「おっ、やるか?」
……なんだか取っ組み合いらしきものが始まってしまいました。こう見るとおやっさんって見た目の割りには恐い人じゃなさそうですね。
「じゃあ…また今日も…いつものことを…すればいいんだな?…はあはあ」
「ああ…そうだ…はあはあ」
二人とも息を切らしています。まったく仕事をする前から疲れてどうするんですか。
「あ、そうそう榛名」
「はい、なんでしょう」
提督が炭鉱に入ろうとする前に私に声をかけました。
「榛名、炭鉱の中は空気がとても悪いから外にいなよ」
「え……でも榛名には提督の監視の任務を任されているので…」
「確かにそうだけど俺は榛名の大事な体の方が心配だからさ」
「提督…そこまで榛名のことを…」
「だから俺が終わるまで待っててくれる?ここだったら大丈夫だから」
「はいっわかりました」
そこまで気遣ってくれているのですね!榛名、嬉しいです!
「がははは!榛名ちゃん、その言葉に騙されるなよ。別に中はそんなに汚くないぞ。そいつはただ監視を逃れたいだけだからな」
「えっそうなんですか」
「ばか…余計なことを…」
「だから全然入っても問題ないぞ」
…おやっさんの一言がなければまた榛名は提督の術中にはまってしまっていた気がします。いつも周りからは口車に乗せられやすいイメージを持たれがちですが、まずはお慕いしている提督を信じないわけにはいけないので仕方のないことだと思います。きっと加賀さんだったら軽くスルーするのでしょうね。ああいうさっぱりした態度をとれることが羨ましいです。
「提督…」
「いや、榛名が心配でさ…」
榛名がジト目を向けると提督は慌てて目線を逸らします。どうやら作戦が失敗して残念そうです。榛名、やりました!
「榛名は大丈夫ですっ、提督!行きましょう!」
「ええ……おお…」
こうして榛名と提督は炭鉱に入っていきました。
炭鉱の中はおやっさんの言った通り比較的空気は綺麗でした。どうやら空気清浄機が設置してあってそのおかげで作業で舞う土ぼこりなどを処理してくれているみたいでした。
「うんしょ、うんしょ……まじだりー疲れたー」
「ファイトですっ!」
隣にいる提督も愚痴をときどきこぼしつつもなんだかんだ作業はやってくれているので榛名も安心です。
「しかし…うんしょっ榛名も大変だな。こんなところでただ立って俺のことを見張っているだけなんて」
「いえっこれが榛名の任務ですので大丈夫ですっ」
まあ多少退屈ではありますけど。
「せっかくだから立ってるだけなのもなんだし少し体を動かしてみたら?」
「え、それはどういう…」
「ほれ」
目の前に差し出されたのは提督が持っていたスコップとヘルメットでした。
「俺が見ててあげるからやってみなよ。交換的な感じで」
「なっ!?」
「見て指導してやるよ。だから、な?」
「はあ……」
一応道具を受け取りつつも提督がさらりと言った言葉の意味を頭をフル回転させて理解しようとしています。
「……………………」
「どしたー」
「……………………」
「おーい」
ついに答えに行きつきました。榛名、こんなことには
「騙されませんっ」
「え?」
「こんなことには榛名は騙されませんよっ提督!そうやって榛名にやらせようとするつもりだったのでしょう?」
「あ、ばれた?」
「バレバレですっ」
「いやー、自然な感じでいけば大丈夫だと思ったんだけどなあ」
「まったく…続けてくださいね」
少し悩んでいたことは内緒です。でもさすがにいまので引っ掛かっていたら榛名あほすぎます。というかまだ諦めていなかったのですか。油断なりませんね。
そんなこともありつつも、着々と作業を進めていく提督。実は榛名、この機会に前から少し気になっていたことを尋ねてみようと思います。
「提督」
「ん?」
「提督はどうしてここで働いているのですか?」
この鎮守府は周りと比べて運用していくための資材がはるかに不足しています。なので特別に地元の資源を分けてもらっているのは榛名も知っていますが、なぜ提督が働いているかの関連性が分からないのです。
「いやあそりゃあよお、鎮守府の執務だとサボるのが大変だか…」
「提督、榛名はまじめに聞いています」
榛名が真剣な表情をすると提督は作業をしている手を止めて頭をポリポリと掻きました。
「俺らの鎮守府は見ての通り資材が明らかに足りない。だからこうして地元の住民にも協力してもらっているわけだ。これは知っているよな」
榛名は相槌を打ちます。
「そのためにはある程度の信頼も必要だ。だから俺が鎮守府の代表として親交を深めるために出向いているわけだ。監視役というのも半分はもちろん俺のサボり防止ではあるけど、もう半分の意味としては住民たちに艦娘の存在というものを認識してもらうためでもあるんだよ」
「まあでもたまにサボっている姿も当然見られているから信頼をあんまり得てないかもしれないけどな」
提督はそう言うと苦笑いを浮かべました。
「それだったら私たち艦娘もお手伝いしますよ」
「そう?じゃあちょっとこれ持ってみて」
「…っっ、お、重いですねっ」
提督に渡された土をこんもり乗せたシャベルを持ってみるととてもじゃないけど重すぎてすぐに手を放してしまいました。提督はいつもこんなことを普通にやっていたのですか。
「だからよ、お前らが海を守るんだったら俺は山を!的な?お前らには無理はしてほしくねえんだよ」
「万が一この富山湾に敵が攻めてくるようなことがあったら、そのときこそ俺達が守ってやらねえとな」
提督のその言葉を聞いて榛名は改めて実感しました。普段は確かにだらけているイメージがあるかもしれません。でも心の奥底にはそういう信念を秘めている提督だからこそ私たちはついていくのです。
だから榛名は騙されやすいのかもしれませんね。それで全然いいんです。でも今日ばかりは少し榛名からも仕返しをさせていただきます。
「このこと、加賀さんにも報告させてもらいますね」
「ん?いやっまて!それはだめぇぇ!恥ずかしすぎるからぁぁ!!!」
やりました♪
~榛名が今日の報告をした時の加賀の反応~
「~~~~って提督が言ってたんですよ!」
「ふーん、まあ提督として最低限の自覚はあるみたいね。安心したわ」←うれしそう