問題児たちが異世界から来るそうですよ?~全裸王(ユウシャ)異世界に起つ 作:固竜
黒ウサギが―――正確には彼女のウサギ耳だが―――言う通りコミュニティの子供たちに悪影響を与えそうな智樹を見て溜息を吐いた後、ほんの少しの間だけ彼らから目を離した。
「―――」
本当に少しの間だけだった、少し目を離しただけで智樹がボロボロになっていた。それはもうフルボッコだった。パンツ一丁だった。
(しかし、何故あの変態様は服を脱いでいるんでしょうか?)
この場合、脱いだというよりは何故か服が脱げていたと言うのが正しいのだが、事の詳細を知らない黒ウサギには智樹が脱いだと考えた。
(それにしても、頭が痛くなってくるのですよ)
黒ウサギの頭痛の原因は一つ、少し目を離しただけで喧嘩が起こるのだ。これではコミュニティとしてきちんとやっていけるのか心配で頭痛は収まらない。だが幸いなことに、飛鳥(顔が赤い)と耀が先ほどよりも少しだが仲良くなっているように見受けられるのだ。
本当にあの少しの間に何があったのか黒ウサギには分からないが。「仕方ないですね」と気分を切り替える事にした。
*
この場所に来て幾分か経っているが何も変化はない。それぞれの自己紹介も既に済んだ。いいかげん十六夜は苛立たしげに言った。
「で、呼び出されたはいいけどなんで誰もいねえんだよ。この状況だと、招待状に書かれていた箱庭とかいうものの説明をする人間が現れるもんじゃねえのか?」
「そうね。何の説明もないままでは動きようがないもの」
「・・・。この状況に対して落ち着き過ぎているのもどうかと思うけど」
(全くです)
黒ウサギも耀の言う事は全くその通りだと思った。特にあの変態様は来て早々エロ本を懐にしまうなど落ち着き過ぎている。(実際の所、智樹の思春期の性衝動が動揺をかき消してしまったのだが黒ウサギには分からない事である)
彼ら3人以外にも目を向けた。
イカロスと名乗る少女は何を思ったのかオロオロし始め、アストレアと名乗る少女は大分回復したようだが、いまだにキノコに苦しんでいた。ニンフと名乗った少女は羽をパタパタさせながら何かを調べているように黒ウサギには見えた。いったい何を調べているのか気になった黒ウサギだが一旦、心の片隅に置いておく。
そして最後に、あのフルボッコだった智樹は・・・。
(あ、あれ?あの変態様は?)
「―――仕方がねえな。こうなったら、そこに隠れている奴にでも「きゃぁ!?」あ?」
黒ウサギの悲鳴が聞こえた。6人の視線が黒ウサギの方に集まる。そう、6人である。ではもう一人は?答えは簡単だ。
「あ、あなたはいったい何を考えているんですか、この変態様!」
桜井智樹その人は黒ウサギのスカートの中に頭を突っ込んでいた。これは比喩ではない、かつてアストレアのスカートに頭を突っ込んだ事があったがそれ以上に突っ込んでいた。
スパーン!とハリセンで叩いた時に出るいい音が何度も聞こえてきた。
*
「そう言えばさっき言っていたわね、貴方も気付いていたの?」
「当然。かくれんぼじゃ負け無しだぜ?そっちの猫を抱いてる奴も気付いていたんだろう?」
「風上に立たれたら嫌でもわかる」
「・・・へえ?面白いなお前」
軽薄そうに笑う十六夜の目は笑っていない。3人は黒ウサギに理不尽な召喚に対しての腹いせに殺気を籠めた冷ややかな視線を向ける。未だにハリセンからいい音を鳴らし続けていた黒ウサギが止まるほどには怯んだ。智樹を離す。イカロス達が駆け寄るが心配はないようだ。「マスター、め」と自分のマスターを戒めるイカロスだった。
さすがに動揺していたとはいえ黒ウサギも命までは取らない。そこはさすが箱庭の貴族と言ったところか・・・。何処かの殺人チョップとは大違いである。
「や、やだなあ御三人様。そんな狼みたいに怖い顔で見られると黒ウサギは死んじゃいますよ?ええ、ええ、古来より孤独と狼はウサギの天敵でございます。そんな黒ウサギの脆弱な心臓に免じてここはひとつ穏便にお話を聞いていただけたら嬉しいでございますヨ?」
「断る」
「却下」
「お断りします」
「ニンフ先輩!」
「なによ?」
「脆弱ってなんですか!」
「あっは、取り付くシマもないですね♪」
バンザーイ、と降参のポーズ取る黒ウサギ。だが、その眼は先ほどの動揺していた時とは違い冷静に彼らを値踏みしていた。智樹を決して視界から外さずにだ。
「脆弱って言うのは―――」
(肝っ玉は及第点。この状況でこれは買いです。とてつもなく扱いにくいのは難点ですけども)
黒ウサギはこれからどう接していくべきかを考えながらおどけている。そんな黒ウサギの隣に立った耀、彼女は不思議そうにしながら黒ウサギの黒いウサギ耳を鷲摑み、
「えい」
「フギャ!」
手加減しながらも力いっぱい引っ張った。ほんのちょっぴり『ブチ』っという音がウサギ耳の付け根の方から聞こえたがあえてスルーした。
「スルーしないでください!それよりも何よりも、ちょっとお待ちを!触るまでなら黙って受け入れますが、まさか初対面で遠慮無用に黒ウサギの素敵耳を引き抜きに掛かるとは、どういう了見ですか!?ブチって言いました、ブチって言いましたよ!?」
「好奇心の為せる業」
「自由にも程があります」
「へえ?このウサ耳って本物なのか?」
「・・・。じゃあ私も」
「ちょ、ちょっと待―――!」
今度は飛鳥が左から。左右から力いっぱい引っ張られた黒ウサギは、突如復活した智樹が近付いてくるのを見ていたので条件反射的にハリセンで撃退、その後声にならない悲鳴を上げる。その絶叫は近隣に木霊したのだった。
*
桜井智樹とは性欲が強すぎる変態中学生で、いつ誰に訴えられて逮捕されてもおかしくないような人間だ。最近では未確認生物にまで欲情するようにまでなった。自ら混沌と言う名の棺桶へ片足を突っ込んでいるような男だと思われても仕方がないだろう。
だが、本来の彼は平和を愛する若者である事を忘れてはならない。
新大陸発見部に入る位なら大丈夫、会長の気まぐれで変なお祭りに巻き込まれるのもまだ平気だ。だが、いきなり異世界に召喚はさすがの智樹でも簡単に受け入れるのは難しかったようだ。
智樹が空から真っ逆さまに落ちていった3人の無事を確認した後の行動はなんだっただろうか。智樹はエロ本を拾った、他にもいくつかの変態行動を取っている。その原因は全て異世界への恐怖を誤魔化すためなのだろう。
いざ、冷静になった後の智樹はとても大人しかった。しかも小刻みに体が震えていた。
「―――あ、あり得ない。あり得ないのですよ。まさか話を聞いてもらうために小一時間も消費してしまうとは。学級崩壊とはきっとこのような状況を言うに違いないのデス」
「いいからさっさと進めろ」
黒ウサギによるこの異世界『箱庭』についての説明が始まった。
曰く、黒ウサギはギフトゲームの参加資格をプレゼントすると言う事
曰く、ギフトゲームは特異な力“恩恵”を用いて競い争うためのゲームだと言う事
曰く、コミュニティに所属しなければならない事
黒ウサギの一言一言を記憶していくニンフ。アストレアにはチンプンカンプンだった…。
黒ウサギの説明が終わり質問タイム。飛鳥が何度か質問をした。黒ウサギはそれに答えた後、質問タイムを締めくくろうとする。その時、十六夜が待ったをかける。彼は質問した。
「この世界は・・・面白いか?」
それは何もかも見下すような視線でいった一言だった。
『家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨てて“箱庭”に来い』と書かれていた手紙。彼ら問題児3人にとって重要なのはそれだ。
(俺のエロ本コレクションが・・・)
それなのに・・・・・・桜井智樹が震えていた理由はエロ本が無くなったショックだったのだ。やはり智樹は智樹だったようだ。
「―――Yes。『ギフトゲーム』は人を越えた者たちだけが参加できる神魔の遊戯。箱庭の世界は外界より格段に面白いと、黒ウサギは保証します♪」
イカロスがオロオロしていたのはスイカが無いからだったりします。色々とダメなところが多いですがそれでもいいやって人はこれからも読んでくださったら嬉しいです。