俺は現在、俺が所属している部活動、『神の子』の部室——第2多目的室にいる。
『神の子』には俺以外にも、妹の美華と幼馴染の詩帆、おまけで同級生が1人所属している。
『神の子』というのは今から三十年前に設立された部活動で、他の学校で言うところの総合文化部に当たる(と思う)。
『神の子』なんて、部活動としてふざけたネーミングだと思う。実際、この部活動自体三十年前の校長が「名前に神の名前が入っている人専用の部活を作っちゃおう」と酒を飲んで酔った勢いで作った部活らしく、名前もその場のノリで付けたらしい。本当にふざけてやがった……。
名前で入れるか否かが決まる部活動なんて、差別のような感じがして気にくわないが、自由な活動ができるという理由で普通に人気が高い。おまけに、かく言う俺自身が所属してしまっているのだからなんとも言えない。ちなみに、俺の名前に含まれる神は
……と、そんなことはどうでも良い。
今重要なのは、仰向けになった俺の上に、裸の美少女が乗っているということだ。それも、中途半端な裸ではない。一糸纏わぬパーフェクトマッパだ。
現実離れした可愛らしい顔をした美少女。茶色の髪に、緑色の瞳。標準か、それよりも若干大きい程度の胸。不思議なことに、尻からは二本の尻尾が、頭には一対の猫耳がついている。もしかして、昨夜見た夢はなんらかの予知夢ではなかったのだろうか。
夢の中で見た猫又美少女がそこにいた。
なんて、冷静に美少女の裸体を見ている場合じゃない。冷静に分析してしまったのは、男の
俺たち二人の姿勢が姿勢なだけに、今の状態を他の人に見られたら非常にまずいことになるに決まっている。
若い男女が部屋に二人きり。姿勢というか、体位というか……十八禁なことをしているように見えてしまうはずだ。いや、この際だからはっきり言おう。
俺と美少女がセックスしているように見える!
この状況をどう説明しろと言うのか。
とりあえず、見られてしまった時の言い訳を考えるため、俺は今に至るまでの経緯を思い返すのだった。
◇
俺はいつも通りの時間に起きて制服に着替えると、台所に行って朝食を作り始めた。
母親は既に死去。父親もアメリカに行ってしまっているため、俺の家に両親はいない。よって、俺は、美華と二人で暮らしており、料理当番は俺である。
ちょうど朝食が完成するか否かの頃、美華が起きてきた。
朝食中、美華の「今日も美味しいね」とか「クッキングブラザー」といった言葉には、「ありがとう」とか「はいはい」とか適当に返事をして、その場は流しておいた。
朝食を食べ終わったのが七時。今度は飼い猫——こころの器にキャットフードを盛る。
こころが餌を食べ始めたのを見届けると、俺は洗面所で歯磨き、顔洗いなど、身嗜みを整えた。
身嗜みを整えると、鞄を持って玄関へ。
しかし、ここで思いがけないことが起きた。
リビングから出てきたこころが、俺の肩に飛び乗ったのだ。
「おい、家で待ってなきゃダメだろう?」
「ニャー……」
「ほら、早く降りて」
「ニャー!」
こころは俺の背中から降りようとしない。
持ち上げようとしても身体を預けてこず、肩から離れるつもりは全くないらしい。おまけに、制服に爪を立てて身体を固定しやがった。
制服がビリビリになるのは嫌なので、俺は仕方なく、こころを連れて学校に行くことにした。
美華が玄関から出てくると同時に、詩帆も我が家に到着。いつもの三人+一匹で登校することになった。
もちろん、一般的な高校と同じく、ペットを校内に持ち込むなど、俺の通う高校——私立
俺が高等部に上がったばかりの頃にも、こころは学園に凸してきたことがあるのだ。まさか、一時間目の授業中に教室に忍び込んでくるなんて思っていなかった。あれは本当にビビった。
そんなわけで、こころは有名になってしまい、平日は家に一匹だけということもあって、校内への出入りが自由になったのだ。と言っても、授業中の接触は禁止のため、部室や職員室に預けられるのだが。
ということで、登校した俺はこころを部室に預けてから教室に向かった。
そして、放課後。
授業を終えた俺は急いで第二多目的室に向かった。
部屋の前に到着し、ドアノブに手をかける。すると、
「うーん……ご主人遅いですね……」
聞いたことがあるような、ないような……。そんな感じの女性の声が部屋の中から聞こえた。
声の高さやトーンからすると、おそらく同年代の少女だろう。
ドアの向こうに誰がいようと関係ない……わけではない(着替え中の女の子とかが居たら困る)が、見知らぬ人がいても
もちろん、今回も躊躇いなくドアを開けた。ただし、気づかれないようにゆっくりと。
部屋の中には裸の美少女がいた。大切なことだからもう一度言おう、裸の美少女がいた。
少女はこちらに背を向けており、俺の存在に気づいている様子はない。
ところで、可愛いコがいたら、弄りたくなるという気持ちが湧くのはおかしいことだろうか? 少なくとも、俺は湧いてしまう。
そういったわけで、俺は少女の真後ろに立ち、
「おぅ!」
少女は一瞬ビクッと身を震わせたが、こちらを見ると、
「ご主人〜!」
飛びかかってきた。
◇
こうして、始まりに行き着くわけである。
裸の美少女を下から見上げるというアングルから見える景色は、俺としては絶景である。神に感謝。
しかし、いくら絶景とはいえ、この状態をいつまでも続けているわけにはいかない。
同級生であり、同時に神の子メンバーでもある詩帆が、今この場にいないのは、彼女が今日の日直だったためだ。俺と比べて遅れているのは、日直日誌を職員室に届けに行くために生じる時間だけ。要約すれば、詩帆はこの部屋にすぐやって来る。
前述の通り、俺と少女の姿勢は非常にまずい。こんなのを誰かに見られた暁には、俺の社会的地位など一瞬で吹き飛ばされてしまうだろう。
それだけはどうしても避けたいわけで、そのためには少女に退いてもらうしかないわけで、
「退いてくれないかな?」
俺はできるだけ笑顔を作って言った。だから早よ退け!
「嫌です」
たった一言で返された。しかも拒否。
思わず表情が固まってしまうが、少女は続ける。
「私はご主人のことが大好きなんです。もうこのまま、ご主人の服をビリビリと引き裂いて、無理矢理にでも交尾してしまいたいくらいです」
「交尾とか生々しいな⁉︎」
「そして、永遠を誓ったつがいとなりたいのです」
「つがい⁉︎」
「ですから、交尾しましょう」
「お断りだっ!」
何この子怖い! すごく怖い! 化け物に食われるとか——いや、このままだと違う意味で食われるんだけど、どちらにしろ怖い! 俺の人生を狂わせようとしている!
と、
「今日は何します?」
「特に決まっていないし、いつもどおりでいいんじゃない? あ、でも、今日は悠平いないからね。なんでも、他の部活の助っ人に呼ばれてるとか」
「あー、確かにあの人は運動も勉強もトップクラスですからね……。なら、今日は三人で何かしないといけませんね」
「あら、三人だけじゃないわよ?」
「あ、越前先生」
「ハーイ、玉藻ちゃんよ♪」
「先生も一緒に何かする?」
「残念ながら、今日は悠平クンの試合を観に行ってくるのよ。また今度誘ってちょうだいね」
廊下から、顧問の先生と部員たちの声が聞こえてきた。これは本格的にまずい。
もしも、今の俺の状況を見られたら、俺の人間関係に亀裂が生じるのは間違いない。部員には妹も含まれるから、妹に嫌われる可能性だってある。
そんなわけで、事態は一刻を争う。だから、少女をどうやって退かすかを悩んでいる暇が俺にあるはずがなく。そして、身の危険を感じたのだから、優しい言い方ができるはずもなく。
「退けぇ!」
思わず怒鳴ってしまった。
「あ、ごめん……」
俺は急いで誤ったが、既に遅い。
少女の目には涙が浮かんでいた。
「ご主人は、私のことが嫌いなのですか?」
「いや、別に嫌いじゃないけど……」
初めて顔を合わせたばかり人を嫌いにはならない。可愛いことも、嫌いにならない要因の一つだ。
——と、そんなことを考えている場合ではない。早く退いてもらわねば。
「とりあえず、早く退いてくれない? これ見られたらまずいんだよね」
「では、見られてないのなら、交尾してくれるということですか?」
「ちっがーう! いいから退いてくれ!」
「なら、この場で! すぐ! ヤる!」
「違う! すぐ! 退く!」
部員たちの足音がすぐそこまで来ている。音の大きさからして、この部屋に入ってくるまで後十秒もかからないだろう。
「ほら、足音聞こえるだろ? 見られたらまずいんだ。早く退いてくれ」
「わかりました! 行為を早く済ませればいいんですね!」
「わかってねぇよ!」
そんな早く出せるか! ——って、違う。そうじゃない。
そうこうしてる間に、足音が部屋の前で止まった。
ドアノブに手がかけられ、ドアが開いていく。
——終わった。
全裸の美少女が俺の上に乗っているのを見られる。
俺は平穏な学校生活の終わりを覚悟し、目を閉じた。
「部室よ、待たせたな!」
「待たせたな!」
詩帆と美華が、某ダンボールの人の台詞を言いながら部屋に入ってきた。二人に続き、山吹色の髪をした美女——越前玉藻先生が静かに入ってくる。
「あ、お兄ちゃん早いね。そんなところに寝て、何してんの?」
「何って、見ての通りだ……」
「床で寝てるようにしか見えないよ」
……何を言っているんだ、我が妹は?
「いや、見りゃわかるでしょ」
「わかんないんだけど」
「いやいや、わかるでしょ! 俺の腹の上に乗ってる美少女が乗ってるでしょ!」
俺は自分の腹を指差しながら言った。
が、
「いや、美少女なんていないし」
…………はい?
俺は混乱する。
今は目を瞑っているおかげで見えていないが、俺の腹の上の気配は消えていない。更に、腹の上に何かが乗っている感覚がある。つまり、美少女はまだ移動していないということだ。
ところが、美華はいないと言う。
いったい、どういうことだろうか? そういえば、腹は軽くなったような……。
悩んでいても仕方ないため、目を開けてみることにする。
「……………………あれ?」
俺の腹の上には、こころがいた。
「なんで……こころ……?」
「私たちが入ってきた時から、颯人の上にはこころしかいなかったよ」
「マジ? じゃあ、さっきのあの子はいったい……」
「さぁ? 颯人の幻覚か何かじゃないの?」
「ふむ、幻覚ねぇ……」
詩帆の言葉に、俺は悩む。
あの感覚はどう考えても幻覚じゃないと思う。話したし、押し倒されたし、失礼だけど重かったし.。
「あ、もしかして、欲求不満だったとかじゃないかしら?」
「は?」
越前先生がとんでもないことを言った気がする。
「だって、颯人クン、毎日忙しいでしょう? 家事やって、学校来て、部活やって、家帰ったら、また家事やって。処理する時間がないんじゃないかしら?」
「先生、いったい何の処理……?」
「え? もちろん、性よ——」
「ストーップ!」
俺は越前先生の言葉を強引に終わらせる。
「先生、妹に変なことを教えるのはやめてください。そういうのは、時が来たら勝手に自分で調べるものなんです」
「あら、その時が来なかったらどうするのかしら?」
「その時は、俺が責任を持ってどうにかします」
「身体を使って?」
「⁉︎ そ、そんなことするわけないじゃないでひゅか!」
「動揺しすぎよ」
「くっ……」
負けた。越前先生には勝てない。これが、オトナのテクニックってやつか……。
「ふふふ、じゃあ、私はもう行くわね」
越前先生はドアノブに手を掛ける。
と、
「あ、そうそう。処理に猫ちゃんを使うのはやめなさいね」
振り向いて、そんなことを言った。
……ちょっと待て。俺はケモナーじゃないから、獣姦は嫌だぞ。
それと、そんな欲求なんて処理しなくても割とどうにかなる。どうしようもない時なんて、滅多にない。というか、そんな時が来たこと自体ない。
文句を言いに行きたいが、越前先生は既にドアの向こう。部屋を出るのも面倒なので、追いかけはしない。
「全くあの人は……」
俺は溜息を吐きつつ、こころを持ち上げて立ち上がると、椅子に座った。俺に続き、美華と詩帆も椅子に座る。
「とりあえず、早く部活を始めよう。今日は何がしたい?」
「じゃあ、私は——」
やりたいことの意見が出る。部活動が始まる。
最初に変なことがあったり、変なことを言われたりしたが、『神の子』は相変わらず平和だ。
◇
「ふあぁ……」
宿題の漢字プリントを終わらせ、
こういった、一人でできることは嫌いじゃない。周りを気にかける必要があまりない。要は、気楽にできることが好きなのだ。
成績も顔も性格も家柄も……何を取っても普通。特にこれと言った特徴はなく、どこにでもいる平凡な高校生男子。女子に特別モテることはなく、かと言って特別嫌われているわけでもない。クラスで浮くことなく、自然と溶け込んでいる。
そんな風に、特筆することがないのがこの俺——健布都颯人。
——だったら良かったなぁ、と思っている。
現在は、クラスメイトたちがなんとなく受け入れてくれているため、クラスに浮くことなく馴染めていると思うが、俺のことを何も知らない人が俺を見れば、俺は間違いなく浮いているだろう。その原因は、この髪の毛にある。
クラスメイトにも、若干赤みがかかった髪の毛や金髪の奴がいるが、地毛と言えば問題なく通るレベルの者しかいない。しかし、俺の髪の毛は明らかに地毛には見えないのだ。
普通、若白髪というものは、頭のところどころに点々と生えるものであり、遠目からでは全く気付かないのがほとんどだ。しかし、俺の髪の毛の場合は、前髪の一部が完全に白髪になっている。まるで、そこだけ脱色したように真っ白な髪の毛が生えているのだ。例えるなら、夜空に走る稲妻のような感じ。黒髪がベースで、一本の線を描くように白髪が集まっている。おかげで、遠目からでも目立ってしょうがないのだ。
これが俺の最も大きな特徴だが、特徴は他にもある。
まず、俺の父親——健布都
次に、俺は昔から何度も喧嘩をしてきた。いや、巻き込まれてきたという方が正しいか。髪が少々奇抜であるため、小学生の時はよくいじめのターゲットにされたし、中学生の時は不良グループのリーダー的存在に
そして、妹の存在さえも特徴になっている。俺の妹——美華は、兄である俺が言うのもなんかアレだが、美少女である。並の男子なら、その笑顔を向けられただけで、クラッと来てしまうだろう。そんなレベルの美少女である。気がつけば、「美華のお兄様」という新しい特徴が出来上がっていた。
髪、家柄、喧嘩、妹。大きな特徴を並べただけでこれだけ、小さなものも挙げたらキリがないだろう。
とにかく、俺には無駄にたくさんの特徴がある。ライトノベルとか漫画とかでよく見かける『見た目とか成績とかは普通で突出したことはないが、中身がしっかりしているから一緒にいるうちに好きになる』主人公とは違ったタイプの人種だ。『普通=平和』ならば、俺は戦火の真っ只中にいる人間である。
そんな俺だが、ずっと地元に住んでいるおかげで、外見が原因のトラブルは(地元限定で)最近ほとんど起きたことがない。
新しく入ってきた教師や転校生には、初対面で「ふ、不良だ!」と言われることが多い(もう十回以上言われた記憶がある)のだが、その度にクラスメイトや地元民のみんなが俺のことを
しかし、俺は悩んでいる。
果たして、俺みたいな見た目のやつがみんなと一緒にいて良いのだろうか?
髪が奇抜だから、周りの人も変な目で見られるかもしれない。俺を不良だと認識し、その仲間だと誤解されてしまうかもしれない。怖がられてしまうかもしれない。
もしも、みんなを巻き込んでしまったら、申し訳なさすぎる。そうなったら、俺はきっと嫌われる。いや、そうでなくとも、今すぐ嫌われてしまう可能性だってある。
今の俺は『特別』な存在だが、その存在がいつ『異質』な存在になってしまうのかわからない。
——なんとかして対策しなければ……。
一人になっても大丈夫なように……違う! 一人にならないようにだ!
いつの間にか諦めかけていたことに気づき、俺は心の中で喝を入れる。
こういう、すぐに諦めちゃうのもマイナスポイントだよなぁ……。
「そのうち、部活で相談してみるか……」
『神の子』部員たちなら、きっと良い答えを出してくれるだろう。何より、俺一人じゃあ、マイナスな答えしか出そうにない。
ああ、やっぱり俺一人じゃあ何もできないじゃないか。
「情けないなぁ……」
悔しいが、これが俺の実力か。
そういえば、部活の時のアレを見られていたら、絶対にまずかったな。仲が良い詩帆や悠平、美華にすら嫌われそうな気がしてきたぞ。
ダメだ。考えれば考えるほど、悪い想像ばかり思い浮かぶ。
きっと疲れているんだ。今日はさっさと寝よう。
既にベッドにスタンバイしていたこころの頭を軽く撫で、俺は眠りにつくのだった。
◇
もぞもぞ……!
「ぅん……?」
布団の中で何かが動く感覚があった。
俺は目を覚ます。
眠い目を擦りながら時計を見ると、朝の五時。起きる時間としては、いつもより三〇分ほど早い。
「まったく、こんないたずらをするなんて、どこのどいつやら……?」
そんなことを言いつつも、犯人はわかっている。
俺と一緒に寝ていたのは飼い猫のこころだ。布団に潜り込むなんて、そんなことするのは、こころしかあるまい。
俺は布団の端を持ち上げる。
「んニャ?」
ばさっ!
何故だ……? 何故、あいつがここにいる?
裸の美少女がいた気がする。
……いや、落ち着け。きっと俺の見間違えだ。見間違えにちがいない。
心の中で自分に言い聞かせながら、俺は布団をめくった。
「…………Oh」
ネイティヴな英語が出てしまった。
布団の中にいたのは、裸の少女。昨日会った、あの猫又美少女だった。
「おはようございます、ご主人」
「ああ、うん、おはよう」
「…………」
「…………」
…………どうしよう。
思わず、普通に挨拶してしまったが、俺は何をすれば良いのだろうか。
そうだ。父さんが言っていた。こういう時は叫べ、と。……って、違う! こういう時に叫ぶのは男の子じゃなくて女の子だ。
……叫んでくれないかな? と言うか、ご主人って誰だよ?
「ご主人」
「……………………ん、俺のこと?」
俺が聞き返すと、少女はコクリと頷いた。
なるほど、彼女の言う「ご主人」は俺だったか。……俺が頼めば、なんでもしてくれるのかな? ……いや、頼みたいことは何もないが。
ところで、俺は少女が次に言うであろう言葉がわかるんだが……。そう、きっと性に関することを言うはずだ。
「朝の交尾をしましょう」
ほら言った!
おはようのキスみたいなノリで言うんじゃねぇ!
てか、前から思ってたけど、あんた誰だよ!
「うん、女の子がそういうこと言うのはやめようね」
「『うん』って言った! お許しが出た!」
「出してねぇよ!」
ついつい大声が出てしまった。
と、俺はここで気づいた。今、俺がいる場所は自宅であること。そして、すぐ隣の部屋では妹が寝ていることを。
つまり、騒いだり、大声を出したりしようものなら、
「お兄ちゃん、うるさい!」
……もれなく、美華が苦情を言いに来るわけで。
「ごめん、静かにするよ」
「うん、わかればよろしい」
俺が謝ると、美華はそう言って、何事も無かったかのように扉を閉めた。
……もしかして、これは助かったパターンか?
「お兄ちゃん、その人誰⁉︎」
扉が開き、パニック気味になった美華が部屋に飛び込んできた。
きっと、扉を閉めたのは気分の切り替えのためだったんだろうなぁ。
「ははは……」
笑ってごまかそうとするが、乾いた笑い声しか出なかった。
この後は、間違いなく家族会議だろう。
朝から修羅場とは、俺はやっぱり普通じゃない。