我ら神の子!   作:四ツ兵衛

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双六(前編)

「みなさん、ゲームしましょう」

 

 とある日の放課後、美華は1枚の大きな厚紙を持ってきた。

 厚紙にはポップで可愛らしいカラープリントが施されており、マスが連なることによって道が作られている。なるほど、双六(すごろく)か。

 

「だいたいのテレビゲームとかゲームアプリとかは4人まで参加できるので、今までは色んなゲームができましたけど、最近こころが入ってきたおかげで5人になっちゃったじゃないですか。だから、5人でも楽しめるゲームないかなぁ、って思って。自分で双六を作ってきちゃいました」

 

 恥ずかしそうに「えへへ……」と笑う美華。可愛すぎか!

 

「へぇー、面白そうじゃん。ルールは?」

「人生ゲームみたいな双六ですね。さすがに、一生分を作ることはできませんでしたけど。とりあえず、基本となるルールは所持金が0になれば即負け、所持金を保ってゴールできれば一応クリアです。ゴール時の所持金が一番多い人が一位で、ゴールした順番でボーナスが出るのでゴール時の所持金が少なくても早くゴールすれば逆転の可能性は結構あります。……まぁ、他のルールはプレイ中に説明しますね」

「オーケー。じゃあ、今日の部活は双六だね。ほら、あんたたちも来なさい」

「へぇーい」「にゃーん」

 

 詩帆が声をかけると、気の抜けた返事をしながら悠平とこころが集まってくる。

 俺は、机を並べて良い感じの台を作って、その上に双六の厚紙を置く。……うん、ちょうどいい大きさだ。 

 

「おおー、これは何ですか?」

「双六って言うボードゲームだ。美華がみんなで遊ぶために作ってくれたんだってさ。美華に感謝しろよ」

「美華さーん、ありがとうなのです〜」

「ちょ、こころ。抱きつかないで……」

 

 否定的なことを言いつつも、抱きつかれて嬉しそうにはにかむ美華。

 こころはそんな美華に頬擦りしながら、

 

「えへへ〜、可愛いし、優しいし、最高の妹様です〜。撫で撫でしちゃいます」

「褒めすぎだよ〜」

「おまけにチューもしちゃいます」

「それは本気でやめて!」

 

 あ、今のはガチで嫌がったな。

 

「よーしよしよし、離してあげようなー。ゲームマスターを解放しなきゃ、ゲームできないからなー」

 

 俺はこころの頭を撫でて、彼女の力が抜けた瞬間に美華から引き離す。好きな人に触れられると力が抜けてしまうのは人間も猫も同じらしい。人間の場合、逆に固まってしまうこともあるが。

 見よ、全国のラブコメ主人公よ。これが好意の使い方だ。

 ……なんてことを考えても、フィクションの存在に届くはずがない。と言うか、鈍感主人公どもにはそもそも理解できまい。

 

「はぁー、羨ましいな……」

 

 悠平がボソッと呟いた。

 

「なぁ、颯人。なんで、お前には可愛い妹や好意を寄せてくれる美少女がいるんだ? 少なくとも、顔は俺の方が良いはずなんだがな」

「さぁ、なんでだろうな?」

「ところでよぉ。今思ったんだけど、百合って良いよな。美少女が絡み合ってにゃんにゃん」

「うん。そういうところが原因だと思うぜ」

 

 俺の言葉を裏付けるかのように、女子たち3人の悠平を見る目は冷たかった。

 

「さて、大國先輩みたいな変態は放っておいてさっさと始めましょう」

「そうですね」「そうだね」「そうだな」

「酷いっ! でも、それが気持ち良い!」

「「「「このど変態がっ!」」」」

 

 白目を剥く悠平に、俺たち4人は絶叫した。

 

 

 コマとして鉛筆のキャップを用意し、サイコロを越前先生から借りてきて準備完了。なお、借りに行った時に双六をすることについて先生に話したら、先生もゲームに参加することになった。

 

「それでは、これから人生ゲームっぽい双六を始めたいと思います。みなさん拍手〜」

 

 美華の声に合わせてみんな拍手すると思ったら、拍手したのは俺だけだった。めっちゃ恥ずかしい。クラスとか集会とかで浮くよりはマシだけど、顔がちょっと熱くなるくらい恥ずかしかった。

 

「ふっ」

 

 悠平にめちゃくちゃバカにした感じで笑われた。

 ……ちくしょう、よりによって普段恥ずかしいことばっかりしてるやつに。

 悔しいが、ここで文句を言っても仕方がないため口を閉じる。

 

「ルールはプレイしながらの方が覚えやすいので、さっさと順番を決めて始めましょう。公平にじゃんけんで」

 

 じゃんけんの結果、悠平、美華、先生、俺、こころ、詩帆の順番に決まった。

 なんでこいつは一番ばっかりなんだろう、と毎度毎度かなり不思議に思っていたりする。まぁ、一番だからと言って必ずしも良いことばかりではないことを知っているから、別に羨ましくなどないのだけれど。

 

「よっしゃー! やっぱり俺が一番だ!」

 

 本人は良いことばかりじゃなくても嬉しいらしい。

 悠平は腕をブンブンと振り回し、

 

「そーれっ!」

「あ、ちょっと待ってください」

「えっ⁉︎」

 

 美華の言葉に、悠平はピタッと動きを止めたが、時すでに遅し。

 サイコロは悠平の手を離れ、宙を飛んでいた。

 カツッという音を立てて床で跳ね、コロコロと転がって出た目は5。

 

「実は、最初に出た目で、スタート時の所持金と進むルートが決まるんです」

「マジで⁉︎」

「はい。だから、どんな目が出てもいいように、先にあるマスを確認して、覚悟を決めてから振ってもらいたかったんですけど……。大國先輩が勢いに任せてポイッと投げてしまったので」

 

 詩帆は気まずそうに目を逸らした。

 双六のボードに目を移してみると、確かに最初の6マスには初期の所持金についての記述やルートの分岐がある。もらえる金額に桁のレベルで差があることや職業が決まることを考えると、後のゲーム進行に関わってくる重要なポイントであることは間違いない。

 悠平は不満な様子で、

 

「先に言ってくれよ〜」

「双六って、先にあるマスを確認してからサイコロを振るのが普通じゃないんですか?」

「……おいおい、何を言ってる? 人生は行き当たりばったりだろ。瞬間瞬間で変化していくんだから、どんな場面でも今を精一杯生きていくのが大切なんだぜ」

「かっこいいこと言ってるつもりでも、要するに計画性なんて皆無ってことだね」

「ふん! 関係ねーな。どんな場面でも俺がナンバーワンだ!」

 

 悠平は青いコマを5マス進める。

 

「ほら見ろ! 当たりのマスだ!」

 

 悠平が止まったマスは医者のルートに進むマスだった。ルート上には比較的大金が手に入るマスが多く、与えられた金も200万円となかなかの金額。こんなに初期の金額が高いなんて、こいつの大学費用の出どころが非常に気になるところだ。

 

「まぁ、説明が遅れても結果オーライで良かったです。では、私ですね。ポイッと」

 

 美華の振ったサイコロの目は4だった。

 

「あ、作家ですか……。1発当てれば大儲けできる職業ですね」

「逆に言えば、当てなきゃ稼げないんだよな」

 

 白いコマが止まったマスから続くルートを見ると、大きく稼げるマスがあれば、全然稼げないマスもある。

 当たりでもあるし、ハズレでもある。作家はギャンブル性が強くて、安定が難しい職業だな。正直、このゲームで作家のルートには進みたくない。

 美華は50万円を手に入れ、先生にサイコロを渡した。どうやら、どこかの大賞に応募した結果、金賞でデビューという設定らしい。

 

「じゃあ、行くわよ!」

 

 先生の出した目は6。山吹色のコマが止まったマスから続くのは教師ルートだった。

 

「あらあら、そのまんまだわ〜」

 

 教師は平均的な給料が貰えるルートだ。……サービス残業とか、休日出勤とか、かなりブラックなマスが多いのは目を瞑ろう。

 先生は30万円を手に入れる。

 そして、ついにサイコロは俺の手に渡ってきた。

 

「さて……俺も投げる!」

 

 ポイッ!

 出た目は1。

 コマ(色は黒)を進めると、

 

「警察官か……」

 

 なかなか良い職業じゃないか。法の守護者なんて、かっこいい。

 ……正直、警察との関わりにはあまり良い思い出がないけど。職務質問とか職務質問とか職務質問とか……。

 

「とんでもない警察官だね……。顔怖い……」

「悪そうです……」

「犯罪者よりも犯罪者っぽい顔してるよな」

「強盗が尻尾巻いて逃げ出すわね」

 

 こいつら……。生徒だけならまだしも、先生まで……。

 

「お兄ちゃん、ポリスマンかっこいい!」

 

 妹よ、お前だけが俺の癒しだ。

 

「……まぁ、ハズレではないかな。給料も悪くないし」

 

 行く手には左腕欠損とか殉職とか物騒な言葉が書いてあるマスも存在するが、給料は決して悪くない。だいぶ安定したルートのようだ。

 俺は30万円を手に入れ、こころにサイコロを渡す。

 

「ご主人に続けー、です!」

 

 3が出た。

 

「ご主人と離れ離れになってしまいました……」

 

 職業はアイドル。これもまた、作家のようにギャンブル性の強いルートだ。貰える金額の波が激しいのは、アイドルの旬ということだろう。

 ……正直、こころにアイドルというのはぴったりな職業だと思う。妖怪だから年をとりづらいし、何より可愛いし。

 こころは残念そうに緑色のコマを動かし、100万円を手に入れた。美少女コンテスト的なものでグランプリを取って、デビューしたという設定なのだろう。

 サイコロは詩帆の手に渡る。

 

「じゃあ、最後は私だね」

 

 詩帆がサイコロを投げる。出目は6だった。

 赤いコマが教師ルートに進む。

 

「先生とは同僚だね。よろしく〜」

「ええ、よろしく。同じ教師として仲良くやっていきましょう」

「もっちろん! 私と先生のどっちかが一位ね」

「ふふふ、そうなると良いわね。でも、悠平クンは手強いわよ?」

「あんなのただの運だから」

 

 詩帆も先生も笑い合っている。

 悠平はそんな2人をニヤニヤしつつ見ていた。まるで、絶対に勝てるとでも言うかのように。

 ところで、女性教師=巨乳という定義は間違っていなかったらしい。やっぱり、先生って言ったら巨乳だよな。

 

「とりあえず、全員のルートが決まったから、ここからが本番ですよ。……この職業なら、誰にでも勝ち目はありますので、みなさん頑張ってください」

「……ちょっと待て。その言い方からすると、勝てないルートがありそうなんだが?」

「ん? ありますよ。もちろん、絶対に勝てないわけじゃないですけど、ルートの中盤に差し掛かる前にゲームオーバーになりかねないルートが」

「……2のルート?」

「はい。まぁ、見てみればわかりますよ」

 

 言われるままに2のルートへ目を移すと、そこには『フリーター』の文字が。

 ルート全体を確認すると、確かにこれはきついと思う。

 最初に与えられる金額は10万円と少なく、おまけに前半は貰える給料も少ない。その代わり、後半に貰える給料は他のルートの数倍で、前半を生き抜けば勝利がほぼ決まる。後半で会社を立ち上げて大成功という設定のようだ。

 ……2じゃなくて良かったー!

 フリーターも悪くないとは思うが、なりたいとは思わなかった。

 

「よーし! 医者というエリート職業に就いた俺様が先陣を切ってやる!」

 

 悠平は勢いよくサイコロを振った。出た目は6。

 幸先の良いスタートに、悠平は上機嫌な様子でコマを進めてマスに書いてある文字を読む。

 

「えーと、『特に何も起こらなかった』……俺様の華やかなドクターデビューは⁉︎」

 

 絶叫する悠平。

 

「いや、何も起こらないのが普通でしょ。イベントは偶に起こるから面白いんじゃない」

「詩帆の言う通りだな。そもそも、医者は華やかなデビューを飾る職業じゃねーだろ」

「……確かにそうだな。医者はエリートだが、派手じゃない」

 

 悠平は少し残念そうな顔になりながら、美華にサイコロを渡した。

 マイプリティエンジェルに幸運あれ! ……って、俺が親父みたいになってんじゃねーか!

 

「……今だ!」

 

 妹よ、サイコロを投げるタイミングを変えても、それぞれの出目が出る確率は変わらないぞ。

 出た目は4だった。

 

「あ、やったぁ。収入キタコレ。重版で50万円ゲット」

「いきなり⁉︎」

 

 ……我が妹の可愛らしさは、サイコロの神にも通用するレベルらしい。

 

「では、先生。どうぞ」

「ふふふ、ありがとうね。それっ」

 

 先生はいつもと変わらない様子でサイコロを振る。3が出た。

 

「……なぁんにもなかったわ〜」

 

 悠平とは対極的に、こちらは幸せそうだ。

 サイコロがまた回ってきた。

 

「なぁにが出るかなぁ〜」

「颯人、そのテンション気持ち悪い」

「酷くね⁉︎ ……む、5か。『殺人犯を確保した。次の給料に3万円追加』……給料?」

 

 ゲーム内では初めて見る単語が出てきた。

 すると、美華は「待ってました」とでも言いたげな様子で、

 

「給料はゲーム内で1ターン毎に貰えるお金だよ。職業によって金額には差があるんだけど、作家は1発で貰える額が大きい代わりに給料が出ないんだよね。全員大卒者って設定で給料は高めに設定してあるから大丈夫だと思うけど、1ターン毎に生活費として10万円減るから注意してね」

 

 ……フリーターにならなくて良かった。フリータールートは下手をすれば、2ターン目で確定ゲームオーバーじゃないか。警察官で良かった。

 

「給料が増えるのは嬉しいもんだな。……起きてしまった事件を解決したことによって給料が増えるってのは、あんまり嬉しくないけど。実際、被害者がいるわけだし」

「それは仕方のないことだと思うけどね。そういう危険から人々を守るのが警察なんだから」

「そうなんだよなぁ……」

 

 俺はモヤモヤしたものを抱えながら、こころにサイコロを渡した。

 

「こうなったら、スーパーなアイドルになって、ご主人から近づいてきてくれるように……。てーい!」

 

 6が出た。

 

「『アイドルデビューに大成功。同期のアイドルに差をつけた。次の給料に20万円追加し、4マス進む』……やったー!」

「すげぇな。1ターンで10マスも進みやがった……」

 

 おまけに、進んだ先のマスにもマイナス効果は無し。完璧とも言えるスタートだ。

 好スタートを切ったこころに続いて、詩帆のターン。

 

「この流れに私も乗らなきゃね。そいやっ!」

 

 出た目は2。何も起こらないマスだった。

 

「やっぱり平和が一番だよね〜」

 

 詩帆は先生とハイタッチする。

 全員の番が終わったことにより、給料が配られ、生活費として10万円ずつ減った。

 ちなみに、貰えた給料は悠平が30万、俺が28万、先生と詩帆が20万、こころが45万円だった。俺とこころはボーナス的なものがついているため、本来なら2人とも25万円ということになる。

 ……もしかして、ヌルゲーなんじゃないのか?

 毎ターンこれだけの給料が貰えるなら、失業さえしなければゲームクリアなんて簡単だろう。勝てるかどうかは別だが。

 

「よーし、またまた俺様のターンだ! 前のターンに続いて、エリートらしい、かっこいいイベントを起こしてやるぜ!」

「エリートなのに、その記憶はバグってるぞ」

「あーあー! 聞こえなーい!」

 

 コロン!

 6が出た。

 ……連続で6なんて、こいつも美華と同じようにサイコロの神に愛されているのかもしれない。

 悠平はコマを進める。

 

「『今日も病院は平和だ。何も起こらなかった』……またかよ!」

 

 ただし、イベントが発生するマスには愛されていないらしい。

 

「あー、何か起こらねーかなー」

「何も起こらない方が平和で良いでしょ」

「それじゃあ退屈じゃねーか」

「いや、職なんだから何か起こるよりは安定しなきゃダメだよね?」

「そりゃそうだけどよぉ〜。やっぱり、刺激って欲しいんだよな〜」

「だったら、どんなイベントが起こって欲しいんだ?」

 

 さっきから疑問に思っていたことを聞いてみた。

 悠平は少し悩む素振りを見せ、

 

「美少女が入院してくるとか」

「医者なら、健康を願ってやれよ」

 

 とツッコミつつも、その気持ちはわからないでもない。美少女の担当医になって、お世話とか触診とかしてみたい。……変なことは考えてないぞ。お仕事だ。

 

「あ、もう1つあるぞ」

「なんだ?」

「入院患者が死ぬとか」

「「お前なんか医者やめちまえ!」」

 

 医者としても人間としてもあまりに酷すぎる発言に、ぶちギレかける俺と詩帆だった。

 サイコロは美華に渡る。

 

「……ふっ!」

 

 今度は叩きつけるようにサイコロを振る美華。マットレスに投げたからサイコロが割れるようなことはないが、優しく投げてもらいたいものだ。

 3が出た。

 

「『新巻の原稿が早く書き終わり、出来も良かったため、担当編集者に褒められた。5マス進む』……良いペースです」

 

 止まったマスから、さらに5マス進め、

 

「『レーベル始まって以来の大ヒット。100万円ゲット』……ふふふ、私は神に選ばれし者……」

 

 すごく厨二臭いことを言ってるが、サイコロの出目からして事実なのがどうしようもない。

 

「本当に出目が良いわね〜。先生も負けてられないわ〜」

 

 先生は親指でサイコロを弾き上げた。そして、落ちてきたサイコロを手の平でキャッチ。

 ……何? 特殊な投げ方が流行ってんの?

 

「1だったわ〜。『担当するクラスの生徒が人命救助に協力し、消防署から表彰を受けた。3進む』本当は4だったわ〜」

「先生も良い目出たじゃん」

「そうね〜。こういうことで生徒が表彰されると、担任としては鼻が高いわ。現実であっても、なかなか嬉しいものよ」

「なら、これからは良いことするようにするよ。先生に喜んでもらいたい」

「うふふ、別に意識しなくてもいいのよ。こういうので表彰される人は、勝手に身体が動いたりするものだから。詩帆さんには、その優しさが充分あるわ」

「俺も先生に喜んでもらいたいです」

「あらあら、颯人クンにも充分備わっているわよ。でも、まずは子供を泣かせちゃう顔をどうにかしなきゃいけないわね」

「それはなかなか難しいですね」

 

 そう簡単にできれば苦労しないです。

 元々の自分を変えるなんてことは滅多にできないことのはずなのに、簡単に言わないでもらいたい。

 愛想笑いを浮かべながらサイコロを投げ、出た目は5。

 俺はコマを進める。

 

「『女の子を連れた奇抜な髪色の怪しげな男に職務質問し、誘拐犯だと発覚。逮捕した。4マス進む』……ふむ、なるほどな」

「怪しげな男……」

「奇抜な髪色……」

「人を殺しそうな顔……」

 

 詩帆と美華、悠平がこちらをジーっと見つめてくる。

 ちょっと待て。俺はそんな凶悪な顔じゃない(はずだ)し、マスには『人を殺しそうな顔』なんて書かれてなかったぞ。

 ……ちくせう。前進したというのに、全く嬉しくない。

 若干イライラしながら、サイコロをこころに渡す。……サイコロを受け取るこころの手が震えていたのは、きっと気のせいだろう。

 

「大成功しても、まだまだアイドルとして上を目指しますよ!」

 

 3が出た。

 

「『テレビ番組にゲスト出演し、好評だった。2マス進む』……順調順調♪」

 

 こころは上機嫌でコマを進めた。

 

「本当に順調だな……」

「あれぇ、悠平焦ってる? もしかして、本当の強敵はこころちゃんだったり?」

「そ、そんなことは……一番は俺様のはずなのにィ!」

 

 悠平は大袈裟にも頭を抱えて背を仰け反らせる。

 先生は笑いながら、

 

「大丈夫よ。勝負はまだまだ始まったばかり。悠平クンが一番になれないと決まったわけじゃないわ」

「先生……」

「ゲームでは敵だけど、応援してるわよ」

「はいっ! 頑張ります!」

 

 先ほどの絶望的な顔から一変。悠平はキリッとした顔で頷いた。

 

「にゃははー、女狐には負けないのニャー」

「あらあら、その生意気な口はいつまでもつのかしらね?」

「ネバーエンドですニャー。負け狐はいつまでも負け狐なのですニャー」

「どうやら、そのお喋りな口は早いうちに塞いであげた方が良さそうね。うふふ……」

 

 ……妖怪たちが怖い。

 バチバチと見えない火花を散らす2人をなんとか落ち着けさせ、一番最後——詩帆の番。

 

「私だって負けないよぉ。それっ」

 

 5が出た。先生と同じマスだ。

 

「また一緒だねー」

「そうね。もしかしたら、私たちは運命の糸で繋がっているかもしれないわよ」

「さすがにそれはないかなぁ。……運命の糸で繋がっているのが女の人だったら、私が同性愛者になっちゃうよぉ」

「あらぁ、ガールズラブもなかなか良いものよ。可愛い女の子同士が絡み合っている様子は一種の芸術と言っても過言ではないわ。男の子も、女の子同士の絡み合いが好きって子は多いし」

「確かに、そういうのに性的興奮を覚える男子は多いかもねぇ。でも、私は……」

 

 チラッチラッと、詩帆がこちらに目を向けてくる。

 ……何か用だろうか?

 

「何だ?」

「……んーん、なんでもない」

 

 そう言った詩帆が少しだけ残念そうだったのは気のせいだろう。

 詩帆は、クスクス笑っている先生に近づき、

 

「ほら、これなんだよ……」

「確かに、これはちょっとひどいわね。少しくらい察しても良いと思うのだけど」

「それは本当にそう。でも、颯人だからねぇ……。勉強はできるのにねぇ……」

「そうね。勉強できても、そっち方面はてんでダメなのよね。いっそのこと、颯人クンも悠平クンみたいになれば良いのに」

「それはちょっと嫌かなぁ」

 

 小声でヒソヒソと話しているため、上手く聞き取れなかったが、俺に対しての愚痴らしい。

 とりあえず、はっきりと聞き取れたのは先生の「颯人クンも悠平クンみたいになれば良い」だったが、そんなことは断固お断りである。誰があんな変態になるか!

 

「これでまた全員回りましたね。では、それぞれに給料を配っていこうと思います」

 

 悠平が30万、俺とこころが25万、先生と詩帆が20万円を受け取り、それぞれの所持金から10万円ずつが生活費として消えた。

 そしてまた、悠平にサイコロが渡り、新しいターンが始まる。

 と思っていたが、

 

ピリリリリリ!

 

 突然、先生の携帯電話が鳴り出した。

 

「はい、越前です。……はい…………はい、わかりました。すぐに伺います。………………はぁ、ごめんなさいね。用事が入っちゃったから、今日はもうできないわ」

 

 先生は携帯電話をポケットにしまいつつ、申し訳なさそうに言った。

 

「私の番は私以外の誰かが代わりにやってくださる?」

「そうなんですか……」

「ごめんなさいね。……でも、明日になれば、また一緒にできるわよ。明日は用事入ってないから」

 

「このまま、もっと遊んでいたかったわ」と呟く先生。その背中はとても悲しそうな感じがした。

 そして、俺と詩帆は、そんな先生を放っておけなかった。

 

「……わかったよ。じゃあ、今日はこれで解散にする」

「え? あなたたちはもっと遊んでいていいのよ?」

「いえ、もう決まりました。今日はこれで解散です」

「別に、双六を今日中に終わらせなきゃいけないわけじゃないからさ。私たちは先生を待つよ」

「そんなの申し訳ないわよ。私は別にいいから」

「それじゃ、俺たちがダメなんですよ。神の子は顧問の越前先生がいてこその部活です。だから、先生が我慢して活動から欠けるのはダメなんです」

 

 ちょっと恥ずかしい台詞だが、紛れもない俺の本心だ。

 先生はちょっと考え込み、

 

「……ありがとう。じゃあ、また明日、続きをやりましょうね。神の子みんなで」

「うん、また明日」

「私は行くわね。あなたたちは気をつけて帰りなさい」

 

 そう言い残し、先生は部屋から出ていった。

 

「じゃあ、私たちも帰ろう。明日は絶対に部活に来ること! いいね?」

『もちろん!』

 

 答えは全員同じ。こころも同じことを言ったのは以外だった。

 

「負けない……あの女狐には負けないのです……」

 

 やれやれ、これは勝負して決着をつけたいだけだな。感動と呆れが半分半分だ。

 部員一同、もはや苦笑するしかなかった。

 

 

 何はともあれ、今日は解散した。

 悠平の所持金は240万、美華の所持金は180万、こころは150万、先生と詩帆は50万、対して俺は63万。

 はっきり言って、差が大きすぎる。美華とこころはギャンブル性の高い職業だから、勝てる可能性はまだ50%くらいある。しかし、悠平に勝つには、どうにかして大きく当てるしかない。……または、俺が上がるのではなく、悠平を落とすか。いずれにせよ、逆転のチャンスは間違いなくあるはず。

 ゲームはまだ2ターンしか経過していないのだ。どんな結果になるかはまだわからない。

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