雨の中、1人泣いていた。
目の前を大勢の人が歩いて行く。
雨音にも負けないほどに叫んでいるのに。
自分はここだと伝えているのに。
誰1人として見向きもしない。
みんないるのに1人きりみたいで。
「……どうしたの?」
雨と混じって、ボロボロと零していた涙を
「お父さんとお母さんは?」
ねーちゃんだけが拭ってくれたんだ。
「ただいまー。」
家に入って傘を置く。
靴を脱いで、代わりにスリッパを履いて
「さて…と、まずはお風呂に、着替えかな。」
なんて予定を立てつつ。
「こら、いつまでくっついてるの。
逃げたりしないから。」
腰に引っ付いて離れない子に苦笑いがこぼれた。
しかし素直な子らしく、直ぐに手を離して降りてくれる。
相変わらず顔は涙と鼻水でくしゃくしゃだけど。
「よし、いい子!
直ぐに戻ってくるから、ここに座って待ってて。」
そう言って椅子の上に座らせた。
掃除は後ですればいいだろう。
どうせ今日も帰ってこないのだろうし。
ひとまずはこの子の着替えを探さなきゃ。
「昔の服、どこに置いたかな。」
自分の子供の頃の服を見つけると同時に、お風呂が沸けた音がしたので、あの子を呼ぶ。
雨だけじゃなくだいぶ汚れていたから、しっかり洗ってあげないと。
「おぉー、ぴったりぴったり!
良かったわ、昔の服取っておいて。」
小学生の頃の服を今でも持っているのは自分でもどうかと思ったけど、こうして役に立ったのだから、自分のモノ持ちの良さには感謝しなきゃ。
捨てるのはなんかもったいなかったし。
「私の…服は…?」
「安心して。
ちゃんと洗濯して返すから。
持ってたカバンも、ちゃんとここにあるよ。
それよりご飯食べましょ!」
リビングに戻り、ラップのかけてあるご飯を温める。
1人分のおかずを2人で分けて、でも、いつもより美味しく感じた。
「あなた、名前は?」
「コルル。」
「コルル…コルルちゃんね。
私はしおりよ、よろしくね。」
「しおりちゃんね!
しおりちゃんは優しいね!」
「うーん、なんかほっとけなかったのよね…
そ、そうだ!お父さんとお母さんはどうしたの?
ズブ濡れで風邪ひきそうだったから、つい連れてきちゃったけど…。」
「……いないの。」
「いないって…そんなわけないでしょ。
じゃあお家の電話番号は?
それとも警察に連絡を…。」
「ごめんなさい、本当に…こっちで心配してくれる親は居ないの。
本当に…1人なの……。
だから、行くところが……。」
「…………」
可哀想だと思った。
何より、親との関係が希薄な自分と重なっても見えた。
居ないと希薄であるとじゃ大きく違うだろうけど、それでも寂しいのは一緒だ。
だから……。
冷蔵庫から、取っておいたプリンを出してコルルの前に置く。
「食べていいよ。」
「ありがとう、しおりちゃ」
「ねーちゃんって呼びな。」
コルルはポカンとこちらを見上げていた。
できるだけ怖くないように。
ちょっと眉を釣り上げて、口もムッと閉じて、ぜったい譲らないって顔を作る。
「ねーちゃん!」
「よし、それで良い!
食べ終わったら、私の部屋で遊びましょ。」
心底嬉しそうな顔で、ねーちゃんと呼んでくれた。
心細かったのだ、寂しかったのだろう。
でも家族になれるなら、もう寂しくない。
「うおおおおおおお!お願いだ清麿!
今日だけ学校に連れてってくれ!
今日は植物園も定休日なのだ!」
「やかましい!だったら公園に行けよ!」
「それなのだ問題は!」
曰く、
ガッシュが昨日公園に行ったら、他の子供達が誰も居らず。
ただ1人近くを通りかかったナオミちゃんに真相を聞いたら。
「私たち、新しい遊び場を見つけたの。
今はほとんどそっちで遊んでいるわね。」
それはどこかと聞いたら。
「あなたには教えないわよ(笑)」
「うわああああああ!!!
あんちくしょーめ!あんちくしょーめ!
そういうわけなのだ清麿!
私に1人で遊べというのか!?」
「あ〜もう分かった!
だったら友達だな!?友達をつくればいいんだろ!
ちょっと待ってろ!」
という訳で、1日で友達がいなくなったガッシュにトモダチを作ることになった。
幸い、早めの登校を心がけているから時間には余裕がある。
早速材料を用意しよう。
材料
PROTZの空き箱 : 1つ
割り箸 : 2膳
油性マーカー : 1本
手順
まず空き箱の両側面、上の方に1つずつ穴を開けます。
次いで底面にあいだを開けて2つ穴を開けます。
割り箸を割って、それぞれの穴に1本ずつ刺し入れましょう。
最後に油性マーカーでロボっぽい顔とメーターを描けば。
「ホラよ、お前の友達『バルカン300』だ!」
「おぉぉおおお!!!」
お好みで手足の部分にノリをつけて補強しても良いかもしれません。
「バ・ル・カン! バ・ル・カン!!」
「良かったな、ガッシュ。
そんな友達、誰も持ってないぞ!」
お菓子の空き箱で友達を作る人なぞ居ないだろう。
唯一無二である。
「清麿ありがとう!
バルカンの歳はいくつだ?」
「5分だ!」
安価な材料とわずかな時間で産まれた親友だ。
友情に時間は関係ない。
「バルカンは何者なのだ!?」
「空気ミサイル300発も撃てるロボットだ。
お菓子の箱と割り箸製のハイパーボディだぞ!」
自然由来のものだけで出来ているスーパーロボットだ。
環境にも配慮しているやさしい子だぞ。
「よぉーしバルカン!公園に行って遊ぼうぞ!!」
「ハッハッハッ…
やったなガッシュ!
俺は学校だ。じゃあな!」
「よぉーし、できたわ!
フフフフフ…ティーナちゃん、お花の冠よ。
綺麗になったわね!」
コルルはしおりに貰った人形、ティーナと公園に来ていた。
しおりが学校に行っている間、寂しくないようにと作ってくれたものである。
「ウヌ、おぉ!?
公園に子供がいるぞ!」
そこに現れたのは、金色の髪、黒いマントの子供だった。
その子をコルルは知っていたが。
「ガ…」
「お主、初めて見る顔だな。
私はガッシュ・ベル!お主はなんという?」
「...」
「...」
「わ、私はコルル。
こっちに引っ越してきたばかりなの!」
「そうか!これは私の友達、バルカン300だ!
『 よ・ろ・し・く・ね』。」
顔のようなものが描かれた空き箱のフタをカパカパさせながら言った。
コルルの方も、律儀に返す。
「わ、私の友達ティーナよ。
よ…よろしく。」
可愛らしい人形が、ぺこりとお辞儀をした。
長い髪、花柄の服と花冠。
手の込んだ作りとなっている。
「」
対してこちらはどうだろう。
顔のようなものとメーター。
身体には美味しそうな細い棒状の焼き菓子が描かれている。
「そ…それは…どーせお店で売っていた物なのだろう?
友達を金で買うなど。」
「いいえ、手作りよ。」
震える声は掻き消された。
「わたしのおねーちゃんのしおりちゃんがね。
『私が学校に行ってる間に寂しくないように』って……」
ティーナを自慢げに掲げながら言う。
「1週間もかけて作ってくれたの!」
(5分だ)
「この服の布も、しおりちゃんの大切な服を切り取って作ってくれたのよ。
ティーナに着せてあげようって。」
(お菓子の箱と割り箸製だ)
ガッシュの心は既にボロボロだ。
目には涙だって浮かんでいる。
それでも男の子なのだ、譲れない意地がある。
悔しさで震えながら、親友の自慢を
「わ、私のバルカンだって…。
私のバルカンだって……。」
ポロ…
っと、握っていた腕が取れてしまった。
……ノリ付けすらされてないっ!!!
「く、く〜〜〜~~~!!」
もはや自慢できる所は無くなってしまった。
情けない、親友を上げてやれなかった。
「コルルお待たせ。さぁ、帰ろ。」
「しおりねーちゃん!」
「あら、お友達?」
「ううん、さっき会ったばっかり。」
項垂れるガッシュは件のしおりおねーちゃんが来たことに気づいていない。
「あ、ホラ、これ作ったの!ティーナとおそろいなの。」
そう言ってコルルはしおりの頭に花冠を載せた。
「ティーナのお礼よ、よく似合うわ!」
「よし、おぶさりな。」
「え?いいの?」
「もちろん!家まで走ったげるわ!
Goーーー!」
「キャア!」
楽しそうに走り去っていく2人の背中をガッシュは泣きながら眺めていた。
夕方頃、コルルは遊び疲れたのか、しおりのベッドで寝息をたてていた。
それを聴きながら、机の前に座り貰った花かんむりを眺める。
(今までとは違う...家族が...いる……)
しおりの両親は共働きで、かつ長い時間職場に詰めているような人達だった。
たまに顔を合わせても、雑談の一つもせず、用があれば伝言板に書くようにと言われていた。
(そんなの親じゃない...家族じゃない……)
コルルは色々話してくれた。
学校で何があったか聞いてくれた。
公園で花を摘んだと教えてくれた。
一緒に食べるご飯は美味しいって、今日は元気がないって心配もしてくれた。
「...フフ、疲れたのかな?
まだ夕方なのに寝ちゃって。」
(そう、この子は私の妹
捜索願いはまだ出てないみたいだけど。)
ーーーー本当に親はいないの...
もし、そうなら
(私がこの子を引き取る。
ずっと一緒にいて、ずっとこの子を守...)
コルルの眠る布団の中から、光が漏れ出ていた。
出処は大事に抱えているカバンから。
例え妹のものでも、勝手に覗くのはいけない事だとわかっているのに、自然とカバンの中にある物を取り出してしまう。
(ピンク色の……本?)
手は動き続ける。
ページを捲っていく。
(どうしたんだろう...手が勝手にページを...
ん?このページだけ読める行が...)
そしてたどり着く。
少女を縛る、魔法の言葉へと。
「《ゼ...ル...》」
「!!」
飛び起きたコルルが、慌てた顔で手を伸ばす。
「ダメ!それを読んじゃダメなの!!」
「清麿、お願いだ!バルカンを作り直してくれ!!」
そう言って掲げたバルカンの顔は、瞳や眉が描き足され、勇ましく笑っている。
ただのパッケージに謎メーターだけだったボディには星やロケットが追加され、オシャレ(?)になっていた。
差し込んだだけの手足はテープや紐で、頼りなく固定されている。
「縫い物をしろとは言わぬ! ノリでいい...接着剤でいいから使ってくれ!!」
両の目から滝のような涙を流し、無二の親友を振り回しながら
ガッシュは訴えていた。
「自信を持ってバルカンを紹介したいのだ!……ティーナのように...」
万感の想いを込めて叫ぶ。
「そう!
(結局ティーナって誰なんだよ)
その後ろで、ニュースは凄惨な通り魔事件を報じていた。
こっそりです。
秘密ですよ、しーです。