(どうしてこんなことに...なんなの...あの姿は?なんなの...あの力は?)
家の前には警察が立っており、近所の人が昨夜の通り魔の話をしている。
思い出されるのは、血だらけで倒れている人達、返り血で染まり気を失ったコルル。
(助けて...誰か...)
目に涙を貯めて、祈るように願う。
(優しいコルルを助けてよ!!!)
バン
と、通り魔の現場に降り立ったガッシュと清麿。
事件の報道をしていた映像を見た清麿は、その犯行が魔物の、もっと言うとコルルのものであると気付いていた。
「清麿...なぜこんな所に来たのだ?遊びに行くのではないのか?」
「ん?あぁ...」
(ガッシュが優しい王様を目指すきっかけになった子、またここに居てくれるかは分からないが...どうにか助けてやりたい)
現場の傷跡を辿りながら歩き、2人は公園に差し掛かる。
警官が立ち、散歩中の老人やストレッチをしている若者の姿もチラホラと。
その中にコルルとしおりの姿もあった。
「しおりねーちゃん、いくよー! えい!」
「お!うまいうまい!それが「トス」よ!」
「フフフフフ...じゃあもう1回!もっとうまくやるわ!」
(そうね...これでいいのね...本を読まなきゃいいのよ
本さえ読まなきゃコルルは、ずっとやさしいコルル
本さえ読まなければ...ずっと...)
思い出されるのは昨夜の事。
コルルの静止が間に合わず、呪文を読み切ってしまった時のこと。
ーーーー「ダメ!!本を読んじゃダメなの!!」
「ゼ...ル...ク」
「あ...あぁ...」
あぁぁあぁぁあああ!!!!!!
「コル...コルル?」
呼び掛けには答えずその身を変貌させていくコルル。
丸くカールしていた髪は立ち上がり、鋭利に尖っていく。
爪は鋭く伸び、小柄な体は筋肉質なものへと。
「キ エ ェ ェ エ エ エ エ エ エ ッ!!!」
「コ...ルル...」
「おおおおおおおおおおお!!!」
もはや人語を解さず、ただ絶叫するだけになってしまったコルルは、そのまま窓を突き破り、辺の人を傷付けて暴れ回り始めた。
しおりはそれをただ震えて見送ることしか出来なかった。
夜が明けた頃、ようやく動けるようになったしおりは、被害のあった場所を辿ってようやくコルルの元にたどり着いた。
全身を返り血に染め、息を荒らげているコルルに優しさの面影はない。
「お前は誰だ...」
「え...な...?分からないの!?しおりよ...」
「......本の持ち主か...」
「本の持ち主って?...あなた...あなた本当にコルルなの?」
「ええ、コルルよ...私はコルル!」
そう言ってコルルは狂気的な笑みを浮かべた。
「さあ、早く呪文を唱えて!もっと心を込めて!!もっともっと暴れたいの!!!その本を読んで、私に力をちょうだい!」
「な、何を言ってるの?元に戻って!元のやさしいコルルに戻って!!!」
「...?...あぁ...それより早く読んで!読んでくれないと...」
そう言ったコルルの爪が消えていく、逆だった髪も鋭さを失い元の柔らかい髪へと戻っていく。
(も...元に戻るの!?そうか、このまま何もしなければ...)
「なぜ呪文を唱えない!?あなたまさか戦わない気なの!?」
しおりは本を抱えて口を引き結び黙っている。
元に戻れば、また楽しい日常がやってくると信じていた。
「無駄よ。」
そんなしおりに、コルルは静かに告げる。
「この戦いからは...運命からは...」
(決して逃げることは出来ないんだからね!!)
(ウソ...よね、そんなの...そうよ!本さえ読まなければ...)
昨夜、コルルに言われた事が頭から離れず、こうして一緒に遊んでいてもどこか集中出来ないでいた。
「おねーちゃん...」
「!な、何?コルル...」
「どうしたの?今日はずっと元気ないね?」
様子のおかしいしおりに、コルルは尋ねる。
「昨日...私どうなったの?何か...あったんじゃないの?」
「な、何言ってるの?何もないって!」
取り繕うように笑顔を浮かべて、無理やり会話を切った。
「ホラ、コルル!トスよトース!」
「わっ、わっ、わっ。」
焦りを誤魔化すように放ったボールは、勢いがつきすぎてコルルを飛び越えていってしまう。
「ゴ...ゴメンネ、コルル...」
「うん!とってくる!でも、もうイキナリはなしよ!」
そう言ってボールを取りに行ったコルル。
見れば車道にまで転がっていってしまっている。
「気をつけてね、そっちは車道...」
(決して逃げることは出来ないんだから...)
聞こえてきたのはクラクションの音。
もうそこまで来ているかのような。
「ダメ!車道に出てはダメ!!コルル、クラクションが鳴ってるのが聞こえないの!!?」
「え?」
トラックは、もう目の前に。
「う...」
(運命からは決して逃げることは出来ない...)
「わぁあああああ!!」
(これしかない!)
本に飛びつき、ページを見もせずに開く。
ゴ シャ ア ア ア ア ア ア ア
コルルにぶつかるトラックは、圧倒的な暴力によって潰された。
暴走したコルルが次に向かったのは、公園でくつろいでいた一般市民のところだった。
その凶刃が、人を傷つける。
その瞬間。
「《ザケル》!!」
「ギャア!!」
「コルル!」
雷光がコルルを焼いた。
コルルが怯んでいる間に被害者を逃がし、清麿とガッシュは相対する。
「クソっ間に合わなかったか...!!」
「清麿!?あの者を...コルルを知っていたのか!?」
「いや...だが、爪で切り裂かれたかのようなアスファルトの傷...魔物による被害だとは思っていたさ。」
なにより、ガッシュが優しい王様を目指すきっかけになった事件だ。
忘れるわけが無い。
忘れるわけが無いが、公園内のどこかという事しか思い出せないでいた。
(出し惜しみせずに、アンサートーカーを使っているんだったな...!)
「じゃ...ジャマをするなぁあぁあ!!!」
「チィ...!《ザケル》!!」
「ギャアア!」
再度突っ込んできたコルルに、威力を抑えた電撃を喰らわせる。
されど2撃目、呪文で強化されていてもそれなりのダメージはあったらしい。
「は...早く呪文を......痛い...苦しい...」
「コ...コルル...」
「おいそこのアンタ!呪文を唱えるのをやめろ!!余計に辛い思いをさせるだけだぞ!」
「で...でも......」
これ以上の被害が出ないよう、これ以上、相手を傷付けないように清麿は説得を試みる。
「で、でも...だって...」
(あなたたちがいじめるから!!)
しおりの持つ本が、日時は強い光を放つ。
「!!コルル出たわ!新しい呪文が読めるわ!」
「く...!」
「!!早くそれを読めぇ!」
「う...うん!!」
鋭く伸びた爪が無くなり、各指の第3関節部分に石づきのような物が形成される。
「《ゼルセン》!!」
握りこまれた両腕が、恐ろしい速度で射出され、清麿たちが立っていた場所を大きく抉る。
「ぐおぉぉおおお!!」
(くっ...近距離では、避けきれないか......!)
アンサートーカーの力で、被害は最小限に。
しかし飛行速度が速く衝撃は逃せなかった。
「ガッシュ!大丈夫か!?」
「ぐ...お...」
(あの者たち、一体...)
傷だらけになりながらも、ガッシュは体を起こして2人をみた。
2人は...。
(あの者は...まさか...コルルのおねーちゃん!)
2人は、涙を流していた。
「き、清麿...あの子たちは...泣いておるぞ...。」
「...あぁ、そうだな。」
「なぜ、あの子達は...泣きながら戦っておるのだ?」