「清麿...もう、攻撃は......呪文は唱えないでくれ......」
眼前にいるのは先程まで人を襲い、こちらにも攻撃を仕掛けてきた魔物とそのパートナー。
「私は...私は...」
その2人は、涙を流していた。
「あの子たちと...戦うことは出来ぬ...」
「......悪いが、そうはいかない」
「だが清麿!私には!!」
「もう立ってこないで!攻撃してこないで!《ゼルク》!!」
「現に攻撃してきている!被害は出ているんだ!!」
(私には、あの子たちが苦しんでいるようにしか見えぬのだ!!)
「ガッシュ!!」
「呪文は唱えるなぁ!!!」
「押さえ付けてろ!」
「!!」
鋭い爪での連続攻撃。
両肩に刺さった瞬間、その腕を掴んで押さえ付けた。
「清麿ぉ!!」
「一般人に攻撃が向いたら唱える!いいな!!」
「おう!!」
コルルの動きが止まり、清麿はしおりの元に駆け出した。
「アンタ!この子の本の持ち主だな!!こちらからは攻撃しない!本を離せ!!」
「ほ、ほんとう?」
「あぁ!他の人に危害が及ばないなら、もう手出しはしない!
だから本を離してくれ。」
「お主はコルルのおねーちゃんのしおりちゃんだな!?私はガッシュ・ベル!コルルの友達だ!!約束する!!攻撃はしないからおまえももうやめろ!!」
(あの子...あの時の...)
「チ ィ イ イ っ」
「ダメ!コルルもう傷つけてはダメ!!その子達はもうコルルをイジメないのよ!」
「ダ マ レ ! こ ん な ヤ ツ ら に 手 を 緩 め や が っ て ! !」
コルルは無理矢理ガッシュを引き剥がし、その爪を突き立てようと大きく腕を引いた。
「ト ド メ を 刺 し て や る ぜ ! 死 に な ! !」
「コルル!!!」
突き出されようとした腕は、横から入ってきたしおりに止められた。
掠めた肩から血が吹き出る。
「コルル、わたしよ...しおりよ?思い出して?」
抱きしめながら、言い聞かせるように囁く。
「ホラ、あなたのお友達のティーナよ?お花の冠してあげたの、忘れちゃった?」
「ぐ っ ど 、 ど け . . . 動 け . . . 私 の 体 よ . . .」
力む腕は動かず、振り払うことすら出来ない。
ただ涙を流しながら、抱かれることしか。
「な ぜ 動 か ん . . . 私 の 体 な の に . . . な ぜ . . .」
「そう、元に戻って」
徐々に力は抜けていき、鋭かった爪も髪も丸みを帯びてゆく。
「アナタはコルル、優しいコルルなのよ」
やがて目付きも変わり、眠るように気絶した。
「............戻ったね...本当の姿に...」
しおりはそっとコルルを下ろすと、自身も倒れるように揺れた。
とっさに清麿が支える。
「大丈夫か!?」
「う...うん」
痛む肩を抑え、ガッシュに視線を向ける。
「ありがとう、ガッシュくん。本当にありがとう。
コルルを止めて、助けてくれて...」
しばらくして、コルルが目を覚ます。
視界には青空と、しおりおねーちゃんの顔。
視線を少しずらせば、ガッシュと見知らぬ青年の顔もあった。
「あれ...ここは?......ガッシュ、なんでここに?」
目が覚めてくると、しおりの怪我が目に入り。
「!?しおりねーちゃん!怪我を!?」
公園の惨状も、目に入る。
「な...これは...?」
傍らにガッシュと、赤い本を持った青年。
怪我をしているようで、青年は気まずそうに目を逸らしている。
「そうなのね...わたし、なのね......」
「な、何言ってるの?コルル...もう終わったのよ!」
「でも、わたしがやったんでしょ?......わたしがみんなを傷付けたんでしょ?」
コルルは、傍らに落ちていた本を持つと、ガッシュへと突き出した。
「ガッシュ!燃やして!この本を燃やすの!!そうすれば...もう誰も傷つかないから!!」
「な!?しかし...燃やせばコルルは消えてしまうぞ!魔界へ帰ってしまうのだぞ!?」
子供に配られた魔本は、力を行使するための媒体であると同時に、王を決める戦いへの参加資格でもある。
それが無くなれば、魔物の子は魔界へと強制送還される。
(それは同時に、体を失い、魂だけの存在になるということでもある...しかし...)
「な、なによ...それ...嫌よ、そんなの私許さないわよ!やっと優しいコルルに戻ったのになんで!」
「ダメ、この本がある限り、きっとまた同じことが...もう1人の私がでたんでしょ?そして皆を傷付けたんでしょ?」
「コ...」
「それに...私聞いたことあるの...この戦いで、私みたいに戦う意思が弱い子には...別の人格が与えられる事があるって...」
(そう、これだ...別人格の付与......)
つまるところ、参加資格を得たのなら戦えという呪い。
無理矢理戦わされていた子も、肉体を奪われるなんて酷だと。
清麿は思っていた。
「な、何言ってるの?...そんな事あるわけないじゃない...」
「逃げられなかったじゃない!!私が人を傷つけることが分かっててなんで本を読んだの!逃げられなかったからでしょ!?」
「う...」
「お願いガッシュ...自分で自分の本を焼くことは出来ないの...」
「く...だ、ダメだ!私には出来ん!お前たちは仲がいいのだろう?離れたくないのだろう!?それを引き裂くなど...ウヌ、ホラ、また悪いヤツが出たら私が守る!!だから別れることは無いのだ!」
「ガッシュ...でも、でも、今度また同じような事が起こったら...」
コルルはめに涙を貯めて、縋るように清麿を見つめた。
「(そうだな...今は、これしかないか...)ガッシュ、その子の本よく見てみな、少しおかしいぞ...」
「なに、どこがおかしいんだ?」
「ちょっと遠いんじゃないか?よく見ろって」
「ウ、ウヌ?わかった...」
「そんなんでよく見てるって言えるのか!手に取ってみてみろ!!」
「ウ、ウヌ!」
「家で虫めがね使ってみてこい!行け!!走れ!!!」
「ヌァアアアアアアア!!」
ガッシュは全速力で走っていった。
「ちゃんとカーテン閉めてみるんだぞー!」
...............。
「ア、アレ!?!?」
「コルルちゃん、だったよな?悪い、キミの覚悟をないがしろにした。」
「え、えっと...」
「少し、オレの考えを聞いて欲しい。しおりさん?も」
魔物の王を決める戦い。
その参加資格を得た子供たちは、心の在り方を問わず戦うことを強いられる。
争いを好まない優しい子も例外なく。
「別人格の付与、それはつまり、無抵抗に消される事を防ぐためのものなんじゃないかと思うんだ
せっかく王様になれる見込みがあるのに、優しいせいですぐに戻されちゃいましたじゃ、資格を与えた意味が無い」
王とはただ強い者にあらず、民あっての王ならばその心の在り方も重要になってくる。
「だからな、コルルちゃん。もしキミが戦う覚悟を決めれば、もう暴走することは無いと思うんだ。」
「...でも、私...。」
「ま、待ってよ...戦うなんて、やらせるわけないじゃない!」
「あぁ、わかってる。だからあの本は、俺たちで預かる。
本に選ばれた人間以外が読んでも術が発動しないのは確認済みだ。
キミらの手元になければ、コルルちゃんが暴走することもない。」
「...でも、でも他の魔物が襲ってきたら......」
「その時はガッシュが守る。
だから、出来るだけガッシュと遊んでやってくれ。
アイツ今、友達居ないみたいだからさ。」
「あぁ...」
「しおりさんも、咄嗟の時に呪文を唱えて守ることが出来なくなる。
だからくれぐれも、コルルちゃんから目を離さないでいてくれ。」
「うん...うん!ありがとう!」
「...じゃあ、2人は先に帰っててくれ。
警察への説明は俺がしとく、しおりさんは、ちゃんと手当てしといてくださいね。」
その後、清麿は対応しに来た警察に、襲われたが気絶したと言い張って
犯人の見た目は筋肉モリモリの大男だと嘘をついて追い返した。
追求が長引き、帰れたのは夜に差しかかる頃で、母親にこっぴどく怒られたが、ちょうどよくニュースが流れていたので、こちらも、ガッシュを逃がした後に気絶したで押し通した。
「清麿、おかえりなのだ。」
「お、おぅ、ただいま。」
自室ではガッシュが、コルルの本を横に置いて正座で待っていた。
「清麿、この本に変なところはなかったぞ。」
「そうか?俺の見間違いかな?」
「あの子を助けるためのウソだったのだろう?」
「...気付いたのか?」
「清麿、私は...」
赤い魔本は、淡く輝いていた。