何でも屋エリスでございます   作:魔帝

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最近の睡眠時間が平均三時間、だと……!?





第二章第二話

 

 

 

 ファンは地球に来ている。

 今回の事件の司令部が地球の海鳴市のとあるマンションの一室であるからだ。

 そこに、ファンも住む事になっているのだ。

 

 

「ファン~、そこに荷物も運んどいてね~」

 

「あいよ~―――ってまてやゴラァ!」

 

 

 ファンは運んでいたダンボールを置く場所に放り投げ、一人お茶を啜っているリンディに向けて怒鳴った。

 

 

「何かしら?」

 

「何かしら、じゃねえだろ! 何で俺が引越しの手伝いをしてんだ!?」

 

「大丈夫よ、報酬は払うから」

 

「……いくら?」

 

「三百円♪」

 

「俺は子供か!?」

 

「お、お兄ちゃん。私も手伝うから、ね?」

 

「わ、私も手伝います!」

 

「………ああ、もう! 俺の負けでいいよ! ほら、お前達子供は景色でも楽しんどけ」

 

 

 ファンはリンディの勝ち誇った笑みを睨みつけ、残りの荷物を運んでいく。

 過去にこういった仕事をした事があるのか、その手際は見事だった。

 

 

「……って、何で俺は手伝わされてんだよ!?」

 

「お前男だろ。格好良い所を見せる時だろ」

 

「っ……そう言われちゃぁ仕方がねぇな!」

 

 

 蓮夜はベクトル操作で重い荷物を次々と運んでいるが、なのはとフェイトはフェレット化したユーノと子犬化したアルフに夢中だった。

 

 

「このぉ……淫獣がぁ……!」

 

「そんな……!?」

 

「あん……?」

 

「モフモフが……消えた……!?」

 

「アンタもつくづくセクハラだな……」

 

 

 ファンはアルフが子犬化になったことで尻尾のモフモフや大きな耳が小さくなった事にショックを受けていた。

 

 

「なのは、フェイト、蓮夜、友達だよ」

 

 

 クロノがやってきて友達が来た事を伝えに来た。

 

 

「……行って来い」

 

「言われなくてもなっ」

 

「おおっと!?」

 

 

 蓮夜はファンに向かって荷物が入ったダンボールを投げつけた。

 

 

「あんにゃろ〜……!」

 

「ほらほら、ちゃんと働いて」

 

「……ヘイヘイ」

 

 

 リンディはリビングから出て行ったなのは達を追い、ファンもダンボールを置いて新しい荷物を取りに廊下へ出た。

 

 

「フェイトさん、お友達?」

 

「さっきクロノが言ってただろ。ボケたか?」

 

「ふんっ」

 

「ぶげっ!?」

 

 

 ファンの鳩尾に拳を叩き込み、ファンは廊下でのた打ち回った。

 

 

「「こ、こんにちは」」

 

「今日は。すずかさんにアリサさん、よね?」

 

「はい……」

 

「私たちのこと……」

 

「ビデオメール見せてもらったの」

 

「そうですか!」

 

「良かったら、お茶でもどう? 彼が用意してくれるから」

 

 

 そう言って廊下に転がっているファンを指した。

 

 

「何で俺が……」

 

「五百円にしてあげるから」

 

「だから俺は子供か!?」

 

「あら、違うの?」

 

「違うわ! え? 俺ずっとそう思われていたの!?」

 

「冗談よ、ヒモ」

 

「尚更悪いわ!」

 

 

 いや、将来美女に養ってもらうといっている時点でその毛はあると思う。

 

 

「えっと、ウチのお店で!」

 

「あ、そうね。じゃせっかくだから私もなのはさんのご両親にご挨拶を。ちょっと待っててね。ほら、貴方も来るのよ」

 

「何で俺まで?」

 

「車、出しなさい」

 

「はあ!?」

 

「免許持ってるでしょう。車もあるし、男ならそれぐらいしなさい」

 

「差別反対! この若作りが!」

 

「ア゛ア゛?」

 

「いえ、何でもありません」

 

「そう、じゃあ早く用意しなさいな」

 

 

 ファンはビシっと敬礼をして部屋の奥へと消えた。

 

 

「綺麗な人とカッコいい人だね」

 

「フェイトのお母さんとお父さん?」

 

「ううん。お兄ちゃんと…親戚の人だよ」

 

 

 アリサの問いのフェイトが答える。

 因みにすずかのカッコいいという言葉を聴いて蓮夜は腹が立っていた。

 

 

―――あのおっさん……! 俺のすずかを……!

 

 

 後日、蓮夜はファンに奇襲をしかけるが、これまたあっさりデコピンの一つでやり返されるのであった。

 

 

「お、お父さんって……お父さんって……」

 

「あら、私みたいな美女と夫婦に間違われているのよ? 光栄じゃない」

 

「………ふっ」

 

「ふんっ!」

 

「ちょ、それはマズいって!」

 

 

 

 

 ファンが何時取ったのか分からない免許を持っていたお陰で、なのはの家の喫茶店、『翠屋』へは楽に迎えた。

 しかもさり気なくファンの運転の腕前は良かった。

 因みにバイクの免許も持っているそうな。

 

 

「そんな訳で、これから暫くご近所になります。宜しくお願いします」

 

 

 そんなわけで、こんなわけで、どんなわけで?

 ファンとリンディはなのはの両親に挨拶をした。

 その時、全世界の人間が思ったであろう気持ちを、ファンも体験していた。

 

 

―――若っ!? ええ!? 若っ!? リンディやプレシアもそうだけど、え、何!? 今の時代の人間ってある程度の歳しか取らないのか!?

 

 

 ファンは若干、いや結構内心焦っていた。

 これ程若い母親がいるだろうか。

 聞けば、なのはの他に二人も大きな息子と娘が居るそうだ。

 ファンはこの世の不思議に直面したと言っても過言ではないかもしれない。

 

 

「えっと、ファンさんでしたね。なのはと蓮夜君がお世話になりました」

 

「ん? ああ、いやいやとんでもない。こっちも楽しませてもらいましたよ」

 

 

 なのはの父、高町士郎がファンにお礼を言った。

 ファンは半年前までなのはと蓮夜に、二人が学校を休んでいる間、勉強を教えていた、という設定になっているのだ。

 

 

「それにしても、お若いですね~。リンディさんから聞いた話だともっといっているかと思ったんですけどっ!?」

 

 

 なのはの母、高町桃子がファンに向かってお若いといった瞬間、ファンの眼から涙という名の滝が出現した。

 

 

「ど、どうなさったんですか!?」

 

「ヒッグッ…! お、俺の事…! わ、わわ、若いって…! グズッ…! こ、こんなに嬉しいのはっ……久しぶりだっ…!」

 

「そんな大袈裟な。泣くほどでもないでしょう」

 

「うるせぇ! お前には分からないんだよ! このお方の偉大なるお言葉が! 今まで俺はまだ二十五歳なのにおっさん、おっさん、おっさん! 老け顔ですらないのにおっさん! なのにこの方はお若いって! 若いって言ってくれたんだぞ! そもそも! お前は俺よりも年上だろ! なのに何で俺がおっさん!? そう考えたらお前はおばさんだろうが! いや高町桃子殿は別だ! 例外だ! 彼女は身も心もお若くお美しくいらっしゃる! だが! お前は何だ!? 見た目はまあ良いだろう! だがお前の心は皺くちゃのババァだ! 腐った悪女だ! ああ、何言ってるんだろうな俺! ちょーっと興奮しすぎて訳が分からない言葉を発しているだろうさ! だがこれだけははっきりと言える! 頼むからその右手に掴んでいるものを離してくだしゃいぃ!!」

 

「言いたいことはそれだけか? ア゛ァ゛?」

 

 

 リンディはファンの、いや、男の大事な場所を鷲づかみにしている。

 それも誰にも見えないようにし、魔力を込めながら強く握り締めていた。

 口調も今までの口調とはかけ離れ、もはやどこぞのボスのような感じだった。

 いや、ボスだけれど。

 

 

「リンディ提と――リンディさん」

 

「はい、なぁに?」

 

「パ―――ッ!?!?」

 

 

 フェイトら子供達が現れた瞬間、リンディはファンのアレを捻って離し、優しい微笑みを浮かべた。

 

 

「あの、これ……これって……」

 

 

 そう言って見せたのは白を基調とした可愛らしい服だった。

 

 

「転校手続き取っといたから、週明けからなのはさんと蓮夜君のクラスメイトね」

 

 

 どうやらその服はなのはと蓮夜が通う学校の制服だったようだ。

 

 

「あら、素敵!」

 

「聖祥小学校ですか! あそこは良い学校ですよ。な? なのは」

 

「うん!」

 

「良かったわね、フェイトちゃん」

 

「あの、えと……はい。ありがとう……ございます」

 

 

 フェイトは頬を赤らめながら制服を胸に抱きお礼を言った。

 

 

「ちょっ、誰か……! 回復系の魔法を……!」

 

「……あのおっさんは何やってんだ?」

 

「蓮夜君? 世の中には言ってはならない事があるのよ。彼はその体現者」

 

「……ま、頑張れや」

 

 

 

 

 翌日の夕方、ファンはまたあの図書館へ来ていた。

 また何かないかと探しに来ているのだ。

 

 

「ん~……衣・食、どちらが良い? どっちもか? いや。どっちも駄目とか……。ああ~! もうまたあんな事が続くのか!? 男としてはまあ、アレだけど、俺としては駄目なんだよな~……ん?」

 

 

 ファンは図書館の廊下で、見覚えのある少女二人を見つけた。

 

 

「あれは……何時かの娘とたしかすずかって言うあいつらの友達、だったよな?」

 

 

 ファンは声をかけるか少し迷ったが、結局声をかけることにした。

 

 

「お~い、すずかちゃんに何時かのおじょ――――ぁ」

 

 

 ファンは少女たちの近くに、ピンクのポニーテールの女性がいるのに気が付き、息をするのを忘れてしまった。

 

 

―――何で……ここにいるんだ……!?

 

 

 

――また夜更かしですか? ファンが怒りますよ。

 

――『  』、また剣の打ち合いをお願いします。

 

――やはり貴方との戦いは楽しい。

 

 

「――あ、ファンさん!」

 

「え? あ、ホンマや!」

 

「ん?」

 

「っ――!」

 

 

 ファンを元に戻したのはすずかと少女の声だった。

 我を取り戻したファンはすずかと少女に微笑み、ピンクの髪の女性を気にしながら近付いた。

 

 

「よ、よお! 偶然だな!」

 

「はい!」

 

「あの時はありがとうございました! って、あれ? すずかちゃん、知り合いなん?」

 

「え? はやてちゃんも?」

 

 

 はやて、それが少女の名前らしい。

 

 

「私は友達関係で知り合ったの」

 

「私はちょぉ助けてもらった事があってん」

 

「へぇ~、そうなんだ!」

 

 

 二人が話している間、ファンは後ろにいる女性が気になっていて仕方がなかった。

 その女性も、ファンの後姿を睨むように見ていた。

 

 

「君達は友達だったのか?」

 

「はい。この図書館で出会ってからで……」

 

「そっか」

 

「あの、八神はやてって言います。あの時は本当にありがとうございました、フィクスさん」

 

「ん? 名前名乗ったっけ?」

 

「名刺ですよ」

 

「ああ、そうか」

 

「ある――はやて殿。お知り合いですか?」

 

「っ……!」

 

 

 女性がファンの後ろに立ってはやてに尋ねた。

 ファンは肩を震わせたが、はやてとすずかには気づかれていないようだ。

 

 

「そや。ここで変な子に絡まれてな。そこを助けてくれたんよ」

 

「そうでしたか。どうもありがとうございます」

 

「あ、いや……」

 

 

 ファンは彼女の対応に眉をひそめた。それから彼女の顔を見て、ある違和感を覚えた。

 

 

「あ、紹介します。この人はシグナムって言って、私の遠い親戚の人なんです」

 

「シグナムです」

 

「あ、ああ……。ファン・フィクスだ。宜しく……」

 

 

 ファンはシグナムの表情を見て、ますます違和感を覚えた。

 

 

―――何だ……この違和感……。何で……彼女は……。

 

 

「どないしたんです?」

 

「へ? あ、ああ! 何、あまりにも美人で見惚れちゃったんだよ!」

 

「もう! リンディさんに言いつけちゃいますよ?」

 

「何故に!? ってかそれは勘弁!」

 

 

 すずかが笑顔で恐ろしい事を口にし、ファンは本気で頭を下げた。

 

 

「リンディさん? ファンさんの恋人?」

 

「絶対に違う! あんな悪女、お断りだ!」

 

「もう、駄目ですよ? 女の人にそんなこと言っちゃ」

 

「はい、すみません……」

 

 

 小学三年生の女の子に注意される二十五歳男性……哀れな。

 

 

「ふふふっ、何や面白い人ですね、フィクスさんって」

 

「ファンでいいよ。それより、何か困った事があればいつでも連絡してくれよ。何時でも何処でもどんな事でも無料で助けてやるから」

 

「はい! あ、そや!」

 

 

 はやては手をパンっと叩いて、笑顔でファンに口にした。

 

 

「明日、ウチですずかちゃんと皆でお鍋するんですけど、ファンさんにもお礼をしたいんですけど……」

 

「へ? いやいや! いきなり知り合ったばかりの男の人を家に呼ぶのはいかんよ!」

 

「すずかちゃんの知り合いでもあるし、親戚の中にちゃんと男の人もいます。な? ええやろシグナム」

 

 

 はやてはシグナムに同意を求めた。

 シグナムは少し焦っていたが、渋々といった感じに賛同した。

 

 

「で、でも……」

 

「嫌ですか?」

 

「うっ……」

 

 

 ファンは内心、どうしようか迷っていた。

 いきなり家にお邪魔するのはどうかと思うし、何よりシグナムが気掛かりなのである。

 

 

―――……だが、この違和感を確かめる機会だ……意を決して行ってみるか。

 

 

 ファンはそう決め、はやての顔を見た。

 

 

「それじゃあ、お言葉に甘えてお邪魔になろうかな」

 

「ホンマですか!? それじゃあ、腕によりをかけて作りますね!」

 

「ああ、楽しみにしているよ」

 

 

 ファンははやてと約束をし、その後は四人で一緒に図書館で過ごして、帰りははやての家を知るのを兼ねて家まで送った。

 

 

 

 

 夜。ファンは外を歩いていた。冬に入り、息が白くなる寒さの中、一人で人気が少ない場所を歩いていた。

 そのまま歩き続け、ファンは山の中に入っていった。

 

 

「……ここなら誰もいない。姿を現せ」

 

 

 ファンは周りに聞こえるように呟き、そして背後に人影が現れた。

 

 

「……何時から気づいていた?」

 

「何時からでもいいだろう。それで、何の用だ?」

 

 

 ファンは後ろを振り向き、後ろに立っている女性――シグナムを睨んだ。

 

 

「貴様……管理局の者か?」

 

「違う。が、その者に雇われているがな」

 

「ではやはり主を狙って……!」

 

 

 シグナムはファンを睨んで剣のデバイスの切っ先を突きつけた。

 

 

「違う。はやてと会ったのは偶然だ。それに、俺はそんな事考えちゃいない」

 

「それを信じろと?」

 

「いや、信じろとは言わんさ。だが、出来れば信じてほしいがな」

 

「………」

 

 

 二人は睨み合い、やがてシグナムは剣を鞘に収めた。

 

 

「信じた訳ではない。ただここで争うつもりはないだけだ」

 

「……そうか」

 

「貴様は何者だ?」

 

「………“ファン”、“イヴァ”」

 

「……?」

 

「……聞き覚えは、無いか?」

 

「……無いな」

 

「っ……そうか」

 

 

 ファンは地面に視線を落とし、拳を握った。

 

 

「……俺はファン・フィクス。何でも屋エリスの店長だ」

 

「何でも屋……?」

 

「ああ……」

 

「……主に危害を加えるのなら……」

 

「……ああ。あの娘は悪人じゃない。見れば分かる」

 

「……そうか」

 

「明日……行っても良いのか?」

 

 

 シグナムが飛び去ろうとした時、ファンは呼び止め、明日の約束の事を聞いた。

 

 

「……ああ。それが主との約束だからな」

 

「……そうか。じゃあ、また明日……」

 

「………」

 

 

 シグナムは飛び去り、ファンが一人残された。

 

 

「………」

 

 

 ファンは地面に崩れ落ち、拳を地面に叩き付けた。

 

 

「……ンだよ……! これが……『罰』なのかよ……! こんなのって……ねぇよ……!」

 

 

 涙を流し、ファンは地面に拳を叩き続けた。

 その拳が血みどろになるまで……。

 

 

 

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