事態は急展開を迎える!
蓮夜は何とかその場から動こうとした。
だが気づけばもう全身を殴られている。
絶対氷結で時間を止められ、ルシファルに全身を殴られる。
そして時が動き出すとダメージを受ける。
もうこれを何度も繰り返しており、蓮夜の全身はボロボロだった。
骨も数本折れてしまっている。
「クソがっ……!」
「ほほぅ、まだそこまでの元気があるか。中々しぶといな」
――どうすりゃいいんだ!? 奴には
「ふん、そろそろ終いとしようか」
「ええい! 火炎斬波―――」
「止まれ!」
蓮夜が斬撃を飛ばした瞬間、ルシファルは時を止める。
そして蓮夜に近付き、蓮夜の腹に力の限り拳を叩き付けた。
ルシファルは蓮夜から離れ、時を進める。
「――――ごはっ!?」
蓮夜の身体に衝撃が貫き、蓮夜はビルの中に吹き飛ばされた。
「ぐ……チクショウがぁ……!」
『マスター、大丈夫ですか?』
戦いの最中、何とか回収出来た紅蓮が蓮夜の安否を確認する。
「ったりめーだ! あんなクソったれにやられるかよ!」
『では私の言う通りにしてください』
「何?」
『私にありったけの魔力を込め続けて下さい』
「何言って―――まさか……」
『マスターの察しの通りです』
蓮夜が紅蓮と会話している時、ルシファルは蓮夜を吹き飛ばしたビルを眺めていた。
「ふん、動きが無いな……死んだか?」
ルシファルが笑みを零した瞬間、ビルの中から紅い斬撃が飛び出してきた。
「ふっ、まだ死んでなかったか」
斬撃を手の甲で弾き、体内で魔力を循環させ身体を強化していく。
「ぞらぁあああああ!!」
蓮夜がビルから飛び出し、ルシファルに向かって左手の紅蓮を突き出す。
「血迷ったか下衆!」
ルシファルは時を止め、蓮夜へと近付く。
そして拳を振り上げ―――。
『インフェルノ』
「何っ!?」
蓮夜を中心に大爆発を起こし、ルシファルを呑み込んだ。
「―――っ、ぜらぁ!」
「―――クソが!」
時が流れ出し、蓮夜はルシファルに斬りかかる。
ルシファルは籠手で受け止め、再び時を止める。
「この餓鬼が!」
『炎穿陣』
豪炎の壁がルシファルを消滅させる。
しかしすぐに再生され、ルシファルは一旦蓮夜から離れる。
「貴様……」
「……成程。お前のそれ、欠点があるな。無機物には効果が無い。時を止めるといってもそれは体感時間だけ。だから筋肉と意識が止まるだけ。体内の流れは止まらない」
「……チッ、インテリジェントデバイスが防御を突破するほどの魔法を……」
「良く考えればお前のチートって十二の試練だけだな。何が王だよ? バッカ馬鹿しい! テメェが王だったらおっさんは神だよ!」
「王を愚弄するか! 恥を知れ!」
「恥を知るのはテメェだ! テメェのような勘違い野朗が王を名乗ってんじゃねえぞ! そのアホくせぇ考え、この俺様と紅蓮で跳ね返してやらァ!」
ルシファルの命はあと七つ。
あと六つ奪い、追い詰めればルシファルは終わり。
蓮夜は残りの攻撃方法を頭の中で導き出し、勝利へと向かって動き出す。
「残りの命一気に奪ってやらぁ!」
蓮夜はルシファルに向かって駆け出し、紅蓮に魔力を込めた。
「くっ! 止まれ!」
「―――」
蓮夜は止まる。
だが紅蓮だけは止まらない。
紅蓮は蓮夜から送られた魔力を使用し、魔法を発動する。
『複射波動・斬滅波』
紅蓮から灼熱の波動が放たれる。
ルシファルはその効果範囲を避ける事は出来ないと考え、前方に魔法障壁を展開する。
だが波動は蓮夜の前方全空域に広がり、障壁の裏側―――ルシファルへと侵食していった。
「な、何ぃ!?」
灼熱の波動はルシファルを侵食していき、ルシファルの体内から焼き尽くしていった。
「―――んあ? 複射波動か。これ防ぐには全体防御しかねぇぜ?」
「―――こ、このぉ!」
「あ? もう氷結は使わねぇのか!?」
ルシファルは時間氷結を使わずに己の身体だけで蓮夜に勝負を挑んだ。
「紅蓮! 出し惜しみナシだぁ! あのおっさんに“教えられた技ァ”! やってやらぁ!」
『了解。術式解放、第一から第四までの門を開きます』
蓮夜の身体から紅い魔力が溢れ出し、蓮夜自身を包み込んだ。
「第一……」
「ふん!」
ルシファルは蓮夜の顔面に向けて拳を放ったが、蓮夜は顔をずらす事でそれを避けた。
そしてそのまますれ違うように駆け抜けた。
紅蓮を振り払った状態で。
「
紅い魔力剣になった紅蓮でルシファルの身体を両断した。
そしてまたすぐにルシファルの身体は再生される。
「第二……」
蓮夜から溢れる魔力が更に濃度を増し、移動速度が増した。
「くそっ!」
ルシファルは蓮夜に向かい、蹴りを放った。
だが蓮夜はルシファルの真上に回避し、魔力剣と化した紅蓮を交差させて振り払った。
「
ルシファルの頭上からの激しい二つの紅い光刃を放ち、ルシファルを呑み込む。
「第三……」
更に魔力の濃度と速度が増し、紅蓮は柄が曲がり、銃と変形した。
再生された身体に狙いを定めて、トリガーを引いた。
「
灼滅の砲撃が放たれ、ルシファルの身体を溶かしていく。
「第四……」
「―――嘗めるなよぉ!!」
ルシファルは再生を一瞬で終わらせ、蓮夜から離れる。
もうこれ以上命を削られては後が無いと思ったのだろう、ルシファルも自身の全力を出す。
「無双の極地、王の領域、我が拳を受けよ!!!」
ルシファルの足元に緑の魔法陣が展開され、ルシファルの魔力が爆発する。
そして背後に鬼が魔力で形作られ、掲げた拳に鬼が吸収される。
「例え魔力が跳ね返されようとも! この拳だけは弾き返されん! 反射という壁は王にとって低い!」
「……けっ、無駄無駄ぁ!!」
蓮夜は口の両端を吊り上げ、紅蓮を一つの剣に変形させた。
「これで!」
「最後だ!」
「
「
紅蓮に魔力が収束され、巨大な紅い魔力剣と進化した。
拳に緑の魔力が渦巻き、万物を砕く王の拳と化した。
「―――
「―――
剣と拳がぶつかり合い、激しい衝撃が発生する。
剣は拳を叩き切らんとし、拳は拳を砕かんとす。
「があああああああああああああああっ!!!」
「はあああああああああああああああっ!!!」
そして、力の均衡は崩れ去った。
剣は砕け散り、拳は斬られた。
「まだまだぁ!」
ルシファルは蓮夜に突撃し、もう片方の拳を叩き込もうとする。
「バァカがぁあ!!」
砕け散った剣の破片は消えず、蓮夜とルシファルの周りを吹雪のように回り始めた。
「どぉおおお!!」
「ハァッ!」
ルシファルが突き出した拳を、蓮夜は頭突きで受け止めた。
ベクトル操作でルシファルの拳を任意で操った。
ルシファルの拳は蓮夜に直撃する前に拳を寸止めの要領で引いている。
ならその向きに力の働きを向けさせばいい。
ただそれだけ。
「なっ……!?」
「止めだ―――!」
周りで吹雪く破片が一斉にルシファルへと襲い掛かる。
「
煉獄の炎と化した破片がルシファルの身体を貫き、焼き切り、焼き付ける。
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」
ルシファルは死んだ。
これで残りの命は一つ。
もう次は無い。
「はぁ…はぁ…はぁ…ゴホッ!」
『マスター、術式を封印します。これ以上は身体が持ちません』
「けっ……餓鬼の身体には厳しいな……。おっさんには第一までで止めとけって言われてたっけか……」
紅い魔力は次第に収まり、蓮夜は満身創痍で再生されていくルシファルを睨んだ。
「……よくも我の命を奪って行ったな……!」
「けけっ、あと一つだがどうすんだぁ? 大人しく尻尾巻いて逃げるかぁ?」
「……今の貴様にはもう何も出来んだろ。それに対し我は再生して元通り。やることは一つだろう」
ルシファルは拳を握り、蓮夜を睨み返した。
「……どうしてもやんのか?」
「何だ? 今更殺しは嫌だといいたいのか? 貴様も他の転生者共を殺してきたんだろうが! この世界は我のものだ! 全て! その為に我は全てを殺してきた! これからもそうだ! 邪魔をする者は全て抹消する!」
ルシファルは蓮夜に襲い掛かり、拳を振りかぶる。
「……二つ訂正する部分がある」
「はああああ!」
「先ず一つ、俺は別に殺しを否定しねぇよ。邪魔なものは潰す。ただそれだけ」
「―――っ!?」
ルシファルは眼を見開き、拳を振りかぶったまま蓮夜を通り過ぎた。
「そして二つ……テメェでは俺に勝てねぇんだよ」
蓮夜を通り過ぎたルシファルは、心臓部分から爆発し、身体が四散した。
「な……ぜ……?」
「まだ喋れるのかよ。何にもしてねぇよ。ただ破片をテメェの中に残しておいただけだよ」
ルシファルはこれで全ての命を失った。
即ちルシファルという転生者はこの世から消え去った。
「……っくしょう、ダメージ受けすぎた……。紅蓮、頼むぜ……」
『了解』
蓮夜はビルの屋上に着地し、その場に崩れ落ちた。
紅蓮は自身に内蔵されている治癒魔法を蓮夜に施し、少しだけだが受けた傷を回復していく。
――あ~、何か忘れてる気がすんぜ……。何かここにいちゃヤバイような……。
蓮夜は寝転び、何気なしに空を見た。
その途端、血の気が引いた。
夜空に浮かぶピンク色の光。
それを見て蓮夜は何を忘れていたのか思い出した。
「ヤベェ! スターライトブレイカー!」
その光は闇の書が放つスターライトブレイカー。
放たれれば蓮夜がいるビルを呑み込む。
蓮夜には反射があるが、デアボリックエミッションを受けきれなかったなのはには恐らくひとたまり無いだろう。
「助けに―――いっ!」
『まだ無理です。これ以上は動けません』
「無理でもなんでも―――!」
蓮夜が無理をして立ち上がろうとしたとき、ピンク色の閃光が地上へと向かって放たれた。
閃光は地面に直撃し、ドーム上に広がっていく。
蓮夜がいるビルも呑みこまれたが、反射で自身にダメージは無い。
だがこれ程の威力、なのはたちには到底受け止めきれない。
やはり何処かで最悪な方向に変わっている。
「チクショオォォォォォォ!! なのはぁぁぁぁぁああ!!」
蓮夜はなのはの名を叫び、何も出来ない自分の無力さに憤りを感じた。
―――刹那。
ピンクのドームを、紫の閃光が両断した。
その直後、ピンクの魔力は消えていった。
「………あの光は……おっさん?」
蓮夜は空に視線を動かし、ファンの姿を探した。
そして見つけた。
「―――は?」
異形な姿の悪魔が、ファンの胴体を手に持つ魔剣で貫いている姿を。
★
時は遡り、ファンと姿を変えたイヴァシリアが鍔迫り合いをしていた。
『アハハハハハ!』
「チィッ!」
夥しい魔力と、凄まじい怪力によりファンは押される。
『どうしたんですか!? 私を殺すのではないのですか!?』
「二重音声で喋るな! 喧しい!」
ファンは周りに紫の魔力剣を展開し、イヴァシリアに向けて射出する。
『そんなもの!』
だがそれはイヴァシリアが纏う紅い魔力により弾かれる。
「このナルシストが! 俺の教え子と同じ魔力光とか腹立つんだよ!」
『寧ろ光栄に思いなさい! 伝説の悪魔と同じ色なのですよ!』
「何が伝説の悪魔だ! 貴様が悪魔ならリンディは魔神だ! 悪魔の神と書いて魔神だ!」
リンディが聞いたら絶対に怒りの鉄槌どころではない何かが送られるだろう。
『そろそろ終わりにしませんか!? 私は早く彼女の元へと行きたいのですよ!』
「……術式解放、第一の門展開!」
ファンの全身から紫色の魔力が噴き出し、力が湧き出す。
『ほう?』
「はぁあっ!」
ファンは魔剣を弾き、イヴァシリアの胴体へと刀を払う。
対しイヴァシリアは魔力を纏った拳で受け止めようとするが、ファンの『ゼロ』により魔力は消され、拳は二つに斬れた。
ファンはイヴァシリアを蹴り飛ばし、距離をとった。
『ほぉ……まさか私の魔力を斬るとは……』
「こっからが本番だ……泣いて詫びるなら今の内だぞ?」
『詫びる? 貴方は自分の身体の状態を理解しているんですか?』
ファンはまさにボロボロだった。
身体全身に切傷があり、血だらけで、決して浅くは無い。
今の今まで動けていたのが信じられないほどに。
息も乱れ、肩を大きく動かしている。
そしてファンの力『ゼロ』は決して万能ではない。
自身の体力に比例して効力は変わる。
今のような傷だらけで、体力の消耗が激しい状態では満足に使えない。
――確かに、このまま戦い続ければ間違いなく死ぬだろうな。『ゼロ』も今の状態では満足に使えないし。だがそれは“このまま”の話だがな。“アレ”を行なえば敗走は無い。だがアレは……。
ファンは躊躇った。
あの力を使えばファンが一番恐ろしいと思える事が怒るかもしれないから。
だから使えない、使わない。己の為に。
「……使わずにやるしかないか」
『何か?』
「―――術式解放、第五の門展開!」
ファンの魔力が更に溢れ出し、刀に全て集まっていく。
「この一太刀、貴様に手向ける太刀となろう!」
鞘を消し、魔力を渦巻き収束しながら大太刀となった刀を持つ右手を後ろに回し、身体を右に捻り、構える。
『ほぅ……ならば私も!』
イヴァシリアも魔剣に紅い魔力を暴風の如く纏わせ、突きの構えを取る。
「奥義―――!?」
ファンはチラリと視界に入った光に眼を疑った。
――不味い……あれはスターライトブレイカー!? あれを撃ったら……!
『行きますよ……!』
――蓮夜は兎も角フェイトたちが……!?
『はああああっ!!』
「っ!?」
イヴァシリアは紅い台風となってファンに迫る。
今更技の発動を止めてスターライトを止めにはいけない。
かといってこのまま見過ごせばフェイト達に甚大な被害が出る。
「―――――このぉぉぉぉおおおおおおお!!」
ファンは大太刀を振り抜いた。
大太刀の刀身が伸び、空を切り裂く。
そしてイヴァシリアの“頭上を通り過ぎた”。
「消えろぉぉぉぉぉぉぉおおおおおお!!!」
ファンは全身全霊で『ゼロ』の力を刀身に纏わせ、地面に直撃し、ドーム状に広がっているスターライトを切り裂き、全てを消し去った。
「―――ごはっ!?」
『まったく、何を……』
イヴァシリアを無視しての行動は、自身の身体に魔剣を貫かせるという結果を残した。
渦巻く魔力が身体を削り取っていき、ファンに致命傷を与えていく。
「――――ファン!!!」
『っ!? 何!?』
女性の叫び声と共に赤黒い雷がイヴァシリアを襲った。
イヴァシリアは魔剣を抜き取り、雷を打ち払ってファンから離れた。
「ファン!! ファン!! しっかりなさい!!」
「っ――――ぁ―――!!」
身体に大きな穴が開いたファンを受け止めたのはエスティナルだった。
エスティナルはファンを抱きかかえ、ファンに傷を与えた張本人、イヴァシリアを怒りの眼で睨みつける。
「よくも……!」
エスティナルの周りに赤黒い雷が発生し、まるでそれが怒りを表しているようだった。
『何ですか貴女は……。貴女も邪魔をするつもりですか?』
イヴァシリアは魔剣の切っ先をエスティナルに向け、再び魔力を暴風の如く纏わす。
「っ……今は……!」
エスティナルはすぐにイヴァシリアを八つ裂きにしたかった。
だがそれを行なえばファンが死んでしまう。
エスティナルはファンの傷口を押さるがドバドバと血が溢れ出す。
『もう本当にこれで―――』
イヴァシリアが言葉を終わらせる前に、イヴァシリアの上から標識が振ってきた。
『何?』
イヴァシリアはそれを叩き切り防ぐが、次々と電柱、看板、戦いで生じたビルの瓦礫がイヴァシリアの頭上に現れ落ちてきた。
『一体何なんですか?』
イヴァシリアはファンとエスティナルから離れ、落ちてくるものから回避行動を取る。
「“神楽”! 今はファンを!」
エスティナルがそう叫ぶと、ファンとエスティナルの前に一人の短い黒髪の少女が何も無い空間から現れた。
「っ!? “お義父さん”!?」
「神楽! 今はここから離れます!」
「う、うん!」
神楽と呼ばれた少女は頷き、ファンとエスティナルの身体に触れ、その場から消えた。
『今のは……。まあいいでしょう。そろそろ準備をし始めないと間に合いそうにありませんしね』
イヴァシリアは姿を元の人の姿に戻り、夜空へと消えていった。
★
消えた三人は結界内であるが戦闘空域から離れた場所に姿を現した。
「剣誠! 剣誠は何処ですか!?」
「こ、ここだはあっ!?」
剣誠と呼ばれた黒髪のツンツンの少年が走ってきて派手にこけた。
もう一度言う。
派手にこけた。
「ケン! ふざけてる場合じゃないの! お義父さんが大変なの!」
「うぇ!? 義父さん!?」
「早くアンタの回復魔法で何とかしなさいよ!」
「あ、ああ!」
剣誠は黒い手袋をしていない左手をファンの傷口に当て、淡い光を発した。
「キュア!」
光がファンの傷を癒していき、ファンの顔色も心成しか良くなってきた。
「ファン! しっかりなさい!」
「く……え…エスティ……?」
「神楽と剣誠もいますよ」
「な…に……?」
ファンは傍に居る子供たちを見て驚いた表情を浮かべた。
「なんで……?」
「だってやっぱりじっとしてられないよ! 知ってるからには何かしたいもん!」
「そうだぜ! それにこれで義父さんが死んだら意味ないじゃんか!」
「馬鹿! 縁起でも無いこと言わない!」
「いって!?」
ファンが大怪我をしているのにも関わらず、二人は喧嘩をし始めた。
「ファン、貴方と言うほどの方がどうしてこれほど……」
「なに……油断してただけだ……」
ファンは剣誠のお陰で立てるようになり、大きく深呼吸してから三人に視線を向けた。
「二人とも、ありがとな。あとはエスティと俺で何とかするから」
「何とかって、どうするの!?」
「……あのナルシスト野朗を叩き潰して、あの防衛プログラムからはやてを引っ張り出す」
「前者は兎も角、後者は大丈夫だって! 自分で解決しちゃうから!」
「でもあのスターライトブレイカー、どう見ても威力が桁違いじゃなかったっけ?」
「うっ……」
剣誠の冷静な指摘に言葉を詰まらせる神楽。
神楽と剣誠は蓮夜と同じ転生者であり、この世界で家族を失い、独りでいるところをファンとエスティナルが拾い、ファンが自身の子供として育てている。
そして転生者な故に、蓮夜と同じくこの世界の成り行きを知っている。
とは言っても知っているのは神楽だけであり、剣誠は知らない。
転生者であるがこの世界の成り行きを知らない者もいるのだ。
「神楽の話じゃ、なのはって女の子がシールドで防ぐんだろ? でもあれはどう見ても無理じゃ―――」
「ぅぅ分かってるわよ!」
「ぎゃっ!?」
神楽は剣誠の頭を小突き、剣誠は頭を押さえ、不幸だと呟いた。
「それで、どうするのですか?」
「……術式を完全解放するか」
「それほどなのですか、アレは?」
「本来なら使わずに済むんだが……あの愚か者はイヴァシリア・ムトス・エラフィクスの名を騙った。その報いを受けさせなければならない」
「……あの
『……お義姉ちゃん(義姉さん)怖い』
神楽と剣誠は黒い何かを醸し出すエスティナルに震え、冷や汗を流した。
「エスティ、二人を頼む」
「……はい」
「何言ってるのよ!? 私も戦う!」
「お、俺もだ!」
「アンタは駄目よ! 不幸スキルがあるのよ!」
「神楽だってうっかり病があるじゃんか!」
「アンタよりはマシよ!」
「いででででっ!? 耳引っ張るな!」
「おい、どっちも―――」
ファンとエスティは何かに気づき、神楽と剣誠を抱きかかえてその場から飛び退いた。
すると今までいた地面から巨大な火柱が発生した。
「うそっ!? もう!?」
エスティナルに抱きかかえられている神楽がそう言った。
「何!?」
「闇の書が暴走しかけてるの! このままじゃはやても管制人格も消えちゃう!」
「なっ!?」
ファンは剣誠を離し、その場から消えた。
「義父さん!?」
「お義姉ちゃん! 私達も!」
「駄目です。貴女達は行ってはなりません」
「何で!?」
「では聞きますが、貴女達に何かできますか? 高度な転移能力、他人より少しばかり高い魔法。これでファンの助けになりますか? 先ほどは助けられました。ですが今度もそう上手くいきますか? 何より、彼は子供を戦場に立たす気はありません。今戦ってる子達も、本来ならば家族の下で一緒に過ごしてほしかった」
「けど!」
「神楽、俺達じゃあ戦場の真ん中にはいけないって」
「アンタまで何言ってるのよ!?」
「痛いって! だから、俺達はサポートに徹しようぜ。何も戦い方は一つだけじゃないんだから」
剣誠は神楽に叩かれながらもそう言い、神楽は納得いかないのか拳を握ったが、渋々と頷いた。
「……では、私達はあの
『うん!』
「あ、それと剣誠は隠れてなさいな。不幸スキルなるもので不利な状況になりたくありませんから♪」
「へ? ……そ、そんなぁ〜!?」
★
ファンは火柱が上り立つ街の中を、凄まじい速度で移動していた。
姿は見えず、影のような残像を残しながら闇の書の防衛プログラムに迫った。
「……っ!? フェイト!」
ファンが到着した時、フェイトがデバイスであるバルディッシュを鎌にして防衛プログラムに飛び掛っていた。
だがソレは展開されたシールドで簡単に受け止められる。
そして、フェイトの身体が金色に光だし、次第に力が抜けるようにぐったりとしていきだした。
「よせ……止せ!! “ヤミっちぃぃぃぃぃぃいいい”!!!!」
「っ!?」
ファンは闇の書へと吸収されていくフェイトの腕を掴み、『ゼロ』で闇の書の吸収を消そうとした。
その時、防衛プログラムである銀髪の女性と眼が合い、彼女は眼を見開いた。
「―――がはぁっ!?」
「っ―――!?」
突然、ファンの胸を空から飛来してきた紅い閃光が貫いた。
血が噴き出し、噴き出した血が彼女の顔に掛かる。
そして『ゼロ』の力が止まり、闇の書がファンごとフェイトを吸収してしまった。
「………イ……ヴァ……?」
“ヤミっち”、そう呼ばれた防衛プログラムは信じられない顔をして震える声で呟いた。