何でも屋エリスでございます   作:魔帝

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奇跡的に時間が取れたので更新。






第二章第九話

 

 

 

「………」

 

 

 ファンは質素なベッドの上で目を覚ました。

 部屋の中は何も無く、ファンの愛刀である少し長めの刀と、その他質量兵器が散らばっている。

 

 

「……ここは……」

 

 

 ファンは何処か見覚えのある光景に頭を捻る。

 そしてだんだんと思い出してきて思考が停止した。

 

 

「な……そんな……!?」

 

 

 ファンは起き上がり、窓を開けて外を見る。

 そこにはあのマンションから見える街の光景ではなく、住宅やビルは無くなっており、辺り一面に緑が広がっていた。

 

 

「ここは……昔の……家……!?」

 

「お父さーん! 起きなさーい!」

 

「っ―――!!!」

 

 

 ファンは驚愕する。

 もう永遠に聞く事の出来ないと思っていた少女の声。

 それが扉の向こうから聞こえた。

 

 

「お父さん! 起きて―――あれ? 起きてる。珍しい」

 

「―――ッ!!!」

 

 

 扉を開けて現れたのは黒髪の少女。

 まだ幼くやっと思春期に入ったぐらいの少女だった。

 

 

「もう、起きてるなら返事してよ。……お父さん?」

 

「――――“ファン”――!?」

 

 

 黒髪の少女、ファン・エラフィクスの姿がそこにはあった。

 

 この世界は、ファン・フィクスが、イヴァシリア・ムトス・エラフィクスであった頃の、一番幸福であった頃の世界だと、彼は確信した。

 

 

 

 

 ファン―――イヴァは食卓に向かい、そこでまた昔の光景を目の当たりにしている。

 

 

「お、兄ちゃん今日は早ぇじゃねぇか」

 

「そうだな。今日は大雨かもしれんな」

 

「もう、シグナムもヴィータちゃんも。失礼よ」

 

「イヴァ殿、おはようございます」

 

 

 シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラがイヴァを迎えた。

 

 

「………お、おはよう」

 

「ん? どうした?」

 

 

 イヴァの様子に違和感を感じたのか、シグナムが首を捻った。

 

 

「い、いや……」

 

「お父さん、寝惚けてるんだよ。また夜更かししたんでしょ」

 

 

 ファンが台所から朝食を持って出てきた。

 その後ろに、銀髪の女性がを引き連れて。

 

 

「いけませんよ。夜更かしは身体に毒なんですから」

 

「………」

 

「……イヴァ、どうしました?」

 

 

 銀髪の女性……ヤミっちがイヴァの顔を覗く。

 イヴァは彼女が自身の本当の名を呼んでくれる嬉しさ、彼女達を殺した罪悪感、この二つが混ざり合い、心がぐしゃぐしゃになってしまい、涙が溢れ出してきた。

 

 

「ど、どうしたのですか!? 私、何か言いましたか!?」

 

「お父さんが泣いてる!? レアだ! レアだよ!」

 

「兄ちゃんが泣いてんの初めて見たぜ!」

 

「シャマル! まさか朝食に手を出してないだろうな!?」

 

「何でぇ!?」

 

「大丈夫だ!毒の臭いはしない!」

 

「ザフィーラまで!?」

 

 

 泣いているイヴァを余所に、ヴォルケンリッターと娘は泣いている姿を写真に収めたり、朝食を確認したりしていた。

 唯一心配してくれているのはヤミっちだけであった。

 

 

「ぐっ……ずっ……だい、じょうぶ…だ……! 何でも……ない……っ!」

 

 

 イヴァは必死に涙を堪えようとするが涙は止まらず、寧ろ勢いを強めていった。

 

 

 

 

 朝食を済ませ、イヴァは外に出て少しだけ離れた場所にある木の下に背を預けて座っていた。

 

 

「俺は……闇の書……夜天の書に吸収されたのか……?」

 

 

 イヴァはフェイトを救出しようとしたが、紅い閃光がイヴァの胸を貫き、『ゼロ』の力が制御できなくなり、そのままフェイトと共に吸収されてしまったのだ。

 ここにフェイトがいないと言う事は、また別の世界にいるのだろう。

 

 

「……何やってんだか。またリンディにどやされるな……」

 

「誰にですか?」

 

「うおっ!?」

 

 

 イヴァはいきなり現れたヤミっちに驚き、上を見上げた。

 

 

「や、ヤミっち……」

 

「らしくないですね。何時もなら家から出た時から気づいているのに」

 

 

 ヤミっちはイヴァの隣に腰掛け、晴天の空を見上げる。

 

 

「どうしたのですか? 今朝から変ですよ?」

 

「……ちょっと、嫌な夢を見てな。いや……今が夢かもしれない」

 

「夢、ですか?」

 

「ああ……」

 

 

 イヴァは話した。

 

 自分が家族を殺して、自分も死んで、死に拾われて悪魔として蘇り、聖王と共に戦争を駆け、自分を駒使いにする女性に苦労し、妹が出来たり、義理の息子と娘が出来たり、今までの事をヤミっちに全て話した。

 

 

「……随分と壮大な夢ですね」

 

「だろ? 我ながら笑えてくる」

 

「……もしもですよ? 今が夢でそれが現実と今が現実でそれが夢と、どちらが良いですか?」

 

「………」

 

 

 イヴァはすぐには答えられなかった。

 向こうは向こうで幸せだ。

 数多くの友人ができ、それなりに楽しい世界だ。

 何よりエスティナルが相棒として存在している。

 こっちの世界も、失われた家族が存在し、心から愛した女性が今目の前にいる。

 幸せの絶頂期だった。

 

 

「……どっちだろうなぁ」

 

 

 イヴァはヤミっちの膝に頭を乗せて寝転んだ。

 何千、何万、何億年ぶりに感じたその心地良さにイヴァはまた涙を流す。

 ヤミっちはそんなイヴァの頭をそっと撫でた。

 

 

「本当に今日はどうしたのですか? 泣きすぎです」

 

「そういう日もあるさ……」

 

 

 以前、エスティナルにも膝枕をしてもらった事がある。

 だがやはり心から愛した女性にしてもらうのとでは違った。

 イヴァはあまりにもの心地の良さに眠りにつこうとしていた。

 

 

「……イヴァ」

 

「ん……?」

 

「貴方はこれからも生きていきたいですか?」

 

「っ……?」

 

 

 ヤミっちの何処か違う雰囲気が篭った声に、イヴァは眠りに着こうとしていた意識を覚醒させる。

 

 

「どういう意味だ?」

 

「そのままの意味です。貴方はこれからどんなに辛い事があっても、生きていきたいですか?」

 

「………」

 

 

 イヴァは思い出しす。

 まだ“死”に拾われたばかりの頃、イヴァの眼は、心は死んでいた。

 どうして生きたいと願ったのか。

 どうして死んでいないのか。

 迷い、苦しみ、無気力に時を過ごしていった。

 今のようにお気楽で、気分屋で、明るく生きていけるようになったのはエスティナルは当然、戦乱の時期に仕事で出会った仲間、そしてその仕事の対象であった少女のお陰だった。

 

 

「……俺は出来るならこんな幸せな時で過ごして生きたいさ」

 

「………」

 

「この世界は……俺が心の奥底で願っている夢……なんだろ?」

 

 

 ヤミっちは静かに頷いた。

 イヴァはヤミっちの頬に手を当てて優しく笑みを浮かべた。

 

 

「そうだよなぁ……俺が家族を全員殺したんだし、いる訳ないもんなぁ……」

 

「違います!」

 

 

 ヤミっちがイヴァの殺したという言葉を大きく否定した。

 

 

「違わないさ。この世界は俺が望む夢だから、そんな事を言うんだ。俺が傷付かないように」

 

「いいえ、違います! 私は確かに夢ですが、ここは書の中です! ですから私は、私達にはちゃんとあの時存在した私達の心があります!」

 

「え………」

 

「ですから本当に違うのです! 貴方は私達を殺したのではないのです!」

 

 

 ヤミっちは涙を流し、イヴァの顔に雫がこぼれる。

 

 

「貴方は私達を救おうとしました! あのまま囚われていれば私達は生きたまま死んでいました! ですが貴方はそれを断ち切り、私達を救い出しました!」

 

「救い出してなんかいない。俺はお前達の命を奪った、可能性を奪ったんだ。決して救ってなんかいない」

 

「それでも! 貴方がそう思っても、私達は救われました! 我が主の絶望を見ずに、絶望を増やさずに済みました!」

 

「止してくれ!」

 

 

 イヴァは起き上がり、ヤミっちから離れて背を向ける。

 ヤミっちも立ち上がり、イヴァの背に抱きつく。

 

 

「もう自分を責めなくて良いのです。寧ろ誇って下さい。貴方は私達を助け出したんですから」

 

「救い出してなんかいねぇ……俺はお前達の笑顔を奪ったんだ! この手で斬り捨てたんだ! 守り通すって言ったのに!」

 

 

 イヴァは悔しさと怒りで拳を握り、涙を溢れさせる。

 ヤミっちはイヴァを強く抱きしめ、イヴァの拳を優しく包み込む。

 

 

「貴方は私達を救い出しました。そして、これからも救ってください」

 

「………っ!」

 

「今向こうで戦っている私を止めてください。そして騎士達と八神はやてを救ってください」

 

「……っ!」

 

 

 イヴァは堪らずヤミっちを抱きしめ返した。

 すぐに折れてしまいそうな身体を強く優しく抱きしめ、顔を涙でくしゃくしゃにした。

 

 

「ヤミっちぃ……! 俺は! お前達を! 助けられたのか……!?」

 

「はい」

 

「また俺は! 助けっ、られる事が出来るのかな……!?」

 

「勿論です。一人が心配なら、仲間と一緒に救えます」

 

「俺はぁ! お前ともっと! 一緒に居たい!!」

 

「私達もです」

 

「……!」

 

 

 いつの間にか二人の周りにはファンとヴォルケンリッター達が、家族が集まっていた。

 

 

「みん、な……!」

 

「お父さん」

 

「ファン……」

 

「私ね、実はちゃんと成仏出来てないんだ。魂の欠片が夜天の書に残っちゃって。今までずっとここに居たんだ」

 

 

 ファンはてへへと笑みを浮かべるて、ちっとも残念がっていなかった。

 

 

「でもそのお陰でこうしてお父さんとまた会えたし、良かったよ!」

 

「おま、えは……俺を恨んで……無いのか……?」

 

「恨む訳ないじゃん。あ、でもちょっと怒ってるかな? あの時ずっと傍に居てって言ったのに、お父さんどっか行っちゃったでしょ? アレは酷かったなー」

 

 

 ぷんすかと怒るファンの表情はどう見ても怒っていないようだが、イヴァの心にはグザりときた。

 

 

「という訳で罰です! ちゃんと起きて、はやてちゃん達を助けなさい!」

 

「………ふっ、ああ」

 

 

 イヴァは涙を拭い、ファンの頭を撫でた。

 ファンは今まで我慢していたのか、涙が溢れるように流れ落ち、イヴァに抱きついた。

 

 

「お父さんっ……大好きだよぉ……!」

 

「ああ……ああ…! 俺も大好きだ……!」

 

「これからも忘れ、ないでね……!」

 

「忘れるもんか……! 絶対に……絶対に忘れるもんか!」

 

「約束、だからね……!」

 

「ああ…約束だ……!」

 

 

 父と娘は満足するまで抱き合い、指きりを交わした。

 涙は流れどもそれは嬉しさの表れ。

 悲しみでは無かった。

 

 

「イヴァ……」

 

「シグナム……」

 

「すまない。我々は貴方の事を忘れていた。この世界に来るまで、我々は貴方を忘れていた……」

 

「……気にするなよ。俺だって、今までお前らと会うことを恐れてたんだ。お互い様だ」

 

「兄ちゃん……」

 

「ヴィータ、待ってろよ。兄ちゃんがお前達を助けてやるから」

 

「うん……!」

 

「イヴァさん……」

 

「シャマル、事が終われば料理教えてやるよ」

 

「はい! 是非!」

 

「イヴァ殿……」

 

「ザフィーラ、また酒を飲み明かそうぜ」

 

「はい、ご一緒します」

 

 

 そしてイヴァは再びヤミっちの方へと振り向き、笑みを向ける。

 

 

「じゃあ、ヤミっち。行ってきますのチュー」

 

「……もっと真剣になったらどうですか?」

 

「俺は何時だって真剣だ」

 

「そんな顔で言われても……。それと、私の今の名前はリインフォースです」

 

祝福の風(リインフォース)、ね……。良いじゃん、誰が付けた? はやて?」

 

「はい。ま、まあ…ヤミっちでも良いですが……」

 

 

 ヤミっち――リインフォースが若干頬を紅く染めて呟いた。

 イヴァは笑い、リインフォースを抱き寄せる。

 

 

「闇なんかより祝福が良いさ、リイン……」

 

 

 そっと唇を重ね、二人は抱き合った。

 ファン達も優しく見守り、涙を流す。

 

 

「じゃあ、皆……行ってくる」

 

「お父さん……行ってらっしゃい!」

 

「……行ってきます!」

 

 

 世界は、光に包まれた。

 

 

「――――は私のモノだぁぁぁあああああああっ!!」

 

 

 イヴァの眼に入ったモノは紅い手だった。

 イヴァはその手を『ゼロ』を使用しながら掴み取った。

 

 

「なっ……!?」

 

「……貴様……俺の家族に何をしようとした……?」

 

 

 今ここに、伝説の悪魔、家族を愛する男、イヴァシリア・ムトス・エラフィクスが降臨した。

 

 

 

 

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