何でも屋エリスでございます   作:魔帝

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 今回は続けていきます。
 少し無理矢理な感じがしますが、うん、まぁ、どうぞ。


序章第二話

 

 

 

 

何でも屋『エリス』。その朝は少女の大声で始まる。

 

 

「起っきろぉぉぉぉぉっ!」

 

「んおっ!?」

 

 

 ベッドの上で寝ていた彼は少女の声により飛び起き、ベッドから落ちた。

 

 

「っつ〜〜……! ファン、頼むから普通に起こしてくれ……」

 

「お父さんがそれじゃあ起きないからでしょ! 朝ごはん出来てるよ! 皆ももう起きてるから!」

 

「はいはい……」

 

「はいは一回!」

 

「はい!」

 

 

 突き出されたお玉に、彼は即座に敬礼し、テキパキと身支度をし始めた。

 

 彼———イヴァシリア・ムトス・エラフィクス、通称イヴァは女の子———ファン・エラフィクスを引き取って父親代わりになった。

 ファンは闇の書という魔導書の主で、騎士達はその守護騎士プログラムであり、銀髪の女性は闇の書の管制人格であり、主と融合して戦う事ができる『融合騎』である。

 更に闇の書はもともとは違うものであるらしく、その名は『夜天の書』。

 それが何時の日か当時の主によって歪められ、破壊を呼ぶことしか出来ないようになったそうだ。

 そして闇の書は魔法の源である『リンカーコア』を吸収し、魔導書の頁を増やし、全666頁まで完成させると持ち主に凄まじい力を与える。

 

 だがファンはそんなことはしたくないと言い、世界を滅ぼしたくもないし、ただ幸せに暮らしたいという願いから何もせず、この数年間はただ普通に暮らしていた。

 

 

「おはようさん」

 

「おはようございます、イヴァ」

 

 

 最初に挨拶を返したのは銀髪赤目の女性、闇の書の管制人格だ。

 

 

「寝癖が付いていますよ」

 

「ん? ああ…サンキュ、ヤミっち」

 

 

 イヴァは彼女の事を闇の書から取ってヤミっちと呼ぶ。

 

 

「兄ちゃん、早くしろよ! 腹が減って仕方がねぇ!」

 

「はいはい、悪かったね」

 

 

 イヴァは鉄槌の女の子———ヴィータに急かされ、席に座る。ここでの掟はご飯は皆で取るという、ファンが決めたのだ。

 

 

「イヴァ、まさかまた夜更かしをしたのではないな?」

 

 

 ポニーテールの女性———シグナムがイヴァを睨む。

 

 ここでの掟その二、早寝早起き。

 

 

「俺は夜行性なの。ベッドの上じゃ王者だぜ?」

 

「イヴァさん」

 

「ん?」

 

「後ろ」

 

「へ? ばふっ!?」

 

 

 イヴァの顔面にフライパンが炸裂した。先程イヴァを後ろに向かせたのは緑色の服を着ていた金髪———シャマルである。そして顔面にフライパンをお見舞いしたのはファンである。

 

 

「お父さん! 朝から何言ってるのよ!?」

 

「ナニだ」

 

「ふんっ!」

 

 

 もう一撃炸裂。思春期の女の子にはいけないワードのようだ。

 

 

「イヴァ殿、今日は屋根の修理ですかな?」

 

「あ、ああ……そうだな。風が冷たいし、さっさと直さないとな」

 

 

 そして白髪の筋肉モリモリくん———ザフィーラ。彼は人型と青い狼の姿になれる。

 

 

「はい、じゃあ食べよっか!」

 

 

 ファンが用意した朝食を、家族全員で食べる。これが当たり前の光景で、とても貴重な幸せなのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジリリリリ……!

 

 

「はい、お電話ありがとうがざいます! 何でも屋『エリス』です!」

 

 

 今日もまた電話が鳴る。ファンが来てからここの電話は頻繁に鳴る。それもその筈、イヴァが出ると大抵の事は断ってしまい、ファンの場合はどんな事でも引き受ける、真の何でも屋になるからである。

 

 

「捜索の手伝いですね? 分かりました!」

 

 

 この様に、本当にどんな事でも引き受ける。

 

 

「ザフィーラー! お仕事だよー!」

 

 

 こうやって騎士たちも巻き込んでいる。そして肝心の店主はというと……。

 

 

「ん、行ってこいザフィーラ。後は俺がやって置く」

 

「かたじけない」

 

「いってら〜……はぁ……戦いの仕事は無いのか……」

 

 

 店員もとい家族が増えた事により、自分に仕事が回って来ない。故に家に籠りっ放しのニートくんである。因みに、シグナムは警備の仕事、シャマルは戦争で避難してきた人達を治療している。イヴァはもっぱら戦闘しか引き受けなかった。

 

 

「イヴァ、手伝いますよ」

 

「お、悪いなヤミっち」

 

 

 そしてヤミっちもちゃんと役割がある。この家の家政婦さんである。まだ子供であるファンには限度というものがる。それを補う為にヤミっちがしっかりしている。

 

 

「しっかし、古くなってきたなぁ……」

 

「ここは貴方の曽祖父から続いているのですよね?」

 

「ああ。ここで爺さんが産まれて、母さんが産まれて、俺が産まれた。そして今はお前達がやって来た。これからもずっとこの家を守っていくさ」

 

 

 屋根の修理をしながらイヴァは昔を思い出す。昔はもっと綺麗で、埃一つ無かった。母も父もいたが、今はもういない。

 

 

「では……貴方の娘であるファンも何時かはこの家を守って行くのですね」

 

「そうなるな。……妻もいないのに娘ってなぁ……」

 

「……やはり、欲しいのですか?」

 

「そら欲しい……が、もう良いさ」

 

「何故ですか?」

 

 

 イヴァは屋根から降りてヤミっちを見た。

 

 

「だって、もし俺が女なんか連れてきたら、お前嫉妬するだろ」

 

「なっ、しません!」

 

「どうかな〜? 確か俺が街で女性相手に話ししてたらお前ムスってしてたじゃん」

 

「気のせいです!」

 

 

 ヤミっちは顔を紅くしてイヴァに反論した。しかしイヴァはその姿を見て笑っているだけだった。ファンも外に居る二人を窓から見ていて、笑顔を浮かべていた。

 

 ファンは願った。

 

 この幸せが何時までも続いて欲しい。何時までも何時までも笑顔で溢れていて欲しい。家族みんなで生きていきたい。

 

 そう願った。

 

 だけど、神の悪戯か、運命か、それは叶わぬ願いとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ファンが倒れた。

 

 しかも足が動かなくなった。 徐々に身体が弱っていっている。

 

 原因は分かっている。闇の書だ。闇の書がファンから足りない魔力を吸収しているのだ。このままではファンは死んでしまう。なら闇の書を完成させなければならない。

 だが完成させれば世界が滅んでしまう。

 ならば、その暴走を自分が、父である自分が止めてみせる。

 イヴァはそう決心し、家族は動いた。

 幸い、今は戦乱の世。リンカーコアには困らない。戦場に赴き、片っ端からリンカーコアを蒐集していった。が、まだまだ闇の書は完成しなかった。

 

 

「ファン……」

 

「お…とうさん……」

 

「何か欲しい物はあるか?」

 

「ううん……何もいらない……」

 

「……もう少しで治るからな? 頑張れ」

 

「うん……でも……」

 

「うん?」

 

「傍に……いて欲しいな……」

 

 

 ファンはイヴァのコートの裾を掴んだ。イヴァは拳を握り、ベッドの隣に座った。

 

 

「ああ、いるから。安心して寝てくれ」

 

「うん………」

 

 

 イヴァはファンが眠りに着くまでファンの手を握りしめた。やがてファンが眠ると、そっと手を離し、外に出た。

 

 

「……助けてやる……絶対に……!」

 

 

 イヴァはその場から消えた。戦場に赴き、蒐集を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 蒐集を始めてから数週間。今日はイヴァだけで蒐集をしている。他の皆はファンと共にいる。

 イヴァは今日の蒐集を終え、皆が待っている家に帰った。

 

 家に帰ると、イヴァは異変を感じた。結界が張られている。しかも魔力を遮断する珍しい物だった。

 皆にそんな結界は張れない。なら何者かが張っている。イヴァは急いで結界ぎりぎりまで近付き、魔法で強化した目で窓から家に中を見た。

 なかでは何処かの軍人が数名、ファンを人質に取り守護騎士達を拘束していた。

 

 

「何でファンが人質に!? あいつらの実力ならそんなヘマは……っ!」

 

 

 家の屋根に大きな穴が開いていた。しかもファンの部屋の天井だった。彼ら軍人は誰にも気づかれずに屋根を壊して進入したのだ。そしてファンを確保し、守護騎士達を拘束したのだ。

 

 

「くそっ! 奇襲をかけるか? けど敵の数が分からない! いや、あいつらも馬鹿じゃない、俺が奇襲をかけることだって呼んでいる筈だ!」

 

 

 イヴァは必死に攻略方法を考えた。しかし、時は待ってくれない。軍人のリーダー格の男が何かの指示を出すと、数名の軍人がザフィーラ以外の守護騎士を押し倒し、陵辱を始めだした。

 それを見た瞬間、イヴァは刀を抜き取り、消えた。そして現れたのは軍人達の目の前。イヴァは一瞬で室内にいる敵の居場所と数を把握し、黒い魔力剣を射出。そして刀を振るい、リーダー格の男を———

 

 

「待っていたよ、傭兵君」

 

 

 切り伏せる前にバインドで身体を拘束された。射出した剣も、ほんの数名は命中したが、残りは避けられていた。

 

 

「いやいや、君が単純な男で良かったよ。君のおもちゃを取り上げようとしたら、君は一直線に飛んでくるだろうと思ってね」

 

「おもちゃ……だとぉ……!」

 

「ああ。もっとも、私達は兵器、道具として扱うがね。こんなものに意思など不要」

 

 

 軍人がヤミっちを蹴り飛ばした。反攻したいが、ファンを人質に取られていて何も出来ない。

 

 

「てめぇ……俺の家族に手を出してんじゃねえ……!」

 

 

 イヴァは黒い魔力を溢れ出させながらバインドを引き千切ろうとした。が、杖で殴られて途中で止めてしまう。

 

 

「家族か……。君は変な趣味を持っているな。ただの道具を家族にするとは」

 

「テメェのような屑で世界の汚物には理解できねえんだよ! 能無し!」

 

「っ……これだからゴミは困る。おい、さっさとこれらを運び出せ。それとこの男は殺せ」

 

 

 軍人たちはファンを連れて行こうとした。イヴァはどうするか考えた。このままではまたファン達は道具のような人生を歩まされる。生きている事なんて感じさせないような最悪な人生を。

 その時、イヴァは頭に何かが引っ掛かった。奴らはなぜファンたちを狙う? 闇の書が欲しいのならそれだけを奪えばいい話だ。だが闇の書は闇の書が決めた人間でないと扱えない。そして選ばれた人間はファンだ。ならファンをどうにかすれば……。

 

 イヴァは連れ去られていくファンの顔を見た。今にも死にそうで、苦しがって、苦痛に耐えている表情だった。

 次に守護騎士達を見た。皆は屈辱と悔しさ、絶望が支配している表情だった。

 

 

「………」

 

 

 イヴァは決めた。これから行う事は自己満足の中の自己満足。勝手に自分で決め付けた、自分だけの為の解決策。それは———

 

 

「皆……ごめん」

 

「なっ、何をしている!?」

 

 

 それは———ファンを……家族を殺す事だった。

 

 

 イヴァはバインドを強引に引き千切り、近くにいたシャマルの身体を斬った。

 

 

「———っ!」

 

 

 驚いて誰も動いていない隙にザフィーラを斬り殺した。痛みを感じないように素早く、綺麗に殺した。

 ヴィータも、痛みを感じる暇を与えないで斬り殺した。

 

 イヴァの顔は歪んで、涙でいっぱいだった。

 

 正気に戻った軍人たちは一斉にイヴァを殺しに掛かるが、イヴァは気にも留めず、シグナムを斬り殺した。その時、シグナムと目が合い、シグナムは覚悟した表情だった。

 

 

「————っっ!!」

 

 

 それが余計にイヴァに苦痛を与えた。だがまだ終わっていない。残りは愛する娘と、恐らく心から愛する女性がいる。

 

 軍人が放つ魔力弾がイヴァの身体に命中する。血が噴出し、臓器を破壊していく。だが止まらない、止められない。

 イヴァは唇を噛み締め、ヤミっちを…闇の書を斬った。そしてファンを―――斬った―――。

 

 

「————ぁぁぁぁぁああああああああああああっっっ!!!!!」

 

 

 そしてイヴァも、叫び声をあげ、弾丸に貫かれながら倒れた。しかしその時にイヴァは魔力剣を四方八方に連続掃射し、それに巻き込まれた全ての軍人の命も消えた。

 

 イヴァは薄れゆく意識の中、自分が殺した家族を見た。

 

 

「……シグナム……」

 

 

 何時も強く気高い、剣のような意志を持っていた騎士。

 

 

「ヴィータ……」

 

 

 子供扱いすると怒り、けれど子供のようにはしゃぎ回る騎士。

 

 

「シャマル……」

 

 

 家事が破壊的で、何時も健気に皆を気遣っていた騎士。

 

 

「ザフィーラ……」

 

 

 一見怖そうだが、子供にはとても優しく、男二人で何時も話してた騎士。

 

 

「ファン……ヤミっ…ち……」

 

 

 娘として愛してきた優しい少女と、多分初恋だった相手の、闇の書の管制人格。

 

 全員、自分が殺した。自己満足な助け方で殺した。愛する家族を全員殺した。

 そして自分ももうすぐ死ぬ。騎士達とは同じところへはいけない。騎士達は闇の書と共にまた違う場所へと消える。

 けど、ファンと同じところへもいけない。一人孤独に、永遠の闇へといく。

 

 

「ファン………向こうに行っても………かぞく…………つく……れ…………よ…………」

 

 

 イヴァも眠る。後悔と絶望を胸に、闇へと堕ちる。

 

 イヴァシリア・ムトス・エラフィクス。享年25歳。

 ファン・エラフィクス。享年13歳。

 

 闇の書は新たな主を見つけ出し、また破壊の限りを尽くす。

 

 嘗て家族がいた事を忘れて、破壊を続ける。

 

 

 

 

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