四月の日曜日、快晴。
エラフィクス家、八神家、高町家、テスタロッサ家、そしてリンディと子供達。
大所帯で彼らは花見に来ていた。
「では皆さん、コップを持ってー!」
イヴァが立ち上がり、酒が入ったコップを掲げる。
「カンパーイ!」
『カンパーイ!』
開始される花見。
全員はそれぞれ酒を、ジュースを飲み、食べ物を食べ、ワイワイ騒ぎ出す。
「イヴァ、どうぞ」
「お、サンキュ」
リインがイヴァにお酒を注ぐ。
「いやー、この人数で場所が取れるとは思わなかった」
「そうですね。良かったです」
「うん、良かった。だからリイン、そろそろ抓るのは止めてくれないかなーって、言ってみたり」
「嫌です」
リインは可愛い笑顔でそう良い、イヴァの腰辺りを抓っている。
何故か。
それはあの日の買い物が原因であった。
何と噂好きなご近所のおば様達がイヴァとリンディ、そしてプレシアの買い物の様子を噂していたのだ。
それがリインの耳に入り、今に至る。
「エスティも……何時まで電撃流してくる。ってか何でお前まで怒る?」
「知りませんわ」
エスティもイヴァの身体に地味に痛い程度の電撃を流し続けている。
イヴァは『ゼロ』で電撃を消し去ろうとするが、そうするとエスティが「契約を消しますよ?」と、それは恐ろしい笑顔で言ったので、泣く泣く『ゼロ』の使用を止めている。
「お義父さん。はい、これ私が作ったんだ」
神楽が鳥の唐揚げを差し出してきた。
神楽はイヴァに料理の手解きを受け、日に日に腕前を上達させていっている。
「ほう? 上手そうだな」
「はい、あ~ん」
「「………」」
「ひぐっ……!」
神楽がイヴァに唐揚げを箸で口元に持っていった瞬間、リインとエスティが抓りと電撃を強めた。
「あ、あ~ん」
ギュッギュッ、ビリビリとイヴァの身体を痛めつけていく。
だが父として、愛娘が作ってくれた料理を食べない訳にはいかない。
イヴァは痛みに耐え、神楽が差し出した唐揚げを口に入れる。
その瞬間、地味に痛い程度から本気で痛いに変わったのは言うまでもない。
「……うん、美味いな。また腕を上げたな」
「ホント!? えへへ、お義父さんが好きな味付けにしてるんだ!」
「おお、そう言えば……。俺の料理と味がほぼ一緒だな」
「ふふん!(お義母さん、お義姉ちゃん、負けないよ!)」
「「っ……!」」
義母と義姉と義娘は視線で激しくぶつかり合っていた。
そんな事は露知らず、イヴァは痛みに耐えながら酒をチビチビと飲んでいる。
「何やってんだか……」
「はいはい、いくら恥ずかしいからってそっち向いたらいかんよ?」
「ぐっ……」
イヴァから少し離れた場所では蓮夜とはやてがイチャイチャと、イチャイチャと。
大事な事だから二度言った。
はやては蓮夜に寄りかかり、あーんしあったり、手を絡め合ったりして兎に角イチャイチャしまくっている。
しかもはやてが積極的に動き、蓮夜が羞恥心で顔を真っ赤にしている。
「は、はやて……ま、周りの眼が……!」
「ええやん。私達の愛を見せつけようや!」
「ちょっ、おい!? 顔を近付けるな! こ、こんな所じゃマズイだろうが!」
「は、はやてちゃん……」
「な、ななななな何やってるのよ!?」
「わぁー……」
「あはは……(親が親なら子も子ってこういう事なのかな?)」
なのはははやての行動に呆れ、アリサは顔を紅くし二人に怒鳴り付け、すずかはキラキラした目で二人を見詰め、フェイトは苦笑しながらイヴァと蓮夜を見る。
「こ、このイケメンが……!」
剣誠は拳を握り、視線で人が殺せそうだ。
「あらあら、剣誠君コップが潰れそうよ?」
「リンディさん……」
「蓮夜君ははやてさんと、神楽さんはイヴァね……。可哀想に、仲間外れにされて」
リンディは剣誠の頭を撫でて微笑む。
剣誠はそれだけで涙腺が崩壊し始めた。
「リンディさぁぁぁぁあああん!!」
「いやん、駄目よ」
「あべしっ!」
剣誠はリンディに飛びかかったが、リンディのイヴァさえ戦闘不能にする拳が炸裂し、剣誠は地に伏せた。
「うぅ……俺も毎日味噌汁作ってくれる女性が欲しい……」
「……ふっ」
「ああン!?」
剣誠の心からの望みに蓮夜が鼻で笑い、剣誠は眼にもの止まらない速さで蓮夜に近付き睨みつける。
「テメェみたいな変態に出来る訳がねぇだろうが!」
「変態じゃねぇって言ってんだろ!」
「よく言うぜ! 昨日だって女子生徒スカートの中見てただろ!」
「アレはこけて顔をあげたらそこにあっただけだ! テメェだって居眠りしてるはやての顔を間近で眺めて携帯で撮ってたろうが!」
「んなっ!? て、テメェ何でそれを!?」
「しかもそれを待ち受けにして何時もニヤニヤしやがって! テメェこそ変態だろうが!」
「くっ……! 俺の担任に鼻の下伸ばしてる奴が言うな!」
「関係ねぇだろ!」
「「やんのかコラァ!?」」
二人は立ち上がり拳を構える。
普段ならここで誰かが止めるのだが今は花見。
花見と言えば喧嘩である。
つまり……。
「お? 喧嘩か? やれやれー!」
「は、はやてちゃん!? 喧嘩は駄目なの!」
そのノリを知っているはやてが二人を煽り、それに火がついた蓮夜が瞳に炎を宿した。
「剣誠……覚悟しやがれぇ!」
「その幻想をぶち殺す!」
「止めんか、バカたれ」
「「ぶしっ!?」」
今にも喧嘩を始めそうな二人に、イヴァが投げつけた『ゼロ』を纏わせた割り箸が頭に突き刺さり、喧嘩を止めた。
「まったく……喧嘩する程仲が良いって言うけどな、少しは仲良くしろ」
「そうだぞ。じゃないと今日は夕飯抜きだ」
夫婦揃って息子達を叱る。
息子たちは夕飯抜きが嫌なのか、正座して謝った。
「「ごめんなさい、だからご飯ください!」」
「そこまでしてご飯が欲しいんだ……」
「なのはちゃん、リインの飯はそれはそれは美味いモノだ。嘗めちゃいかん」
「も、もう……イヴァったら……」
「本当だって。毎日同じモノ喰っても飽きないさ」
「イ、イヴァ……」
「……義父さんの裏切り者ぉ!」
剣誠は血の涙を流し二人の桃色パラダイスから逃げ出した。
そして姿を消した。
「イヴァ、明日の夕飯は何が食べたいですか?」
「ん~……鯖の味噌煮」
「ではそうしましょう。楽しみにしていて下さい」
「ああ」
「むぅ~……私だって……」
神楽も二人のパラダイスに阻まれ泣く泣く離れて子供達の輪に入った。
「ねぇ、神楽」
「……なぁに?」
「お兄ちゃんって、何時もあんな感じなの? 私、訓練の時しか二人で居るの見たことないから……」
「ああ……うん。ソファーに抱き合いながら座ってそのままベッドにゴーだから……」
「へ……!?」
「ううん、リビングに誰も居なかったらその場でシちゃう……」
「っ~~~~!!!」
フェイトには刺激が強過ぎたのか、その様子を想像してしまい、顔を真っ赤にしてしまう。
「ああ、もう! 私だってお義父さんとイチャイチャしたいのにぃ! お義母さんとお義姉ちゃんだけずるいぃ!!」
「ふぇえっ!?」
神楽のまさかの発言にフェイトは更に驚き、真っ赤になり、思考がショートしてしまった。
「……ねぇ」
「……っ、な、ななな何かな!?」
「フェイトには居ないの? そんな人?」
「ふぇっ!?」
神楽はニィっと笑ってフェイトに詰め寄った。
彼女達は中学二年生。そう言った事に興味があるお年頃だ。
一つや二つ位あるだろう。
「にゃ、にゃにゃにゃにゃいよ! そんにゃの!」
「ふっふ~ん……怪しいわね……」
「ふにゃっ!?」
神楽はフェイトの全身を触り出し、揉みだした。
「こんな身体してんだから、恋の一つや二つしてるんでしょ?」
「か、身体は関係ないよ!?」
「恋する乙女は美しくなるって言うでしょ? それとも何? 元からこんな良い身体って言いたいの?」
「べ、別にそんな事言って―――ひゃん!?」
「私だって胸あるし、括れもあるし、程良い筋肉の付き方してるもん」
神楽はフェイトの身体をそれはもうエロい手つきで触り、触り、触りまくる。
しかし、それは何処からか聞こえてきた剣誠の悲鳴で止められた。
『ぎゃあああああっ!!! 不幸だああああああっ!!!』
「っ、ケン!?」
剣誠が泣きながら必死な形相でイヴァ達の元へと何から逃げて来る。
「ケン、一体どうし―――」
「ぶらぁぁぁぁぁあああ!! けぇんせぇぇいぃぃ!! この私にぃ、挨拶も無しとはぁ……いい度胸してんじゃねぇかぁ!!」
「剣誠く~ん!! 私をイヴァ様の元へ連れてって~!!」
「あ~……取り敢えず………お義父さん逃げて! この間の痴女が来ちゃったよ!!」
「んなっ!?」
「っ、誰ですか? あの女性は?」
「イヴァ? 正直に話しないさいな」
イヴァは神楽の警告に従って逃げようとしたが、リインとエスティによってそれは阻止される。
「あら? あれはなのはの担任じゃなかったかしら?」
「本当だ。いや~、先生方も花見ですか?」
「あ、なのはさんの。どうもこんにちは」
「ほぅ? 剣誠の親とな? ぃよしっ、この私が直々にぃ……挨拶を!」
「や、止めてぇ! 義父さん逃げてぇ!」
「どっせぇぇぇぇぇええい!」
「んぎゃあっ!?」
剣誠は武蔵先生に首まで地面に拳一つで埋められた。
「これはこれはぁ、私、エラフィクス生徒とテスタロッサ生徒の担任をしているぅ、宮本武蔵と申しますぅ」
「「ヒッ!?」」
武蔵の顔を見た瞬間、リインとプレシアはそのごつい形相にビビり、イヴァの後ろに隠れた。
「ああ、どうも。剣誠の父のイヴァシリア・ムトス・エラフィクスです。ウチの息子と娘がお世話になってます」
「いやいやぁ、彼には良い運動相手になってもらってますよぉ」
「……? まあ、役に立っているのなら幸いです。これからも宜しくお願いします」
「任された。この私がしっかぁりとっ! 教育しましょう!」
――死んだ! 俺絶対に死んだ!
剣誠はこれからの学校生活に死を覚悟し、せめて恋人の一人や二人は欲しかったと、今までの思い出を振り返った。
「テスタロッサ生徒もぉ、エラフィクス女生徒と共に健気に一輪の花となってクラスの野蛮共をぉ、取り締まってくれてますよぉ」
「そ、そう……。それは良かったわ……(言ってる意味が分からないわ! この人本当に教師なの!?)」
「……はっ!」
イヴァはリインとプレシアを抱えて後ろに飛び退いた。
すると先程までいた場所に金髪の女性が落ちてきた。
「イ~~ヴァ~~さ~~ま~~!!」
蓮夜のクラスの担任、アイラ・メイルークが目を輝かせ、涎を垂らし、まるで悪魔の様な形相でイヴァに向かって突撃する。
「うおおおっ!?」
イヴァは捕まらないように避けて行くが、変態的に最強な状態であるアイラ先生に徐々に追い詰められてきた。
――何なんだこの女は!? この俺が追い詰められているだと!?
「ケケケケケケケッ!」
「り、りりりりっ、リインーーー!!」
イヴァはあまりにも恐ろしい笑い声に情けなくも妻であるリインに助けを求める。
「イヴァ!? くっ、止まりなさい!」
「っ、誰よ!? 私の恋路を邪魔するのは!?」
リインはイヴァの前に飛び出てファイティングポーズをとる。
因みにリインの戦闘能力はヴォルケンリッター達と変わりない。
いや寧ろ強い。
拳一つで山を砕ける。
「恋路? 何を言っているのですか? イヴァは私の夫です!」
「っ! そう……貴女が……ふふっ」
「……?」
「略奪愛最高ーーー!! 銀髪が調子乗るなーー!」
「何を!? イヴァは銀髪が好きなんです!」
「……そうなの?」
「……黒と紫も大好き」
イヴァは膝を抱え、今まさに大乱闘となり始めている光景を遠い眼で眺めていた。
もう花見もクソもない。
あるのは無礼講。けど、それが彼らにとっての幸せであった。
★
とある無人世界。
この世界に光は存在しない。
暗闇が世界を支配し、凶暴な生物が存在する世界。
しかし、その世界に最早生命は存在しなかった。
あるのは生物だったものだけ。
「………」
その原因を作った存在はただ暗闇の中、ソレを見詰め、何処かへと消えて行った。