三発目です。
ミッドチルダのクラガナンのひっそりとした、誰もいない暗い場所。その場所に、お世辞にも綺麗とは言えないおんぼろのレンガ造りの建物がある。
看板が一応立てられてはいるが、ボロボロでじっくり見ないと読めないほどだ。
ジリリリリリ……!
その建物の部屋のデスクの上にある電話が鳴る。やがて部屋の奥からぼさぼさの黒髪の男がダルそうに出てきた。男は椅子に座り電話を取る。
「はいはい、『何でも屋エリス』でございます。ご用件は何でございましょうか」
男は驚くほど棒読みで決まり台詞を口にした。
何でも屋エリス…それが男の職業である。
「……あ? 迷子の子猫? 写真ある? 結構、そっちに行くから住所を。……あいよ、五分で向かう」
電話を切り、男は自分のトレードマークである黒のロングコートを着て外に出た。その際、扉を強く閉めすぎたのか、変な音を立てて取れた。
「あー……また直さないとな」
扉を立て掛けて空を見上げる。
「……今日も良い天気だ」
男はそう呟き、その場から消えた。
★
「ねーこさん、ねーこさん、どっこにっいる?」
男は即興で歌を作りながら街を練り歩く。
「にゃーお、にゃーお、にゃー……お?」
やがて男は木の上に首輪をつけた白と黒の毛を持った猫を見つける。持っている写真と照らし合わせて、右足に同じ模様が付いているのを確認した。
「見っけー! さぁ……大人しくしんしゃい!」
男は地面を蹴り、猫がいる木まで近付いた。
「昇竜拳!」
錐揉みしながらジャンプし、猫を捕まえた。
「はっはっはー! 観念———」
「フシャァァァァ!」
「いてっ!? いてててててっ!!」
猫は男の顔面を爪で何度も引っ掻いた。それはもう何度も何度も。
「痛いって! ああもうっ! 大人しくしやがれってんだあああっ!!!」
男は気迫で猫を黙らせた。猫はプルプルと震えだし、男の腕の中で丸まる。
「よしよし。こっちも仕事なんだ、我慢してくれ」
猫を頭の上に乗せ、依頼主の家に向かう。
「お前だって外の空気吸いたいよなー?」
「……にゃー」
「だよなー。自由ってモンが欲しいよなー?」
「にゃー……」
「定期的に外に行くべきだよなー?」
「にゃー!」
あら不思議、もう男は猫と意気投合していた。そのまま色々と会話しながら、依頼主の家へと向かった。
★
「らっしゃーい!」
仕事を終えた男はミッドにはもの凄く珍しい存在の屋台へと来ていた。
「おっちゃん、熱燗くれ。あと大根と竹輪と玉子」
「あいよ」
出された酒を飲み、今日の収穫を確認する。
「お? 今日はたくさんあるね〜?」
「今日は五件も仕事が入ったからな。今日は飲み明かす!」
「そりゃありがてぇ。だがそんな事ばっかしてっから一向に金が貯まらねぇんじゃねぇの?」
「うっせ。俺は一日一日を凌げれば十分だ。それに……」
「それに?」
「いつか俺を養ってくれる女が現れるって」
「はいはい、もっと前を向きな。はい、こんにゃくサービス」
「ラッキー!」
男と店主は他愛無い会話をしながら夜を過ごしていった。
すると、男の隣に一人の女性が座った。
「らっしゃい!」
「私も彼と同じのをくれる?」
「げっ……」
「あいよ」
男はあからさまに嫌な顔をして女性を見た。緑の長い髪をポニーテールにし、彼以外が見れば嫌な顔などせずに鼻の下を伸ばしてしまうほどの美女だった。
「お久しぶりね、ファン」
「……リンディ」
男———ファン・フィクスは目の前の女性———リンディ・ハラオウンに舌打ちをして酒を飲んだ。
「何度も電話したのに、貴方私だけ着信拒否してるでしょう?」
「悪いか? 友人の女を取りたくないんでね。美人な大人の女は大好きだからな」
「その割には、とても嫌な顔をするのね?」
「嫌だからな。おっちゃん、酒」
「あいよ」
ファンは若干不機嫌になり、酒をグビっと飲んだ。リンディは苦笑して出されたお酒を飲んだ。
「で? 何の用なんだ?」
「あら? 友人に会いに来るのに理由がいるのかしら?」
「嘘吐け。大体、お前は時空管理局提督で巡行艦『アースラ』の艦長様だ。ただ会いに来る為だけに場を離れないだろ」
どうやらリンディは管理局という組織のお偉いさんの様である。しかし、その人を前にしてファンの態度はどうかと思う。
「当たり。実は協力して欲しい事が———」
「断る」
「どうして?」
「どうして? お前が絡むと碌な事が無い。何時だったか? お前に頼まれて向かった世界の先には千を越える大犯罪者の集団、更に違う件では凶暴な生物が数百、その全てがなかなかどうしてかタフ。また違う件では原住民族に襲われる、はたまた別ではいきなり女性しか居ない所に放り投げられて痴漢と勘違いされる、かと思ったら今度はイケナイ男性しか居ない所に放り投げられて危うく掘られそうになる。まだまだあるぞ? 聞くか?」
「あ、玉子も貰えるかしら?」
「あいよ」
「聞けやおい!」
リンディはファンの訴えを一言も聞いていなかった。よく見るとリンディは結構な量を食べ進んでいた。
「聞いてるわよ。でも、それでもずっと助けてくれたわよね?」
「クライドに貸しがあったからやったまでだ。それが今はもう無い。よって協力しない」
「どうしても?」
「大体な、アレ全部タダ働きだったんだぞ? いくら俺が戦い好きだって言ってもそりゃねえぜ」
「それじゃあ、客としてお願いするわ」
「お引取り願います」
綺麗サッパリと断った。考える素振りも見せず即答で断った。リンディはちょーと眉をピクリと動かして良い笑顔を浮かべた。
「どうしてか、教えてくれる?」
「メンド———嘘です、だから俺の酒を奪うな!」
ファンはリンディから酒を死守し、リンディを睨んだ。リンディは臆することなく話を進めた。
「それじゃあ、頼まれてくれるかしら? “悪魔さん”」
「……高くつくぞ?」
悪魔と呼ばれた瞬間、ファンは雰囲気を変えた。
「大丈夫。ちゃんと現金で即払いよ」
「……内容は?」
「今、第97管理外世界で事件が起こってるのよ」
「……地球か?」
「ええ。知ってるかしら? ジュエルシードというロストロギアを」
「持ち主の願望を叶えてしまうという事しか……まさか地球にあって、それを狙う奴がいるのか?」
「話が早くて助かるわ。そう、ある一人の魔導師が地球でジュエルシードの回収を行ってるの。そして此方にも地球で見つかった魔導師に民間協力者として二名いるの」
「……地球で? それはまた、珍しい」
ファンは口の端を吊り上げた。彼の中ではその二名との戦闘を思い浮かべているようだ。
元々、地球では魔力を持つ者がいない。それどころか、魔法文化というものがない。あったとしてもお伽話程度だ。なのに、そこで見つかった。
「言っておくけど、どちらも九歳の子供よ。狙ってる魔導師も」
「……じゃあ俺に何をしろというんだ」
流石に子供とは戦えないのか、ファンは落胆した様子で仕事の内容を聞いた。
「実はね、その民間協力者の一人がどうも危なっかしいの」
「どういう風に?」
「有体に言えば、力だけを暴れさす馬鹿よ。それに、自己中心的な考えを持ってるの」
「それは気に入らないな」
「貴方ならそういうと思ったわ。だから依頼する内容は二つ。その子を教育するのと、その子の監視。貴方なら出来るでしょう?」
「それ程なのか? その餓鬼は」
ファンは少し驚いている。彼は驕っているわけではないが、本気を出せば世界の一つや二つ、破壊させる事が出来ると自負している。それ程の実力を持つ彼に、まだ幼い子供の教育と監視を頼むのだ。
「ええ。純粋な力だけなら、貴方の一歩、いえ二歩下かしら?」
「……分かった。だが子供同士の喧嘩に俺は介入しないからな。精々アースラから見るだけだな」
「結構よ。じゃあ、契約成立の証として……」
「お? 驕ってくれんのか?」
「驕ってくれる?」
「いやお前が驕れよ、そこは!」
結局、ファンの驕りで乾杯をする事になってしまった。それからはリンディの息子のクロノ・ハラオウンが迎えに来るまで飲み続けた。
因みに、屋台のおっちゃんはその筋に深く関わっている人間なので、聞いていても問題は無い。
★
いきなりで悪いが、彼らは所謂転生者である。前世で死に、前世の記憶を持ちながら、この世界に新たな命として生まれて来た。
しかも、特殊能力を神から授かり、今生を生きている。
ある者はこの世界の物語に介入したり、ただ傍観しているだけだったり、私利私欲のまま生きたり、力を隠して一般市民として生きたり、様々な生き方をしている。
その中の一人、白髪紅目の一人の少年、黒島蓮夜(くろじまれんや)がいた。彼はこの世界に転生し、彼の世界で物語だったこの世界での主要人物、高町なのはと隣同士となった。この少年と少女の両親も友人同士で、産まれた時から交流があり、自然と幼馴染となっていった。
そして蓮夜は次第にある考えを持ってしまった。自分には誰にも負けない最強の力がある。そして自分は主要人物と幼馴染という立場にある。だからこの世界は自分の為に存在する世界だと。そう思い込んでしまった。
そして彼の他にもまた転生者は数多く存在する。その転生者も物語に関わりたいが為に、主要人物に近付いたり、その近くに居る同じ転生者を邪魔者扱いし、能力で捩じ伏せたりした。
が、蓮夜には敵わなかった。蓮夜は全てのベクトルを操作する力と膨大な魔力、更には異常な身体能力を持っているが為に、最強だった。それが蓮夜の考えを肯定しているかのようだった。
そして、蓮夜は高町なのはとなのはが魔法を知るきっかけとなった人物、金髪で碧の瞳をした少年、ユーノ・スクライアと共にロストロギアの捜索と回収を管理局に民間協力者として行動している。これも、蓮夜のいる世界での物語の一部に過ぎなかったのである。
ある日、なのはと蓮夜とユーノはリンディに会議室に集まって欲しいと言われ、その場に向かっていた。
「大切なお話って何だろう?」
「ジェルシードの事かな? 何か問題が見つかったとか?」
「俺達の管理局への勧誘じゃね? ほれ、俺達もの凄く活躍してっから」
「そんな、まさか。いくらなんでもそんな事しないよ」
「けっ……」
―――俺に意見出すなっつうの。てめぇは俺を引き立てるただのモブキャラなんだよ。
三人は会議室に到着し、中へと入った。中にはリンディとクロノ、その隣に見知らぬ黒いコート着た男がいた。
―――誰だ、こいつ。原作にはいなかった……という事はこいつも転生者? まさか原作よりも何十年も前に転生してるとはな。大人組み狙いか?
蓮夜は男の正体を推測した。自分の邪魔をしないのならどうでも良いが、もし邪魔をするのなら排除するつもりだ。
「来たわね。あなた達に紹介したい人がいるの。とりあえず座って」
リンディの言われるとおり三人は席に座った。
「紹介するわね。此方は私の友人のファン・フィクス。管理局ではないけれど、私から直々に協力を依頼したの」
―――管理局じゃない……これはもう確定だな。絶対転生者だ。
蓮夜はありったけの敵意をファンに向けるが、ファンは気づいていないのか、ちっとも反応しない。
―――けっ、俺の殺気に気づかないなんて、下っ端だな。
蓮夜はファンを見下した。自分の壁にもならない存在として見た。
―――……さっきから目障りだな、あの小僧。自分が上だと勘違いしてやがる。
だが実際は違った。ファンは最初から気が付いており、煙たく思っていた。
「彼は本日付けで黒島蓮夜君の専属教導官となってもらいます」
「はあっ!?」
蓮夜は驚いた。最強である自分が教導される。何故自分が? あり得ない、冗談だ。そう思わざるを得なかった。
「何でだよ!? 俺の活躍見てたろ!? 今更教えてもらう事なんかねえよ!」
「今だからこそ教えるのよ。力の使い方というものを」
「はあ!? 意味わかんねえよ!」
「ごちゃごちゃ煩い餓鬼だ。餓鬼が大人に教わるのは当たり前だろ」
「アァ!? 雑魚がでかい口叩いてんな!」
蓮夜はファンに喰らい付く。まるで自分が最強だと、上だと、主人公だと。
「あら? 彼は貴方よりも比べ物にならない程に強いわよ」
「止せよリンディ、照れるじゃないか。いくら真実だったとしても」
「そうね、褒めすぎたかしら。真実だとしても」
二人は笑った。まるで蓮夜に見せつけるように。蓮夜はその様子に苛立ち、つい口にしてしまった。
「なら! 俺がそいつより最強って言う事を見せてやる! そんなおっさんに俺が負けるはずねえからな!」
「―――お、おっさ……!」
「あら……」
おっさん。その単語にファンは目を開き、リンディは言ってしまったと言いたげな表情を浮かべた。
もはや会話に入れていないなのはとユーノはオロオロとしていた。
「上等だ……いまからお前を立てない程に痛めつけてやる。安心しろ、子供には優しくっていうのが俺の信条だ。優しく痛めつけてやる」
ファンは不敵に笑いながら蓮夜を見下ろした。それが気に食わなかった蓮夜は、今にも殴りかかりそうだった