何でも屋エリスでございます   作:魔帝

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お久しぶりです。


最終章第四話

 

 

「いいか、剣誠。その魔法は今後一切、絶対に使うなよ?」

 

「どうして?」

 

 

 これはまだ剣誠が幼い、神楽に会う前の頃。剣誠が復讐を成し遂げて空っぽになり、やっと元に戻った頃。イヴァは剣誠に改めて魔法の訓練をさせていた。

 

 

「その力は大き過ぎる。お前ではまだ完全に扱えないんだ。今のままでは力に呑まれて力に乗っ取られる」

 

「けど、この魔法って俺が作ったんだけど……」

 

「扱え切れたか?」

 

「………無理でした」

 

「だろう。だからその力はもっとお前が成長してからだ」

 

「うん……」

 

「ああ、それと。どうやらその魔法はお前の感情に左右されるようだ」

 

「感情?」

 

「そうだ。お前の感情次第でその力はお前を喰らいにかかるからな」

 

「う……」

 

 

 剣誠は顔を引き攣らせたが、イヴァが笑みを浮かべて剣誠の頭を撫でた。

 

 

「安心しろ。その時は俺が必ず助けてやる。お前は俺の息子だからな」

 

「……うん! 義父さん!」

 

 

 

 

「テメェが……テメェがやったんだな!」

 

 

 眠っている神楽を背負い左手に赤い六芒星の魔法陣を出現させ、ゆっくりとヤシャに近付く剣誠。瞳にも六芒星が浮かび上がり、瞳が真っ赤に光り輝いている。だが、怒りに染まっている。

 

 

「神楽も……お前の所為で……!」

 

「剣誠! 止せ! それを使うな!」

 

「神楽は……皆は……俺が……! 守る!」

 

 

 剣誠は魔法陣をヤシャに向けた。その瞬間ヤシャは剣誠の前から飛び退く。その直後、剣誠の前が全て塵と化した。

 

 

「何だ……! この力は!?」

 

「全て……消えろ!」

 

「くっ!」

 

 

 剣誠が左手をヤシャに翳し、魔法陣を大きく展開した。すると赤黒い収束砲が放たれ、ヤシャに襲い掛かる。ヤシャは手刀でその収束砲を両断しようとしたが、寸前の所でその収束砲の危険性を察知し、空へと逃れる。収束砲は雪と地面を消滅させた。

 

 

「消えろ…消えろ…消えろ消えろ、消えろ消えろ消えろ消えろ! 消えろぉぉぉぉぉぉぉおおお!!」

 

 

 剣誠は怒りの表情から徐々に不敵な笑みへと変わって行き、魔法陣を彼方此方に展開させ、その魔法陣が展開された部分が塵と化してゆく。

 

 

「ああああああああああああああああああアアアアアアアハハハハハハハハハハハハハ!!!」

 

「剣誠! ぐっ!?」

 

 

 イヴァは剣誠を助けに行こうとするが、闇に支配されたリインがそれを邪魔をする。イヴァはリインの拳を受け止めてバインドで拘束するが、尽くそのバインドを破壊する。

 

 

「うあああああ!」

 

「リイン! 止めるんだ!」

 

 

 シールド、バインド、それらを何重もリインに当てて動きを止めようとするが、夜天の書であるリインには全く歯が立たない。リインは夜天の書を開き、様々な魔法を発動していく。

 

 

「ああああああああ! ああああああああっ!」

 

 

 天空が渦巻き、巨大な隕石が落ちてくる。

 

 

「くそっ!」

 

 

 このままではこの世界ごと全て破壊される。イヴァは止むを得ずリインを地面に柔術で組み伏せ、複数のバインドで拘束。剣誠の周りに『ゼロ』を使用したシールドを展開し、ほんの数秒だけ剣誠の攻撃を閉じ込める。そして隕石に向けて両手を翳し、黒い魔法陣を展開。

 

 

「噛み砕け! 無の龍よ!」

 

 

 魔法陣から巨大な黒い龍が出現し、隕石に向かって飛びかかる。その龍は隕石とぶつかり、隕石を砕いた。

 

 

「あああああっ!」

 

「っ!?」

 

 

 リインの拳がイヴァの顔面に迫ったいた。咄嗟のことにイヴァは反応できず、その拳を見つめるだけしか出来ない。だがリインの拳は、イヴァに触れる前に紅い刃に阻まれた。

 

 

「チィッ!」

 

「蓮夜!?」

 

「ごほっ!」

 

 

 蓮夜はヤシャに喰らった攻撃のダメージが響いており、血を吐く。

 

 

「クソッ!」

 

 

 イヴァは倒れようとする蓮夜を受け止めてリインの拳をシールドで受け止める。

 

 

「蓮夜! しっかりしろ!」

 

「くそ……がぁ……!」

 

「畜生! 何でこうも“予定外”の事が起きるんだよ!?」

 

 

 『ゼロ』で蓮夜の傷を消そうとしたが、後ろから剣誠の攻撃の流れ弾が直撃する。

 

 

「があああっ!?」

 

「あああああっ!」

 

「っ!? ぉぉぉおおお!」

 

 

 その反動でシールドが砕け、リインの拳が迫る。イヴァは蓮夜を投げ飛ばしてリインの拳から逃がす。

 

 

「うあああああ!」

 

「何!?」

 

 

 ゼロ距離の収束砲。イヴァは『ゼロ』で消そうとするが、リインの腕を消してしまうことになるために放てず、まともに喰らってしまった。

 

 

 

「ぐああああああっ!!」

 

 

 イヴァは吹き飛ばされ雪の上を転がった。とっさに顔を逸らしたことで顔面に命中するのは免れたが、左肩に命中して鎧が砕けた。そこからは真っ赤な血がドクドクと溢れ出している。

 

 

「ち……くしょう……!」

 

 

 イヴァは霞む目で辺りを見渡した。蓮夜は血を吐いて倒れ、剣誠は魔法の力に呑み込まれて暴走し、神楽は剣誠の背中で意識を失って、はやてとフェイト、なのははヤシャの攻撃で倒れて意識を失っている。ユフィもユーリに連れられてこの場に居ない。ヤシャも離脱している。そして一番愛している女性が闇に染まって自分を殺しにかかっている。自分が愛し、守ると誓ったのに、現実はどうだ。何も守れてはいない。このままでは家族がバラバラになってしまう。

 

 

「―――――あ~あ、予定が狂ってしまったな……」

 

 

 イヴァは立ち上がり、リインを見据えた。

 

 

「リイン……すまない。少しの間だけ、我慢してくれ」

 

 

 イヴァはリインの目の前に一瞬で移動し、リインを掌底で吹き飛ばす。リインはそのまま地面を転がり、イヴァとの間に距離ができる。その隙にイヴァは剣誠に近寄る。

 

 

「剣誠!」

 

「アハハハハハハハハ!」

 

「目を覚ませ!!」

 

 

 剣誠の頭を『ゼロ』を発動した右手で掴み、神楽を掴んで剣誠から離し、剣誠を地面に叩きつけ、剣誠の右手の手袋を取る。すると剣誠の魔力が弱まり、落ち着きを取り戻し始めた。

 

 

「と……とう……さん……!」

 

「安心しろ……少し眠れ」

 

 

 剣誠の後ろ首に『ゼロ』を叩き込み、剣誠の意識を奪った。

 

 

「イヴァ!」

 

 

 遺跡で黒いコートの男と戦っていたレオンがやって来る。どうやら倒したようだ。

 

 

「レオン……」

 

「駄目だ! 強力な結界が張ってあって入れない!」

 

「そうか……。レオン、お前はアースラに戻れ」

 

「何?」

 

「この戦い……もう決着は見えた」

 

「……もちろん、勝つんだよな?」

 

「ああ……っ!」

 

 

 リインが再び向かってきた。だがイヴァはリインの拳を受け流し、遠くへ放り投げて黒い魔力弾をぶつける。

 

 

「行け! はやてとなのはとフェイトを連れて行ってくれ!」

 

「……分かった!」

 

 

 レオンは手首に付けている端末を弄り、スノーモービルを呼び寄せた。それに乗ってはやて達を乗せて走り去った。イヴァは蓮夜、剣誠、神楽を抱えてその場から消えた。

 

 

 

 

「あ~あ、もう終わっちまったのかぁ?」

 

 

 ミュリオンは戦艦の艦橋でイヴァの戦闘を眺めていた。だがイヴァが離脱したことで肩を落とす。

 

 

「ってかヤシャの野朗は何やってんだよ。ユーリの野朗もあの化けモンを何処かに行っちまったしなぁ……」

 

 

 だが、とミュリオンは手元のデータを見つめて笑う。

 

 

「あの女……中々良い道具だ。これは夜の方も期待できそうだなぁ」

 

 

 ミュリオンは厭らしい笑みを浮かべたが、すぐに引っ込めた。

 

 

「だがその前にあの野朗を絶望の中に叩き落さねぇといけねぇな」

 

 

 ミュリオンは部下達にイヴァの追跡を命じた。

 

 

 

 

 イヴァはユフィと隠れていた洞窟に蓮夜達を運んだ。洞窟に『ゼロ』の結界を張り、三人を寝かせた。

 

 

「はぁ…はぁ……うっ」

 

 

 左肩の怪我を押さえて座りこむ。血を流し過ぎて目が霞み、『ゼロ』で怪我を消そうにも、今の体力ではもう『ゼロ』の使用がまともに出来ず、徐々にしか消していけない。しかもその効果は望めない。

 

 

「くそ……こうも予定外の事が続くとはな……。俺のツキもここまでか……」

 

 

 イヴァは地面を這うようにして子供達に近付く。

 

 

「すまんな……お前達にはこの先、迷惑をかける事になる」

 

 

 自分の胸に右手を当てて、そこが光り出した。

 

 

「だからせめての……俺からの餞別だ」

 

 

 右手を離すと三つの黒い光の塊が浮かび上がった。それをイヴァは蓮夜、剣誠、神楽の三人に近付け、三人の胸の中に吸い込まれた。

 

 

「それから……これもやる」

 

 

 蓮夜に自分が来ていた黒いコートを。剣誠に何時も共に戦場を駆けてきた愛刀を。神楽には二丁の黒い銃を。

 

 

「そのコートは特別製だ。魔力やら防御やら色々とな。その刀も銃もな。ああ、それから……」

 

 

 イヴァは黒猫の大きなぬいぐるみを剣誠の隣に置いた。

 

 

「これ、ユフィから預かってたんだが……返しといてくれ」

 

 

 イヴァの黒い鎧が霧となって消えてゆく。どうやらもう力を維持する程の力が残っていないようだ。鎧が消え、黒いズボンとインナー姿になる。

 

 

「エスティがもうじきやって来る。アイツにはちょっと裏で働いてて貰ってたんだが……アイツにも面倒をかけたな」

 

 

 イヴァは三人の顔を笑みを浮かべながら眺めて背を向けた。

 

 

「―――――さようなら、俺の大切な子供達」

 

 

 イヴァは脚を引き摺りながら洞窟を出る。その時のイヴァの顔は覚悟を決めた、一人の男の顔だった。

 

 

 

 

 アースラの医務室ではやては目を覚ました。すぐには何が起こったのか理解出来ず、辺りを見渡したが、やがて理解して飛び上がる。

 

 

「お義父さん!? 皆!? うっ……!?」

 

 

 身体に激痛が走りすぐにベッドに蹲る。

 

 

「はやて! まだ動いたら駄目だ!」

 

 

 レオンがやってきてすぐに通信で医者を呼んだ。

 

 

「レオンさん……! お義父さんは……!?」

 

「彼なら大丈夫だと。先にアースラに戻れと言われたからお前達を救出した」

 

「蓮夜君は!?」

 

「イヴァが連れていくと言っていたが……遅いな」

 

 

 レオンが呟いた直後、アースラに警報が鳴り響いた。

 

 

「どうした!?」

 

『ケネディ一等陸佐! 大変です! 前方にダモクレス級がニ隻接近!』

 

「何!?」

 

『それと、アースラとダモクレス級の間でイヴァシリアとリインフォースが戦闘を行ってます!』

 

「何やて!?」

 

 

 リインの事を知らないはやては目を大きく開いて驚く。

 

 

「そんな!? お義父さんとお義母さんが!?」

 

「イヴァは何をやっているんだ!?」

 

 

 レオンはやって来た医者にはやて達を任せて艦橋に向かった。

 

 

「状況は!?」

 

「前方一キロ先にダモクレス級ニ隻が戦闘態勢で待機! 前方五百メートル先でイヴァシリアとリインフォースが交戦中!」

 

「連夜一等空尉は!?」

 

「確認出来ません!」

 

「くっ! アスラは!?」

 

「未だオーガスと交戦中!」

 

 

 それを示すかのように遠くの場所で大爆発が起こる。

 

 

「くそ! 俺が直接出る! はやて達は絶対に出すな!」

 

「了解!」

 

 

 レオンは艦橋を走って出て行った。

 

 

 

 

 イヴァは両手に魔力剣を持ってリインと対峙していた。左肩は潰れ、血で真っ赤に染まっている。対してリインは夜天の書を持って光を失った赤い瞳でイヴァを睨んでいる。

 

 

「……なぁ、リイン。覚えてるか? 俺達の結婚式のこと」

 

「………」

 

「俺達二人とも緊張して、ガッチガチに固まってたよな。周りの皆が助けてくれなきゃ、何も出来なかったよな」

 

 

 静かに剣を構えてリインを見るその顔は、とても穏やかな表情だった。

 

 

「今度は子供達の結婚式も見ないといけないよな……。だから、帰ってきてやれよ、リイン」

 

「………」

 

「一人で帰れないなら、俺が連れて帰ってやる」

 

 

 イヴァは地面を蹴ってリインに近付く。リインは両拳に黒い魔力を纏わせて地を蹴る。魔力の剣と魔力の拳がぶつかり合う。

 

 

「ぐっ!?」

 

 

 イヴァの左肩が痛み、リインに押される。

 

 

「ハッハッハ! 随分と積極的じゃないか。でもまだまだだな」

 

「………」

 

 

 リインはもう叫び声を上げない。闇が完全にリインを支配したということだ。そこに感情は無い。心が無い。思いが無い。何も無い。あるのはただの破壊だけ。

 

 

「ごおっ!?」

 

 

 リインの拳がイヴァの腹に直撃し、更に鎖で締め上げ、リインは夜天の書を開く。するとリインの右手に魔力を集め、手首辺りから黒い剣が展開される。その剣をイヴァに突き刺そうとした。だがイヴァは力を振り絞って鎖を砕き、魔力剣でリインの剣を受け止める。

 

 

「くっ……! 力が……!」

 

 

 徐々に力が抜けていき、膝をつく。血が垂れて白い雪を真っ赤に染める。魔力剣も魔力の結合が崩れてゆき、ボロボロになってゆく。

 

 

「リイン……絶対に、お前だけは生きて返す!」

 

 

 イヴァは魔力剣を消す。リインの剣がイヴァに迫るがイヴァは身体を逸らして剣を避け、リインの胸に拳を当てた。

 

 

「夜天の書……“ファン”、頼む!」

 

 

 イヴァの身体が光の粒子になっていき、夜天の書に吸収された。

 

 

 

 

 イヴァが眼を開くと、そこは草原だった。ただ、その草原の真っ只中に、一人の茶髪の少女がいた。その少女こそ、イヴァの最初の娘、ファン・エラフィクスである。

 

 

「……久しぶり、お父さん」

 

「……ああ、久しぶりだな」

 

「凄い怪我だね。真っ赤っか」

 

「だな」

 

「……リインの事でしょ? こっちだよ」

 

「……頼む」

 

 

 ファンはイヴァの手を引いて歩き出す。行き着く先はリインを蝕む、闇の場所へ。

 

 

 

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