今回ラストです。
この頃のファンさんは、ずいぶんと大人気ないです。
アースラの訓練場にファンと蓮夜はいる。ファンは手に黒い鞘に収まった刀を持っており、蓮夜は刀身が紅い二本の剣を持っている。
「それがお前のデバイスか?」
「ああ! アームドデバイスの『紅蓮』だ! ってかテメェ、それどう見たって質量兵器だろ!」
「ほう? 良く知ってるな。誰に聞いた?」
「誰でも良いだろう!」
「そうか。確かに、これは質量兵器だ。だが……俺の場合少々特殊でな。特例として許可を貰ってるんだよ」
―――特例だぁ!? ますます臭いやがる! だが、俺がこの世界の主人公なんだ! モブは黙ってくたばってろ!
蓮夜はニヤリと笑い、紅蓮を構えた。
「行くぜぇ!」
蓮夜はベクトルを操作し、高速でファンに近付いた。蓮夜は右手の剣を振り下ろした。ファンは咄嗟に鞘で受け止めた。
「腹ががら空きだぁ!」
「っ!」
左足でファンの腹を蹴り飛ばした。ベクトルの操作で威力を増大させているから、まともに喰らったファンは天井に叩きつけられた。
「火炎斬波!」
紅蓮から飛ばされた炎の斬撃が、ファンの身体を斬り付けた。
「まだまだぁ! 俺の力はこんなもんじゃねぇぞぉ!」
飛び上がり、ファンを殴りつけて天井に減り込ます。そして顔面を掴み、床に叩き付けた。
「くたばっちまいな! 火炎斬波!」
剣を交差させて飛ばされた炎の斬撃が、叩きつけられたファンに命中し、爆発を起こす。辺りは爆煙に包まれた。
「けっ、ぜんっぜん大した事ねぇじゃねぇか! 何が痛めつけてやるだよ。逆に痛めつけられてんじゃねぇか!」
蓮夜は大笑いして自分の存在をますます確信してしまった。
★
「相変わらず、えげつないな……」
「うん……」
模擬戦の様子を見ていたユーノとなのはが顔を顰めた。
「何時見ても強引な戦い方だな。ただ力をぶつけてるだけだ」
「そうね。でも力比べだけなら凄いのよね〜」
クロノとリンディも蓮夜の戦闘の仕方に呆れる。
「あの人、何も出来なかったね……」
「あら? なのはさん、彼はまだ始めてすらいないわよ?」
「ふぇ? だけど蓮夜くんに……」
「あれはただ黒島の力がどんなのか確認しただけだ。まったく、いくら身体が丈夫だからって、実際に受けなくても良いのに……」
なのははクロノの言っている事が分からなかった。ファンは完璧に蓮夜に沈められた。壁をも貫く蹴りと拳を受けて、更には斬られたのだ。これで何とも無い人なんていない。
だけど、その幻想は打ち消された。再び蓮夜とファンに視線を戻してみると、ファンが肩をトントンと叩きながら平然と立っていたのだ。
★
「ふぅ〜……どうやら特殊能力みたいなのがあるようだな」
「ば、バカな……!? 何で立ってられるんだ!?」
「まあ、体質だからな。で、だ……お前はその歳で桁違いな魔力と、たぶん身体強化みたいなのをしてるんだろ」
「はっ、態々答えるかよ!」
―――一体どんな手品を使ったのかは分からないが、どうやらベクトル操作の事は分かっていないみたいだな。
ファンは首を解すと、蓮夜を睨みつけた。
「じゃあ……説教の時間だ」
そう言った瞬間、蓮夜の周りに紫色の魔力で出来た剣が出現した。
「大丈夫だ。ただ刺さるだけだから」
とてもいい笑顔でそう告げ、指を鳴らした。すると剣が一斉に射出され、蓮夜を襲った。
だが、蓮夜に剣が触れた瞬間、剣が全て砕け散った。
「ん?」
「馬鹿が! んなモン効くかよ!」
蓮夜は地面のベクトル操作をしてファンに迫り、右手を伸ばす。ファンはその手を掴もうとしたが、腕に触れた瞬間、ファンの手が弾かれた。
「ほう?」
「くたばれぇ!」
ファンは伸びてきた手を避け、蓮夜の腹に拳を叩き込むが、拳も腹に触れた瞬間弾かれた。
「ふむ……」
ファンは一旦離れ、顎に手を当てた。
「なるほど……反射か? 綺麗に俺の拳が反対方向に弾かれたな……」
「さあな! 仮にそうだとしてもどうする事もできねぇだろ!」
―――何でだ? 弾かれたら骨ぐらい折れるはずだぞ!?
蓮夜は再び突撃した。今度は斬撃を飛ばしながらファンの逃げ道を無くして。
「これで終わりだぁ!」
「ああ―――そして説教タイムだ」
蓮夜の手がファンに触れる前に、ファンの拳が蓮夜の顔面に叩きこまれた。しかし今度は弾かれず、しっかりと顔面に減り込んだ。
「がぶらぁっ!!?」
蓮夜は吹き飛ばされ、地面を転がった。
―――な、何だ……? 何で反射しなかったんだ? 木原真拳? まさか、あり得ない!
「さて、先ずは何から説教しようか……」
―――そうだ。無意識の内に反射のスイッチを切ってたんだ! きっとそうだ! 今度はしっかりと入れて……。
「調子に乗ってんじゃねぇぞ!!」
「先ずはその口調だ。目上の者には敬語を使え、馬鹿者」
バキっ言う音を立ててファンの拳が蓮夜の顔面に叩きつけられた。蓮夜は地面に叩きつけられ、頭を踏まれた。
「一体どういう教育をされてきたのか。今ここできっちりと教育しなおしてやる」
―――な、何で!? ちゃんとスイッチは入れてた! なのにどうして効かないんだ!?
「どうやらお前は普通の子共ではないようだからな。大人の対応でいかせてもらう」
「ぐッ……!」
「ほら、先ずはタメ口でごめんなさいだ」
「がっ!」
ファンは蓮夜の頭を蹴り、強引に立たす。
「ほら、リピートアフターミー?」
「ざ…ざっけんな!」
「……マイナス一点だ、餓鬼」
蓮夜を上に放り投げ、落ちてきたところに刀を立てる。すると柄頭に蓮夜の腹が減り込んだ。
「ゴフッ―――!?」
「マイナスされていく度に暴力一つな。ほら、おっさんと言ってすみませんでした、お兄さん。言ってみ?」
「くっ………死んどけ、おっさん」
蓮夜はファンの首を掴んだ。ファンの血液のベクトルを操作して逆流させるつもりなのだ。だが、蓮夜の能力は発動しなかった。
「え……?」
「マイナス二点」
「がはっ!」
鞘に収まったままの刀で蓮夜の肩と腹を殴り、足を払う。ファンは刀を杖代わりにして体重をかけた。
「この様子じゃあ、暫くは医務室の常連さんになっちまうな」
ファンはスッキリしたような笑顔だった。
★
「うわ……蓮夜が可愛そうに思えてきた」
「私も……。ねぇ、クロノくん。あれって流石にやりすぎなんじゃないの?」
「う……艦長……」
クロノも流石にアレはやりすぎに思えたのか、艦長に指示を仰いだ。リンディは少し考え、手を打った。
「そうね……見てるこっちが嫌だわ。ちょっと緩めて貰いましょうか」
『止めさすんじゃないんだ……』
リンディの決定に、なのはとユーノは蓮夜に合掌した。汝に幸あれと。あれ? 違う?
★
『ファン、見てるこっちが嫌だから、もうちょっと緩めて貰える?』
『えー、せっかくストレス発散の相手を見つけたのによー』
リンディからの念話に、ファンは嫌そうに言った。
『ストレスが溜まるほど仕事して無いでしょ』
『だからこそ溜まるんですー』
『それ以上やったら、児童虐待で訴えられちゃうわよ?』
『……アイアイサー。りょうかーい』
「チッ……」
ファンは舌打ちをしてのた打ち回る連夜を見下ろした。
「リンディ艦長からのお優しい、それはもうお優しい、悪く言うと甘っちょろい判断により、少々緩めで説教してやる事になった。とりあえず、今日はおっさんだけは撤回しろ。俺は二十五だ」
「チクショウ……一体何をしたんだよ……!?」
「何って……ただ殴って蹴って突いての繰り返しだけど?」
「ざけんな! 俺は全てのベクトルを操作してんだ! 反射もオプションにしてんだ! なのに何も働かない! 何をしやがった!?」
「へー。お前面白い能力持ってんだな。でも残念、俺には意味を成さない」
刀で肩を叩きながら蓮夜に近付く。連夜は恨めしそうにファンを睨むが、ファンは見下すように笑った。
「俺の力を知りたきゃ、ちゃんと教養を積む事だ、餓鬼」
その後も模擬戦は続けられ、結局蓮夜は一方的に足を払われてこかされ続けた。
ファンはストレスが発散されたのか、とても良い笑顔だった。
ただ、いくらキレてたとは言え、子供相手にやりすぎたと、後に死ぬほど後悔した。
実際は、中身はもう大人なので問題は無いのだが、そんなことはファンは知らない。
★
アースラの食堂で、ファン、リンディ、クロノ、なのは、ユーノの四人で食事を取っていた。
「まったく、やりすぎですよファンさん」
「まだ言うかクロノ。確かに三割方ストレスの発散目的でやったが、アイツは俺にとって禁句の一つを口にしたんだ。なら身体で分からすしかないだろ。それにアイツ見たいな奴は少々痛めつけても何とも無い。」
「ですが、限度と言うものがありますよ」
「分かってるさ。……やりすぎた」
蓮夜は医務室のベッドの上でぐっすりと眠っている。全身包帯だらけで。
「あの、フィクスさん」
「ん? 俺の事はファンお兄さんと呼びなさい、高町」
「あ、じゃあ私もなのはでいいですよ。それで、ファンさんは普段は何をしてる人なんですか?」
「何でも屋エリス。迷子の猫探しから必殺仕事人モドキまで何でもお任せあれ。初めての方には無料で提供させていただきます。はいこれ名刺」
と、ファンはなのはとユーノに名刺を渡した。名刺には『何でも屋エリス』店長、ファン・フィクスと書かれている。
「あら珍しい。貴方名刺なんて持ってたかしら?」
「害の無さそうな人にしか渡さないの」
「ということは私は害がありそうなのね?」
「当たり前だろう。自分を何だと思ってるんだ?」
「……クロノ〜、私ちょっとファンとお話があるから、席を外すわね」
ガシっとファンの後襟を掴み、もの凄く黒い笑みを浮かべながら食堂から出ていった。その間、ファンは引き摺られながらクロノに助けを求めていた。
「……仲……良いんだね?」
「そう……だな。良いんだろうな」
「良い……のかな?」
なのはとクロノとユーノは強引にそう思い込み、食事をつづけた。
数十分後、とてもスッキリした表情で人型のボロ雑巾を持ってきたリンディであった。