アレから数日。
蓮夜の教育にほんの少しだけ進歩があった。
ファンの言う事を、ほんの少しだけ、本当にほんの少しだけ聞くようになったのだ。
「いいか? 運動前の準備体操は大切だ」
「……ああ」
「今まではそれが無かった。だから今日から加えようと思う」
「……あっそ」
「はい、それじゃ始めるぞー!」
ポチっと、ラジカセのスイッチを押すファン。
カセットの内容は、『これで貴方も逆三角形! 目指せターナネーター!! バリーズブートキャンプ!』という内容だった。
二人はラジカセの前に立ち指示が出るまで待機する。
『さあ! 先ずは右脚を首の後ろにかけてぇ!』
「初っ端から無理じゃねえか!!」
「何を言っている。これは柔軟性を高めるものだ」
「筋肉モリモリじゃねえの!? ってか出来てるし!? キモッ!?」
「………」
「……?」
「………戻せない」
「もう死ね」
蓮夜の協力により、何とか脚を戻せたファンは、もう絶対にしないと言ってラジカセを壊した。
「さあ、いよいよお待ちかねの……」
「うっしゃあ!! 今日こそテメェをぶっ殺す!!」
「休憩に入ろうか」
「ズボラッ!?」
何処からか出してきた卓袱台を出して羊羹とお茶を味わうファン。蓮夜はズッコケて顔面を強打した。
「ん〜、この羊羹の程よい甘さ、このお茶の苦味とマッチングしてvery good」
「このジジイがぁぁああッ!!」
「俺はお兄さんだ!!」
ファンの拳と蓮夜の拳がぶつかり合う。これが何時もの開始の合図である。
「お茶と羊羹を満喫して、何がお兄さんだ!!」
「今の若い者はこういった日本文化の良さを知らない! だからせめて俺だけでも文化を守ってんだよ!」
「謝れ! 若い人たちに謝れ!」
孫○空も吃驚するほどのやり取りを演じ、結局ファンが圧勝した。
「Hoooooooooッ!!」
「この……くそがぁ……!!」
★
アースラの艦長室に、ファンとリンディの姿がいた。
二人はアースラには不相応な畳の上でお茶を啜っていた。
「フェイト・テスタロッサね~……。こんな子供が……」
ファンの手元の資料には、蓮夜たちと同じ歳ぐらいの金髪の子供の写真。
「何を目的としてジュエルシードを集めているのかは不明だけど、何かを企んでいるのは間違いなさそうね」
「………」
「……ファン?」
「……あ? 何か言ったか?」
「いえ、ただぼうっとしてたみたいだから」
ファンはフェイトの写真をずっと見つめていた。
その様子を見てリンディは何かに気がついたのか手を叩いた。
「分かったわ! ファンってロリコンだったのね!」
「……帰る」
「あ〜ん! 冗談よ、冗談! だから帰らないで!」
リンディの言葉にカチンと来たのか、今すぐ家に帰ろうとしだす。
リンディはそれを必死に止めた。
「で? 何か知ってるのかしら?」
「いや? ただ……」
「ただ?」
「……将来はもの凄く美人になるだろうなって。……手篭めにして養ってもらおうかな?」
「そんな事したら現行犯逮捕するわよ?」
手錠をチラつかせ、とても良い笑顔を見せるリンディに、底知れぬ恐怖を抱いたファンは嘘だと謝った。
「それとこっちが使い魔の犬よ。この使い魔がサポートしているみたいなの」
「へえー、使い魔ね。ま、何にせよ、俺は関わらないって契約だからな。それに子供と戦うのは好きじゃない」
「毎日蓮夜君を苛めてる貴方がそれを言うかしら?」
「苛めてるんじゃない。調教してるんだ」
「余計性質が悪いことに気が付いて欲しいわ」
その後も大福とお茶を味わい、割と暇な時間を過ごした。
因みに、極度の甘党なのか、リンディはお茶に砂糖を大さじ二杯とミルクをたっぷり入れていた。
勿論、ファンはそれを見て吐き気を覚えた。
★
そして、また数日が過ぎたある日。事は進んだ。
海上にて、フェイト・テスタロッサと使い魔の犬が、正確にはフェイトが魔法で強力な電撃流を海に叩きこみ、ジュエルシードを強制的に発動させたのだ。それも五つも。
「うわちゃー……滅茶苦茶な女の子だな。最近の子は皆あんななのか?」
「その発言が既におっさんだぞ」
「お兄さん、だ!」
「って!? 何しやがる!?」
「で? どうすんだ? リンディ?」
「無視すんなや!!」
文句を言う連夜を無視してファンはリンディに問う。
それは先ほど駆けつけたなのはも気になっている事だった。
「勿論、自滅するのを待ちます。自滅しなくても力が弱まったところを叩けばいいだけです」
「はん! 誰がテメェの言う事なんかぎゃふぅ!?」
「だから、年上には敬意を払えってんだ」
クロノの答えに蓮夜が激しく反論したが、ファンが蓮夜の頭を殴りつけて黙らせた。
そうしている間にも、モニターの向こうではフェイトと使い魔が、暴走したジュエルシードによって起こされた竜巻と雷にダメージを与えられていく。
このままでは本当に自滅しそうなまでだった。
「私達は、常に最善な選択をしないといけないわ。残酷に見えるかもしれないけど、これが現実」
「でも……」
なのははそれでも食い下がる。それを見かねたファンは頭をかきながら誰にも聞こえないように溜息を吐いた。
そして念話で後ろにいるユーノに話しかけた。
『おーい、君のお姫様がお困りですよー。騎士様は如何するおつもりですかー? ってか男見せろ男を』
『え、あ、はい! 勿論です!』
その後、ユーノはなのはに念話を繋げたのか、なのはがユーノに振り返った。
すると転送魔法が発生した。
「君は!」
クロノが気づくが、その時にはなのはは走り出していた。
そしてなのはが転送魔法の上に到着すると、ユーノは通せんぼのように手を広げた。
「ごめんなさい。高町なのは、指示を無視して勝手な行動を取ります!」
「あの子の結果内へ転送!」
ユーノは印を組み、なのはをフェイトのいる場所へと転送させた。
「……あ、おい! 俺も行かせろ!」
「えぇ~……」
「アァン!?」
「わ、分かったよ! だからその手を引っ込めて!」
それからすぐにユーノと蓮夜はなのはがいる場所へと転移していった。
「……あのガキんちょが。誰がお前まで行って良いと言った」
「まったく、仕方の無い子達ねぇ。帰ったらおしおきね」
「ひっ…!?」
その時のファンとリンディの表情を見たクロノは、この先忘れる事のない恐怖を刻まれたそうな。
★
「三人でせーので一気に封印!」
ユーノとフェイトの使い魔のアルフが竜巻を止めている好きに、なのはか空を駆け出した。
蓮夜も紅蓮を柄頭で連結させ、投擲の構えを取る。
―――ここで一発カッコいい所を見せなくちゃな。今まであの野朗の所為でそういう場面が無かったからな!
内心には不純な動機を秘めて構えているが、それは今はどうだって良い。
「せーの!」
「サンダ―――」
「ディバイィィィン―――」
「|刺し穿つ(ゲイ)―――」
「レイジィィィィイイ!!」
「バスタァァァァアア!!」
「|死翔の槍(ボルク)!!」
落雷とピンクの収束砲、そして紅い閃光が竜巻に直撃する。
そして激しい衝撃が発生し、ジュエルシードの封印が完了。
なのはとフェイトの前には、六つのジュエルシードが姿を現した。
―――よし! 後はここでなのはとフェイトの会話に入れば強い印象を与えられる! それでプレシアの攻撃を防いでやれば完璧!
蓮夜はここから先の展開の道筋を立ててなのはとフェイトに近寄ろうとした。
が、その瞬間、何処からか、蓮夜に向かってどデカイ魔力砲が襲い掛かった。
「なっ!?」
幸い、反射能力で魔力砲を弾き返し、事無きを得た。
「何だ!? こんなの原作に―――まさか!?」
転生者。その単語が蓮夜の頭に過ぎった。原作ではここでこんな魔力砲は無かった。
ならば、自分以外の転生者がこの砲撃を放ったに違いない。
「ンのクソがァ……! 主人公である俺に向かってぇ……!」
蓮夜が激怒を現れにしたのと同時に、紫色の雷がフェイトに直撃した。
「あぁぁぁぁぁぁぁあああっ!!!」
★
時は少し前。ファン達はモニターでジュエルシードの封印を確認した。
「な、何て出鱈目な……」
「……でも凄いわ」
「うわー……将来が楽しみだ。腕がなる……」
ファンは将来の実力が楽しみになり、成長したなのは達と本気で戦いたいと思った。
と、アースラに緊急警報が鳴り響いた。
「次元干渉!? 別次元から、本艦及び戦闘空域に向けて魔力攻撃来ます! あ、後六秒!」
「なっ!?」
管制官のエイミィの知らせに緊張が走る。
「まずっ……!」
次元の向こうから紫色の雷が見え、咄嗟にファンは『ゼロ』を発動した。
雷はアースラに直撃した。だが撃沈はされていなかった。
「くっ! クロノ、行け!」
「は、はい!」
クロノは戦闘空域に転移し、ジュエルシードの回収へと向かった。
「逃走するわ! 補足を!」
雷に撃たれる最中、リンディが指示を出す。
だが雷はアースラを撃沈は出来なかったものの、機能を奪っていった。
だから逃走しだすフェイトとアルフを追う事は出来ない。
「機能回復まで後二十五秒! 追い切れません!」
「……機能回復まで対魔力防御。次弾に備えて」
「「はい!」」
「それから……なのはさんとユーノ君、蓮夜君とクロノを回収します」
「チッ……無くせたのは威力だけか……」
「貴方……まさか今のを『ゼロ』で防いだの!?」
「ん? そりゃまあ、何か一撃で撃沈できる威力持ってたし、俺もこんな所で死にたくないからな」
ファンは肩を回しながら、疲れたのか、リンディが座っている艦長席に肘掛に腰を下ろした。
「あんな威力の魔法を消して……身体は大丈夫なの?」
「大丈夫だって。この力の代償は知ってるだろ?」
「……ありがとう。お礼を言うわ」
「だったら報酬をうわの――」
「今度の休日に貴方の家に行って一日家事をしてあげるわ」
「来ないでください!」
ファンは土下座してまで断った。
一体何が彼にあったのだろうか。
それは二人だけの秘密である。