ファンはクロノを連れてプレシアがいる庭園に乗り込もうとしていた。
だが途中、なのは達が自分達も行くと言い出し、流れ的に全員で行く事になった。
フェイトは精神が崩壊し、アルフによって部屋に運ばれている。
「おうおうおう、沢山いるねぇ……」
ファン達の目の前には鎧姿の機械が大量にいた。
これらは近くの敵を攻撃するように創られたただの機械たちだろう。
「けっ、こんなモン、俺の力の前じゃ意味ねぇんだよ!」
蓮夜は足の裏のベクトルを操作し、機械たちの中へと駆け出しす。
「取りあえずスクラップ決定だあ!!」
機械たちの身体に触れ、爆発させていく。
紅蓮も使用して紙くず同然に切り落とす。
「アハハハハッ!! 弱ぇ、弱ぇよテメェら!」
「……なんとも無茶苦茶な戦い方だ」
「でも、今はありがたい」
ファンは蓮夜の戦い方に呆れ、クロノは蓮夜に乗じてデバイスを構えた。
「兎に角、今は先に進むよ」
『Stinger Snipe』
クロノは蒼い魔力光弾を放ち、次々と機械人形を貫いていく。
「……おいテメェ、俺の獲物を横取りしてんじゃねえよ!」
「何を言ってるんだ。今はそんな事を言ってる場合じゃないだろ」
「何だとテメ――」
突如、蓮夜の足元に見慣れない魔法陣が展開された。すると蓮夜の姿が突如消えた。
「蓮夜!」
ファンが叫んだが、もう既に蓮夜の姿は無い。
「あ?」
「何……アレ?」
「生物……?」
「ファンさん……」
代わりに現れたのはおぞましい姿をした生き物たちだった。
剣や槍を持った人型の何か。鋭い触手を幾つも持っている何か。
そんな生物が大量に現れた。
「……生きているだけマシか」
「ファンさん、何を……」
「クロノ、お前はプレシアを確保しに行け。なのは、ユーノはここの区動炉の封印。時間が無い、さっさと行動しろ」
ファンは柄に手をかけながら三人に指示を出した。
「ですが……!」
「行け」
ファンの鋭い睨みにより反論は却下された。
クロノは引き下がり、なのはとユーノと共に中へと進んだ。
「まったく……子供が大人の心配すんじゃないっての。で……」
ファンは目の前にいる生物達を睨みつけた。
「少しは楽しましてくれるんだろうな? ええ? 雑種共ぉぉお!!」
たった一蹴り。
それだけでファンは生物達の真ん中に移動していた。
刀を鞘から抜き放った状態で静止している。
「戦慄に舞い踊れ……」
また一蹴り。
それだけで離れた場所へと、刀を振り放った状態で移動していた。
「狂気に呑まれ、悶え苦しめ……」
血を振り落とすかのように刀を何度も振るい、鞘にゆっくりと、音を鳴らして納めた。
「奥義、『
斬撃の世界が、生物達に襲い掛かった。
次々次々次々次々、生物達の身体が斬り刻まれ、命を絶やしていく。
「そら、これで少しは広場が……」
ファンは生物達に目を戻したが、数が減るどころか、逆に増えていっていた。
「……どっかに生成装置でもあんのかねぇ」
ファンの周りに槍を持った数体の生物が現れた。
その内の一体がファンに飛び掛った。
「………」
視認は不可能。その斬撃が飛び掛った生物を縦に両断した。
そのままその生物の隣にいた生物の槍を両断し、その場で回るように刀を横に一閃。
周りにいた生物達は上半身と下半身に分かれた。
ファンは刀を鞘に納めて回りに視線をやった。
再び生物たちがファンを取り囲む。
「ふん……」
後ろにいた剣を持った生物が剣を振り下ろしてきた。
が、ファンは後ろを見ずに鞘の部分で受け止め、振り払う。
そしてその生物の腹を鞘で一突き。
更に目から二体の生物が剣と槍を振り下ろしてきたが、柄で打ち払ってから刀を抜いて二体を両断した。
そしてまた鞘に収めて生物の一体の両足を払い、宙に浮かせた。そして宙に浮いた生物を隣にいた生物と一緒に両断した。
「何だ、何だぁ? 気持ち悪い姿してんのに、血は赤いのな」
血飛沫がファンの全身にかかり、血だらけになっていた。
「まだまだ俺を楽しませろよぉぉぉぉぉぉおおっ!!!」
地を駆け、刀を振り回していく。
通り過ぎていく生物達は皆、身体を両断され、命を絶やしていった。
「はぁぁぁぁぁぁああっ!!!」
縦横無尽に駆け回り、最後の一体を斬り伏せた。
そして鞘を背中に回し、刀に付いた血を振り払いながら背中に回して鞘に収めた。
「奥義、『
ファンは顔に付いた血を拭い、血で濡れた髪を手でかき上げる。
「ヒュ〜♪ まったく、退屈しないで済みそうだ」
ファンの目の前には、魔法陣から続々と出現する生物たちがいた。
「レッツ・パーリィ、てか?」
ファンは回りに黒い魔力剣を出現させて群れに突撃した。
★
何処か分からない部屋に強制転送された蓮夜は、突如現れた生物らを反射で弾き飛ばした。
「あン? 何だよ、何ですか? まだ本命じゃねえのかよ」
蓮夜は紅蓮を構えて生物達を睨みつける。
「なるほど、察するに、君の能力は一方通行かい?」
と、子供の声が広い部屋に響いた。蓮夜は声がしたほうに顔を向けた。
そこには紫色のローブを身に纏った、蓮夜と同じ歳ぐらいの男の子が立っていた。
「それを知ってるって事は、やっぱり転生者か」
「そう。僕こそがこの世界の主人公さ。この最強の力を手に入れ、全てを手に入れる者さ!」
少年は、両手を大きく広げて盛大に語った。
「……お前馬鹿じゃねえの?」
「何……?」
「テメェみたいな猿芝居しか出来ないような三下が、この俺を差し置いて主人公語ってんじゃねぇって言ってんだよ!」
蓮夜はベクトル操作で少年に突撃した。だが少年は手を翳し、魔力障壁を展開して蓮夜を止めた。
「あン?」
「どうだい? これはどんな力でも無効化する防御壁だ。故に、君の力も効かない!」
空いた手で魔力弾を展開し、蓮夜に向かって放つ。
蓮夜はその場から飛び退き、魔力弾を避ける。
「僕は天才的な頭脳を手に入れてねぇ……どんな魔法でも瞬時に開発しちゃうのさ! だから、ベクトル操作を無効化する魔法ぐらい、今ここで作れちゃうのさ!」
そう言って、百を超える魔力弾が少年の周りに展開され、蓮夜に雨の如く迫り狂う。
「………」
だが蓮夜は黙って両手に紅蓮を握り締め、魔力弾の雨を見つめる。
「終わりだよ!」
やがて魔力弾が蓮夜に降り注ぎ、爆炎で辺りを包み込んだ。
「アハハハハッ! その魔力弾はどんな力でも無効化して貫く代物……ベクトル操作も例外ではない! 僕の勝ちだ! アハハハハ―――」
「何だ、この程度か……」
「―――は?」
勝利を確信した少年は、負けて死んだはずの蓮夜の声がして固まった。
ゆっくりと蓮夜がいた場所に目を移し、やがて煙が収まり、視界が開けた。
「ンなもん、当たらなければイイ話じゃねえか……」
「ば、馬鹿な……!」
蓮夜は不敵な笑みを浮かべて立っていた。
無傷な姿で、狂気に似た笑みを浮かべて立っていた。
「何故!? ベクトル操作は無効化されたはず!」
「あア? 知らねぇよ……。片っ端から剣で斬ってたし、遅くて欠伸が出そうだったし」
「全て見切っただと!? 馬鹿な! 動体視力を底上げしたというのか!?」
「けっ、これだからモブキャラは困るんだ……!」
蓮夜は自身の身体能力とベクトル操作の力を使用し、一瞬で少年の目の前に移動した。
「ヒッ!?」
「俺はなぁ……ベクトルの他に、魔力と身体能力を得てんだ。これしきの事でくたばるかってんだ!」
「あがッ!」
蓮夜は少年を蹴り飛ばし、肋骨を砕いた。
「痛い……! 痛いぃ!」
「ギャハハハ! ザマァねえぜ! オラァ!」
転がっている少年の腹を蹴り上げ、宙に浮かせる。
「大体テメェの能力が何だって? 天才的頭脳? インテリが俺様に勝てるわけねぇだろ!」
「ゴハァッ!」
落ちてきたところを蹴り、踵落としで地面に叩き付けた。
「何だよ、何だよ。テメェの力はそれだけかよ? ってかやられた時の事考えてなかったのかよ? まさか動揺して魔法が使えないとか言うなよなァ?」
ガスッ、ガスッと蹴って少年を血まみれにしていく。
「い、痛い!? 痛い痛い!!」
「ギャハハッ! 図星かよ!? ザマァねェなァ!!」
少年を前に蹴り飛ばし、紅蓮に魔力を込めだした。
「さて……最後に言い残す事は?」
「この……クソ野朗が! テメェなんて死ね! 消えろ! クセェんだよ! 屑!」
「カカッ! 天才的頭脳はどこいったんだよ? 頭の悪い悪口言ってんじゃねえよ!」
「何だよ! 何で僕が負けるんだよ! なのはもフェイトもはやても、皆俺のもんなのに!」
「……あ? そりゃまた大層で哀れな夢なこった。取りあえず……もう死ねや」
蓮夜は二つの紅い斬撃を飛ばし、名も口にしなかった少年はこの世を去った。
「………ンだよ、クソッ」
蓮夜は先程の戦いを思い出して悪態を吐いた。
先程の魔力弾の雨。普通なら蓮夜でも避けれなかった。
だが蓮夜は普通じゃなかった。ファンのあの黒い剣の嵐を長時間、何度も何度も喰らい続けた結果、あの魔力弾の雨など見切るのに苦労しないようになっていた。
寧ろファンの剣のほうが恐ろしく感じた。
「胸糞ワリィ……。あのおっさんのお陰だと……? ふざけんじゃねぇよ……!」
蓮夜は取りあえずここから脱出する事にした。幸い、出口はすぐに見つかり、連夜は奥へと進んでいった。
★
戦闘が始まって数十分。戦況は明らかだった。
絶望の淵にいたフェイトが復活し、先に助太刀に来たアルフに続き戦場に参上。
なのは達と共に機械人形を破壊し、なのはは区動炉へ、フェイトは母の、プレシアの元へ向かっていた。
そして、決定的な戦況になったのは、リンディが自ら出陣し、自らの力を持って次元震を抑えこんでいた。
「そうよ、私は取り戻す。私とアリシアの……過去と未来を!」
プレシアはアリシアとの思い出の日々を取り戻そうとしていた。
アルハザードへ向かい、死者蘇生の秘術を手に入れて。
「取り戻すの……こんな筈じゃなかった世界の全てを!」
プレシアがいる部屋に爆音が響く。
クロノが頭から血を流しながら突入してきたのだ。
「世界は……何時だって、こんな筈じゃない事ばっかりだよ! ずっと昔から、何時だって、誰だってそうなんだ!」
「っ……!」
そしてフェイトとアルフもやってきた。
プレシアはフェイトの姿を見て一瞬だけ驚いた。
そして、苦しみだし、血反吐を吐いた。
「母さん!」
「何をしに来たの?」
「ッ!」
「消えなさい……貴女にもう用はないわ」
プレシアは嫌悪感を込めた目でフェイトを睨んだ。
だがフェイトは臆することなく口を開いた。
「貴女に言いたい事があって来ました」
「……?」
「私は……私はアリシア・テスタロッサではありません。私は、貴女が作り出した人形なのかもしれません」
「………」
「だけど、私は…フェイト・テスタロッサは……貴女に産み出してもらって、育ててもらった、貴女の娘です!」
力強く、プレシアの眼を見つめて言い放った。
「ふ、ふふふふ…あはははははっ!」
しかしプレシアは笑い飛ばした。
「だから何? 今更貴女を娘と思えというの?」
「貴女が……それを望むなら」
フェイトは言った。
「それを望むなら、私は世界中の誰からも、どんな出来事からも貴女を守る」
「………」
「私が貴女の娘だからじゃない。貴女が、私の母さんだから!」
フェイトは前に踏み出て手を差し出した。力強い意志を目に込めて、自分の母に手を差し出した。
「………」
プレシアはそんなフェイトの姿を見て、一瞬だけ、笑った。
だがすぐに表情を険しい表情に戻し、口にした。
「くだらないわ」
プレシアは手に持っていた杖で地面を叩いた。
するとプレシアの足元に巨大な魔法陣が展開され、庭園全土が激しく揺れだす。
庭園を崩落させようとしていた。
「私は向かう! アルハザードへ! そして全てを取り戻す! 過去も、未来も! たった一つの幸福も!」
「ところがギッチョン!」
ダンッ! 地面を叩く音が響き激しい揺れが言葉通り『ゼロ』になった。
「はあ、はあ、ちょいと遊び過ぎたわ……」
ファンが、全身血だらけで地面に手を当てていた。
「ファンさん!」
「よぉ、クロノ。まだ逮捕する力は残ってるだろうな?」
「はい!」
「んじゃま、今回はサービスしといてやるか!」
ファンは一瞬でプレシアの目の前に現れた。
そして刀を抜き、アリシアが入っている生体ポットを斬った。
「何をするの!」
中から出てきた裸のアリシアの身体を受け止め、コートを脱いでアリシアの身体を包み込んだ。
「こんな姿じゃ、可愛そうだろ」
「私の娘よ! 返しなさい!」
プレシアは手を伸ばすが、ファンはアリシアを抱きかかえてその手を避けた。
「俺の義妹でもある。今のお前には渡せない」
「ふざけないで! アリシアを見捨てたくせに!」
「見捨ててなんかいないさ! あの時俺は、確かにアリシアの傍にいなかった! ああ、それは認めよう。俺はアリシアを助けれなかった! だがな! もう死んだ娘にそこまで執着するな! それじゃあアリシアが報われないだろう!」
「貴方には分からないのよ! 唯一の娘を奪われた気持ちが!」
「ああ、そうだな! 分からないな! アンタは奪われた立場で、俺は“奪った立場”だからな!」
「何を……!」
「それに唯一の娘? ふざけるな! お前には、母と言ってくれる存在がいるだろう!」
ファンはフェイトを指した。
プレシアはフェイトのほうに目をやり、此方を見つめるフェイトと目が合った。
「アンタにはまだいるんだ……! 母と慕ってくれる存在が……家族が! それを無視してまで死んでしまったアリシアに固持してんじゃない!」
「だけど……アレはアリシアじゃない!」
「当たり前だ! あの娘はフェイト・テスタロッサ! お前の娘で、アリシアの妹に当たる存在だ!」
「っ……!」
「いい加減認めろよ……! あの娘は、フェイトは自分の娘だって!」
「……無理よ。今まで私があの娘に何をしてきたか……」
「だったら! これから築き立てていけば良い!」
ファンはしゃがみ、崩れ落ちたプレシアと目線を合わせた。
その表情は、どこか悲しそうで、辛そうだった。
「そんな事は不可能よ……。私は―――」
「癌だってんだろ? どこのヤブ医者だ、治せないって言ったのは」
「何ですって……っ!」
ファンはプレシアを抱き寄せた。そして目を閉じて『ゼロ』に集中した。
「俺は不幸なのが嫌いだ。だから消してやる。お前の不幸を……」
淡い光がファンとプレシアを包み込み、やがてプレシアの中に吸い込まれていった。
「そら、これでもう大丈夫だ。時間が出来たさ」
消した。文字通り消した。プレシアを蝕む不幸をゼロにしてしまった。
「ファン……貴方……!」
「特別サービスだ。もう一人の娘を、大事にしてやれ」
ファンは笑い、アリシアを抱き上げて立ち上がった。そしてフェイトに視線をやってファンはプレシアから離れた。
「……母さん」
「………」
プレシアはフェイトから目を離し、拳を握った。
「私は……どうしたら……」
「……一緒に、頑張ろう……母さん」
「っ……!」
フェイトはプレシアに近寄り、プレシアの手をそっと握った。
するとプレシアは目から涙が溢れてきた。ポタポタと涙が手に落ち、フェイトはプレシアを静かに抱きしめた。
★
ファンはアースラの自室に、アリシアを寝かせた。
ファンは永遠に眠るアリシアの顔に手を置いて、優しく撫でた。
「アリシア……ごめんな。あの時、俺が傍にいたら……お前を救ってやれたのに……!」
ファン目からは涙が流れ出してきた。
「ごめんな……駄目な兄ちゃんで……!」
その日、ファンは何処かで涙を流し続けた。