衛宮士郎は死にたくない。   作:犬登

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三連投稿。
ちゃんと前の話も読んでね!

今回から始まる一戦はかなり長くなりそう。




第十一話 ガチ勢は古参勢とすれ違う。

 

「皆、準備はいいか?」

「問題ありません」

「はーい。大丈夫ですよー」

「同じく」

 

 深夜十一時。

 学校から四百メートルほど離れた民家の屋根の上に、俺たちはいた。強化した目で観察すると、確かに以前よりもかなり強力な結界となっているようだ。学校の輪郭が僅かに揺らいでいる。

 結界の手の込みようから、やはりアサシンではなくキャスターだろう。アサシンは山の翁、つまるところハサン・サッバーハの内の誰かが召喚されるのだが、これほどの魔術の手腕を持つ者がいるとは考えにくい。

 

「じゃあ作戦通りに。セイバー、頼んだ。不利だと思ったら直ぐに引いてくれていいからな」

「分かっています。では」

 

 最初こそかなりの違和感を抱いたものの、今やすっかり見慣れたスポーツ少女である。青いマフラーをたなびかせて、セイバーは連なる屋根の上を八艘飛びの如く跳躍していった。

 

「桜もライダーも行ってくれ。俺が合図したら突入だぞ」

「キャスターが出たら任せてください!派手にやっちゃいますよ~」

 

 続いて、桜を抱えたライダーが道路に降りて疾走していく。その速さは明らかにセイバー以上だ。流石は騎兵と言ったところか。

 彼女らはセイバーが突撃した後の第二波、つまり援軍を頼んでいる。結界の効果を確かめて、安全が確保された後にセイバーの加勢に行ってもらう方がいい。

 

 俺は弓を投影する。

 桜たちに合図するためだけではない。準備万端で敵が待ち構えている可能性があり、そうなったときにはセイバーを即座に援護する必要があるのだ。

 

 お馴染みの大きすぎる黒弓を左手に握ったまま、右手に意識を集中させる。

 

 二十七の魔術回路を起動。

 

「────投影、重装」

 

 基本骨子。

 創造理念。

 構成材質。

 製作技術。

 成長経験。

 そして、蓄積年月。

 

 普段ならば省略(カット)する工程を丁寧に踏んでいく。命のやり取りに於いて、手を抜いていい場面などない。これは切嗣に教えられたことだ。

 

 ただ、可能であるとはいえ高ランクの宝具の投影。夫婦剣とは比較にならない程の痛みが襲う。余りにも大きい負荷に魔術回路が悲鳴を上げているのだ。

 

────ぐじゅ、と肌が染まる。

 

 神経に針を直接刺すような激痛で集中が途切れかけた。

 不味い。制御できない魔力は体内で暴走し、魔術回路を食い破るだろう。そうなれば命すらも危うい。

 

 なればこそ己の中に埋没する。

 激痛が妨げとなるのならば、痛覚を遮断する領域まで意識を落とし込む。

 剣を夢想し、設計図を手繰り寄せ、衛宮士郎を表す呪文(カタチ)の一つを刻む。

 

 

「────I am the bone of my sword.(我が魂は鋼を鍛つ)

 

 

 そして、夢想は剣となった。

 

 右手に掴むのは偽・螺旋剣Ⅱ(カラドボルグ)

 現状、最も純粋な威力が高い攻撃手段であり、余程のことがなければサーヴァントを致命傷まで追い込むだろう。

 アーチャーは一撃でヘラクレスの命を一つ削った。ならば、同じ能力を持つ俺も近い結果は出せるはずである。少なくとも理論上は。

 

『シロウ、十秒後に突入します』

「了解。こっちも準備はできてる」

 

 先行するセイバーから連絡があった。もう結界に到着したらしい。急いで黒弓を構えて、けれど冷静に狙いを定める。

 当然だが普段の俺では四百メートル離れた人間を精密狙撃などできない。遠坂とやりあった時は比較的近距離だからできたけれど、どんなに鍛えていても巨大な剣──矢のような形状にはしているが──で遠くの物を狙える人間はいない。

 だが、まあ。

 

「偽装項目:筋力、及び視力───複製、完了」

 

 人ならざる者ならば話は違う。

 

「ふ────ッ!!」

 

 急激に増大した力で以て、弦にかけた螺旋剣を思い切り引いた。ギィ、という心地良い音を立てて黒弓がしなった。

 同時に、内包する神秘を底上げするために螺旋剣をチャージする。腕を、手を、指を伝わって魔力が剣へと蓄積されていった。

 

「………二、一、零」

 

 アーチャーには劣るものの、研ぎ澄まされた眼で彼方を見遣る。そこには揺らめく結界の境界を踏み越えるセイバーの姿があった。

 

『────これは………』

「どうしたんだ?敵はいないのか?」

『いえ、いるにはいるのですが。既に先客が来ていました』 

「先客?」

 

 

『アーチャーのマスターが()()()()のサーヴァントと戦闘しています。』

 

 

「…………何でさ」

 

 アーチャーのマスターは遠坂だ。それはこの前の戦闘で判明している。だというのなら、遠坂が戦っているその侍は何なんだ。キャスターではないとすると、消去法でアサシンしかない。

 侍がアサシン?あり得るのか、そんなことが。そもそも日本の英霊は召喚できない筈だろう。

 ……まあいいか。どんなサーヴァントでも倒すしかないんだから。

 

「取り敢えず見た感じはどうなんだ。一方的なのか?」

『いえ、膠着しています。サムライの刀による攻撃は彼女には効果がない。ですが、彼女の動きはサムライに見切られている。

 ……む、どうやら私を認識して戦闘を中断したようです』

「お互い本気じゃなかったって感じか……結界の効果は?」

『特には。結界の外から内部を見れないようになっているだけです』

 

 限りなく低い可能性としてはアサシンの侍が隠蔽の結界を張った、ありえそうなのはサーヴァントが別にいる、そのどちらかだろう。

 今できる最善策はセイバーがアサシンを下し、遠坂を確保してアーチャーを引きずり出すことだが────。

 

『────そこか』

 

 突然聞こえたセイバーの声。

 

「何があった?」

『新たなサーヴァントが背後から奇襲してきました。恐らくキャスターですね』

 

 出てきたか。

 やはり結界を仕掛けたのはキャスターというのが濃厚だな。もう少し早く出会えていたら違う未来もあったかもしれないが、今となっては意味のない想定だ。

 

「やれそうか?」

『少し難しいですね。転移を使用できるようなので、追い詰めても逃げられるでしょう』

「そうか……」

 

 転移魔術が使えるとなると相当高位の魔術師(キャスター)だ。下手したらセイバーの対魔力をも貫通しうる魔術も持っているかもしれない。

 だったら桜に任せるのもアリと言えばアリか。本人の言葉を信じれば、だが。

 

「よし、キャスターが止まったら位置を教えてくれ。俺が狙撃する。たぶん転移で躱されるから、その後のキャスターの相手は桜とライダーに任せて、セイバーはアサシンを倒せ」

『分かりました』

 

 再び全身の力を込めて下ろしていた弓を引く。どんなオーダーにも直ぐに対応できるように、張り詰めた集中は途切れさせない。

 

 言ってみれば、この一射は戦における一番槍に等しい。避けられるとしても痛手を負わせられるかもしれない。だからこそ────。

 

 

『校庭中央、上空五メートル』

 

 

 ────外せない。

 

 一秒にも満たない時間で、強化した視力により正確な座標を割り出し、宙に浮かぶ的を想像する。

 あとはいつも通り『中る』のを見て────。

 

 

 的中。

 

 

(カラド)────螺旋剣Ⅱ(ボルグ)!!」

 

 蒼く煌めく流星は今、解き放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

Interlude

 

 

 

 

  

 

 

 鋭い円弧を描いて刀が迫る。

 それを掌で受け止めた。

 

 ────と思ったら首元で魔術が発動していた。

 

「あーもう!アンタは首を狙いすぎ!!」

「ふ、それは仕方なきことだ。雅さの欠片もない野花と言えど、相対したのならば我が剣を振るうのみ」

 

 一体、何度このようなやりとりをしたのだろう。このなんちゃってアサシンは佐々木小次郎らしいが、剣技の厭らしさと言ったら並大抵のものではない。

 振った、と分かった時には既に当たっているのだ。しかもその軌道すら読めないというインチキさ。首元に当たる度に、術式を設置し直すという激しく非生産的な行為はそのためだ。

 

「はあァァァ───!!」

「ふ───」

 

 更に、である。コイツは私の最速の一撃に事も無く対応して受け流すのだ。

 拳に嵌めた手袋には運動エネルギーを外側に流転する、つまり『反射』の術式を埋め込んである。触れたものを問答無用で弾き飛ばす筈。

 

 だがしかし、それが通用しない。何故かは全く分からないがスーッと流されてしまう。いや、もしかしたら相手が流れるように避けているのかもしれないが。

 

「………って、あれセイバーじゃない」

「何? セイバーだと?」

 

 校門から数歩進んだ距離で立ち止まっているラフな格好の騎士王さん。

 ……衛宮君、円卓の騎士たちに殺されるんじゃないかしら。

 あ、キャスターも出てきた。

 

「些か奇妙な服装だが、その佇まいはまさしく剣士。ふははは、ようやく我が剣を存分に振るえるというものだ」

「ということはやっぱり私には本気ですらなかったか。なんか悔しいわね」

「ふ────気にするな、少女よ。元よりサーヴァントの相手をするなど生身の人間には酷な話であろう」

 

 そう言い残してアサシンはセイバーの方へ向かっていった。

 正直アサシンとかキャスターぐらいなら倒せるかなって思ってたけど、こっちの攻撃が擦りもしないんだからそれ以前の問題だ。

 『流転』を使えば無理矢理サーヴァント並みの速度を叩き出すことも可能だ。しかし、その速度で戦闘をするのは不可能。理由は簡単で、自分がその速さに反応できないから。

 要するに外側(ハード)じゃなくて中身(ソフト)が問題なのだ。

 

『凛、どうする?』

(ふぇ、アーチャー!?どうするって何が?)

『………………まさか、聞いていなかったとはな』

 

 やばい。アーチャーが少し怒ってる。

 

(ごめんごめん。どうやったらサーヴァントとタメを張れるか考えてた)

『そんなものは私に任せておけばいい。まったく、今回の君の提案には呆れるのを通り越してある種の感嘆まで───』

(それで、本題は?)

『………いいだろう。屋敷へ帰るまでに覚悟しておくといい。

 先程も言ったが、キャスターを衛宮士郎が宝具で狙撃しようとしている。さらに間桐桜とライダーが学校の外で待機しているぞ』

 

 桜までいるとは。でもあの二人が組むのは予想通りかな。通い妻だし。

 

(アーチャーは衛宮君に合わせてキャスターをぶち抜いて)

『了解した。十字狙撃(クロススナイプ)、と言ったところか』

(その後は衛宮君を鍛えてあげて。私は桜に会ってくるから)

『……本当にやるのか?』

(仕方ないじゃない。令呪が大量にあるとは言っても、貴方たちしか勝てないんだから力を付けておくに越したことはない、でしょ?)

『…………了解した。それと君は其処を離れた方がいい。あと五秒以内に』

(……えちょっと待って早い早い早い────)

 

 震脚でエネルギーを発生させ、それを燃料にして身体を学校の外にかっ飛ばす。

 

『────偽・螺旋剣Ⅱ』

 

(後で覚えておきなさいこの……この……!!あーもう、衛宮君のバカぁ!!)

 

 

Interlude out

 

 

 

 




この世界はアンコ時空……と思ったら何かしっくり来た。


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