衛宮士郎は死にたくない。 作:犬登
「桜には兄がいたのですか?」
「うん、二週間に一回は帰ってくるはずなんだけど。」
「私が探しに行きましょう。どのような容姿なのですか?」
「髪は青色でワカメみたいな感じかな。」
「その男ならこの前見かけたので分かります。」
「ありがとう。よろしくね、ライダー。」
─────屋敷に向かう主従の会話。
翌日。
朝食を取り、学校に向かう桜に今日は休むことを伝えた。セイバーが霊体化できないので、学校に連れていくことができないからだ。流石に、殺し合いの最中に護衛なしで学校に行くほど阿呆ではない。
また、これで桜がマスターではないことも分かった。桜だって俺がマスターだと分かったなら安易に近づかないだろう。サーヴァントを連れていればこの屋敷にセイバーが居るのも分かるはず。今までの平穏な不干渉状態が今朝も続いていたということも潔白を証明している。
良かった、蟲使いは俺では対策が難しいから。
桜が家を出ていった後に、再度朝食を作る。もちろん部屋で待機しているセイバーのためだ。せっかく現代に蘇ったのだから、どうせなら現代の食事も味わっていってほしい。魔力を補充することもできるし一石二鳥だろう。
と、思っていたのだが。
「シロウ、おかわりをお願いします。」
「ごめん。もうご飯が無い。今ので終わりだ、セイバー。」
「……そうですか。」
セイバーの食べる量が予想を遥かに上回っていた。味わう、という次元ではない。作った料理を片っ端から吸い込んでいるようだった。
それだけ美味しいと思ってもらえた、そう考えておこう。
もうご飯が無いと知ったセイバーの頭のアホ毛が少し下に垂れた。それは可動式なのか。
「それで、色々と話すことはあるんだが。」
気持ちを切り替えて、マスターとサーヴァントとして話し始める。
「はい、まずは私の真名ですね。」
セイバーも凛とした表情でこちらと向き合う。その眼からは真剣さが感じ取れた。
「───私はアーサー・ペンドラゴン。かつて、ブリテンの王だった者です。」
そうか。彼女がかの名高い騎士王であるアーサーその人────。
「───なんだって?」
「む、その心底意外そうな顔は何ですか。とても不服なのですが。」
「いやちょっと待ってくれ。アーサー王は女の子だったのか?実は男とかではなく?」
「確かに私は女ではありますが、男装をしていましたし、それ以前に騎士だ。性別など関係ありません。」
驚いた。アーサー王が女の子だったら妃さんとはどうしたんでしょうか。それと、そのドレスで男装とか本気か。どう見ても女性用です。円卓の騎士たちは全員気づかなかったのか?知っていても、そんな事を気にしてる場合じゃなかったのかもしれないが。
「……分かった。じゃあ次の話だが宝具は?」
本人が気にしていないということに、ツッコミを入れても仕方がない。話題を変える。
「一つはエクスカリバー。これは聖剣としては最高クラスの威力だと自負していますが、街中で使用した場合は周囲にも被害が出ます。使用する場所は限られるでしょう。」
なるほど。使えば勝てるが、使える場所が少ない、と。
「もう一つは聖剣を覆う風の結界です。昨日も見せましたように、剣自体を不可視にすることができます。また、これを解き放てば強力な暴風を起こすことも可能です。」
昨日の見えない剣はそういうカラクリだったのか。てっきり剣にそういう能力があるのかと思っていた。その剣を新しい武器にしようと思っていたけれど、諦めるしかないようだ。剣は投影できても、それに纏わせる結界は投影できない。
「了解。スキルは?」
「マスターにはステータスの透視能力があると聞きましたが。それを見た方が分かりやすいと思います。」
「へえ、そんなものがあったのか。」
ステータスを意識しつつ、セイバーをじっと見る。すると、視界にうっすらと文字が浮かび上がってきた。
セイバーのスキルは、対魔力、騎乗、直感、魔力放出、カリスマ、か。全てのスキルがB以上でかなり高水準にまとまっている。ステータスの方もセイバーのクラスとしてかなり強いレベルだ。
「それと昨日の話ですが、私が霊体化できないのはまだ生きているからです。」
「生きている?英霊になっているのにか?」
英霊とは死した英雄たちがなるものであって、生者はなれないと思うんだが。
「ええ、ですからこれは夢のようなもの。あの丘で聖杯をこの手に掴むまで見続ける夢です。」
「なるほど。」
つまり死後英霊になるのが確定しているから先に英霊扱いにしても大丈夫、ということだろうか。それで身体は生きて当時のあのカムランの丘にあるけれど、夢としてサーヴァントになり聖杯を手に入れるべく参加している、と。
「じゃあ、これで知っておくべきことは大体把握したか。次は俺の番だな。」
セイバーが裏切るとは思えないし、自分の情報は全部伝えても問題ないだろう。仲間と情報を最大限共有するのは当然のことだ。
「昨日も言ったけど、名前は衛宮士郎。魔術師というよりも魔術使いだ。使えるのは強化、投影、変化。一番得意なのは剣の投影だと思う。目で見た物は大体投影できる。」
「剣の投影……ということは、剣が主武装ですか?」
「そうなるな。まあ、昨日アーチャーの弓も剣もランサーの槍も見たから、それも使えるには使えるけ───」
「───待ってください。シロウは宝具を投影できるのですか?」
セイバーがテーブルに身をのりだして聞いてくる。その声は驚きに満ちていた。
「そりゃそうだろ。見たものは解析すれば投影できるさ。」
「な、なんという……」
愕然とした表情を浮かべて考え込んでいる。そんなに悩むことだろうか。解析して理解したものを魔力で再構築する。それだけだろうに。
「……分かりました。シロウの能力に文句を言っても仕方ありません。いくらインチキだからといって、戦術の幅が広がることには変わりませんから。マスター同士の戦いで負けることはほぼ無いでしょう。ただ、英霊には己の武具に誇りを持つものも多い。無闇矢鱈に使っていると彼らの怒りを買うかもしれないので注意して下さい。」
「分かった。」
ひとまずセイバーの中で納得はいったたらしい。上品に座布団の上に座り直した。まさか、自分の特技が警告を受けるとは。やはり投影に関する話はデリケートだからあまり触れないようにしよう。投影は使うけど。相手が怒りすぎて、もし真名解放対決になったらセイバーに任せよう。
「じゃあ、次だ。この戦いでどう動くかだな。俺の考えとしては、後方支援のできるキャスターと同盟を組むのがいいと思うんだが。」
「キャスター、ですか……。」
とてつもなく嫌そうな顔をしているが、魔術師は嫌いなのだろうか。マーリンとか。モルガンとか。
……まあ、嫌いになるのも分からないでもない。
「後方支援ならアーチャーなどでも構わないのでは?魔術の支援はなくとも物理的な破壊力を持つアーチャーなら条件を満たすはずです。」
「俺は戦闘特化だから令呪以外の魔術支援はできない。キャスターなら魔術による後方支援とかは得意だろうし、セイバーの対魔力で
正直な所、あのアーチャーとは敵対したいというのもある。敵対すれば彼の全力を見れる。もし予想通りならそれは自分にとって戦力の向上に繋がることは間違いない。血の繋がった親はいないため、自分の能力を伸ばす降って湧いた手掛かりだ。違ったならエクスカリバーでぶっ飛ばす。
「…なるほど、筋は通っています。いいでしょう、まともなキャスターなら同盟に値する。」
まともって、やっぱりマーリンとかモルガンのことを気にしてるのか。よほど気に入らないらしい。確かに騎士道を掲げるセイバーと魔術師では馬が合いそうにない。
「それと、拠点はこの屋敷から移そう。分かってると思うけど此処は他の人が来るからな。しっかりとした防衛装置があるわけでもないし、拠点を移していった方が敵に捕捉されにくい。」
こくん、と頷くセイバー。やっぱり王様だとこういう戦法も当たり前なんだろうか。しかし騎士がゲリラ戦法みたくコソコソすることはなさそうな気もする。
「それとセイバーは霊体化出来ないんだから、普通の服も買わないと。キャスターも探さないといけないし。やば、結構忙しいな。」
キャスターの捜索は夜にまわすとして、昼間の内にセイバーの私服と新しい拠点の確保は済ませたい。
今の時刻は九時半頃。さっさと終わらして夕方に少し仮眠を取ろう。
セイバーの服を買って店を出たのが、十二時を少し過ぎたぐらいだった。
考えていなかった自分が間抜けなのだが、服を買いに行くときの服をどうするかが問題だった。この、卵が先か鶏が先か、みたいな。仕方なく自分のコートとズボンを着てもらった。かなりサイズが違ったが、我慢してもらうしかなかった。
服屋で買ったのは、日中に外を歩ける白いブラウスに青色のスカート、明るいベージュのコートと黒のブーツ。それに夜に動く用の青いパーカーに黒い短パンと帽子、青いマフラー、そしてスニーカー。マフラーは本人の要望だ。
これだけ買えば大丈夫だろう。足りなかったらまた買いに来ればいいし。
昼食。あれだけ食べるならファーストフードの方がいいかと考えたんだが。
「雑な料理は好きではありません。」
という王のありがたい御言葉により、小洒落たレストランに入ることになった。
ただ、食べる量は流石に押さえてくれたらしく会計は少し高めで済んだ。正直なところ、朝の量以上だと覚悟してたから諭吉さん二人は逝くかと思っていた。
そして、拠点。人が多く狙われにくい所を探し、結局、深山町側の橋が近くにあるホテルにした。街からあまり外れておらず、川が望める場所。
もし新都側から敵が来たら拠点の中から一方的に視認できる。なので橋で戦闘してくれると嬉しいのだが。確認次第、聖剣で薙ぎ払えばいい。
ベストコンディションだ。拠点も確保できたし、行動時の問題もクリア。相棒との信頼関係も良好で、後は良い同盟相手に会うだけ。
ランサーの真名も割れてるから、対策のしようなどいくらでもある。他のサーヴァントにしたって、アーサー王よりも強力な英霊などそう多くはない。
それに、セイバーには弱点となる死因がほぼないのも良い。モードレッドも呼ばれるならセイバーだろうし、可能性は限りなく低い。
竜殺しが召喚されていたら少し厄介だが、自分が時間を稼いでいる間に宝具を撃てば片が付く。
というか、大体のサーヴァントはエクスカリバーを当てれば死ぬだろう。あとは、いかにその状況まで持っていくか、だ。
一つは今陣取っている未遠川。川に沿って撃てば住宅地を巻き込むこともない。
もう一つは郊外の森。森林破壊が少し気になるが、人を巻き込むより余程いい。
この二つの立地を上手く活かすことができれば、勝てる確率はさらに上がるだろう。
「よし、じゃあ行こう。セイバー。」
「はい。キャスターの捜索ですね。」
皆が寝静まった夜の街へ。同盟相手を探しに行くとしよう。
剣製で槍が作れるわけないだろいい加減にしろ!
……月では作ってたけど。ガラティーンも作ってたけど。
ガチ勢、アーサー王というビッグネームに釣られ慢心する。