衛宮士郎は死にたくない。   作:犬登

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「先輩がいない……」
「桜がいるからではないのですか?」
「私がいるからいないって、どういうこと!?」
「いえ、単純に魔術師が来るという点で避けたのでしょう。」
「……なるほど。」

──────ある屋敷での主従の会話。


第五話 ガチ勢はメタを張られても諦めない。

 

 100メートルまでならアサシン以外は感知できる、とセイバーが言ったので適当にビル街を歩き回った。

 が、特に気配を感知することもできなかったので、住宅街の方に入っていく。ビル街から離れるに連れて段々と明かりが少なくなっていた。それでも強化をかけた眼なら遠くまで見通すことができる。

 

「……」

「……」

  

 セイバーは感覚を尖らせているのか、終始無言のままだ。彼女の努力を無駄にしないために、町を隙間なく探索できるよう歩いていく。

 セイバーに抱えてもらって疾走してもいいのだが、逃すかもしれないし隠蔽も面倒だ。何より他のサーヴァントと鉢合わせした時のために、少しでも魔力の消費を押さえたい。

 もうそろそろ幽霊屋敷と近所で有名な遠坂邸だ。こんな時に幽霊なんざどうでもいいのだが、人気のない所だと────。

 

 

 

「────シロウ!!」

 

 咄嗟に左へ飛ぶ。

 自分の居たところを見ると黒いナニカが突き刺さっている。避けていなければ頭蓋を貫通し、中身を撒き散らしていた。セイバーの直感は頼りになる。

 そして、黒いナニカを見た瞬間、理解した。

 

「アーチャーか、動きが早いな!」

 

 黒いナニカは剣だった。

 すぐさま飛び起きて剣弾の飛んできた方向に目を凝らすと、紅い外套の男と同じく赤い外套の女が遠くのビルの屋上にうっすらと見えた。

 仕掛けてきたか。令呪を使ったから引っ込んでるかと思ったが、予想以上に好戦的だ。

 だが、この会遇は運がいい。

 

「セイバー、鎧を纏わず最速で突貫。制圧しろ。アーチャーはランサーと互角に接近戦をこなしていたから気をつけてくれ。矢は自分で何とかする。」

「了解しました、御武運を。」

 

 蒼のマフラーをたなびかせ、セイバーが弾丸のように駆ける。こういう時の為のセイバーの軽装だ。セイバーの動きやすい服には鎧の分の魔力も移動に利用し、迅速な強襲をかけられるメリットがある。可能な限りマスターが狙われる時間を減らして、且つ敵に強烈なプレッシャーを与える。

 案の定、その隙に幾つもの剣弾がセイバーにではなく、自分の方へ飛んできた。セイバーがアーチャーの元へ辿り着くまでには少しの時間が必要なので、その時間を稼ぐ。

 白兵戦になればアーチャーがセイバーに勝てるわけがない。だから、今はセイバーを信じて耐えるのだ。

 

───投影(トレース)開始(オン)

 

 この魔術を使い始めて、最も己の手の中に作り出してきた物。完成すべき無銘の剣(■■■■■)。それを二振り。 

 両手にしかと握った双剣で、飛来する剣弾七本を迎撃する。ツギハギだらけとはいえ原型は聖剣。たかが剣弾を叩き斬るのには十分だ。

 彼女の経験を憑依させ、剣技を模倣。全身を隈無く強化。飛来する剣弾に合わせて、持った■■■■■が勝手に動く。微かに残った彼女の剣技を以て、持ち主の自分を護るために。

 大きく左足を踏み込んで、右の剣を切り上げ、左の剣を薙ぎ払う。残り、五。

 そのまま左足を軸に回転、二振りを平行にしたまま矢を斬る。残り、三。

 交差させて十字を描くように斬撃を放つ。

 すべての迎撃を完了。

 

 

 ───できていない。

 

 最後の一本は軌道が変わって斬れず、流しただけで終わった。そして、その流した筈の剣が再度此方に向かってくる。恐らく必中の概念を持った物。

 

「おおォォォ!!」

 

 予期せぬ奇襲は背後から。渾身の力を振り絞り、後方へ剣を振るう。

 

 ガン、と何かを殴った感触がした。

 

 どうやら僅かに自分の反応速度が上回り、剣の柄頭が剣弾を防いで動きを止められたようだ。その間に今度こそ真っ二つに切り飛ばす。

 

 

 続いて十二本の剣弾が自分めがけて飛来してきた。このままだとそれらすべてが同時に着弾する。全部が追尾するものと考えると一撃で破壊しなければならない。

 

「アイツ、面倒なことを………!!」

 

 双剣で破壊されるなら数を増やし対応できないようにすればいい、ということだろう。単純だが、多くはない魔力を極力温存したい自分には厄介だ。しかしここで渋っても仕方がない。

 こちらも六本のツヴァイヘンダーを投影。それぞれが二本ずつ剣弾を破壊するように、角度を合わせ回転させながら射出した。

 風を斬りながら向かったツヴァイヘンダーはすべてが役割を果たして消えていく。

 これで本当に迎撃は完了した。

 

 

 

 

 目をやると、セイバーがアーチャーに斬りかかっていた。もう既に矢も飛んで来ていない。縮地法で一直線に彼方に向かう。

 二騎のサーヴァントは激しくやりあっていて決着はまだつきそうにないが、やはりセイバーが優勢だ。陰陽の双剣を何度も弾き飛ばしていた。だがその度に双剣はアーチャーの手の中に現れる。弾き飛ばされた剣が存在している内に。あれはやはり────。

 

アーチャーを観察しつつ、マスターである女の方も警戒する。つもりだったが、その女が高速で此方に向かってくる。

 女の顔を視認した。

 

「───遠坂。」

「───やっぱり衛宮君か。」

 

 アーチャーのマスターは同級生である遠坂凛だった。ということは、遠坂家は魔術師か。

 

「やけに好戦的じゃないか。」

「まあね。獲物がノコノコ歩いていたら、つい殺したくなるでしょ?」

「……そうだな。」

 

 獲物とは言うじゃないか。余程自分の手札に自信があるみたいだ。警戒しておこう。

 

 遠坂は軽いフットワークを刻んでいる。赤いコートには術式が細かに組み込まれ、淡く光を放っていた。手に嵌めた手袋も同様。珍しいはずだが肉弾戦を得意とした同業者のようだ。

 二振りの剣をだらんと力を抜いて下ろし、自然体で構える。一応、魔力はまだ余裕がある。矢を防いだぐらいでは体力も大して減っていない。

 

 遠坂が動いた。

 

「───ふッ!!」 

 

 どん、と地面を踏みしめて、瞬間移動に近い速度で真っ直ぐ突っ込んでくる。下手したら縮地よりもやや速いぐらいだ。恐らく、今の脚の振り下ろしは震脚。そこからの活歩だろう。ということは八極拳の使い手か。

 ならば、なるべく距離を開ける。八極拳は肩や背、肘などを用いた超近接の間合いで戦う。剣を振るう自分がそこまで近づく理由もない。それにあの手袋の効果を知るまでは様子見をしたい。

 

「───せあァァッ!」

 

 遠坂は腰を落とした状態から、鋭く突きを放ってきた。バックステップで間合いをずらしつつ、伸ばされた拳を剣で斬る。

 

 しかし。

 どうしてか、剣が跳ね返った。

 余りの衝撃で手首に痛みが走る。剣を取りこぼしそうになるも、どうにか掴み直す。なんだ、今のは。まるで固い壁を全力で殴ったみたいな感じだった。

 

「───シッ!!」

 

 遠坂の勢いは止まらない。何もなかったかのように踏み込んできて、拳を打ち込む。

 

 駄目だ。どうにもあの手袋は剣では太刀打ちできないらしい。もしかしたら突破できるかもしれないが、そんなものを探している内に死ぬ。

 ならば当てる部位を変える。コートしかない前腕を剣で叩き、腕全体を右に逸らす。そして、顔のすぐ横を拳が通りすぎていった。

 今度は上手くいった。謎の術式に跳ね返されることもない。やはりあれは拳のみのようだ。連撃を防ぐため、急いで後ろに跳ぶ。

 

「────」

 

 瞬間、先程の活歩で遠坂の身体と密着した。

 

「がッ───!!」

 

 腹部が潰れ、肺がへこむ。

 強制的に空気が吐き出されて呼吸ができない。身体がくの字になって地面と水平に吹き飛んだ。五メートルほど飛んで地面を転がる。それでも何とか起き上がった。

 今のは知っている。確か、鉄山靠だ。ショートレンジでの背部による強力な体当たり。

 トラックに撥ねられた方がまだマシなんじゃないかと思うぐらいの衝撃だ。戦闘不能とまではいかないが、かなりのダメージが残っている。

 

「ふうん。まだ立つんだ。わりとイイのが入ったと思ったんだけど。」

「ああ、かなりキツかった。でもまだ終わらないさ。」

 

 武器を変える。剣では超至近距離に一瞬で持っていかれる。

 だから。

 

投影(トレース)開始(オン)。」

 

 アーチャーの弓を手に持つ。

 あの加速を考慮に入れると、剣の届く間合いでは対応しきれない。彼女の剣技を模倣しても、だ。だが、遠距離に特化してしまえば、あの活歩でも問題ない。

 

「げ、まさか射撃戦?」

「拳法家には悪いが付き合ってもらう。」

 

 適当な直剣を五本投影する。距離を置くために縮地で移動するが、遠坂も食い付いてきた。それに、こちらに向けられた指先から黒い弾丸が飛んできている。

 あれはガンド。簡単に言えば呪い。当たったら面倒なので直剣で切り払うが、何故かそれなりの衝撃が伝わってくる。もしかして物理攻撃に昇華しているのか。

 

「これでも喰らっておけッ!!」

 

 ガンドが全て外れた瞬間、一気に五本の剣を引き絞った弓で放つ。普段の弓道ならあり得ないが、それでもこの射は中る。その確信はあった。

 放たれた剣弾たちは一直線に遠坂へ向かっていく。それを彼女は一撃で破壊していった。いや、破壊しているんじゃない。ただ手を当てているだけだ。それだけで剣がひしゃげていく。

 反射、いや物理的な運動量のみを反射か。ただの反射なら剣が真っ直ぐこちらに帰ってくるはずだ。ひしゃげるということは、剣が返ってきた力に耐えきれなかったのだろう。

 ならば、拳でカバーしにくい足元を狙えばいい。さらに六本の剣を投影し、追撃しようとして───。

 

 

 

 

 

───へえ、お兄ちゃんは面白いね。

 

 ぞわり、と鳥肌がたった。

 

 

 

 

 

 




今までの話の誤字報告ありがとうございました。
わけわからんお気に入り登録件数もありがとうございます。


どうせならと思って凛も強くしたら、スゴいことになった。



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