衛宮士郎は死にたくない。   作:犬登

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第六話 ガチ勢は乱入されても気にしない。

 

 

───へえ、お兄ちゃんは面白いね。

 

 ぞわり、と鳥肌がたった。

 振り返ると白い少女と鉛色の巨人がいた。鎧などなく、あるのは腰巻きだけ。手には石の塊をもった筋肉の塊。暗闇の中で光る理性を無くした双眼。間違いない、あれはバーサーカーだ。

 ステータスはセイバー以上。勿論アーチャーよりも上だ。それにあの巨体。リーチの差も歴然としている。

 脅威度は上と思ったのだろう、セイバーもアーチャーも戦闘を止め、即座に此方に来た。

 

「初めまして、お兄ちゃん、トオサカ。私の名前はイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。」

「アインツベルン……。一応言っておくけど、遠坂凛よ。」

 

 遠坂は知っていたようだ。噛み締めるように少女の家名を口にして睨み付けている。

 それを気にする様子もなく、白い少女、イリヤスフィールは場違いにも優雅に御辞儀をして言った。

 

「ちょっと遅れちゃったけど、まだ間に合うよね?遊んであげなさい、バーサーカー!」

 

 ずっと黙っていた巨人が咆哮を上げる。それだけで地面に亀裂が入った。咆哮は衝撃波となり離れた自分たちにも届いていた。巨人が腰を落とす。

 

───まずい、来る。

 

「休戦協定だ、遠坂。じゃないと生き残れない。」

「分かってるわよ。流石にこの状況で戦い続けるわけにもいかないし。で、方針は?」

「この場でどちらかが宝具を使って殺す。頼めるか?」

「最高。じゃあアーチャーに宝具を切らせるから、その時間稼ぎはよろしく。しっかり壁になってよね。」

「分かった。宝具を使うタイミングは教えてくれ。セイバー、頼むッ!」

 

 アーチャーが消え、セイバーが鎧を纏い迎撃に出る。セイバーの宝具をこの市街地で使えない以上、アーチャーの宝具で短期決戦を狙うしかない。その準備が出来るまで凌ぎきる。

 本当は跳躍して空中にいるバーサーカーへエクスカリバーを放つことも出来る。だが正体がバレてしまえば、アーチャーが竜殺しの剣で対策をしてくるだろう。そのまま真名解放の直後に殺されるかもしれない。

 ならば多少リスクがあってもアーチャーの宝具を切ってもらった方がまだいい。此方には遠坂という人質がいるようなものだ。

 ただ、令呪に意識を向けて、セイバーをいつでも回収できるようにしておくぐらいは必要だろう。

 

 数十メートルはあったが、バーサーカーがそれを一回の跳躍で埋めてしまった。

 セイバーの剛剣が跳んできたバーサーカーの振り下ろす石の斧剣を迎え撃つ。

 しかし。

 

 「ぁ、くッ!!」

 

───セイバーの脚が地面にめり込んだ。

 

 急いで離れようとするも、叩きつけられる握り拳がそれを許さない。見えない剣で防いだようだがバーサーカーはそのまま腕を振り切った。

 セイバーが吹き飛ばされる。まるで小さな石を蹴り飛ばしたように、直線で。すぐに起き上がったところへバーサーカーの追撃が襲い、その場で鍔迫り合いになる。完全に抑え込まれている。あれでは巨体の敵に有効な撹乱が全くできない。セイバーが段々と押され、道路沿いの壁に追い詰められていく。

 

「───投影(トレース)開始(オン)。」

 

 バーサーカーが持っている斧剣。それを四本投影して、最高速度で射出する。狙いは頭。防がれても構わない。ただ、少しの隙ができるだけでいい。

 バーサーカーの頭部へ殺到した四本の斧剣が衝撃を伝え、僅かに巨体をよろめかせる。

 その隙にセイバーは鍔迫り合いを切り上げて、一旦距離を取り体勢を立て直した。

 バーサーカーが再度距離を詰めるが、今度はセイバーが周りを駆け回り戦いは何とか拮抗する。驚くことにバーサーカーは傷を一つも負っていない。先程の四連射では無傷。セイバーの剣でもかすり傷程度で、それもすぐに回復してしまう。このままではジリ貧だ。イリヤスフィールに攻撃を行いバーサーカーの気を逸らすため、持っていた複数の剣を弓につがえ────。

 

「準備出来たわ。」 

「了解。」

 

───セイバー、アーチャーの宝具が来るから引いてくれ。バーサーカーは任せろ。

 

 即座にセイバーが大きく跳躍し、バーサーカーが孤立した。だが、バーサーカーは一瞬でセイバーに追いつこうとする。

 

「───させるか。」

 

 構えた弓で狙いをつけ、即座に六本の直剣を射る。全力の射だ。遠坂に射た時の比ではない速度が出ている。

 向かう先は、イリヤスフィール。

 

「■■■■■■───!」

 

 バーサーカーが振り返り、主を狙う剣弾を追う。そして、その尽くを一撃で叩き落とした。

 

 

 

───同時に、胴体が螺切れる。

 

 アーチャーの宝具が遠方から飛来し、空間を裂きながらバーサーカーの身体を貫通したのだ。

 直後、矢のような捻れた剣が爆発して、バーサーカーの身体も吹き飛んだ。

 残っているのは膝を屈した下半身だけだ。

 

「バーサーカーを殺すなんて、リンのアーチャーも意外とやるわね。セイバーはどうでもいいけど、お兄ちゃんも面白いし。今度、二人だけで一緒に遊びましょう?」

 

 イリヤスフィールはバーサーカーが死んだことなど興味がなさそうに、感想を述べる。今日はただの練習だとでも言いたげに。酷い悪寒がする。

 

「何を余裕ぶってんのかしら。貴方のバーサーカーは死んじゃったけど?」

「え?リン、何を言ってるの?」

 

 ただ、その声は、本当に不思議そうで。

 

「───バーサーカーは死んでないよ?」

 

 その意味を理解した。

 

 

 

 

 バーサーカーの肉体が逆再生のように修復し始める。

 

「…………」

 

 流石に想定していなかった。いや、誰が上半身の無い死体が再起動すると思うのか。一度死んだら終わり、という常識は通用しないようだ。まさか、全身を消し飛ばさないと死なないとか。

 修復が完全に終わると巨人は立ち上がった。傷はどこにもなく、消し飛んだはずの胴体は元通りだ。再びその眼に光が灯る。

 

「バーサーカーの真名はヘラクレス。十二回違う方法で殺さないと死なないの。ちっぽけな攻撃も効かないんだから。」

「ヘラクレスですって?……何でバーサーカーにしたのよ。」

 

 なるほど、強いわけだ。

 ヘラクレス。ギリシア神話の大英雄。極東の日本ですら知らない人はほぼいないほどの知名度をもつ。神に与えられた十二の試練を乗り越えた逸話が、十一回の蘇生宝具になったというのか。デタラメにも程があるが、不死身などにならなかっただけマシか。まだ対処のしようがある。あと遠坂の意見には同意する。

 

 

 「今日はこのぐらいにしようかな。殺しちゃったらつまらないもの。またね、お兄ちゃん。」

 

 そう言ったイリヤスフィールは無邪気に笑って、悠々と去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 結局アーチャーも直ぐに戻ってきて、二組が対峙する状況に戻った。

 

「……で、どうする?」

「どうもこうも無いでしょ。このままお開きよ。」

 

 遠坂は面倒くさそうに手をシッシッと振った。どうやら完全にヤル気はなくなったようだ。戦闘もして宝具も使ったことで魔力が足りないのだろうか。それとも単純に冷めただけなのか。

 

「あのねぇ、私の家はすぐ其処なの。衛宮君がどっか行かないとゆっくり寝れもしないわけ。」

「そういえば彼処の幽霊屋敷だったな、遠坂の家。」

「やっぱりまだやる?」

 

 笑ってない、目が笑ってない。

 意外に気にしていたらしい。それなら改装でもすればいいものを。あんな見た目で人も居ないから噂が立つんだ。

 

「じゃあ、俺たちはこれで。」

「はいはい。今度会ったら遠慮なくブッ飛ばすから。」

「分かった。俺も全力でブチ抜いてやるよ。」

 

 そうして二人と別れた。アーチャーが何故か此方を睨んでいたが。

 

 

 やはりアーチャーも俺のことが子孫だと分かるのだろうか。まあ外見が似ているし。使っている能力も同じとなれば、流石に気付くだろう。

 しかし、一体自分たちの故郷は何処の国なんだろうか。元は赤髪だったのでやはりヨーロッパの方か。アーチャーの使っていた武具にしてもアイアスの盾、先程の螺旋剣、それに愛用しているらしい干将莫耶など、時代も場所もバラバラでまったく見当がつかない。

 現地で見たとなるとユーラシア大陸を横断してアイルランドまで範囲内になる。そして各所で一級の現存するかどうかも怪しい宝具を発見したのか。可能性としては低い。

 現地ではなく、何処かで一気に見た?そんなことはあり得ないだろう。宝具が三つも一度に集められるはずがない。

 となると、逸話か?逸話が昇華して宝具となったのならばありえる。自分たちの能力の性質上、実物を見るか、実物に関係のあるものから情報を抜き取らないと設計図を作れない。けれども、昇華されて『あらゆる英雄の武具を見た』というように補完されればあるいは。……どんな微妙な逸話が元になったらそんな風になるんだ。

 

 

 

 

 

 埒が明かないので、考えるのをやめて先程怪我をしていたセイバーに話しかける。彼女は遠坂邸の方を警戒していたようだった。最初の奇襲のような攻撃がまた来ないとも限らない。しかし、元から警戒しているのなら対応できないなんてことにはならないだろう。まったく、本当に頼りになる相棒だ。

 

「セイバー、怪我は大きいか?バーサーカーに結構飛ばされてただろ。」

「多少のダメージはありますが、直に回復するでしょう。今後の戦闘に支障はありません。」

「それなら良かった。取り敢えず今日はホテルに戻ろう。ここから先の捜索はまた明日だ。」

「はい、わかりました。」

 

 セイバーは武装を解いて、スポーツ少女っぽい格好に戻る。初日から激しい戦闘だったが、何とか生き残れた。まだまだ課題はあるが。

 そして一つ分かったことがあった。セイバーは強いが圧倒的ではない。現にバーサーカーを相手にして、通常戦闘では押し切れなかった。アーチャーに対しても恐らく凌ぎきられたのだろう。

 スキルや宝具、ステータスも良くスペックは高い。だが、そのステータスや技能で上回られるとなまじ優秀な分、泥沼になる。自分の魔力を消費しきる前にどう敵を倒しきるかが重要な問題だ。

 アーサー王というインパクトが強すぎたが、勿論相手だって本気だ。ヘラクレス並みの大英雄が他にも喚ばれている可能性がある。それこそ、そんなにいるとは思えないが。もはや確信は持てない。神霊クラスが相手でも敗れることのないようにしないと。

 まずは戦力の増強だ。同盟相手という未確定戦力ではなく、信頼できるモノが必要だ。やることは一つ。当然─────。

 

 

 

 

 

 

 




乱入してくるとは、とんでもない奴だ。




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