「賑わってるなあ」
一夏はどことなく疲れを感じさせる様子で、そう呟いた。
本日は学園生徒が心待ちにしていた学園祭であり、いつも賑やかな学園は普段以上に賑わっていた。
「ここに居たのか兄さん」
「おう、マドカ。お前も休憩か?」
「そんな所だ」
体力に自信のある二人だが、流石に疲れた。
一組二組共に同じ接客系の出し物を開催し、二人のネームバリューもあって、その人気は盛況と言う他無いものだった。
それはそれで、皆が楽しそうで良かったのだが、あまりの人気ぶりに二人が先に音を上げて、今こうして誰も来ないだろう校舎裏で、こっそりと休憩を取っていた。
「楽しそうだよな」
「そうだな」
「学園に来て良かった、俺はそう思うよ」
「どうした? 兄さん」
「よく分からないけど、何故かそう思うんだ」
よく分からない。だが、今こうしていられる事が幸せで、そうである事が良い。
当たり前の事、当然の日々。確かに、今まで色々な騒動はあった。だけど、そのどれもが大切な日々の思い出となっている。
だが、その騒動の中で幾つか分からない事があった。
「……なあ、マドカ。
「あれを忘れる頭とか、ちょっと病院行った方がいいぞ?」
「いや、忘れる訳無いって。ただな、どうして俺は助かって、どうして銀の福音はあんな半壊状態だったんだってな」
あの事件で、一夏は瀕死の重傷を負い、白式のお蔭で一命をとりとめ、皆の協力の元に銀の福音を撃破した。
しかし、気になる事があった。先に皆が戦っていた時点で銀の福音は半壊と言っていい状態で、奴を撃破出来たのはそのお蔭でもあった。
問題は、誰があの銀の福音を半壊させたのか。
「記録が無い以上は分からない。束さんかと思ったけど、はっきり否定されたし、マドカも知らないんだよな」
「ああ、私達が接敵した時点で半壊していた」
一体、何者の仕業なのか。
考えを巡らせる二人だが、それだけの実力者となると幼馴染みの姉か、自分達の姉のどちらかしか思い当たらない。
しかし、その二人は違うとはっきり否定している。
「うーん、一体誰なんだろうな?」
「兄さんは、それを知ってどうするつもりなんだ?」
「いやさ俺、弱いじゃん。だから、その人に頼んでみるのももしかしたら有りかなって」
「兄さん、そいつが敵だったらどうする。まったく、もう少し考えてよ」
「マドカは厳しいなあ」
ため息を吐く一夏、確かに一夏はあまり強くはない。
それでも、専用機持ちのエリート相手にある程度は戦えるレベルにまで、一年足らずで達している。
我が兄ながら、この成長は本当に恐ろしいものだ。
だからこそ、その成長があるから焦りもあるのだろう。
「兄さん、焦る必要は無い。姉さんも言っていただろう。急な力は身に付かないと」
「ん、そうだな。……よし、学園祭が終わったら特訓だ!」
休憩時間も少なくなっている。もうそろそろ戻ろう。そう思い、一夏がベンチから立ち上がった時だった。
「ああ、よかった……。やっと見付けた」
「はい?」
「えっと、すみませんがどちら様でしょうか?」
「あ……、申し訳ありません。私、アトラクア社所属の巻紙礼子と申します。……織斑一夏様と織斑マドカ様でお間違えないでしょうか」
茶の髪の女、巻紙礼子はどこか懐かしさを感じさせる声で、そう言った。
〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃
「スコール、久々に連絡を入れたかと思ったら、随分とふざけた事を言うじゃないか」
『ええ、千冬。ふざけた話でしょう? ……でも、事実なの』
「……本気、なのか」
千冬の電話から聞こえる声は、久々に聞く声だった。
一夏とマドカの二人を愛し護ってきた二人の姉、その一人であるスコール・ミューゼル。
テロリストという、社会的に許されざる人間ではあるが、千冬はこの二人を嫌いにはなれない。
まだ、二人を護ってくれた事に対する礼も、まともに出来ていない。だから、久々の連絡でその話をしようとした矢先に、この話が耳に飛び込んできた。
否定したかった。
否定してほしかった。
何かの悪い冗談だと言ってほしかった。
「……オータムは大丈夫なのか? あいつは、二人をあれほどに大切に……!」
『だからよ、千冬。大切だから、あの子はそうするの』
「ふざけるな……!! その役目なら私がやる! だから、お前達は……」
『千冬、あの子は愛を知らない。いえ、愛を与える事は知っていても、その方法を知らないの』
「しかし、そんなやり方……。オータムが哀れじゃないか……」
千冬は崩れ落ちそうな身を建て直し、どうにか言葉を繋ぐ。
オータムが選んだ道は、あまりにも酷く、あまりにも悲しく、あまりにも虚しいものだった。
「今からでも遅くはない。オータムを呼び戻せ」
『無理よ。もうオータムは二人に接触したわ』
「そんな……」
『千冬、止めないであげて』
「馬鹿を言うな! あの二人にとって、お前達は間違いなく姉なんだ! お前達がどれだけ自分達を紛い物だと言っても、あの子達にはお前達が必要なんだ……!」
『有り難う、千冬。でも、私達は一緒には居られない』
「スコール……!!」
『千冬、こんな話を知ってる? とある蜘蛛の話よ』
「知らん! お前が止めないなら、私が止める。私以外で、オータムを止められる者は……」
『その蜘蛛は自分の子を育てる為に、自分を食べさせるの。子供が一人で生きていける様に、自分の足で立つ為の踏み台になって』
「……黙れ!」
『千冬、ごめんなさい。私達を許さないで』
その言葉を最後に電話は切れた。
「馬鹿者が……っ!!」
吐き捨てた千冬は内線に繋ぎ、急ぎ連絡を入れる。
「更識、仕事だ!」
二人にもう失わせない。
思い出も失い、大切な愛してくれた人まで失わせる訳にはいかない。
千冬は最悪のパターンも想定に入れて、行動を開始した。
〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃
「あの、何処まで行くんですか?」
「も、申し訳ありません。こちらの手違いで、かなり奥のハンガーの納入されてしまった様でして……」
一夏、すっかり背が追い抜かれちゃったな。
マドカは、あんまり変わんないな。でも、千冬に似てきたな。そのまま、千冬みたいにカッコよくなれよ。
あ、でも家事は覚えとけな。一夏に頼りっぱなしはダメだからな?
「兄さん、おかしいぞ。ここは立ち入り禁止区域の近くだ。メーカーの製品がここに搬入されるなんて話、聞いた事がない」
「だよな。あの、巻紙さん?」
うん、マドカはやっぱり千冬似だな。聡い所とか、物怖じしない所とか、特にそっくりだ。
一夏はもう少しだけ危機感を持とうな?
優しくて、話を聴いてくれるのはお前の良い所だけど、私みたいな悪人に騙されちゃうからな。
ごめんな、一夏、マドカ。
私はこれから、お前達に酷い事をするし、たくさん傷付ける事を言うよ。
それがお前達の為なんて、そんな事は言わない。今からやる事は全部、私という悪人のエゴだ。
「……はあ~、まったくあとちょっとで、楽に仕事を終わらせられる筈だったのによ」
「あの、巻紙さん?」
「離れろ兄さん! こいつは敵だ……!!」
ああ、そうだよ。一夏、マドカ、私はもうお前達のオータム姉じゃない。
私は
「はっ! 妹の方はちょっと頭が回るみたいだな! そうだよ。私は敵だ。せっかくだから、名乗ってやる!」
「くそっ! なんだってんだよ?!」
「私はオータム! 亡国機業のオータム様だ……!!」
ごめんなさい、一夏、マドカ。こんな嘘つきの化け物が、仮にもお前達の姉を名乗ってごめんなさい。
だから、二人共。こんな悪人の私を倒すんだ。私は化け物で、すごく強いんだ。
だから、私を倒して自分達は強いんだって、私達みたいな悪人には負けないんだって、自信を持って叫ぶんだ。
そしたら連中は、お前達には簡単には手を出せなくなる。
「来なガキ共。せっかくだからオータム様が遊んでやるよ!」
ごめんな、愛しているよ。
だから、こんな化け物に負けるな。