踏み台転生者ですが何か?   作:ジト民逆脚屋

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感想返信する前に出来ちゃった……


嫉妬の強欲

「オータム」

 

亡国機業本部の狭い廊下で、オータムの名を呼ぶ女は赤い紅い女だった。

赤い髪と自らを誇示するかの様に、目立つ化粧で辺りを威嚇する女の名はスコルピオと言った。

 

「……んだよ?」

「貴女、貴女、任務に失敗したそうね」

「だから何だ? 生きてりゃ失敗する事もある」

「困る、困るのよ。私を押し退けて亡国機業最強の座に座る貴女が、あんな子供相手を仕留めきれないだなんて」

「知るかよ。最強名乗りたかったら勝手にしろ。私はそんなもんに興味は無い」

 

スコルピオの言い分を、オータムははっきりと切り捨てる。

元よりオータムは強さ云々はどうでもよく、今の強さも自分の役目を果たす為の道具程度にしか認識していない。

故に、スコルピオの言い分はオータムには響かない。

 

「意味、意味が無いのよ。それでは」

「そうかよ。んじゃ、私はもう行くぞ。本部は大嫌いなんでな」

「そう、そうなの。なら、私があの子供達を……っ!!」

 

スコルピオにとって、オータムが座る最強の座を奪う事に意味がある。なら、その最強に傷を付けた二人を自分が仕留めれば、この失礼な女も少しは自分の立場に興味を持つのではないか。

スコルピオはそう考え、その為の言葉を口にしようとした瞬間、体が動かなくなった。

否、違う。動かなくなったのではなく、動かせなくなった。

毒物や拘束された訳ではなく、ただオータムが放つ殺意にスコルピオの体が動作を拒絶した。

 

「……スコルピオ、一つだけ良い事を教えてやる。あいつらは私の獲物(家族)だ。私があいつらを狩っていいんだ(護るんだ)。解るな?」

 

私の邪魔をするなら今すぐ殺す。

世界最凶の凶蜘蛛が、その絶死の劇毒を滴らせる腮を開いていた。

 

「……っ! え、ええ、ええ、解ったわ。あの子供は貴女の獲物よ」

「解りゃいいんだ」

 

スコルピオが頷くと、オータムが放つ殺意は途端に霧散し、普段のオータムが背を向けて去っていった。

最早、その場に立ち尽くす蠍には興味すら無い。その事が、スコルピオには許せない。

だが、理解している。オータムとスコルピオの間には、如何ともし難い圧倒的かつ絶対的な差がある。

だが、

 

「蜘蛛は蠍には勝てないのよ、オータム」

 

勝てないなら、狩ればいい。

蜘蛛という生物は蠍という生物には勝てない。そして、今のやり取りでスコルピオは確信した。

あの子供二人が、オータムの核だと。

 

「オータム、オータム。貴女、随分とあの子供達にご執心ね。なら、あの子供達には餌になってもらいましょう」

 

オータムには聞こえない呟きが、廊下に落ちた。

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

 

あの子を拾ったのは何時だったか。今でも鮮明に思い出せる。

今も続くとある紛争地域の小さな村の側で、スコールはオータムを拾った。

スコールは子供が関わる仕事を受けない。これは、かつての愚かな自分の過ちで最愛の娘を喪い、自らの体すらも失ったからだ。

 

よく覚えている。亡国機業というテロリスト集団に身を墜とし、かつての復讐を遂げて何も無くなっていたあの日々の中で、スコールはオータムに出会った。

もしかすると、出会うべきではなかったのかもしれない。

復讐に取り憑かれ、何もかも無くした女と、何も無かった少女。

どうにもならない出会いは、散々なものだった。

オータムはあの頃から天才だった。戦いの、戦闘の天才。身体、判断能力、全てが戦闘に特化した人の姿をした化生。それがオータム。

初めは自分を慰める為に拾い、持てる技術を注ぎ込んだ。ただの慰め、喪った娘の代わり。

だが何時しか、スコールにとってオータムは大切な者に変わっていた。

せめて、この子がほんの少しでも幸せになれる道を選べる様に、自分と同じ道を選ばない事を祈った。

だが、結局どうにもならなかった。

 

あの日、オータムは二人の子供を拾ってきた。

亡国機業内でも厄介者扱いの派閥が起こした事件、その被害者である子供二人。

織斑一夏と織斑マドカ、世界最強の織斑千冬の弟妹達。

亡国機業内でも賛否の分かれる、洗脳用ナノマシンの試験型を戯れに投与された二人は、オータムと自分の事を姉と呼んだ。

嗚呼、これは何の罰なのだろう。

愛を奪ってしまった者が、奪われた者に愛を与える。

何とも滑稽で、何とも愚かな行いの日々。何時か救いようのない終わりが来ると知りながら、スコールはオータムを止められなかった。

オータムがやろうとしている事は、かつての自分がオータムにした事だから。

 

「や、スコール」

「おかえり、オータム。随分、絞られたみたいね」

「あいつら、マジでうるせえんだよ。相手は世界最強と更識の守るIS学園だぜ? 私一人突っ込んでどうにかなるってのかよ」

「それだけ、貴女に期待してるという事よ」

「やっぱ、あいつら嫌いだ。あいつら二人が、私程度にどうにかなるかよ」

「オータム……」

「なあ、スコール。あいつらさ、凄いんだ。たった一年足らずで、私の懐に潜り込めるし、私の隙を見逃さない。しかも、私を倒そうと考える事も止めない」

 

愛を与える事は知っていても、愛を与えられる事を知らない。スコールはそれを教えられなかった。

否、嬉々として二人の事を語るオータムに、どう教えていいか分からなくなってしまっていた。

 

「ねえ、オータム」

「でな、スコール。二人はやっぱり皆に愛されてたよ。私がさ、お前達なんか誰も助けに来ないって言っても、更識や千冬が来たし、遠くから他の専用機持ちも見えた。……もう、二人には私なんか要らないんだよ」

「オータム……、そんな事ないわ。だって、貴女はあんなにも二人を愛しているじゃない」

 

二人の部屋にたった一つだけ残された写真、万が一の事を考え、オータムは二人との思い出の全てを処分した。

だが、この四人で撮った写真だけは捨てられなかった。

 

「違うんだ。あれは、違うんだ……」

「違わないわ。貴女の愛は本物よ」

「だったら、あんな酷い事しないし、言わないよ。スコール、私さ、いっぱい酷い事言ったんだ。たくさん二人を傷付けたんだ」

「でもそれは、必要な事だったのでしょう?」

「違う。全然必要なんかじゃない。二人が傷付く必要なんて無い。二人が酷い事言われる必要なんて無い。全部、私なんだ。私だけ傷付いて、私が言われるべきなんだ……」

 

ごめん、ごめんよ、一夏、マドカ。

顔を覆い隠し、踞るオータム。

オータムは愛し方を知らない。ただ一つ知っているのは、相手に自分を超えさせるという修羅の愛。

そしてそれは、スコールがかつて与えてしまった愛だ。

 

 

──ごめんなさい、オータム

 

 

愛し方が分からなくなってしまった人間と、愛し方を知らない化け物。

しかし、人間は化け物を愛し、化け物は子供達を愛している。

なら、人間が出来る事は決まっている。

 

 

──オータム、貴女を裏切る事になっても……

 

 

スコールはオータムを、そして一夏とマドカを愛している。

愛し方が分からなくなってしまっても、この愛は本物だと言い切れる。

スコールはオータムを助ける。きっと、この選択は間違っている。

だけど、この選択を選んだ事は間違っていない。

そう信じたい。

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