「……オータム、いいのね?」
「うん、多分これか、次で最期になる」
「ねえ、オータム。本当に後悔は無いの?」
「……無いよ」
本当はある。
二人の隣に居たい。
二人が笑っている姿を見たい。
二人が幸せになる姿を見たい。
喜んで、怒って、泣いて、楽しんでる。
そんな二人の傍に居たい。
けど、そんな事は望んじゃいけない。
二人の未来に、自分は居ちゃいけない。
だから、オータムは二人の礎になって消える。
それでいい。所詮はテロリストに過ぎない身だ。
消えても、誰も悲しまない。
もし、自分が途中で駄目になってもスコールが居る。千冬が居る。
だから、二人は大丈夫。
「行ってくるよ」
「……いってらっしゃい、オータム」
発ったオータムを見送り、スコールは端末を手に取る。
オータムが一夏とマドカを愛しているなら、スコールもオータムを愛している。
手遅れの愛でも、それでもオータムが一人で滅びの道を歩むのは否定したい。
だからスコールは、自分が取れる手段を取る。
「ごめんなさい、オータム」
例え、貴女を裏切る事になっても、私は貴女達を護りたい。
だから私は……
〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃
「亡国機業殲滅作戦、か」
「はい、織斑先生。更識のルートから、日本に潜む連中のアジトが判明しました」
「……どうしても、生徒を使うのか?」
「先生、私も一応は生徒なんですが……」
「更識、お前は対暗部組織の長でもある。だが……」
「解ります。ですが、上からの命令でして」
千冬は溜め息を吐いた。亡国機業の殲滅は、目下の最大目標ではある。だが、それは自分達大人の役目であって、更識を含めたまだ幼い生徒を使うものではない。
大人の勝手な都合、ではない。
上からの命令には、織斑一夏とマドカを含めた専用機持ち全員を、この作戦に投入するとあった。
戦力の逐次投入は下策と理解出来るが、その戦力となるのは護るべき子供達だ。
綺麗事とは理解している。今まで碌に護れもせずに、今更何を言うのかと、千冬は自問する。
世界最強と謳われ、その自負は今もある。
しかし、現実はどうだ。
子供達を矢面に立たせ、自分は何も出来ない。何の為に力を求めた、何の為に最強と成った。
家族を護りたいから、強くなり最強と成った身は、何も出来ないお飾りと成り果てた。
今になって思ってしまう。もしかしたら二人は、一夏とマドカはあのまま記憶を失って、オータムとスコールの二人と共に生きていた方が、その方が幸せだったのではないか。
──いや、違う。
千冬は頭を振って、その考えを排した。
この考えは、オータムの覚悟を踏みにじる考えだ。
だが、だからこそ、考えてしまう。
自分だけではなく、あの二人が共に居ればと。
あの日、あの別れの日に束と二人で無理矢理にでも引き入れていれば、こんな辛い事にはならなかったのではないかと。
「織斑先生?」
「構うな。続けてくれ」
「はい、敵対戦力には確実にあのオータムが居ます。先生と双璧を成す世界最凶、単騎で組織を壊滅せしうるキリングマシーンが」
「……ああ」
違う。違うんだよ、更識。本当のあいつは、心の底から不器用で、誰かを愛する事が苦手で、優しいお人好しなんだ。
ただ、どうしょうもない強さを手にしてしまった、不器用なお人好し。
それがオータムなんだ。
千冬のそんな思いは、更識には通じない。
オータムは亡国機業最大戦力であり、単一で組織を壊滅せしうる力を持ち、敵対者には一切容赦をしない冷酷非道の輩。
それが、更識達の知る表のオータムだから。
「奴は織斑弟妹に執着を見せていました」
「二人を囮に使う気か」
「はい、必要とあらば」
「解った」
オータムは危険だ。単純な身体能力の強さだけなら、千冬の方が強いだろう。だが、オータムはそれに殺しの技術と実戦経験を上乗せしている。
暮桜を駆る千冬でも、正面から戦えば無傷では済まず、最悪どちからが死ぬか、両方死ぬ。
しかし、千冬はオータムを止めたい。
なら、答えは一つしかない。
「更識、私も前線に出るぞ」
「え?! いや、でも指揮は?」
「逆に問うが、お前でオータムを抑えられるのか?」
「それは……」
更識はロシア国家代表で学園最強だが、オータムの相手には足りない。戦えはするが、勝つとなると不可能だ。
それに相手はオータムだけでなく、日本に潜む亡国機業の戦力もある。ならば、千冬が前に出てオータムを止める。
「ですが、機体は?」
「訓練機を一つ用意してくれ。作戦決行日時は」
「二週間後の今日です。……って、訓練機でオータムと戦う気ですか?!」
「暮桜が使えない以上、訓練機以外あるまい」
嘗ての千冬の相棒である暮桜は、現在学園地下にて凍結されている。理由は単純かつ身勝手なもので、第二回モンドグロッソでの独断専行により、稼働権限をIS委員会に奪われている。
暮桜は千冬だけが乗れる機体故に、無理矢理動かす事は可能だ。だが、それによる余計な横槍は避けたい。
それ故に、訓練機を使う。
「でも訓練機って……、ああ、もう! 判りました! 虚に頼んで織斑先生用にチューニングした機体を用意します!」
「済まんな」
チューニングされたとは言え訓練機、まともに戦えるのは三分もあれば上出来だろう。
最長三分、最短一分と考えて、あのオータムを止められるのか。
否、止める。
世界最強の名に賭けて、二人の姉の誇りに賭けて、あの愚か者を止めて、脳天に拳骨の一発でも落としてやる。
〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃
これは、夢だ。
またあの夢、温かくて優しい夢。
自分が居て、マドカが居て、あの二人が居て、千冬が居ない夢。
だから、これは夢だ。
はっきりと、そう解るのに、なのにどうしてこんなに悲しくて寂しいのだろう。
「■■■■姉」
「おう、どうした?」
「明日の朝飯、何がいい?」
「あー、そうだな。シンプルにハムエッグとかどうだ?」
「■■■■姉、ハムエッグ好きだよね」
「ん? 好きっつうか作るの楽だろ」
「いや、卵料理は奥が深いからあまり舐めない方がいいよ」
「お、おう」
「あら、■■■■。また、一夏に変な事言ったの?」
「■■■■姉さんは、たまに変な事言うから」
「■■■■、マドカ。私って、そんなに変な事言う?」
「「言う」」
どうして、この人はこんなに優しいのだろう。
どうして、この人達はこんなにも温かいのだろう。
なのにどうして、
「ごめんな、さようなら。一夏、マドカ」
この人は、こんなにも悲しそうなのだろう。
答えなんて、きっと無い。だって、これは夢なのだから。
でも、もし答えがあって、この二人に会う事が出来たなら、例え二人が許されない人達だったとしても、自分達はこの二人を、姉さんと呼んで抱き締める。
何故か、どうしてか、一夏とマドカの間でその答えだけは、はっきりとしていた。