踏み台転生者ですが何か?   作:ジト民逆脚屋

15 / 23
狂い

秋も終わりに近付き、色付いた紅葉が落葉に変わり始めた頃、一夏達は昼過ぎの京都に居た。

 

「まさか、京都に来るとは」

「兄さん、あれが京都タワーらしいぞ」

 

肌寒さを感じ始めた空の下、一夏達は呆然と古都京都の町並みを眺める。

何故、いきなり京都に来たのか。それは、近く行われるIS学園の修学旅行の下見という名の、亡国機業殲滅作戦の為だ。

なのだが、あまりに唐突に決まったせいで、いまだにその実感が無い。

気分はいまだに物見遊山だが、一抹の不安がその中に蠢く。

 

「兄さん」

「ああ、奴は必ず居る」

 

オータム、最大にして最悪の敵。奴は必ず自分達の前に現れる。

あの悪逆無道の輩は、何があっても絶対に倒さなくてはならない。今日がその最大のチャンスだ。

 

「マドカ、絶対に倒すぞ」

「ああ、奴は許してはいけない」

 

奴の蛮行のせいで、今までどれ程の被害が出たのか。一夏達にそれを知る術は無いが、それでも判る。

奴は倒さなくてはならない敵だが、二人にはその前に成し遂げなくてはならない事がある。

それは

 

「しかし、まさかはぐれるとはな」

「あの人混みが悪い」

 

二人は他のメンバーとはぐれていた。

京都に着くやいなや、観光客と会社員の波に呑まれ、気づけば二人だけで京都の街に立っていた。

幸い、連絡は着いたのですぐに迎えが来るという話だが、IS学園の制服を着て街の真ん中に立ち続けるのは、些か居心地が悪い。

 

「と、とりあえず、どこか店に入るか?」

「そ、そうだな。だが、何処にする?」

「なら、そこの喫茶がいいぜ」

 

居心地の悪い場所からの避難を考え、何処かの店に入ろうと、二人で思案している最中、ふと女性の声と指が、道向かいの喫茶店を指差した。

 

「あ、すみません。ありがとう、ござい…ま……っ!」

 

一夏はその声の主に礼を言おうと振り向いた瞬間、驚愕に固まってしまった。

マドカも同様に声の主に驚愕を隠せていない。

何故ならそいつは

 

「よう、ガキ共。学校はお休みか?」

「オータム……!」

「おっと、ここでドンパチやらかす気か? ……何人、居るのかな?」

「くそっ」

「貴様!」

「そう怖い顔すんな。まだ時間はあるんだ。……少しだけ話そうぜ」

 

オータムは凶悪な笑みを浮かべて、顎で二人に付いてこいと示す。

二人に取れる選択肢は無い。相手は凶悪なテロリスト、従わなければ何をしでかすか分からない。

だから、二人は渋々オータムの後ろを歩く。

 

「しっかし、まさかまさかだよな。こんな所でお前らと会えるとは思わなかった」

「それはこっちの台詞だ」

「おうおう、怖いねえ。っと、ほれ」

「なんだよ?」

「あ? 京都なら八つ橋だろ。食わねえのか?」

 

オータムが指し示したのは、よくある土産物売り場だった。

どうやらその店は、店先で食事が出来るらしく、何人かの観光客が八つ橋を摘まんでいた。

 

「あー、成る程。金がねえのか」

「舐めるなよ。お小遣いくらいある」

「いやマドカ、そういう事じゃなくてだな。……どういうつもりだ?」

「言ったろ。少しだけ話そうぜって。それともニッキがダメか?」

 

言いながら、オータムは三人分の八つ橋と茶を頼み、さっさと空いていた席に座ってしまった。

一夏とマドカは顔を見合わせるも、とりあえずは同じ席に座り、注文の品を待つ事にした。

 

「話ってなんだよ」

「んー、そうだな。……学校は楽しいか?」

「ああ、楽しいね。どっかで人を不幸にするよりずっと楽しい」

「そりゃ良かった。……イジメとか無いか?」

「何を言いたいんだ? 私達が知る限りは無い」

 

たった二回の問答だが、二人は一気にオータムが分からなくなった。

二人の知るオータムは、凶悪で残虐非道なテロリストの筈なのに、何故こいつは姉である千冬の様な事を聞いてくるのか。

 

「あとは、そうだな……。友達とちゃんと仲良くやれてるか?」

「さっきからお前は何なんだ? 私達に何を聞きたいんだ?」

「いや、な。少しだけ学校ってのが、どんなもんか聞きたくてな」

「……学校に通った事が無いのか?」

「物心ついた時には、言葉より銃弾の方が飛び交う場所に居たからな。学校なんざ、行った事もねえよ」

 

一夏達からすれば、言葉より銃弾の方が飛び交う世界というのが想像出来ない。

ISに関わらなければ、一生を終えるまでテレビの向こう側の世界だっただろう。

だが、オータムはその世界の住人だった。

 

「さて、辛気臭い話は終わりだ。ほれ、来たぞ」

 

呆然とする一夏とマドカに、八つ橋の乗った小皿と茶の入った湯飲みを軽く押して差し出す。

 

「ふーん、この店はこんな味か。……おい、どうしたよ。食わねえのか?」

「いや、食うよ」

「ああ」

「安心しろ。食い物に毒なんざ入れねえよ」

「当たり前だろ」

「……ああ、そうだ。食い物を粗末にしちゃいけねえ」

 

違和感があった。オータムは先程からずっと、こちらを探る様な態度で言葉を手繰るが、その実何も探っていない。

まるで、昔を懐かしむかの様にして、自分達との会話を続けている。

目的がまるで分からない。

オータムは一体、何が目的なのか。

 

「はい、ごちそうさん。少し歩こうぜ」

「あ、おい待てって」

「あ?」

「俺達の分、払うよ」

「はっ、ガキがいっちょまえに言うじゃねえか。ガキは黙って奢られとけ」

 

言って、オータムはふらりと雑踏の中に足を踏み入れる。観光客にごった返す街を、誰にも当たらず進む姿に自分達との差を感じながら、一夏とマドカは後を歩く。

 

「しかし、観光客が凄いな」

「お前、変な考えを持っていないよな?」

「あぁ? ははは、安心しろ。仕事でもなけりゃ何もしねえし、仕事も選ぶ」

「仕事を選ぶって……」

「なんでもかんでも吹っ飛ばすのが、私らじゃねえって事だ。寧ろ、吹っ飛ばす方が珍しい」

「なら、どうしてあんな事をしたんだ」

「仕事だよ。どうしようもなく、くだらない理由の仕事だ」

「お前達が起こした事件で、何人の人が……」

「織斑一夏、織斑マドカ」

 

激昂しかけた一夏とマドカが、その怒りをぶつけようとオータムに迫った時、オータムは至極真摯な表情を二人に向けていた。

その表情に意表を突かれ、二人は言葉を失ってしまった。

 

「こんな私だから、お前達に言える事がある」

「……なんだよ」

「憎んでも恨んでもいい。でも、その対象を間違えるな。お前達が憎くて恨めしいのは私だろう? なら、その感情は私だけで終わりにしろ」

「な、何を言っているんだ?」

「いいか、マドカ。憎しみや恨み怒りは強い力を生む。だが、その代わりにそれに飲まれれば、ずっと誰かを恨んで憎み続ける事になる」

「そんな事……」

「一夏、そうして生まれたのが私達だ。その感情から目を逸らすな。だけど、その感情に囚われるな。お前達は私達の様にはなるな」

 

何故、どうしてオータムが自分達にこんな事を言うのか。

これではまるで、オータムが本当に千冬の様な姉ではないか。こいつは憎いテロリストで、恨んでも恨みきれない筈なのに、どうしてこいつは……

 

「っと、辛気臭い話は終わりにしたのに、お前らが変な考えするから、ついうっかりしちまった。せっかくの京都なんだ。もう少しだけ楽しもうや」

「お前は一体、誰なんだ?」

「ああ? 私は亡国機業のオータム様さ。……それ以上でも以下でも、それ以外何者でもねえよ」

「なら何故……」

「あー、そう言えば清水寺には行った事ねえな。行くか」

 

問い掛けるマドカの言葉を遮り、オータムは手早くタクシーを呼び止め乗り込む。

慌てて二人もそのタクシーに乗ると、オータムは当たり障りの無い会話を運転手と続け、清水寺の手前で降りた。

 

「よし、また歩くぞ。まさか疲れたか? おぶってやろうか?」

「誰が疲れるものか!」

「はっ、本当に千冬に似てるな。マドカは」

「っ! さっきから私を馴れ馴れしく呼ぶな!」

「へいへい、判りましたよ。織斑妹」

 

言いながら、オータムは清水寺へ続く坂を登りながら、土産屋の試食を物色しては、気に入ったであろうものを、何故か店員の手から購入している。

一夏とマドカは混乱の最中、オータムが何をしたいのか見極め様とするが、どう見ても観光以外の何者でもない。

 

「おい、まさか観光に来たのか?」

「それ以外の何があるよ。そうだな……、この根付けとかどうだ?」

「どうだって、俺達にか?」

「言ったろ。ガキは黙って奢られとけって」

「お前の施しはもう受けん。それに私達には、姉さんと買ったこれがある」

 

言って、マドカが胸元からペンダントを取り出し、オータムに見せ付けるかの様に掲げる。

何の価値も無い、安物の四つで一つの家の形になるだけのペンダント。

一夏とマドカ、千冬の三人の大切な繋がり。四つ目は誰の手にも渡らず、一夏かマドカのどちらかが誰か大切な人に出会った時に渡す為、千冬が預かっている。

そのペンダントを見たオータムは、一瞬だが目を見開いて、二人を凝視していた。

今まで隙の一つも見せなかったオータムが見せた隙だが、二人は何も言えず何も出来なかった。

何故なら、二人にも判る程に一瞬だけ、オータムが泣きそうな顔していたから。

 

「……安物だな」

「値段だけでしか価値を見出だせないのか」

「判り易い価値は値段だからな。……大事なもんなら、あまり見せ付けず大事に仕舞っとけ」

 

結局、オータムは根付けを買わずに、何処にでも置いてありそうな饅頭だけを買って店を出た。

あの表情は一体何だったのか。

それを問おうにも、オータムは気兼ねない足取りで清水寺への道を進んでいく。

 

「お、見えてきたな」

「何故、お前はこの人混みを、そんなに気軽に進める」

「なんだ? もう疲れたか? 本当におぶってやろうか」

「要らん!」

「はっ、その意気だ」

 

門を潜り、清水寺の一番の観光スポットに当たる清水の舞台へと向かう。時刻は既に夕刻が近く、先程千冬達にはメールで現在地を伝えている。

つまり、もうすぐオータムに対する包囲網が完成するという事なのだが、オータムはこちらが携帯を弄っていても一向に気にする素振りも見せず、大量の土産物を買い込んでいた。

今も両手には土産物の袋が、大小様々に提げられている。

 

「清水の舞台から飛び降りるなんて、言葉があるが確かにこの高さは地味に度胸が要るな」

「オータム、お前本当に何がしたいんだ?」

「……少しだけ話がしたかった。それだけさ」

「言うが、お前が一方的に話してきただけだぞ」

「いいんだよ、それで」

 

二人に背を向けて、舞台から空を見上げるオータムの顔は伺い知れない。

だが、何故かオータムの声は満足気だった。

 

「一夏、マドカ。学校は楽しいよな」

「当たり前だろ」

「当然だ」

「一夏、マドカ。イジメられたりしてないな」

「ないよ」

「ある訳がない」

「一夏、マドカ。友達とは上手くやれてるな」

「皆、いい奴らだよ」

「多少、喧しい時もあるがな」

「一夏、マドカ。……幸せだよな」

「ああ」

「うむ」

 

そうか。良かった。

本当に良かった。

 

「おい、どうしたんだよ」

「……さて、そろそろお前らが呼んだ迎えが来る頃だ。ほれ」

「む? なんだこれはお前が買った土産じゃないか」

「やるよ。よく考えたら、私甘いものはそんなに好きじゃない」

「私達も言うほどだ」

「数が居るだろ」

 

そう言うと、オータムは二人に土産物の袋を全て手渡す。

 

「じゃあな。……次会う時が最後だ」

「臨む所だ」

「必ずお前を倒す」

「ああ、その意気だ」

 

敵意に満ちるが、殺意は無い強い二人の瞳。

ああ、良かった。

千冬やIS学園の皆には感謝しかない。この二人が迷いはすれど、間違わずにここまで来てくれた。

こんな化け物の話に付き合ってくれた。

もう大丈夫、もう思い残す事は無い。

後は、二人に少しでも多くを遺すだけだ。

 

「さようなら、織斑一夏、織斑マドカ」

 

私が愛する最愛の家族。




オータムさん、二人に何か形が残る土産物は一切渡してない。全部食べたら無くなるやつ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。