恐らく、私は踏み台転生者なのだろう。
いや、恐らくじゃなくて絶対にそうだ。
だって、おかしいじゃないか。私、オータムだよ。あのオータムだよ。
所属やら機密やら喋っちゃうドジっ子オータムだよ?
踏み台じゃなかったら、なんだと言うんだ。
……あれ?オータムって、機密とか喋ってたよね?普通に喋ってたよね?
ヤバイ…… 本当に記憶が朧気で曖昧だ。
私は本当に転生者なのかどうかすら、自信が無くなってきた……
『オータム、聞こえる?』
いや、だってさ、転生者なら
『ん、ああ。聞こえるよスコール。今、終わったとこだ』
転生者なら、一般人なら
『そう、御疲れ様、帰ってきて。二人が心配しているわよ?帰りが遅いって』
『ああ、分かった』
私が一般人で人間の転生者なら、人を殺して平気でいられる?この血の海の中で、平然として通信なんて出来る?血と肉の臭いを嗅いで平気でいられる?
私がもしそうなら、平気ではいられない。狂うよ。
いや、もう狂っているのかも。
『オータム、どうしたの?』
『スコール……、私は……』
『オータム、殺しの仕事はこれで最後にしましょう。今は、帰ってきてゆっくり休みましょう?』
『ああ……、そう、だな』
狂っているからなのか、そういう風に転生させられたからなのかは解らない。
だけど、私は確かに亡国機業のオータムなんだ。
それだけは確かな事だ。
狂っていても、そうさせられたとしても、私はオータムなんだ。
だから、平気なのかな?
『ほら、シャキッとしなさいな。今の貴女の顔で帰って来たら、あの子達心配するわよ』
『そうだな。って、見えてんの?私の顔?!』
『私は、マルっと知ってる事は全部お見通しよ~』
『それ、あれだよな?知ってる事しか知らないって事だよな!』
何処から?何処から見てるのスコール?
私、そんなにヒドイ顔してるの?
あ、そっか……
そう、だよね……
『スコール』
『何?オータム』
『私は……』
あの二人の傍に居ても良いのかな。
こんな、こんな、血塗れの私があの二人の傍に居て、あの二人は幸せになれるのかな。
幸せにしてあげられるのかな。
『スコール、私は……』
『オータム』
『な、何?スコール』
『早く帰ってらっしゃいな。二人が今か今かと待ちわびてるわよ? 〝オータム姉〟』
『……ああ、今、帰るよ』
こんな、血塗れの私だけど、今だけは、一夏とマドカの前でだけは、二人の〝オータム姉〟でいよう。
そして、二人が私の様にならない様に、私が血塗れになろう。
そうすれば、二人は大丈夫だから。
「ただいま」
「おかえり、オータム姉。遅かったね」
「ん、ちょっと遠くの現場に行っててな」
二人には私は警備会社で働いていて、スコールはデザイナーと言って通している。
私が出る時はスコールが、スコールが出る時は私が、二人の傍に残って亡国機業の本部や他の連中が手を出してこない様にしている。
私もスコールも、良くも悪くも有名だから、私達が一緒に居れば二人に手を出そうなんて輩は、そうは居ない。
「オータム姉、風呂沸いてるよ」
「おう」
「姉さん、帰ってきたのか」
「ああ、ただいま。マドカ」
一夏が当たり前の様に、帰って来た私から鞄を受け取って脱いだ上着をハンガーに掛けている。
……なんか、ごめん。私達が家事苦手なばっかりに。
「オータム姉、今日はシチューにしてみたんだ」
「へぇ、そりゃ楽しみだな」
シチューか、今日は冷えるし丁度かな。
「しかも、ビーフシチューだぞ。姉さん」
「はは、マジかよ」
「ああ、ちょっと良い牛肉が安かったから」
金の事は気にしないで良いと言っているのに、態々安売りだったりする物を買ってくる。
もう少しぐらい、あれが欲しいとか我が儘言ってくれても良いのに。
「オータム」
「スコール、ただいま」
「オータム、早くお風呂入っちゃいなさい。今日は冷えたでしょう?」
「ああ、そうするよ」
本当にごめん、一夏、マドカ。あんまり、遊ばせてあげられなくて。
その代わり、二人はちゃんと守るから。私が全部、噛み砕くから。
「オータム姉?」
「ん?ああ、何でもねぇよ。現場が遠かったからな、ちょっと疲れただけだ」
怖いのは全部、私とアラクネが噛み砕くから。
「ごちそうさま」
「お粗末様です」
うん、何度も思うけど、女として一夏に負けた……
家事が出来て料理上手で、気立てが良くて……
あれ?なんだろ、目から水が出てきた……
「姉さん、どうかしたのか?」
「いや、何でもねえ。何でもないんだ、マドカ」
スコール、ニヤニヤ笑ってないでよ。スコールも私と、そう変わらないじゃない。
「オータム」
「何だよ、スコール」
え、何?何なの、いったい。
何で、そんなにニヤニヤしてるの?
やだ、怖い……
「フフフ、どうしたのかしら?そんなに身構えて?」
「スコールが怖い」
「あら、ヒドイわね」
ヒドイもなにも、いつも以上にニヤニヤして、怖い以外の何者でもないんだけど。
スコール、美人だけど何処と無く胡散臭いから、そんな風にニヤニヤしてたら何か企んでるんじゃないかって、疑うんだ。
だから、私は悪くないんだ。
「な、なあ、オータム姉」
「ん?どうしたよ、一夏、マドカ」
「あの、そのな……」
どうしたんだろう?二人して、畏まって……
まさか、記憶が?!
……いや、それは無さそう。記憶が元に戻ったなら、スコールがニヤニヤしている訳が無いし。
だとしたら、私達の正体が?
「ほら、二人共。渡しちゃいなさいな」
「うん?」
渡す?何を?
「オータム姉!」
「姉さん!」
「お、おう」
何なのいったい?二人して。
「「これ!」」
「ん?ペンダント?」
うん、ペンダントだ。何処からどう見てもペンダントだ。
多分、買い物に出た時に出店か何かで買ったんだろう。
全体的に少し安っぽさがある。
いや、二人は中学生だし、これでも充分に高い買い物になるよな。
「いつも世話になってるから」
「何か出来ないかなと思って」
「お前ら……」
スコールがニヤニヤしている理由が分かった。成る程、そう言う事だったんだ。
見ればスコールも同じペンダントを提げている。
「良い子達よね。気を使わなくて良いって言ったのに」
ああ、本当にそうだ。
本当に
「オータム姉」
「もしかして、嫌だった?」
「……んな訳ねえだろうが。お前ら二人は本当に、私達の自慢の弟妹だよ」
ああ、本当に自慢の弟妹だよ。期間限定の家族ごっこ、本物じゃない偽物でも、自慢の弟妹だよ。
「一夏、マドカ、ありがとうな」
踏み台転生者の私に出来る事は少ないんだろう。この二人に、私がしてやれる事はもっと少ないんだろう。
なら、私は踏み台になろう。
「そうだ、明日は皆で何処かに行きましょうか?」
「え?やった!」
二人の為の踏み台になろう。
他に転生者が居ても、知ったことか。二人に手を出すなら、私が噛み砕く。
二人が、一夏とマドカが幸せになる為の踏み台になろう。
それが踏み台転生者の私が、二人にしてやれる事なんだ。
次回は、千冬のお話かな?