踏み台転生者ですが何か?   作:ジト民逆脚屋

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最終回の予定が狂っちゃった


後仕舞い

亡国機業掃討作戦は、IS委員会から派遣された増援と、補給を終えた千冬によって成功した。

協力者による援助も有っての事だが、これにより亡国機業は日本に対する影響力の殆どを失い、各国でも掃討作戦が開始される事となった。

世界大戦以前より続いた秘密結社は、ゆっくりと終わりへと向かっていた。

また、時を同じくして篠ノ之束が表舞台に再び姿を現し、ISによる宇宙進出と開発プラン開始を正式に発表した。

理由としては、目下の所で最大の障害となっていた亡国機業の、影響力の低下がきっかけとなった。

地上に燻るだけだった人類は、新たなフロンティアに足を踏み入れる事になる。

 

そして、亡国機業弱体化の一因となった日本支部掃討作戦にて、特記戦力であるオータム、スコルピオ、スコールの死があった。

 

三者掃討には織斑一夏、織斑マドカの尽力がなければ成功しなかったとされ、尽力を讃える勲章の授与の話もあったが、両者共にこれを辞退した。

理由は定かではないが、まだ子供の二人には命を奪ったという事実は重すぎたのだろうと、周囲は納得した。

 

亡国機業はその影響力の殆どを失ったが、古くから続いた組織は根深く、掃討が続く今も禍根を残している。

 

 

「というのが、表向きの大体の筋書きよ」

「そうか。しかし、なんというか、なんだ? お前、何時の間にこんな根回しをしていたんだ?」

 

町外れの小さな喫茶店で、千冬はカップを傾けながら、黒髪の女に問い掛ける。

亡国機業掃討作戦が続く今、あちこちへ飛び回っている千冬の顔には、僅かながらに疲れの色が見えるが、それよりも呆れの色が強い。

それもそうだろう。

目の前で優雅に茶を嗜む女は、死んだとされているスコールなのだから。

 

「あの子が馬鹿をやるって決めた時からよ」

「なら、私だけには言え。あんな紛らわしい事ばかり言いおってからに」

「ごめんなさいね」

 

軽く笑うスコールに、千冬は頭の痛みを覚える。

以前からの根回しに加え、スコールとオータムは公的には既に死んでいた人間であり、元々世界には存在しない人間であったという事も幸いした。

また、スコールは語らないが束の協力もあったと千冬は見ている。

その証拠に、スコールは元の義体ではなく、束謹製の義体に乗り換えていた。

それに加え、

 

 

──表舞台に出てくるタイミングが良すぎるぞ、束

 

 

あまりにタイミングが良すぎて、逆に疑いを向け難い。

恐らく、裏で何かしらの取引をしてスコール達の死の偽装を認めさせたのだろう。

あの気紛れの厄介者が、まさかまさかの動きを見せた事に千冬は驚いたが、束が僅かながらの社交性の様なものを手に入れた。という事にして納得する事にした。

 

「まあ、そんな事はもうどうでもいい。……大丈夫なのか?」

「え? 身分の事? ……冗談よ、そんな顔しないで。大丈夫よ、あの子達なら」

「そうか、そうだな」

 

一夏とマドカはあの日以来、IS業界では知らぬ者が居ない。そんな立場になった。

悪の組織を倒すきっかけを作った立役者。だが、真実は違う。

ただ、ひたすらに不器用なお人好しの悲痛な覚悟が引き寄せた事実。

それはまだ子供の二人には、些か重すぎるものかもしれない。だが、千冬は二人を信じる事にした。

大丈夫だ。世界は残酷でも、きっとあのお人好しの覚悟を認めてくれる。

そして、千冬には気になる事があった。

 

「何故、一夏とマドカは突然記憶を取り戻したんだろうな?」

 

以前から二人は夢という形で、失った日々の事を認識していた。

しかし、あの日に突然全てを思い出し、自分達の怪我も省みず、瀕死のオータムを背負って帰還した。

いきなり全て思い出し、オータムを助けてくれと泣き叫び、あの時は中々に苦労した。

だが、ようやく辿り着いたという安堵があった。

 

「……そうね。博士の仮説だけど、二人は記憶に蓋をするナノマシンを投与されて、私達を家族と認識してその記憶を得たわ。そして、その記憶と元の記憶を反転させるナノマシンを、私達は二人に投与した」

 

ここまではいい。と、問うスコールに千冬は頷く。

第二回モンドグロッソの日、二人は記憶に蓋をし、新たな記憶を上書きする洗脳用ナノマシンを投与され千冬達を事を忘れ、しかし自分達には家族が居たという記憶から、オータムとスコールを姉と認識していた。

記憶の上書きから姉という認識が漏れていたのは、あのナノマシンが未完成品であり、脳が認識する強い存在に依存する。という形に洗脳されたからだろうと診られている。 

そして、千冬、束、スコール、オータムの四人は納得の上で、そのナノマシンを上書きして元の記憶を取り戻すナノマシンを二人に投与した。

 

「でも、二人はお前達を完全に忘れていなかった。どれだけ記憶を封じられても、愛という事実は消せなかった」

「そうね、本当に驚いたわ。このきっかけになったのが、あのスコルピオというのが、私的には気に入らないけどね」

 

うっすらと思い出しつつある所に、スコルピオが用いる特殊な毒が二人に使われた。マンティコアが精製する特殊なナノマシンは、その毒性を変化させる。

肉体や神経を蝕む猛毒や、時には自身を高揚させる興奮剤の様なものへと、多種多様な用途に姿を変質させる。

そしてスコルピオは、あの洗脳ナノマシンの使用に賛成する派閥であり、二人にそれが使用された事を知っていた。

あの日使った毒が、オータムに対する嫌がらせか、それとも純粋に二人の脳を破壊するものだったのか。それはスコルピオが死んだ今は判らない。

だが、結果として二人はその毒によって記憶を取り戻した。

 

「私を仕留めたと思って装備だけ奪って見逃すし、隠れて毒でオータムが死ぬのを待てばよかったのに、わざわざ出てきて調子に乗って死ぬとか、本当に間抜けよね」

「一応、同じ組織の仲間だというのに辛辣だな」

「派閥が違えば立場も違うわ。私達、連中が嫌いだったし、それに亡国機業という組織は本来の役目を忘れていたわ。つまり、そういう事よ」

「お前達は獅子身中の蟲であった、という事か」

「そんな大層なものじゃないわよ。あ、このケーキも頼んでいいかしら」

「勝手にしろ。いや、私が奢る体になっていないか? 待て、……頼むのが早いな?! えぇい、私もこれを頼む」

 

寂しげな表情をしたのも一瞬、スコールはすぐに飄々とした雰囲気に戻り、千冬の了承を得る前に店員を呼ぶと、止める間も無くケーキを頼んだ。

まったくと、千冬は呆れながらも、スコールとは違うケーキを注目する。

初めて会った姿からは想像出来ない気楽な姿だが、もしかしたらこれがスコールという人間の本来の姿なのかもしれない。

千冬は溜め息を吐くと、本来の話題を持ち出す。

 

「スコール、オータムの容態だが」

「解ってるわ。あの子はまだ目を覚ましてない。まあ、もうじき目覚めるわよ。だってあの子、すごく頑丈だし」

「致死量の失血に一部臓器の破裂に右目も失い、左腕も切断。あの時点で瀕死だった事が奇跡だ」

「言ったでしょ。あの子すごく頑丈だし、二人を置いて死ぬ訳無いわ」

 

オータムはあの日から一ヶ月以上目を覚まさず、千冬と束が用意した病院にて眠り続けている。

失血か怪我か、それとも別の何かか、オータムが目覚める気配は無いが、スコールはもうじき目覚めると断言する。

何故なら、オータムが愛する二人を置いて行く事はもう無いからだ。

安堵の息を漏らし、千冬は到着したケーキをフォークで割く。

ナッツを使ったタルトは見た目と違い、かなり食べ応えがある。スコールの頼んだ柑橘のケーキが良かったかと多少の後悔を覚えつつも、ケーキをつついていると、携帯にメールが入った。

送り主は一夏が留守番を頼んだという五反田だった。

写真付きメールを見た千冬は、何故かメニュー表を見ているスコールに問うた。

 

「……お前達、身分はどうなってる?」

「あら? 千冬、貴女もしかして知らないの?」

「……待て、嫌な予感がするぞ? 本当に待て、お前まさか……」

「はい、これ」

 

スコールが見せたのは、一つの端末の画面だった。 

なんの変哲の無い端末だったが、画面に書かれている内容を読んだ千冬の顔は、青くなったり赤くなったり、歪んだり呆れたりと、様々な表情に変化した後、数秒の間をおいて相応しい表情を見つけた。

 

「束ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

「あっはははは! 博士の言った通りに怒ったわね。ま、そういう事だからこれからよろしくね」

 

千冬の怒号を受け流しながら、スコールは憑き物が落ちた笑みでそう言った。

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