感想返信は後でまとめてやります
「それで、オータムの容態だが……」
『うん、傷痕は残るし、右目も再生は出来ないけど、経過は良好だよ。……でも、もう戦えないよ』
「そうか」
オータムの退院が決まった日、千冬は束と連絡を取っていた。
目覚めたオータムの回復は凄まじく、医者と束も驚く程だった。しかし、スコルピオに抉られた右目の再生は出来ず、顔に傷痕も残る。
そして、オータムはもう戦えない。
『稼働率が半分以下の機体で、ワンオフアビリティを発動して、しかも無差別の筈のアビリティに指向性まで持たせた。本人はまるで意識してなかったんだろうけど、これだけの出力を機体のサポート無しでやったんだ。脳の負荷は甚大だよ』
「だが、それでもオータムは生きている」
『身代わりかどうかは判らないけど、アラクネは事実上機能停止、無くした左腕も義手が反応しない。世界最凶としてのオータムは死んだよ。生きてるのは、いっくんとまどっちの姉であるオータム姉だよ』
「そうだな」
世界最凶のオータムは、あの日に死んだ。
それはリハビリに励むオータムを見た千冬も、納得する事実だ。
抉られた砕かれた身体中に、ナノマシンによる再生治療でも消えない傷痕が残り、左腕は上腕だけを残して、最新の筋電義手すら反応しない。
これが束の言う通り、ワンオフアビリティを強制的に使用した反動なのか、それともスコルピオのナノマシンによる後遺症なのかは千冬には判らない。
だが、オータムは生きていてスコールも無事だ。
もう悲しみが起こる事な無いだろう。
「まったく、迷惑なお人好しだ」
『え、ちーちゃんがそれ言うの?』
「私にも言う権利はあるさ。散々に迷惑を掛けられたのだからな」
千冬は薄く笑うと、部屋の時計を見る。
そろそろだ。
「束、悪いが切るぞ。そろそろ出なくては間に合わん」
『はいはーい、いってらっしゃい。そっちで隠れて聞いてるスコールにもよろしくー』
電話が切れた。
まったく、通話だけだったというのに、どうやって気付いていたのやら。
千冬をジャケットを手に取ると、ばつが悪そうにスコールが顔を出した。
「いやはや、貴女達レベルには参るわね」
「一緒にするな。私なら通話する前に気付く」
「もっとひどくなってるわー」
オータムの一件が落ち着いて以来、スコールからは以前会った時の厳しさや酷薄さは消えていた。
嘗て、子を喪ったというスコールの本音は判らないが、恐らくこの姿がスコールの本来なのだろう。
「あら、どうしたの?」
「いや、変われば変わるものだなと、な」
「戻っただけよ。変わるのはこれから。まさか、母親から本当に姉になるんだもの。アンチエイジング極まれりよ」
「機械の体で年を取るのか?」
「身体は大丈夫でも、心は年老いるのよ。……千冬、貴女もじきに分かるわよ」
「ぬぅ……」
そんな事を言いながら、二人は玄関に向かう。
「さて、今日はどうする?」
「外でパーっといきましょう。せっかくだもの」
「そうだな」
これから、きっと色々あるだろう。辛い事、悲しい事、様々な事が迫ってくる。
だが、きっと大丈夫だ。それ以上の幸いが待っている。
そう言い切れる。
「ああ、大丈夫だ」
家族となら、乗り越えられる。
〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃
「では、お身体に気を付けてくださいね」
「ああ、世話を掛けた」
「何を仰いますか。それが私達の仕事ですから」
病院のロビーで、リハビリ担当の者と話ながら、オータムは残った右腕で杖を突いて椅子から立ち上がる。
スコルピオのナノマシン毒の影響か、オータムの身体には無数の傷痕が残り、抉られた右目の傷は痛々しく刻まれ、左腕は義手を取り付けても全く反応しなかった。
──最期の最期で持っていきやがったか。
骨を砕かれていた右足も、リハビリの成果もあって動かせる迄に回復したが、杖無しでは歩く事は難しくなった。
しかし、医者や束から生きているだけで奇跡とまで言われて、ここまで回復したのだ。己の頑丈さに呆れつつも、今の自分を再認識する。
──本当に動けなくなったな……
怪我ではなく、本当に体が以前の様に動かなくなった。
亡国機業、世界最凶のオータムとしての動きや反応が出来なくなった。
「大丈夫ですよ。いつか必ず杖無しで歩ける様になります」
「ああ、そうだな」
看護師の励ましに頷き、しかし内心では否定する。
恐らく、世界最凶のオータムはスコルピオに殺された。この足が元通りになる事は無いだろう。
そう考えると、あの愚か者は最期に勝ったという事だ。
だが、もうそんな事はどうでもいい。奴は死んだ、オータムが殺した。亡国機業も、大半は処理された。
全部、終わったのだ。
「オータム姉、終わったよ」
「ああ、行くか」
「オータム姉さん、大丈夫か?」
「お前に心配される程じゃないさ」
病院での支払いと手続きを終わらせた一夏とマドカが、オータムの元に戻ってくる。
片眼を無くし、片腕すら失い、足も利かない。他にも身体に問題は残るが、それでもオータムはオータムとしての役目を終えた。
踏み台という役目を終えて、オータムは新たな役目を果たす為に生きていく。
偽物でも、本物になれる。
オータムはもう戦えない。オータムの戦いは終わった。
これからは護られ、そして支える為に生きる。
誰を?
決まっている。
「オータム姉」
「オータム姉さん」
「ああ、帰ろう。家に」
これからを生きる二人に護られ、支える為に生きる。これからの日々は嘗ての日々の名残だ。
でも、それは過ぎ去るものではない。これから積み重ねていくものだ。
「あ、千冬姉とスコール姉だ」
「ちょうどいいタイミングだな」
雪の降る帰り道を、二人と共に歩きながら、オータムは漸く家族の元に帰ってきた。
「おかえり」
「ただいま」
もう蜘蛛が愛に死ぬ事は無い。
最終回、如何でしたでしょうか?
最後はだらだらとしましたが、まあ私の作品なんでこんなもんでしょう。
オータムさんがこれから戦う事は無く、あとはもう終わるだけですが、その終わりはきっと優しいものになる。
そう願っています。
では、また何処かで