「オータム、本当に良いの?」
「ああ、良いに決まってるだろ」
「……このまま、四人で暮らすのも有りよ?」
ああ、それも有りだ。でも、それは出来ないんだよスコール。
「スコール、それも有りだ。だけど、私達は人殺しなんだ。だから」
「オータム……」
人殺しだから、犯罪者だから、だから、あの二人と一緒に居ちゃいけない。
それに、もう決めたんだ。
「私達は、偽物なんだ」
「ええ、そうね……」
偽物は本物にはなれないし越えられない。
その上、私達は犯罪者だ。何時までも一緒に居ちゃいけない。
一夏とマドカは、ちゃんとした明るい世界に居るべきなんだ。私達が居る、血腥い暗い場所に居ちゃいけないんだ。
「スコール、行こう」
「ええ、行きましょうか」
織斑千冬と篠ノ之束の待つ場所に
「ちーちゃん、来たよ」
「ああ、その様だな」
第二回モンド・グロッソ、大会二連覇の栄光を手にした先には、何も無かった。
何も無かった、何もだ。有ったのは二人の弟妹、残された守ると決めた大事な家族が誘拐され、殺されたという信じ難く赦し難い現実だった。
何故、何故それを言わなかった伝えなかった。お前らは、何をしていたんだ。
私がそう問い詰めても、役員達は「情報の事実を確認している」の一点張り、その上「護衛が着いていたから、誘拐の可能性は低い。何かの悪戯だろう」と私に言い放った。
そして、ドイツ軍が二人が閉じ込められていたであろう場所を見付けた。
そこにあったのは、無惨に引き裂かれた一夏とマドカが着ていた揃いのジャンパーと、それを赤く染め上げた夥しい血溜まりだった。
私は暴れた。アーリィやナターシャ達ヴァルキリー達が止めに来ても止まる事無く暴れた。
怒りと悲しみに身を任せて、暴れ狂った。
束が駆け付け、暮桜を強制停止させ、束自身が命懸けで私を止めるまで、私は暴れ狂った。
守ると決めた大事な家族、それが、こんな、こんな理不尽に奪われた。私の油断で、私の慢心が二人を死なせた。
何が世界最強だ。何がブリュンヒルデだ。
下らない、私は結局、何も守れなかった。姉らしい事も、まともにしてやれなかった。
この大会が終われば引退して後進の育成にと、そうすれば少しは二人と一緒に居られる。
だから、これからは少しでも姉らしい事をしてやれる。
授業参観に、進路相談、ああそうだ。二人の友人達とその家族とピクニックやキャンプに行くというのも良いかもしれない。
そう、思っていたんだ。
「ちーちゃん、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ」
そう決めて、二人に話して、それからの予定を三人でカレンダーに書いて、楽しみだなと笑って、笑って・・・
「失礼、織斑千冬さんと篠ノ之束博士ですね?」
「そうだよ」
私と束の前に、二人の女が現れた。
一人は金髪のドレス姿の女、もう一人は茶の髪を後ろで束ねた女。
束が僅かに警戒を強めたのが解る。金髪の女は強いが、二人で掛かれば何とかなるだろう。だが、もう一人の女が厄介だ。
恐らく、私と同等の実力がある。下手をすると、私以上の相手かもしれない。
だが、退く訳にはいかない。一夏とマドカの行方を知るのは、この二人なのだ。
「先ずは挨拶を。私はスコール・ミューゼル、もう一人はオータム。今日はお越し頂き有り難う御座います」
「御託は良い。二人は、一夏とマドカは何処だ?!」
知っているのだろう?話せ。その言葉が出る前に、茶髪の女、オータムが口を開いた。
「織斑千冬、聞きたい事がある」
「……なんだ?」
「二人を愛しているか?」
何を当たり前の事を聞いてくるのか、二人が大事だから大切だから愛しているから、ここに居る。
「当たり前だ! そうでなければ、ここには居ない!」
「……そうか、スコール」
「ええ、分かったわ。端的に言いましょう。二人は生きているわ」
「本当なのか」
二人が生きている。その言葉に、思わず弛んでしまった。
二人が私を殺そうとしているなら、絶好の機会だろう。
「ただ……」
「ただ、なんだ?」
スコールの口から出た言葉に、私は折れかけた。
だって、だって、そうだろう?
生きていてくれた。それなのに
「二人は、貴女達の記憶を失っているわ」
「そん、な……」
そんな馬鹿な事があるのか。
「二人を誘拐した馬鹿共、そいつらが遊び半分にあの子達にナノマシン注射を行い、その結果二人は……」
「黙れ! そんな事は聞いてないんだよ! さっさと、いっくんとまどっちを返せ!」
束が激昂して二人に食って掛かるが、それを意に介さずスコールは続けた。
隣に座るオータムは、先程から目を閉じたまま動かない。
だが、私達のどちらかが何か動きを見せれば、その瞬間に飛び掛かってくるだろう。
「話を続けましょう。二人は記憶を失っている。正確には、蓋をされていると言った方が正しいわね」
「蓋だと?」
「ええ、そうよ。蓋、貴女達との記憶にナノマシンが蓋をしているわ」
「なら!」
「そうだ、そう言う事だ」
そのナノマシンを取り払えば、二人は元に戻る。
また、もう一度三人で一緒に暮らせる。
「二人共。ちーちゃんだけでなく、私を呼んだのはそう言う事だね?」
「ああ、そうだ。篠ノ之博士、二人の記憶に蓋をしているナノマシンを取り払ってくれ」
オータムが束に頭を下げて頼む。見れば、スコールも同じ様に頭を下げていた。
「スコールとオータムと言ったか。一つ聞かせてくれ」
「なんだ?」
「何故、そうまでして二人の為に行動する?一夏とマドカを誘拐した者達とお前達は」
「ええ、そうよ。同じ組織に所属しているわ。だけど、私達と奴等は組織は同じでも派閥が違うし、今回のこれは組織の望む事では無かったわ」
「私達はガキには手を出さねえ」
「それで、二人のナノマシンを何とかして戴けますか?」
「……分かったよ。だけど、その前に二人に会わせてくれないかな?」
束の要求に二人は顔を見合せた。
「まさかとは思うが」
「その前に、幾つかこちらからも要求があるわ」
「そんなもの、飲める訳が無いだろ」
「なら、会わせられないわ」
「……分かった。その要求を飲もう」
「ちーちゃん!?」
スコールとオータムが出した要求は
1,二人とは初対面を装う
2,自分達とはちょっとした知り合いで、偶然このホテルで会った。
この二つだった。
「二人は私達を家族だと思っているわ。だから、余計な負担を掛けたくないの」
「すまんが、分かってくれ」
分かりたくない。だが、二人の言っている事が事実なら、私達が下手な真似をすれば、最悪一夏とマドカに何が起こるか解らない。
「二人は、この部屋に居るわ」
「ああ」
この部屋に二人が居る。この扉一枚隔てた先に、守りたかった家族が居る。
「先ずは、私が入るから、その後に来てくれ」
オータムがドアノブを回し、部屋へと入る。
「あ、オータム姉。おかえり」
「おう、ただいま」
「二人共、今日は珍しいお客さんが来てるぜ」
オータムの言葉に、スコールが私達の背を軽く押す。
その顔は、今にも泣きそうだった。
「やあ、二人共。初めまして、織斑千冬だ」
一夏とマドカは、変装の為だろうか、髪の色や髪型が変わっていたが、直ぐに分かった。
私の家族だ。
「すっげえ!ブリュンヒルデの織斑千冬だ!」
「姉さん、どうやって」
「千冬とは、昔に知り合ってな。つか、お前ら挨拶しろ挨拶」
「あ!一夏・ミューゼルです」
「マドカ・ミューゼルです」
「ああ、私は織斑千冬だ」
情けない、何も守れなかった世界最強だ。
「入らなくて良かったのですか?」
「私まで入ったら、流石に混乱するでしょ」
「まあ、それは確かに」
そうでしょうね。世界最強のブリュンヒルデ織斑千冬に続き、ISの産みの親である篠ノ之束博士まで入ったら、流石に混乱するわね。
「一つに聞かせてくれるかな?」
「何でしょう?私に答えられる事なら良いのですが」
「何で、二人を助けてくれたの?」
やはり、それを聞いてくるわよね。
仕方ない。
「あの子、オータムは何があっても子供には手を出さないのが絶対のルールだからですよ」
「じゃぁ、スコール・ミューゼル。貴女は?」
私があの子達を助ける理由は
「私はね、こんな見た目でも結構な年でして、こんな体になる前は、子供が居たのですよ」
守れなかった、目の前で死なせてしまったけど。
「……ごめん」
「良いのです。もう、過ぎた事ですから」
ねえ、レイン。貴女は、今の私をどう思うのかしら?
「博士、二人のナノマシンのサンプルがこちらに」
「うん」
憎んでいるの?
恨んでいるの?
「あの子達は、私達が守るわ」
「お願い」
それでも構わないわ。
私はあの子達を守る。
それが、私に出来る贖罪なのだから。
「もう、良いのか?」
「ああ、あの二人の様子を見れば解る。一夏とマドカは、確りと守られているとな」
ごめん、ごめんよ。
「すまねぇ……」
「気にするな。オータム」
ごめん、ごめんなさい。
私のせいで
「織斑千冬」
「オータム、二人を頼む。私は一年間、ドイツ軍の教官を勤める事になった」
「……二人は守るよ」
ごめんなさい。私のせいだ。私がこの世界に来なければ、こんな事にはならなかったのかもしれない。
私のせいだ。
だから、二人は守るよ。
千冬がドイツに居る一年間が勝負だ。
恐らく、それで二人のナノマシンをどうにか出来る筈だ。
それが、終われば、私は原作通りのオータムとして、二人に立ちはだかろう。
それが、踏み台転生者の役目だから。
このお話では、ダリル・ケイシーとレイン・ミューゼルは別人です。
あと、ここのオータムさんはこれから先、殺しの仕事は一切しません。