このお話は、予定通りなら後十話以内に終わります。
ああ、やっぱりここは苦手だ。
暗くてどんよりしてて、何故か視線が私に向けられてくる。
やめてほしい。私は地味な人生が好みなんだ。
こう、適度に日が当たって風通しが良い場所と、ある程度の労力を支払えば、ある程度の成果が手に入る。そんなのが望ましいとか考えてる様な奴なんだ。
あれ? それ蜘蛛じゃね?
まあ、だから、ここは苦手だ。
「オータム、聞いているのか?」
「ん? ああ、悪い。呆けてた」
お偉いさんが揃いも揃って、言いたい事は何ですか?
二人を寄越せなら、固くお断りしようじゃないか。
二人に手を出すなら、私は
「まあいい。話は終わりだ」
「そうかい。それじゃ、失礼するよ」
私は、相手が誰であろうと容赦しない。
何があっても、私がどうなろうとも、二人を千冬達の元へ帰す。
「やあ、やあ、オータム。久し振り」
「……スコルピオ、か」
うわぁ……、苦手な場所で苦手な奴に見付かった……。
「なに、なに、その間? 酷くない?」
「うるせぇ、あんまり近寄んな。化粧くせぇ」
スコール並みに美人なのに、えらくケバいというか濃い色合いの化粧が好きなせいか、このスコルピオは化粧くさい。
あと、最初の一語を二回繰り返す変な喋り方。
「オータム、オータム、貴女化粧はしないの?」
「ファンデーションと化粧水はしてる」
仕事は一緒にした事は無いけど、スコール曰く私が居なかったら亡国機業〝最凶〟だったとか。
けど、私が現れたからそうじゃなくなって、嫉妬してるかもしれないから、注意しといた方がいいとも言ってた。
「貴女、貴女、歳は?」
「ああ? 二十○歳」
多分、二十○歳の筈。いや、だって、オータムに生まれてから、物心つく頃に親に捨てられて、学校とか通った事無いし、誕生日も知らないし、数えたら多分二十○歳の筈。
「近いぞ、スコルピオ」
「ああ、ああ、これが若さなのね」
燃える様な赤い髪が、いつの間にか目の前にあった。
頬に何か冷たいものが這っていた。
「油断、油断、オータム、油断よ」
「この……」
だから、こいつは苦手だ。
油断してなくても、こいつはいつの間にかこっちの間合いに入って来る。
で、こっちが気付いた瞬間に、動く。
「ねえ、ねえ、オータム。それで、あの二人を守れるの?」
「あ?」
「怖い、怖い、凶蜘蛛が守る二羽の雛鳥。蠍の毒は……」
「黙れ」
頭が冷える。全身の感覚が冴えていく。
ああ、そうだ。
「スコルピオ、一つ、一つだ。言っておく」
「あら、あら、なにかしら?」
「あの二人に手を出せば殺す。何処に逃げても追い掛けて、何処に隠れても必ず見つけ出して殺す」
「そう、そうね、肝に、肝に命じておくわ」
ああ、くそ。イライラする。だから、こいつは苦手なんだ。人の神経逆撫でするみたいな事しか言わないししない。
ああ、本当にイライラする。
「オータム、オータム、あまり入れ込んではダメよ」
「大きなお世話だ。私より弱いくせに」
「ええ、ええ、そうね。……蜘蛛は蠍には勝てないのよ」
あ? 何か言ったか?
〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃
「ただいま」
疲れた。本当に疲れた。甘いの食べたい。
こう、濃いやつ、チョコレート。
「あ、あ~、買い置きが無い」
がーんだな。出鼻を挫かれた。ココアでも淹れよう。うんと濃くして、コンデンスミルクで伸ばして、牛乳だ。
スコールにはスゴい目で見られるけど、疲れた時はこれとチョコレートと決めている。
「あれ? ココアも無い?」
「あら、オータム。おかえりなさい」
「あ、スコール。私のチョコレートとココアは?」
「ふふ、オータム。本当に疲れてるのね。気付かないの?」
え、なに? 何かあった?
え? あれ? 二人は?
何処?
一夏とマドカは?
二人は何処?
スコール?
「スコール」
「落ち着きなさい。二人はちゃんと家にいるわ」
「本当?」
「私が貴女に嘘吐いてどうするの? ほら、二人がリビングで待ってるわよ。後、顔洗ってきなさい。少し〝漏れてる〟わよ」
「ん」
良かった。二人はちゃんと居るんだ。
大丈夫、大丈夫、私。二人はちゃんと居るんだ。
だから、私が二人を怖がらせちゃいけない。
今の私は〝亡国機業のオータム〟じゃなくて、二人の姉の〝オータム姉〟なんだ。
「ただいま。一夏、マドカ」
「オータム姉、おかえり」
「姉さん、おかえり」
「おう」
二人はちゃんとリビングに居た。
あれ? なんか甘い匂いがする。
二人の後ろのテーブルから?
「ほらほら、オータム。早くこっちに来なさい」
「お、おう」
一体なんだろうか?
スコールもニヤニヤしてるし。というかスコール、そんなだから美人なのに、凄い胡散臭いとか言われるんだ。
「オータム姉、これ」
「ん? クッキーか。ケーキも、どうしたんだ?」
買ってきたにしては、量も多いしまだ温かいし、あれ?
これ全部チョコレート色だ。
「スコールさんから、姉さんは今日は凄く疲れて帰ってくると聞いて、兄さんと作ったんだ」
「大変だったよ。マドカがチョコレート湯煎する為に、直にお湯をかけ出した時は」
「兄さん、それを言うなと言った筈だが?」
「ま、待て、マドカ。不可抗力だ」
ああ、嗚呼、本当に良い子達だ。
「オータム」
「ああ」
偽物でも、嘘つきでも、なんだっていい。
「一夏、マドカ。ありがとうな」
「あ、でも、オータム姉の買い置き、全部使っちゃった」
「すまない、姉さん」
「気にすんな。少なくなってたしな。また買えばいい」
本物になれなくてもいい。
この二人がちゃんと日の当たる、暖かな場所で生きて幸せになれるなら、私はなんだってする。
「さ、食おうぜ」
本物の、千冬達の居る場所に、ちゃんと二人を帰す為なら、私はなんだってするし、私がどうなっても構わない。
大丈夫、例えそうなっても、その時には二人は私達の事を覚えてないし、私は踏み台転生者だ。
「いただきます」
「「いただきます」」
二人の為なら、怖くない。
私は喜んで、二人の為の踏み台になる。
オータムさん、地味に精神崩壊? 永続的狂気?
オータムさんのワンオフアビリティ
ISとかそんなん関係無しに、生物なら何があっても絶対に逃れられないもの。