踏み台転生者ですが何か?   作:ジト民逆脚屋

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ツイッター始めたりしてます。
よく使い方分からんけど


もうすぐですが何か?

嗚呼、これは罰なのかもしれない。ニセモノがホンモノのふりをしている。その罰なのかもしれない。

 

「……神様、お願い、お願いだよ。私はどうなってもいいから、二人を助けて……」

 

苦しむ二人に何もしてやれない。

その苦しみを

その痛みを

その辛さを

その悲しみを

その全てを、私に向けてくれればいい。

私ならどうなってもいいから、どうか、どうかお願いです。

 

二人が苦しまない様に

二人が痛くない様に

二人が辛くない様に

二人が悲しくない様に

二人のその全てを、私に向けてください。

神様、どうかお願いです。

 

「二人を、一夏とマドカを助けて……」

「いや、ただの風邪だからね」

「でもスコール」

「でももストも無いのよ」

 

スコールが、熱に魘される二人のベッドから、ブツブツと呪詛の如く、あらゆる神に対する祈りを唱えるオータムを、無理矢理引き剥がす。

どうにかして、二人の傍に残ろうとするオータムだったが、一夏の呻き声を聞くと、瞬間的にベッドにしがみつく手を離した。

 

「あ、うあ……」

「……大丈夫、今のは貴女のせいじゃないわ」

 

落ち着かせる様に、オータムの震える手を握り、スコールはそう言い聞かせる。

オータムとは長い付き合いになる。だが、スコールはこの最近まで、オータムの本質に理解が及んでいなかった。

 

「ご、め……」

「ほら、二人共大丈夫だから、貴女はこっちで休みなさい」

 

そう言っても、オータムは二人から視線を外さない。

オータムの本質、根元とも言える部分には、強い愛、それも狂愛とも言える程に、オータムはそうと決めた相手に愛を贈る。

一種の依存と言えるそれだが、オータムのそれは相手を束縛するのでなく、自分から旅立たせる為の、親や親族のそれに近い。

 

「スコール……」

「医者にも診せて、薬も飲ませた。あとは二人が目を覚ますまで待つだけよ」

「でも……」

「でももテロもないわ。……痛みも苦しみも、共感は出来ても共有は出来ないのよ」

「あ……」

 

痛みも苦しみも、共感は出来るだろう。だが、そのいずれも本人にしか分からないもので、仮に共感は出来ても、人間は他人の感覚を理解出来ない。

結局、どれだけ親しかろうと、他人は他人でしかなく、人は人の感覚を共有出来ない。

人は、どれだけ慈しみ、大切に想おうとも、結局は他人でしかない。

 

「オータム、二人が目を覚まして、貴女が倒れてたら、二人はどう思うのかしらね~?」

「それは……」

「だから、貴女は休みなさい。今は私が二人を看ておくから」

 

そう言って、オータムを居間のソファーベッドに放り込むと、スコールは畳んでおいた毛布を渡す。

 

「スコール……」

「オータム、今の二人の支えは貴女なの。私じゃないの。分かるわね?」

「……うん」

 

ゆっくりと頷くと、毛布を頭から被り、団子の様に丸まって、少しするとオータムは動かなくなった。

僅かに聞こえてくる呼吸は、深くなっていて、流石のオータムも気を張りすぎていたのか、既に眠った様だ。

 

「そうね。二人の支えは貴女、私じゃないの」

 

あの特殊なナノマシンを、遊び半分で投与され、脳が破壊されず、二人の記憶を封じるだけに納まったのは、その前にオータムが二人を発見し、その後の対処が間に合ったからだ。

そして、二人がオータムを姉と慕うのは、記憶に蓋をされても尚、あの二人の根幹には〝強い姉〟の姿があるからだろう。

オータムを姉と慕うのは、無意識下であの千冬の姿を重ねているからだ。

 

彼女は、オータムは、それに気付いているのだろうか。

二人はそれを理解しているのだろうか。

そうだとしても、そうでないとしても、これ以上に残酷な事があるだろうか。

スコールは台所に立ち、愛用のマグカップにコーヒーを注ぐ。熱い湯気と共に、コーヒーの芳しい芳香が鼻を擽り、スコールは頭の中を占める考えを、一度リセットする。

 

「レイン……」

 

小さく、鼻を擽る芳香の中に消えていく程に小さく、嘗て死なせてしまった娘の名前を呼び、過去を思い出す。

返事は無い、ある筈がない。あの娘は死んだ。自分の愚かさ故に死なせて、今は三人をその手に抱えている。

あの愚かさを二度と繰り返さない為に、ただのスコール・ミューゼルは、亡国機業のスコール・ミューゼルとなり、その日々の中で体を置き換え、作り替え、脳や脊髄等の代替不可能な臓器や器官以外は、ほぼ全て人工物となり、確かに人であると自分ですら言い切れなくなってきた頃、まだ幼いオータムと出会い、そして死にかけた。

 

「……本当に驚いたわ」

 

ISが出始める前の時代、機械の体となったスコールに勝てる者は、ほんの一握りしか居なかった。その一握りの中に、幼くしてオータムは居た。

 

殺さなければ殺される。その時点で、スコールはこの幼い家無き子が、自分よりも強いと理解していた。

だが、殺し合いをしてきた年月は、スコールが上だった。経験という武器を頼りに、スコールはオータムを制圧し、後はその喉笛を引き裂くだけ。しかし、それは出来なかった。

スコールは子供を喪って、亡国機業のスコールとなった。そして、機械化していく己に、幾つかのルールを設けた。

その中の一つが、子供は殺さない。殺させない。

言うは易し、行うは難し。その言葉通りに、そのルールを守るのは困難を極めた。

結局は、自分は手を下さないだけで、殺さなかった子供は、何処かで誰かに殺される。

だが、それでもスコールは、そのルールを捨てられなかった。

 

「……オータム」

 

自分を殺さない相手を、不思議そうに見詰める目は、なにか不思議な色をしていた。何処かを見ていて、何処も見ていない様な、だけどしっかりとこちらを見定めている様な、よく分からない視線。

組伏せる腕を解いて、恐る恐る手を差し伸べてみると、ゆっくりとだがオータムはスコールの手を取った。

それから、スコールはオータムに、徹底的に自分の技術を叩き込み、そして自分を自分として確立する為のルールを、決める事を教えた。

 

「でも、まさかね」

 

ソファーで蠢く毛布団子を見ながら、スコールはコーヒー片手に、一夏とマドカの眠る部屋に足を向ける。

スコールはオータムが決めるルールは、非情なものになると、勝手に思い込んでいた。

それだけ、彼女が生きていた環境は非情で、情けや優しさは隙にしかならない。そう判断しているものだと、スコールはそう思っていた。

だから、オータムがスコールと同じルールを決めた時は、思わずマニキュアを塗る手が滑ってしまった。

 

「本当に驚いたわよ」

 

はっきり言って、スコールのルールは茨の道だ。

守りきれなかった事など、両手の指では足りない位にある。

だがそれでも、オータムはルールを変える事はせず、ルールを守り続けた。

これに、どれだけスコールが感謝し、そして呆れた事か。

 

「一夏、マドカ」

 

あの日、オータムが泣きながら二人を連れ帰ってきた時、とうとうこの日が来たかと思った。

子供は殺さない殺させない。単純明快に見えて、異常な程に難解極まりないルール。それを守りきれず、破ってしまう日。それが来たのだと、あの瞬間はそう思った。

 

「ありがとう」

 

だけど、実際はそうではなかった。オータムは泣きじゃくりながらも、この二人の命を繋いでみせた。

記憶を改竄され、偽りの家族だと、自分は偽物だと、そう言いながら、オータムは今も二人を守り続けている。

 

「大丈夫、安心しなさい」

 

上は今、二分されている。二人を利用する派と、利用しない派だ。

スコールとオータムは、そのどちらにも属していない。云わば、二人を守り何も知らない子供として、元の居場所に帰す派。

二人がどちらかに傾けば、亡国機業内のバランスは、一気にそちらに傾くだろうが、一夏とマドカの益にならないのであれば、所属する意味は無い。

 

「私達が必ず守るから」

 

汗ばんだ二人の額を、絞った布巾で拭う。

もし、レインが生きていたら、二人の姉の様になっていただろうか。

そんな益体のない事を考えながら、スコールは温くなった氷枕を代えようと、再び台所へ向かおうと立ち上がった時、一夏が一つの呻き声を挙げた。

 

「……ち、ふゆね……」

 

思わず、マグカップを落としそうになった。

嗚呼、とうとうこの日が来たのか。

スコールが息を吐いて、携帯端末から束の番号を呼び出そうと、端末を置いてある居間へ視線を向ける。

 

「……オータム」

「うん、大丈夫。二人を守るよ」

 

オータムが少しだけ悲しそうに、微笑んでいた。

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